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呪怨殺刀之舞  作者: 鬼宮 鬼羅丸
猟奇殺人事件開幕編
4/9

第一話  鬼ヶ原での変死 中

「詳しく聞こう」

 男のその言葉に、鬼ヒコは笑みを浮かべた。

「 呪いを与えるのです。 内側から蝕み絶大な苦痛と確実な死をもたらす呪いを。方法は至って簡単ですぞ。わしと今ここで契りを交わし、憎い相手と互いの合意のもと触れること、それだけで主の憎い相手を殺せるのですぞ」

 男は少し明るい顔をした。それに対し鬼彦は、人差し指 で男を指差した。

「 ただし、代償が必要ですぞ」

 男は少し身構えた。

「……だ、代償、か…」

「 ええ、そうです。世の中対価が必要ですぞ。生という自由を得た対価に生き物は死ぬ。対価なくして何か得ようなどという行為は愚かでしかないのですな。なぁに身構えなくて宜しい」

 緊張し体を強張らせる男に、鬼彦は、優しく笑顔でこう言った。

「主の残りの寿命いただくのですそうですなぁ、 あと半年ほどの命となりますな。あと半年ほどしか生きられなくなりますがそれでも宜しいのですかな?」

  優しい笑みを浮かべていたが眼だけは昏くて冷たい、鋭利な光を灯していた。 男はしばし考える、これからの事、女狐がいなくなる事、その他諸々様々なことを考えた。

 鬼彦もミチビキも、黙っていた。ただ蝉の鳴き声だけが刻一刻と変わることのない時の流れを告げていた。

「わかった俺の人生は来れてやる。 あの女狐を殺してくれ!」

「 承知いたした。右手を出してくれますかな?」

 鬼彦その言葉に男は少しし怪しむが右手を差し出した。

 すると、鬼彦は、目にも留まらぬ速さで刀である己の手を使い、男の手を叩き斬った。血が吹き出し右手首が斬り落とされたかのように見えたが、実際は血が吹き出るだけで手首が斬られてはいなかった。

 鎖型の痣が右手首に生じた。呪いの証である。

 男は苦痛のあまり嗚咽を漏らしていた。鬼彦は男に頭を下げ謝罪した。

「いきなり切りつけて申し訳ない。しかし、これで契りを交わすことができましたぞ。すぐに殺したいのであれば逢魔譌時、そうですなぁ、今の時期ですと5時前でしょうな。苦しませたいのなら、その後に呪いをかけるようにするのですぞ。ですが、一つ、申し上げる、如何なる理由、手段であっても人を辞めたらもう二度と普通に戻れるのでその覚悟でやるのです宜しいですな」

 鬼彦はまるで自分に言い聞かせるように言った。その言葉は深みがあり悲しげな響きが伴っていた。遥か大昔に、大罪を犯した自分を咎めるように。

「忠告、感謝する。しかし、覚悟は決まっている」

 男は決意に固めた表情でそう言った。空気読んで口を挟まなかったミチビキは小刻みに震えだす。

 鬼彦に対してる男の上から目線の態度が気に入らなかったのだ。周囲の気温が下がり、どす黒いが周りを舐めつくし、周りの蝉が徐々に鳴くのを止め始める。

 それに、逸早く気づいた鬼彦は両手を勢いよくぶつける。腕が刀となっているので小気味の良い金属音が周りに響いた。

「お、おやいけないひぐらしが鳴き始めましたぞ。もうすぐ逢魔譌時ですな。お早く帰られた方がよろしいですな。ミチビキ、殿方を人の住まうように案内してあげなさい」

 鬼彦は少し焦りながら言った。確率に下がっていく気温と濃密な殺意に恐怖を感じていた男は、鬼彦の意図に気付き少し感謝した。

 ミチビキは鬼彦の思惑など気にもせず、ただ、鬼彦に声をかけられたという事実に歓喜した。そして、深々と頭を下げた。

「畏まりました。俗世へと案内いたします」

「あ、ありがとうございました。重ね重ねのご厚意感謝します。この頂いた呪いの力で必ずや憎き相手を殺して見せましょう」

 目上も目上、企業の社長を相手にするかの如く男は敬語を使った。それに対しミチビキは少し機嫌良くした。くるりとスカートがめくるように一回転すると

「それでは俗世と案内するので付いて来て下さいね。では、鬼彦様♥行ってきます♪」

 すると軽くスキップしながら進み出した。男慌ててその後ろについて行く。  周囲を深い森に囲まれたこの土地で唯一 、道のように木が左右に並んで生えている場所をミチビキたちは歩いていた。くねくねと曲がり、所々、枝分かれしている。そして不規則に、石灯籠や狛犬がたくさん置いてあった。

 ほとんど音もなく蝉の声でさえ聞こえないほどの想い清寂が二人を包み込んでいた。

「違う道を通ると変な処に飛ばされて、一生出ることができなくなるので気をつけてくださいね」

 少し砕けた口調でミチビキは言った。何故、ミチビキは迷わずに進めるのであろうか。

 鬼彦の使いとなったミチビキの目にはうっすらと、宙に浮かぶ一本の長い鎖が見えている。それを辿っていたのだ

 やがて鳥居が見え始めた。徐々に木々が少なくなり蝉の声が聞こえ始める。すると、ミチビキは立ち止まり鳥居を指差した。

「鳥居より先が俗世です。行きましょう」

 古ぼけた石造りの鳥居の向こうには、水田が広がっていた。ミチビキは男と一緒に鳥居をくぐり向こう側に行った。

「では、健闘を祈ります。さようなら」

 男は少し呆然としながらも、手首を確認すると歩き始めた。

 黄昏時の橙色の光だけが男の背を照らしていた。



 言葉とともに姿をくらましたミチビキは鬼彦の近くにいた。大きな樹木の木の根に、恋人のように並んで腰をかけていた。そして、甘えるかの如く頭を鬼彦の肩に当てていた。

 鬼彦は初め驚いていたが、すぐに落ち着くと、右手の峰の部分で優しくミチビキの頭を撫でていた。

「鬼彦様♥私ちゃんと依頼主くもつを連れてきましたよ」

「偉いのぅ。さすが、わしの使いじゃ」

 その言葉にミチビキは頬が緩むのを感じた。

「ところでここって不思議な世界ですよね。広いはずなのにこの森から出られません。あそこの頭に行こうとしたのですが無理でした……」

 遥か彼方、沈みゆく太陽を背にする巨大な塔を指差しミチビキは言った。

 他にも太陽が昇る場所には大きな鳥居と無数の光が見える。

 そして思い出したかのように鬼彦は

「そういえば言うておらんなだの。まぁ、ここが別の世であることはすぐに分かる」

 遠くを見るように鬼彦は言った 。この言葉にミチビキは頷いた。そして、こう言った。

「外に出た後、振り返るとここが消えますし、外からは入れませんし、何よりこんな場所神社にありませんでしたから」

「そうだの。ここは人の住む俗世に重なる異界の地、神々と妖が住まう桃幻郷じゃ。武陵とかいう地にある仙人の住む地、桃源郷ではない。汚れなき幻のような地じゃから桃幻郷じゃ。わしは封印されておるからの。わしの住む社も封じられ外には出られんのだ。ちなみにこの辺りは東の地、日本の桃幻じゃから 東方桃幻郷と呼ばれておる。美しき処じゃから見せてやりたいのだがなぁ。今は無理じゃ」

 少し悲しげに鬼彦は言った。

「封印が解けたら案内してくださいね。私、頑張りますから」

 ミチビキはそう言った。そうなった時の事を想像しながら。

 最愛の人との観光。

 楽しいに決まっている。

「そうだの、頼むぞ」

 甘えてくるミチビキを撫でながら鬼彦はそう言った。心地よさに目を細めたミチビキはふと、何か思い出し、呟いた。

「半年後に契約者は死ぬ。この世のものとは思えないほどの激痛に半年間ずっと身を蝕まれて」

「そうだのぅ、人を殺めた者はその苦痛によって死ぬ。殺された者、人を殺めた者の魂が手に入る。これがワシの力じゃ。呪怨鎖刀殺 とでも呼ぼうかの。それがどうかしたのか?騙し欺くわしに呆れたのか?」

「い、いえそんなことは! 私は鬼彦様の使い、裏切る事も失望することも絶対にありません。はッ!鬼彦様のバカ、バカ〜!」

 盛大に口を滑らせたミチビキは鬼彦を殴り始めた。何度も何度も殴るが軽いので痛くも痒くもない。意地の悪い笑みを浮かべていたが苦笑いをして鬼彦は謝った。

「悪い、すまんな。しかし、呆れてくれてもよいのだぞ。わしは遥か大昔に大罪犯し良心を失ってしまったからの」

 自虐のその言葉にミチビキが顔をしかめた。そして右腕を胸の間に挟むように抱きついた。

「そのようなことを言わないでください、私には鬼彦様しかいないのですから」

 右腕を包み込む、柔らかくて暖かい弾力のあるその感触に鬼彦は驚いたが、咳払いをすると己を落ち着かせた。その鬼彦の様子にミチビキは少し残念な顔をした。(色仕掛けしたら襲ってくれると思ったのになぁ 既成事実さえできたらこっちのものなのに。?そもそも子供ってできるのかな?できないとしても気持ちの問題だけどな。胸使ってもダメなんて手強いなあ)

 と女らしいことを考えていたのだ。

 そんなことを、露知らず。鬼彦は袖口の中に手を入れてある物を取り出した 少し派手な鏡である。取っ手の部分に切先を引っ掛けて取り出したのだ。

 鬼彦はそれを宙に離した。本来であれば重力に従い地に落ちるはずだが、それはまるで時が止まったなかの如く静止した。

「これは人の世を写す狭間映鏡はざまのうつしかがみ。古い知り合いから貰ったものじゃ。あの男が何をするのか見物しようかの。こやつも死ぬが、さぷらいず、もあるから楽しみにしておれ」

 鏡の表面を鬼彦は撫でた。すると、表面が渦巻き男の見ている光景が映った。 二人はまるで映画を鑑賞する恋人のように寄り添った。

 見るのは娯楽ではなく、人が死ぬ血塗られた壮絶の惨劇であったが。

 そのことをひぐらしと蝉だけが知っていた。

 桃幻郷です。桃源郷ではありません

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