間接的な依頼
福永さん、これ。と言って玲奈ちゃんが持ってきたのは小さめの段ボール箱。子猫でも拾ってきたんだろうか。
だったら蓋を閉じずに開けてやればいいのに、そうか、俺のマンションがペット禁止だってことを知って閉じてきたのか。
「私の家に郵便物として届きました。」
猫じゃなかった。
「猫かと思った。」
「猫?なんで猫なんですか?」
「ごめん適当言った。」
一瞬、彼女の顔から表情が消えて沈黙が流れる。何をつまらん冗談を言っているのかこいつ、って顔だろうか。
「ま、いいですけど、これ、資料です。」
よく見ると段ボールには一度開けた跡があった、彼女が中身を確認したのだろう。粘着力のなくなったガムテープを剥がすと、中には光輪天の会の資料が4、5冊入っていた。
「あー、持ってきてくれたんだ、ありがとう。」
資料請求してから2日だろうか、届くまでの時間としてはこんなものか。箱から資料を取り出す。全部で5冊か、お、派手なおばちゃんもパンフレットの先頭に堂々と載ってるな。
他は入会の案内だとか規約などの冊子だろうか。後で読んでみよう。
「ところで、聞きたいことがいくつかあります。ミスターフクナガ。」
急にどうした。彼女の纏う空気が少し冷えた気がする。
「この荷物、どうして私の家に届いたんですか?」
「...三角のボールペンがあったんだよ。」
これこれ、とパズル雑誌のしおり代わりに挟んでいたペンを見せた。
「光輪天の会の資料請求でさ、個人情報を入力しなくちゃならなかったんだけど、住所を素直に相手に渡すのが嫌だったんだ。わかるだろ?相手は怪しい組織かもしれないんだ。」
彼女の目つきがいつになく鋭いので俺は目を合わせられなくなっていた。
「で?」
声は夏というのに鳥肌が立つほど冷たい。
「で、だ。俺は手もとにあったこのボールペンのそれぞれの面に役割を与えたんだ。」
彼女の迫力に俺の握っているボールペンまでもが震えていた。
「ひとつは、住所を素直に入力する。ひとつは、入力を諦める。もうひとつは、」
「鬱陶しい、もういいです。結局私の家の住所を使ったんですよね。」
入力する、しない、で2面を使うと1面余ってしまった。
「...はい。玲奈さんの住所を入力するという面がこちらを向いたので。」
すごく機嫌の悪そうな顔から本気の舌打ちが聞こえた。
「資料が届くだけなら、たとえ事後報告だったとしてもこんなに怒りませんでした。」