第三話
石碑から放たれる強烈な光。それは自らの意志を持つように碑文の中で何度も明滅を繰り返す。まるで今まで死んでいたものが甦り、命ある喜びに打ち震えているように思えた。
やがて明滅は徐々に弱くなっていき、数秒後にはパタリと消えた。何事もなかったように静寂が訪れる。
「い、今のは一体何だったの?」
隣のライルに聞く。
「さあ、何だったんだろうね?」
よく考えたら、いや、よく考えなくても彼に聞いて分かるはずは無い。彼も所詮ただの一般人なのだから。
結局何が起こったのかは分からないか、私は危機感を覚えた。それはただの勘ではない。
以前こんな噂を聞いたことがある。大いなる星の遺産には数千年が経っても稼働している装置があるのだと。古代の人の技術はそれくらい凄く、しかもそのほとんどは侵入者を排除するための罠であると。
当時はそんなことあり得ないだろうと適当に聞き流していたけど、いざ実際に入ってみると噂は本当かも知れないと思えた。現にまだ動く装置があったわけだし。
とにかくこの状況は不味い。何が起こるか分からない。早くここから出た方がいい。
「早くここを出ましょう。何が起こるか分からないわよ。」
私は未だに石碑を眺め続けるライルの手を取って螺旋階段へと向かおうとする。
しかしライルは動こうとしなかった。
「どうやらもう手遅れみたいだよ。」
ライルはぼつりと言った。
「え?」
ギィエエエエエエエエエエエエッ。
その時、この世のものとは思えないような奇声が聞こえた。
さらにガッシャーンと大きな音を立て、窓のステンドグラスが割れる。
吹き荒れる風と共に入ってきたのは、異形の怪物だった。
上半身は人間の女性だが、下半身は猛禽類のように茶色く堅い羽で覆われた太股に鉤爪状の足になっている。さらに腕も手首の先が大きな翼と化しており、金髪の美しいはずの女性の顔は明らかに理性が無く、獣の本能だけがむき出しとなっていた。その目は私たちを獲物のように鋭く睨んでいる。
見たことのないはずのその怪物を私は知っていた。それは曙光の英雄伝説にも登場する怪鳥───ハーピィだった。
伝説上の生き物がどうしてこんな所に!?
伝説が真実ならば確かにいてもおかしくはないのだけど、それでもどうしてこのタイミングで私達の前に現れたのか?その疑問の答えはどう考えても私とライルを排除するためとしか思えない。
ギィエエエエエエエエエエエエエエッ。
仲間を呼ぶように怪鳥は再び奇声を上げた。
間もなくして全く同じ見た目の生物が一体、二体と塔の外から中へと入り込んできた。
これで部屋には合計4体の化け物がいることになった。いくら部屋が広くても、これだけいると窮屈に感じる。4体の化け物は今にも襲ってきそうだ。
「ここは僕が何とかするから君は先に逃げればいいよ。」
ライルが言った。
「まさか一人でこの数を相手にしようって言うの?」
「そうだよ。こうなったのはどう考えても僕が悪いしね。だからここは僕に任せてよ。」
躊躇いもなくライルは言う。有り難い提案だけど受け入れることはできない。ウィカの力があるとはいえ流石に4体の化け物を一人で相手にするのは無理がある。それに彼に気を使われるのは何か癪だ。
「悪いけど断るわ。私も戦う。その方が早いし安全でしょ?」
「それはそうだけど本当に逃げなくていいの?」
ライルは心配そうな顔で私を見る。
「いいに決まってるでしょ。大体私はあなたに守ってもらわなくちゃいけないほど弱くないから。」
それを聞いてライルは愉快げに笑った。
「ふふっ。それは頼もしいね。じゃあ共闘するとしようか。」
私は目を閉じ意識を既に呼び出しているルミエナに集中する。すると、頭の中に全てを照らし出す眩い光のイメージが浮かぶ。それと同時にルミエナの持つ光の属性力が流れ込んでくるのを感じる。
よし、同調完了。
この世界を形作る力の意志の欠片であるウィカと契約主が互いの精神を同調させることで、ウィカの持つ属性の力を魔力を媒介として行使することが可能となる。
この力があればあの化け物とも対当に戦える。
そして次の瞬間私達の戦う意志を感じ取ったのか4匹のハーピィ達が一斉に襲いかかってきた!!!!