第一話 鬼ヶ原での変死 上
冒頭部分です。各話,上、中、下,了の四部構成にする予定です。
はじまりは人であった。唐突にはじまり、煙がはかなく消えるように実に呆気なく終わる。
水が流れるように大河がゆったりと流れる当然の摂理であるかのように終わる。人が他者を妬み嫉み恨み羨み続ける限り、それはずっと続いてゆく。人の見にくく汚く黒い溢れんばかりの憎悪。それは受け継がれていく。
蝉が夏の短い間だけ次の世代に命を繋ぐために鳴き叫ぶように。
四方を山に囲まれ深い森に閉ざされた土地、夏には蝉が狂ったかのように鳴き喚き冬にはすべてを押し潰さんばかりの雪が降り積もる土地、鬼ヶ原。
そこは数多の人と物が集う東京と隣り合う〇〇県の山岳部 鬼瓦市の高地、縁無にあった。そこは太古の昔から魑魅魍魎が跋扈し血に飢えた人食い鬼が住まう地とされ、そこに住まう者たちは皆、神聖視されていた。
それ故か人の出入りが少なく閉鎖的なとちであった。
ーー昭和の世まではーー
平成の大合併の後、鬼ヶ原もとい鬼瓦からどんどん若者が離れた行った。
この付近唯一の公共の交通機関である鬼瓦駅を中心に商店街、住宅街があり、その外側に広大な田畑と自然が広がっていた。特に鬼ヶ原では古くからの伝統的な造りの民家がぽつぽつとあるだけで何もない。
そんな鬼ヶ原もとい縁無の一か所だけ立派な建造物があった。
大きな鳥居が幾本も連なり鬼のような狛犬が2つ置いてあり、周りを林に囲まれ厳かな造りをした社の扉は決して開かぬように幾本も鎖で結ばれていた。
はるか昔、多くの人々を喰い荒らした邪神、縁絶靈喰鬼彦を祀る縁絶神社なのである。
その神社からとある少女が出てきた。運悪くこの神社で自殺してしまいとある契約から鬼彦の使いと、
なってしまったのだ。そんな少女の役目はただ一つ。 人と神の仲介をすることだ。はるか昔に施され田封印を解くにはたくさんの人の魂が必要で魂を集める手伝いをする事になったのだ。
しかし、そんな残酷な役目と裏腹に少女は軽やかな足取りであった。
生きていればさぞかしモテていたであろうその少女は鬼彦を盲信していたからだ。愛という名の鎖で心を縛られていた。
「早く魂集めないとなー鬼彦様待っていてくださいね❤」
少女は神のために動き出すのであった。その名をミチビキといったとか。
畜生、畜生!!どいつもこいつも俺をばかにしやがってッこの30年間血ぃ吐く想いで家に尽くしてきたってのにババアが死んだら用済みってかッ絶対ぇ許さねえ。糞みてえな人生だったな。
何で俺がこんな目に合わねぇといけねぇんだよ!殺してやりてぇ、死ねッ死ねッ。
おれは心の中で呪詛を渦巻かせながら駅の通りを歩いていた。きっと俺の怒りと殺意が滲み出ていたのだろう、周りの人は皆、俺の事を避けていた。しかし、そんな些細な事でも俺は気が立っている為、腹が立つ。足を地面に打ち付けるように歩き八つ当たりをした。
秘伝のスパイスを使った某揚げ物専門店の扉を乱暴に開け、苛つきながらも適当に何か注文すると俺は奥の席に座りこんだ。
しかし、本当にふざけてる。耄碌したババアを誰が面倒見たと思ってる。俺だぞッ俺!なのにあの女狐ときたらババアの遺産を寄越さないで追い出すたあどういう用件だッ許さねえ!本当に許さなぇ殺してたる、死ね!死ね!!シネ、シネシネシネシネシネシネシネシネ死ねぇぇぇ!!!
「その願い叶えたくない?」
なんだこの女ッ首に鎖巻いて、俺をからかっているのか?うせろうせやがれ!
「なんだテメエうせろッ」
殺気を込めた目で睨み付けたが鼻で笑われてしっまた。女は俺に一歩近づいた。
「あなた憎いのでしょう。そいつを殺したいのでしょう。その願い叶えてみたくない?」
何で俺の事知ってやがる、てかッそもそもこの女どっから来やがった!この辺には誰も居なかったはずだぞ!?
「・・・オメぇ、何者だ・・・」
俺の言葉に女は少し笑った。
「自己紹介がまだでしたね。私はミチビキ。縁無神社の御神体、縁断靈喰鬼彦様の使いです。今ならあなたの願い神様が叶えてくれるよ」
チッなんだこいつからかってんのか?いや、それにしては目がマジすぎる。まあいい。この際だ。
女狐を殺せるならなんだってしてやる。
「その話乗った」
俺の言葉に頷くと女は右手を差し出した。
「あなたならそう言ってくれると信じてた。右手を取ってください。鬼彦様の所に連れてってあげる」
・・・この女、俺をからかってんじゃねぇよな。
まあそん時はそん時だ。握ってやっか。おっ柔らけぇな。そんなことを考えていると何かがおきた。
何やら前に引っ張られたかと思うと今度は身体中が抑え付けられるかのような、満員電車のような圧迫感が全身を襲った。全身が苦しい。
そして気付いたら蝉の鳴き声が五月蠅い、周りを木に囲まれた場所にいた。中央にに大きな樹が生えていて小さな社があった。
「ミチビキ、よく連れて来てくれましたな」
え!?いきなり声が聞こえた。さっきまで誰も居なかったはずの社の近くに和服を着た奇妙な野郎が、立っていた。見た目の割に古風で何か雰囲気も違う。腕と角が刀になっているその人物だが、俺は一目で正体を察した。恐らくこいつがあの女が言っていた鬼彦とかいう神様だろう。
そして耳障り甲高い鎖の音とともに歩み寄って来た。
・・・最初は俺のことをからかってんのかって思ったが本当にいるとは・・・。
これであの女狐を殺せる。 ミチビキは鬼彦の言葉に対し華やかな笑みを浮かべた。
「どういたしまして。ですけど、私は鬼彦様の使いとして当然の事をしたまでですよ」
・・・不覚にも一瞬かわいいと思ってしまった。
ミチビキの言葉に頷いていた鬼彦は俺の顔を見て来た。獰猛で昏い犯罪者のような鋭い目付きで俺の瞳を覗き込んでくる。怖ぇこいつならあの女狐を殺せるだろう。確実にだ。
「わしの名は縁断靈喰鬼彦。縁断神社の御神体で、はるか昔に幾人のも人々を喰い荒らし刀に封じられた邪神ですぞ。主、誰か憎い人がおりますな。主に殺す術を授けてあげましょうぞ。如何されますかな?」
「詳しく聞こう」
俺は即答した。あの女狐を殺せるならなんだってしてやる。
ミチビキは鬼彦への供物を探すために、鬼瓦駅前に来ていた。鬼彦の封印を解くには約12000人分の魂が必要で、封印されてから今までで集めた魂が200人。はっきり言って全然足りていない。封印されているので鬼彦本人は一切、社から出ることができず魂を自力で集めるのはほとんど、不可能に近い。なので、仲介役が必要なのだ。
ミチビキは鬼彦に言われた条件に当て嵌まる人を探していた。鬼彦の呪いは人を恨んだり殺意という負の感情を持つ者に有効で、そのような人を探していた。そして、そのような人に見分け方も鬼彦に教わっている。
鬼彦曰く、よく見れば分かる、とのことだ。
神の使いとなったミチビキは人の感情が、色のついた鎖となって本人に絡みつくのが見えるようになったのだ。幸せな気持ち、悲しい気持ち、それぞれの感情にそれぞれの色がつく鎖。つまり、鎖の色がどうこうならこの人は今どうこう考え思っているという風に分かるのだ。負の感情を抱いてる人は全身暗い色の鎖に絡まれる。
そう丁度今、鬼瓦駅の通りを歩いている中年の男のように。全体的に筋肉質で四十代なのに白髪で目付きが悪く全身がどす黒い鎖に覆われていた。しかも、鎖から瘴気まで滲み出ている。
誰かに対して強い殺意を持っている証拠だ。
それを見てミチビキはーーラッキー★魂、発見、ピースーーと内心ではしゃぎながら、誰にも自分の姿が見えないのをいい事に白昼堂々とストーキングをはじめた。一度自殺した彼女の体は半霊体、つまり、
半分幽霊の為ほとんどの人が見えない。
男に対し怯えゆく周囲に対し苛つくという謎の行為に、男から滲み出る瘴気の濃度が上がった。そして男はそのまま某揚げ物専門店に入っていった。ミチビキは男の目の前に座る。まだ姿を見せていないので気付いていない。ミチビキは己の鎖と男の鎖を一瞬だけ触れさせた。鎖越しとは言えども鬼彦以外に触れるはミチビキにとって死ぬほど嫌だったからだ。
すると、男はミチビキの事を見れるようになった。
人に絡みつく鎖、それは意志であり想いでもある。鬼彦曰く、鎖同士の触れ合いこそが縁結びで初めて相手として認識される瞬間なのだとか。
一度自殺したミチビキは人との縁、つまり、鎖全てを失ってしっまたので誰にも見られることは無いが、もう一度結ぶことで再び認識されるようになるのだ。一部、例外はあるが。
「その願い叶えたくない?」
話し掛けられ初めてミチビキの存在に気付いた男は驚いた。--あ、今私の鎖馬鹿にしたーー鋭い女の勘で察したミチビキはそう思った。
「なんだテメエうせろッ」
それに対しミチビキは、はっなにそれ?ガン付けですか?と、まあ、呆れた。鬼彦に比べて何も感じれないからだ。ミチビキは不快そうにしながらも一歩近づいた。
「あなた憎いのでしょう。そいつを殺したいのでしょう。その願い叶えてみたくない?」
おー驚いてる、驚いてる、とミチビキは思った。
「・・・オメぇ、何者だ・・・」
その言葉にミチビキの表情は明るくなった。
「自己紹介がまだでしたね。私はミチビキ。縁断神社の御神体、縁断靈喰鬼彦様の使いです。今ならあなたの願い神様が叶えてくれるよ」
鬼彦の部分を特に強調して言った。男が一瞬ミチビキの言葉を疑ったのでミチビキは殺気を放った。
鬼彦を疑うなど万死に値する。ミチビキはそう真剣に考えていた。
「その話乗った」
よし!!ミチビキは右手を差し出す。
「あなたならそう言ってくれると信じてた。右手を取ってください。鬼彦様の所に連れてってあげる」
男は少しの葛藤の後ミチビキの手を取った。
すると、ミチビキは目を閉じた。そして感覚のすべてを胸に集中させた。すると胸の中に不思議な感覚が生じた。何かに縛り付けられるような。そして、脳内に胸の中に鎖がある鮮明なイメージが浮かんだ。
鬼彦との縁、繋がりである。
ミチビキは胸内にある鎖をを引っ張るイメージをした。
すると、ミチビキと男わ前方に引っ張られた。辺りの景色が風に撒かれる煙の如くあやふやになった。かと、思うと木々に囲まれた土地、縁断神社の景色になった。転移したのだ。
人間の住まう世界、人間界(俗世)にある縁断神社に対し、鬼彦がいる縁断神社は微妙にずれた空間にある。その為人間界に住まう男は苦痛を覚えたのだ。ちなみに、ミチビキは鬼彦の使い。2つの世界に跨る存在なので何も感じていない。
蝉の五月蠅い大合唱の中、ミチビキは笑みをを浮かべていた。
「ミチビキ、よく連れて来てくれましたな」
鬼彦は鎖の甲高い鳴き声とともにゆっくりと歩み寄りながら言った。それに対しミチビキは花のような可憐でかわいらしい笑みを浮かべ、
「どういたしまして。ですけど、私は鬼彦様の使いとして当然の事をしたまでですよ」
と述べた。そして場面先ほどの鬼彦と男の対話に戻る。
次回、呪いについて出てきます。そして、物語の舞台となる縁断神社がる世界観について少しふれます。