圷亜連は主人公スキルが欲しい!
昼休みになった。俺は屋上に行こうと決めた。正直、あの佐村木と十左近の一件以来あの場所に近づくべきではないと感じていたが、そろそろほとぼりも冷めたころだろう。そう思っていた。
前回同様に屋上へ向かう階段を一歩一歩上る俺、まあ、屋上にこだわる理由もないのだけれど、やっぱりこの場所はどうもパワースポットのように思えた。
「お、あらあら……」
どうやら今回は俺の勝ちらしい。前回の黒い斑点が全く見えない。
「皆、佐村木ってやつにビビッて近寄らなくなったんだな」
しめしめと思い、その扉に手をかける俺。
「ん? あれ?」
ドアノブが動かない。ガチャガチャと力任せに動かす俺だったが、一向に扉が開く気配はなかった。
「おかしいな……」
この扉、壊れてるのか……
俺には二つの選択肢が見えた。一つはこのまま、諦めて教室に戻る選択肢、もう一つはこの扉を開け破って強行突破する選択肢。
さあ、皆ならどっちを選ぶだろうか? 俺は迷わず後者を選んだ。
「よし! いくぜ!」
俺は扉を渾身の力で蹴り上げる。
「うおおおおおおおおおおおお!」
バキンと蝶番が外れる音が聞こえ、それと同時に青く澄み切った空が俺の目の前に現れた。
「気分爽快!」
「……っておいおい」
気が付くと、俺は放課後トイレ掃除をさせられていた。
「圷……今日は屋上の安全点検があるから、屋上の使用は禁止だって言ったよな……」
田中の話を聞いていなかった俺は粛々と扉を破壊した償いをしていた。
「どおりで誰もいなかったはずだ……」
あの時の俺は、自分ツイてるぜぐらいにしか思っていなかった。なんておめでたいやつなんだ、まったく……
その時、俺は理解していなかった。これから主校での生活が今から本当の始まりを迎える
ということに……
「さあ、昨日行った血筋検査の結果を発表する」
皆、自分の名前が呼ばれることを心待ちにするあまり、教室は物音一つせずにぴんと張り詰めた空気が支配していた。
「まずは、九頭竜 魔琴、おめでとう。どうやら君の先祖は魔法使いだったようだ。だから君も魔法使いの才能があるようだ」
「よしっ!」
今まで全く注目されていなかった九頭竜だったが、この発言により皆が一目置くようになったことは言うまでもない。
「じゃあ、続いて発表する……」
田中はこのような事態に慣れているようで、毛ほども驚いた様子はみせなかった。淡々と血筋結果を発表する中、その様子とは対照的に俺はひたすら心の中で祈っていた。
どうか、頼む、俺に、チャンスを! どうか、俺に……
だけど、祈れば祈るほど、自分の名前が呼ばれる気がしなかった。暖簾に腕押し、何かつかめないものを掴もうとしている、そんな空虚な感覚に襲われる。
「飯酒盃 洲棲、先祖が剣豪、居斬灰 一刃という結果が出た。おめでとう」
そう言って田中はカルテのようなものを無造作に教卓に置いた。
「じゃあ、これでうちのクラスの血筋検査結果発表を終了する」
田中は終了を告げるとともに、この学校生活をも終了させかねない発言を続けた。
「うちのクラスの残りの人間は凡人だ。悪いがこれは紛れもない事実だ。十日経過して何も発現しない人間は凡夫決定、せいぜい凡人オリンピックで優勝を目指してくれ」
田中の予期せぬ発言に、クラス中の空気が凍り付く。今名前の呼ばれなかった二十人の生徒たちは顔面蒼白、自分がモブキャラだという烙印を押され、スキル取得の可能性を喪失してしまった。
――かのように思われた。
「ああ、みんな、そんな顔をするな。これも一つの通過儀礼だ。どうしても大器晩成型、遅咲きの人間だっている。まあ、そうは言っても、これからは今以上に過酷な環境が待っているんだ。だからその覚悟を持ってもらおうと思ってな」
田中は能力、才能のゼロの俺たちに向かって追い打ちをかけるように言った。
「だから、ここで、抜ける奴は抜けていいぞ」
さあ、君たちならこの状況をどう切り抜ける?
このまま田中の言う通り過酷な運命に身を任せるか?
もしくは、ここでゲームから降りる?
はたまた頭をはたらかせて別の方法を模索するか?
残念ながらこれ以上この俺、圷亜連のとった行動について語ることはできない。
なぜならここで圷亜連はここで主人公になったからだ。だから俺がこれ以上語り部として語ることは許されない。
自分たちの人生だろ、自分たちの道だろ、ここからは自分で考えなってことだ。
自分の人生なんだから俺の体験を活かすのもよし、全く気にしないのもよし、自分で決めれられるんだ!
こうして、圷亜連は主人公スキルを得てこの主校を卒業した。彼は見事にこの先の人生が安泰であるという保証をされた。
彼は先の左右崎、焔硝岩、世戸原に続く四人目のスキル取得者となったのだ。
ありがとうございました!
次回作は書き溜まったら発表します!