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少女

作者: エスケイ

 眼前には少女が佇んでいた。線は細く、胸に僅かなふくらみを描く小柄な――少女である。全くの暗い空間で、彼女の姿だけ白光が当たり、明々と浮かび上がっていた。黒いドレスで身を包み、レースのコルセットでクビレをくっきりとひき出す。腰まで伸びた長い黒髪。艶やかに光を受けながらも、その瞳は隠されていた。

 視線に気づいたのか、少女は徐にこちらに身体を向けて、スカートをちょいと摘まみながら、軽やかな会釈をした。黒髪の奥に控える紅の唇は微かに笑んでいるよう。――何を始めるつもりなのか。彼女のほかには塵一粒もなかった。

 足首まで隠れる黒のドレス。裾にはレースを縫い付けたゴシック調である。黒のブーツを赤い紐できつく結わえているのが透けて見えた。スカートには赤い糸が縫い付けられており、幾何学的な紋様となっている。腕は勿論、掌までも黒の布で隠して――だからかもしれない、白い磁器のような指先が映えて見えた。

 カツリと音が鳴った。彼女の履いているブーツには金板が仕込まれているようだった。緩やかながらも大きく退いていき、裾をなびかせながら華奢な身をひるがえすと、身体を横にしてつま先を滑らせる。踊りのつもりなのだろうか。音楽は聞こえてこない。それでも彼女は踵や爪先で三拍子を刻みながら、調子を整えている。両腕を大きく広げたかと思えば、しなやかに身を捩じらせる。

 少女の名は知らない。眼元は隠れて確認が取れなければ、身体つきだけでは判断がつかない。この場についても判らない。黒一色に塗りつぶされて、彼女を浮かび上がらせる光線だけが射されている。光源がどこから来ているのか。元を辿ろうとしても、放たれる白光の強さに、目が焼き付けられるようだった。

 少女は踊り続けている。時に近づき甘い香りで鼻腔を擽り、時には慣れて指先で誘う。調子に合わせたステップを踏んで、か細い腰を捻らせて、長い髪やドレスをひらりひらりと靡かせる。なだらかな曲線を描くような足取りで、腕の振りは大きく弧を模る。足を大きく広げているのか、黒革のブーツに包まれた彼女の鋭角な脚が覗かれる。

 何の踊りだろうか。挑発を覚えた。少女の唇には嫋やかな笑みを携えたまま、こちらに向けられている。隠された瞳には、果たして何が宿っているのか。逸らすことは許されない。

 真正面まで足を運ぶと、彼女は踵を返して、クルリとひと際大きく廻ってみせる。同時に、黒のドレスの裾が円を描く。甘い香が鼻に届いた。両脚をピタリととめてから、彼女はしなやかに腕を伸ばした。白い、柳枝のような指先が、頬を撫でるように伸びてくる。

 誘われるままに、腕が伸びていた。その白い指先に触れんとした瞬間――少女はひらりとかわしてみせた。虚空をきった手を置き去りにしたまま、少女は背を向けて、淑やかな足取りで一歩、また一歩と遠のいていく。

 適当に離れると、再び両脚を揃えて立ち止まった。背筋は真直ぐに伸びている。スカートがふわりと浮かび、柔らかな軌道で弧を描いた。身をひるがえし、黒と白との手を口元に添えて――、少女は鋭角な微笑を浮かべて、消えていった。

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