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レジェンドシーカーズ  作者: 天野カイリ
第一章
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第六話

 「ふぁ~あ、早く来ないかなぁ~ライル。」

私は頬杖をつきながら呟く。

空はまだ完全に日が昇っておらず、薄暗い。若干肌寒さを感じる空気の中に、道を歩く人々の騒がしい声が混じる。

 この世界有数の大都市である悠久都市アステアではこの時間から人々は活動を始める。

オープンテラスの近くの通りは既に多くの人々が行き交い、賑わっていた。

私は視線を行き交う人々から、遠くに聳える白く巨大な塔に移す。

 天の柱───大いなる星の遺産(マグナ・ステラ)と呼ばれる、遥か太古の昔から存在する謎の塔。古代人の残した遺産。

悠久都市アステアの中心地にあり、そこから遠く離れたこの場所からでもその威容をはっきりと確認できる。それほどにあの塔は巨大だ。

そしてその塔の中に自分が昨日入っていたことが未だに信じられなかった。

昔の人はどうしてあんな塔を建てたのだろう?

あれほど巨大なのにはワケがあるだろうし、何か重要な役割を果たしていたに違いない。それにも関わらず中は意外に簡素で特に目を引くようなものは無かった。伝説を記したあの石碑(モノリス)以外には。

 そんなことを考えていると、急に声をかけられた。

「お待たせ。」

声の方に振り向くとライルが私の向かいの席に立っていた。店の時計を確認すると約束の時間の5分前だった。

「良かった。ちゃんと来たのね。」

「逃げると思った?」

「まあ、ちょっとは。」

「昨日も言ったけど、僕は逃げも隠れもしないよ。」

ライルは胸を張って言った。どうせ負けるのにこの自信は一体何なのだろう?

「随分強気ね。まあいいわ。座って。折角だからあなたも何か注文したらどう?」

私は既に注文したジュースのグラスのストローを回しながら言った。

「そうさせてもらうよ。お勧めは?」

「全部よ。このお店、何を注文しても美味しいの。」

「そう。じゃあ好きなの頼もっと。」

ライルはメニューを開き、ドリンクと軽食を頼んだ。

 やがて、頼んだそれらが銀のお盆にのせられて運ばれてきた。

「本当に美味しいね。ここの料理。」

ライルは運ばれた料理をあっという間に平らげると満足した様子で言った。

「でしょ。ここなら毎日通っても飽きないよ~。」

「さて、そろそろ行こうか。時間が無いんでしょ?」

席から立ち上がりながらライルは言う。

「えっ、あっ、うん。って、何処へ?」

おかしいな。そろそろ白状するタイミングなのに。

「その辺の転移の紋様(ポータル)で行ける所さ。」

!?

何か雲行きが怪しくなってきたな。まさか本当にあるとでもいうのだろうか?いや、そんなはずはない。ここは周りに人がいるから言い出しにくいのだろう。だから場所を変えようとしているんだ。うん、きっとそうだ。

「そうね。さっさと行きましょう。あっ支払いは私の奢りでいいよ。」

どうせこの後憐れにも彼が全メニュー奢ることになるのだからこれは私からのせめてもの情けだ。

「いや、いいよ。僕の分は僕の分で払うから。」

しかしライルは私の申し出をきっぱりと断った。

別に無理しなくていいのに。

早く、白状しないかな。




 


 「カルモラまで。二人でお願いします。」

ライルは笑顔で転移の紋様(ポータル)の側にいる紋様師のお姉さんにルクを手渡す。

店を出た後、私達は近場の転移場へと足を運んだ。

転移場といっても大したものがあるわけではない。ただ地面に三重の円とその中に幾何学的な紋様が描かれているものがあるだけ。

 紋様(ルーン)───それは、大いなる星の遺産(マグナ・ステラ)から発見された遺産の一つで、紋様文字という個々に意味を持つ文字と記号を組み合わせて式を作り、そこに魔力を流し込むことで様々な効力を発揮するものだ。この紋様(ルーン)は世界中の多くの街や都市で使われ私達の暮らしに多大な恩恵をもたらしてくれている。特に空間移動の効果を発揮する転移の紋様───通称”ポータル“はその中でも最たるものである。

 地面に描かれているのはまさしくそれだ。

紋様師のお姉さんが行き先に合わせて地面の紋様を書き換える。

転移の紋様(ポータル)は個人で勝手に扱ってはいけないことになっている。なぜなら体を空間転移させるため、一歩間違うと非常に危険だからだ。距離の指定を少しでも間違って壁の中に転移してそのまま即死しするなどという恐ろしいことにならないよう、紋様(ルーン)の扱いに長けた紋様師に扱わせるようになっている。

「終わりましたよ。」

 紋様師のお姉さんが笑顔で立ち上がる。

私達は同時に円の中に入る。丁度二人が入れる程の大きさで肩と肩が触れそうになる。

足下から魔力が吸い取られるのを感じる。転移の紋様(ポータル)は手軽だが移動に利用者の魔力が必要という欠点がある。

移動距離が長くなるほど転移に必要な魔力は多くなる。そのため実質本人の魔力の許す範囲までしか転移できない。それでも便利なことには変わりないけど。今回は二人で使うから払う魔力は半分で済む。これなら帰りの分の魔力も心配なさそうだ。

 私とライルの魔力を吸い上げた足下の紋様の一番外側の円から薄ピンクの光を放ち、私達の姿を隠すベールのように下からせり上がってくる。そして視界に鮮やかな幕がかかったその瞬間、一瞬無重力になったような感覚に襲われる。

私は咄嗟に目を瞑る。別にそうしなくても良いが、私は転移するこの瞬間が苦手だからそうする。目を開けたままだと目眩がするから。

そしてすぐに目を開けると光のヴェールは消え、先程とは全く異なる光景が視界に広がっている。

ちゃんとタイミング良く目を瞑ったのに、微かに頭がクラクラする。急に景色が変わったからだろうか?

やっぱりこういうのはいくらやっても慣れるものじゃないな。

 立ち尽くす私の横をぽつぽつと人が通り過ぎていく。先程までの雑踏が嘘のように静寂に包まれた小さな街の繁華街のような場所。ここが悠久都市アステアから遥か北にあるというカルモラの街。アステアに比べたら随分と小さな街に思えるけど、世界有数の大都市と比べたらそう思うのは当然か。

「それで、この街に何があるのよ?」

「何もないよ。この街には。あるのはこの街を出た先さ。」

「はあ!?だったらそこまで転移の紋様(ポータル)で行けばいいじゃない。」

「それができないからこうしているんだよ。奴は中途半端な位置にいるからね。ここが転移の紋様(ポータル)で近づける限界さ。」

!?

言ってる意味が分からない。転移の紋様(ポータル)で行けない場所なんて存在するのだろうか?

しかし、疑っていても仕方ないし、今は彼の言う通りにするしかない。

 街を出ると、石畳の街道が真っ直ぐに伸びている。転移の紋様(ポータル)が世界中に普及してから恐らく誰も使っていないであろうこの道を私達はひたすら進む。

整備する人が居ないためか足下の石畳は所々ひび割れ、その隙間から植物の蔦が生えていてりする。歩く度に、ここはもう誰も通らない道なのだということがひしひしと感じられる。

感傷的な気分に浸った。しかしそれも束の間、どうして私は今こんな場所を歩いているのかと現実に還った。

ここまで連れてこられた挙げ句、実は嘘でしたなんて言ったら流石に文句の一つも言いたくなる。しかし私の目の前を歩く彼は一向に白状する気配はなく、それどころか確固たる足取りで前を進んでいく。

まさか・・・本当にあるっていうの?世界が終わりかけている証拠が。

段々不安になってきた。

彼が一歩足を踏み出すたびに、その不安は大きくなり私の足取りは重くなっていく。

もし、本当にそんなのあったらどうしよう・・・。

などと考え込んだ矢先───

「あった。ここだよここ。」

ライルが足を止めて言った。

私はいつの間にか俯いていた顔を上げ、先の光景を見やる。

???

目の前の光景は何の変哲もないように見えた。夜明け前の、薄闇に閉ざされた暗闇の世界。

それがただ広がっているだけだ。

「ねぇ、やっぱり嘘ついたでしょ。何もないじゃない。この嘘つき。」

「そう。何も無いんだよ。ここから先は。」

「は?」

「日が昇るまでもう少し待って。そうしたら分かるよ。あと、僕が今立ってる場所より前に出ないで。危険だからね。」

正直、もう帰ろうと思った。しかし私が帰る素振りを見せても彼はその場を動こうとしない。私だけ帰ったところで奢ってもらえないのであきらめて私も体育座りで待機する。

 それから10分ぐらいしてようやく日が昇り始めた。温かい日の光が私達や大地を照らし、暗黒に染まった世界がようやく色づき始める、と思いきや、私の目の前は相変わらず真っ暗な闇に閉ざされたままだった。

周囲は陽光によってはっきり照らし出されているのに、目の前だけどういうわけか闇のままでその先の光景も見通せない。

こんなのあり得ない。

 闇というのは本来光が存在しない場合に現れるただの幻影。本当にそこに在るわけじゃない。光が差せば立ち所に消え去ってしまうものだ。しかし眼前のそれは違う。光ある世界においてなお消えずに自身の存在を保ち続けている。

 実在する″闇″というのはこういうものなのか。

私は今日初めて本物の闇を見た────。

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