間接的な依頼
迫田玲奈はこの部屋にいるとき、座らずに立っていることが多い。
女性が新しく仕事を手伝ってくれると決まった時、俺は張り切りに張り切って衣替えを行ったが、彼女は壁に寄りかかったり、無駄に広さだけはある部屋をうろうろしたりと、せっかく通販で用意したお高い椅子になかなか座ってくれなかった。
作業はタブレット端末で行うので座らなくても構わないのだが、俺の家具のセンスがゴミクズで座ってくれないのかと思ってしまう。
しかし、彼女曰く、ただ立っている方が落ち着くらしく、素敵な椅子ですよねとフォローしてくれた。優しい。
今日は足をクロスさせて壁にもたれながらタブレットを眺めている。
背もたれに使う壁は、テーブルにいる俺の斜向かいにあるキャシーの隣であることが多い。
キャシーとは彼女が観葉植物につけた名前で、わざわざ幹に名札テープを貼ってマジックペンで記してある。
キャシー、キャサリンだっけ。
「で、福永さんメールのことなんですけど。」
「うん。」
「今回の依頼、私一人で対応してもいいですか。」
「え、いいけど、」
いいんだけれど、少し考える。
物騒にも思えるタイトルで始まっていた今朝のメールを改めて見ると、怪しい宗教のようなものに関わってしまっている娘を、団体から引き離してほしいという母親からの依頼だった。
聞いたことのない団体だ、ややこしい信者やチンピラみたいな人物が出てくるかもしれない。
それに、助けてくださいなんて言葉を肉親である母親が使っているのだ。娘さんの説得も一筋縄ではいかないだろう。
「ええと、やっぱりよくないかも。」
玲奈ちゃんの身に何かあってからでは遅い。
しかし、わざわざ一人で対処したいと言うのには何か訳があるのだろうか。