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ある朝のこと

作者: 猫屋敷温
掲載日:2019/10/01

(やっちまった…)


見覚えのある薄明かりの照らす部屋の中でアタシは心の中で叫んだ。

隣じゃ親友のSがスマホを眩しそうに眺めながら煙草をプカプカと燻らせている。

布団の中で蠢くアタシに気付いたのか、「起きたの」とSは視線だけ一瞬こちらに動かし独り言のように呟いた。

急いで着衣を確認するが、なんだ、2人とも昨晩のままだ。何も変わっちゃいない。


そうだ、だんだんと思い出してくる。昨夜アタシは地元の15年来の友人らと3年振りに会って、それで、親友のSとニケツして帰ったんだ。Sの家まで来て、もう一杯飲もうというアタシに、ほら、おめーはここまでだ、早くタクシー呼んで帰れ!と言うS。いつもなら粘ったやり取りをするのだが、その日はなんとなく、シュンとして「じゃ、帰るわ」と言ったんだっけか。


Sとアタシは所謂身体の関係のある親友だ。もう10年近くになる。だけど2年前にアタシが結婚してからは、1度も関係を持ったことは無い。当たり前だと言われたらそれまでだろうが。


昨日は、えっと、そうだ。帰るわ、と言ったアタシに「ウソウソウソ、やだ帰らないで、お願い」とSに言われて…結局4ヶ月ぶりにSの部屋に入ったのだった。


1K4畳半のヤニ臭い鄙びたアパートは、どこか懐かしい匂いがした。


リョクハイでいいよな?と言いながらSは鏡月とペットボトルの緑茶を並々とグラスへ注ぐ。おつかれーい、と、なんだか少し楽しそうなSの声にアタシは安堵した。


するとすぐに眠気が来て、うつらうつらしながらSに身体を預ける。それを優しく受け入れるS。そうだ、この感覚が気持ち良いのだ。そのまま他愛もない話しを延々とした。気付けば2人は布団の中にいた。モゾモゾと蠢きあって、口付けを交わしていた。


アタシは旦那との接吻は厭なんだけども、Sとの接吻は好きなのだ。これは結婚してからも変わっていない。接吻だけでは不倫にはならぬだろう。そんな軽い気持ちでいる。我ながら悪い女だ。


そこで記憶は終わり。気付けば朝日が眩しくSの硬くうねる髪を照らしていた。

「げ、今、何時?」「えっと…6時43分…」「うっそ、ヤバい、急いで帰んなきゃ」

そう言ったアタシに、あーマジ?気をつけて帰れよー、とSは気の無い返事をした。昨晩の熱い抱擁は何処へ。


そんなアタシ達の関係はいつまで続くのだろうか。


Sには結婚する気はないそうだ。

以前、聞いたことがある。


「絶対に俺のものになんねーってわかってるから、大切にできるんだよ。俺のものになっちまったら、つまんなくなっちまうって、わかってるから。だから、俺に結婚は一生無理だな、ハハ」


そうねえ、アンタみたいな几帳面なヤツは、アタシだってお断りよ。




…でも、ね、もしもアンタとアタシがジジイとババアになった時も、この関係が続いていたとしたら…?


もう1杯飲んでから考えましょう?


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― 新着の感想 ―
[一言] 稚拙な感想申し訳ありません、と最初に謝ります。 1行目で引き込まれ、あっという間に読み終えてしまいました。なんでしょう……とても雰囲気が好きです。とても勉強になりました。
2019/10/04 22:32 退会済み
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