三話 『今日は疲れる!?』
「という訳で、えっと……葉桜さん。」
フレカが負傷した涼に肩を貸して起こしていると担任の渡辺先生が駆けつけて来た。手に持っている名簿らしき物を見て名前を確認する。まるで新任の先生のようだ。いや、そうなのだが。
「約束通り全ての科目単位を1ずつ差し上げます!」
「ありがとうございます。」
「もったいねぇな……」
フレカはリョウを担いだままお礼をいう。そしてリョウは何かボヤいているがフレカは無視した。
「それと、このA組の学級委員長を任せたいと思います!」
「あ、それは遠慮させて貰います。」
「…………え!?」
「あ いや、学級委員長は遠慮させて貰います…」
「う、嘘っ!? な、何で!!?」
「大変そうだから…ですかね。駄目ですか?」
「いや、いいのですが……あぁ私の計画が……」
どうやら渡辺先生は係を決める時に誰も手を挙げないというよくある状況を阻止したかったようだ。それも1番面倒臭い学級委員長という立場をこのノリで押し付けたかったようだが、フレカはそれをキッパリ断った。渡辺先生は一瞬 固まり残念そうな顔をする。
「いてて……」
「ハッ! とりあえず怪我人を保健室まで運びましょう!」
「その必要はないわよ。」
先生がリョウの怪我に気がつき保健室へと案内しようとするもその行動は一人の言葉によって静止された。
その声のする方を見ると白衣を着た女性が居た。その女性は短めの髪型に丸ぶち眼鏡でとても理系っぽいひとだ。口に咥えている物が気になるが。
「羽島先輩ッ!?」
「せいッ。」
「あ痛い!」
羽島と呼ばれた先生は左手に持っていた用箋挟で渡辺先生を叩いた。
「授業初日に何してんのよ。」
「え、えっとですね生徒達のレベルがどのくらいなのかを知りたくて……」
「はぁ……この学校が普通じゃないからって無茶し過ぎよ。大切なお子さんを預かってるんだから今後は気をつけるように。」
「はい、すみません……」
どうやら立場的に羽島先生は俺たちの先生より先輩の様で素直に叱られている。しょぼんとする先生の姿がイタタマレナイ。
「……それにフィールド張ってるんでしょ?」
「…あ! そうでした…」
「…………はぁ。」
ため息をつく羽島先生に少し同感してしまうが、うちらの先生大丈夫かとクラス全員が心配する。
フィールドとはここのように戦う場所に設置されている空間装置でその中での傷を無かった事にできる便利道具だ。これが発明されてから最近は様々なところに置かれている。
「か、解除してきます!」
渡辺先生が慌ててフィールドを切りに走る。少し経つとガチャンと音がしてフィールドが消えクラスメイトの怪我が消える。
その場に残されたフレカとリョウに羽島先生が「すまないな…」と非礼を詫びる。
「問題ないですよ。コイツ頑丈なんで。」
「いや、フレカの障壁に言われたくないぞ。」
「ふふ、元気で何より。ま、なんかあったら保健室に来な。相談に乗ってやるよ。」
それだけ言うと羽島先生は後ろ向きに手を振って去っていった。口は悪いが良い先生のようだ。
「良い先生だな。」
珍しくリョウがまともなことを言い驚いてフレカがリョウの方を見ると鼻の下が伸びていたので顔面に肘鉄を食らわせる。
「痛っ! ちょっ、もうフィールド消えてるから!」
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「え〜、先程はお騒がせしました。これからHRを始めます。」
あの後、教室に案内され席に着くと渡辺先生が話し始める。簡単な学園規則の説明と、クラスメイトの自己紹介を終え休み時間に入る。
「ふあぁ〜眠い。」
「珍しいなリョウ、魔力が少ないからか。」
「多分な……」
「葉桜さん、ちょっとよろしくて?」
リョウと雑談しているとクラスメイトが話しかけてきた。
《名簿番号15》
サーシャル・ファンミ・アルビューレベ
「先程の戦い、あれはなんですの!? 平野さんの攻撃を防いだあの魔法です! それに貴方の武器、あれにも説明が欲しいですわ!」
白金の髪と整った顔立ち、長い耳からしてエルフだろう。彼女は確か、始まりと同時に水の魔法を使った人だろう。最後の方の六人に残ってた一人だ。あの魔法は素晴らしかった。発動スピードも早く水量も申し分なかった。
「そうだな、話しても良いか。あれは《障壁魔術》だ。」
「しょ、障壁魔術!? 嘘をおっしゃいなさい! 魔術を単身で使えるハズがないでしょう。それに障壁魔術はその中でもかなり高難度の技、私たちの歳では不可能に近いですわ!」
「それがフレカにはできちまうんだなぁ〜これが。」
俺が伝えるとサーシャルは凄い剣幕で言い放った。俺が嘘を言ってると思ったみたいだ。それをリョウが肯定する。
けれどそれより、サーシャルにそれ以上興奮すると綺麗な顔が台無しになるぞと助言したい。
「…だ、だとしてあの武具の説明は!?」
「不思議だろ、俺も謎だ。だが、何事にも異常はある。俺の魂に合った武器が銃なんだろう。名前もないからただ黒い銃って読んでるけど。」
そう説明しているといつの間にかクラスメイト全員が集まっていた。それに驚き俺はやっぱり話さない方が良かったかもと思い始めていた。
「さ、最後の質問ですわ! 他に使っていた魔法、最低でも三属性は使っていましたね。」
「俺は全属性使える。」
魔法には火・水・風・土・雷・光・闇の七属性ある。そして人には属性に対して相性があり過去最大でも四属性使える奴がいたっけ。
「……アナタ、人間ですの?」
「…一応な。」
キーンコーンカーンコーン
「帰るか、フレカ。」
「そうだな。」
チャイムが鳴りもう一度周りを見渡すと、皆が口を開けて佇んでいた。俺とリョウは皆を置いて教室を出る。元々今日は学園の下見のようなもので昼頃には帰っていい予定だった。それが、実力検査やらで遅くなってしまった。
「よし、今日は入学祝いだ! フレカ美味いラーメン屋紹介してくれ。」
「そうだな、リョウの奢りで。」
「おい! まぁ、いいか。負けたしな。俺が勝った時はお前奢れよ!」
「はいはい、今日は疲れたな……」