四話 『遅れて来た新入生!?』
カタカタカタ――――
暗い部屋に響くキーボード音、唯一明るい画面に向かって一人PCをいじる少年がいた。
「………………」
何も発さず、何の反応もなく無性に操作する画面にはプログラムのようなもので埋め尽くされていた。
カタッ――――
キーボードを押していた手が急に止まった。
「時間か。」
そう呟きカーテンのかかっている窓を見ると日がカーテンの隙間から指していた。時刻は朝の五時。
フレカはPCの電源を切ると立ち上がり部屋から出た。
AM5:05
フレカはリビングのテーブルに座り朝食をとっていた。テレビのニュースを見ていた。
丁度ニュースでは魔物の出現を話していた。どうやらデカい魔物が出たらしい。
魔物とは魔界の生物である。普通の動物などとは違い気性が荒く強い。そんな魔物がたまにコッチの方で出現してしまう事がある。だが、大抵は国から派遣される部隊に退治されたりするためそれ程気にかけることは無い。
ほとんど聞き流しながら学園に向かう準備をするフレカ。
――――――――――――――――――――――
AM5:10
日本・大西洋上空
人々の文明の域、飛行機。鉄の塊が空を飛ぶなど昔の人に言ったら道化師も良いところだろう。今では流通・交通機関の一般的な手段である。そして、日本上空をゆくその飛行機の羽に不気味なものがついていた。
それは見た目が肉片と呼ぶに相応しいものでまるで意思を持っているかのように飛行機の羽にしがみついていた。そして段々と面積を増やしていた。
ボンッ!
面積を広げていた肉片の一部が飛行機のジェットに巻き込まれエンジンが爆発し火を噴いた。飛行機は右に傾き速度を落とす。今頃コックピットでは大騒ぎだろう。すると、飛行機の胴体の上が開き人影が見えた。
人影は時速何百キロで動く機体の上をあたかも地上を闊歩するかのようにして肉片に向かう。
その右手には自分と同じぐらいの大きさの剣が握られていた。柄や刀身までもが金で輝きを放ちまるで伝説の剣のようである。
「フッ、なんとおぞましき物だ。この僕の門出を邪魔するなんてね。それに、このVIP専用飛行機に乗り込もうだなんて無粋な……でも、この飛行機に僕が乗っていた事が運の尽きだったね。」
近づくと肉片が自身の一部を使って攻撃を仕掛けてきた。人影はその攻撃を剣で弾くと当たった肉片の一部か焼かれたように消えた。
「僕の魔力に反応して攻撃してたな、やはり魔物の一種か。時間も惜しい、終わらせてもらう。
――――“我が道こそ騎士の道 我が剣よ 阻むものを断ち切れ”――――」
輝きの一刀。
剣を振り落とした場所に金色の光が指し肉片を焼き消す。機体には一切の傷はなく、ソレだけを消し飛ばした。
その人影は白いマントを靡かせ金髪をかきあげた。
「……酷い臭いだ。」
「あら、私が出なくて良かったみたいね。」
機体の中にいる女性が一人。窓からその様子を見ていた……が、直ぐに興味が無くなり反対側の窓を見る。
「あぁ、早く会いたいわ。フレカ……」
――――――――――――――――――――――
AM8:30
ブルっと身体に寒気が走る。
「ん? どうしたフレカ。」
「いや、寒気が……」
「なんだ? フレカでも風邪ひくのか?」
「……ひかないな。」
「即答かよ!」と笑うリョウ。家から出た後、いつも通りリョウと落ち合い学園に向かう。そんなくだらない会話をしながら歩くのも学生の醍醐味だろう。
「遅刻するぅ〜〜ッ!!」
背後から大声で走って来る人がいた。まるで少女漫画のように寝癖はそのままに口にパンを咥え走って来ていた。いや、少し少女漫画とは違う点がある。犬(狼)に乗っていることだ。
「お、きたきた。ネタのカモが来たぜ。」
「あれ!? あんたら何してんの、遅刻よ!」
それがマキノだったのは予想がついた。リョウは稀にマキノに対してイタズラをするのだ。そのする日が不規則の為か大抵マキノは引っかかる。
「……まだ、半過ぎだぞ?」
「え!?」
学園はすぐ目の前だし、一時限目が始まるまで30分はある。そこまで急ぐ必要は無い。マキノは慌てて腕時計を確認する。なるほど、そういうイタズラか。
「はァ……マキノ、その時計ずれてるぞ。」
「ま、またやったわねリョウッ!」
「ふははは! いや、良かったじゃねぇか遅刻せずに。」
キレたマキノは乗っていた犬をリョウに襲わせる。ガブッと左腕に噛み付いた犬を振り払おうとした所にマキノの強烈な右ストレートがリョウの腹に命中した。
「余計なお世話よッ!」
強制的に息が吐き出されその場に跪くリョウにプイッと顔を逸らし学園に向かうマキノ。
「ふ、フレカ……この犬とってくれ……」
「自業自得だ。」
キーンコーンカーンコーン
一時限目が終わり休憩に入る。俺とリョウは問題なく遅刻しなかった。勿論、マキノも。
「ち、遅刻したぁーー。授業初日から……」
彼女以外は……
名簿番号17 富澤 地空
褐色の肌に低身長、彼女の種族は恐らくドワーフだろう。彼女は一時限目にどうやら寝坊してしまったようで皆が授業をしている中に登校してきた。そのためクラス全員の印象に残っているだろう。
「大丈夫だって今日はしてないけど、いつも遅刻しそうなお馬鹿さんもいるから。」
「リョウッ! また喰らいたいの?」
「え! な、同類……!」
「うッ………」
チソラはマキノに対して共感の眼差しをむける。そして、自分でも自覚しているマキノは何も言えなかった。
「はいはい、皆さーんHRを始めますよ〜。」
担任の渡辺先生が入って来て事態を収めた。
俺たちも各自席について静かに先生の方を向く。
「えー、まず最初にもう一人このクラスの生徒を紹介します。」
皆が少し驚く。確かに昨日から一つだけ席が空いていた。話を聞くと海外からの新入生で飛行機が遅れて昨日の入学式に間に合わなかったらしい。
「紹介します、ルーチェ・ハルテミス・クラシル・シャムナさんです。」
ガラガラと扉が開くと女性が入ってきた。
紅く整えられた長髪に高貴さを感じる歩き方は通った場所に薔薇でも咲きそうな勢いだった。
「皆さん……」
教卓の前まで来ると小鳥のような声を出し挨拶を始めた。
「皆さん、初めまして。ルーチェ・ハルテミス・クラシル・シャムナです。以後お見知り置きを……」
一瞬の静寂。皆が彼女に釘付けにされ黙り魅入る。も、直ぐに歓声のようなものが上がる。
「うぉ〜ッ! 美人だ!」
「絶ッ対、お嬢様だ!」
「きれい……」
内容は異なるものの皆からの好評価に笑顔で応える。その姿はやはり何処かのお嬢様を思わせる素振りだ。
ふと、その彼女と目が合う………思い出した。あの時の、だが、忘れているかもしれない。ここは様子を見て……
「やっと会えましたわ、フレカ様。」
ボソッと呟く声は周りの歓声にかき消されるも俺は口を読んで分かった。やはり覚えていたようだ。
(マズイな……)