再開 黒猫店主
スピー スピー スピー
コツコツ コツコツ
辺りには私のブーツの音だけが響いていた。
もうすぐ午後5時を過ぎるとこの辺りにはほとんど人が通らなくなる。
私は少し淡い赤色のマフラーをよりきつく締め直し、ある店を目指していた。
古くからの友人の店なのだが、きっと私がドアを開けた瞬間また一言二言悪口を言われるのは目に見えている。
昔から面倒事を押し付けている自覚はあるのだが、
やっぱり自分じゃどうしようもない時はあの子に頼ってしまうのだから情けない。
でも今回の面倒事はやっぱり私なんかじゃどうしようもないのだから。
そんな言い訳じみた事をつらつらと考えていると、
小さくおしゃれな黒猫の看板が見えてきた。
そのお店は私が探していた店で、窓にはステンドガラスがはめ込まれていて、屋根は黒で統一されながらもおしゃれな雰囲気が醸し出されている。
ドアの所には猫の形の板に黒猫喫茶と描かれていた。
すると、ふとその友人の姿を思い出した。
確かに彼女の漆黒の絹のように艶やかな髪は肩までに切りそろえられており目もつり目がちで黒猫のようだと思った事もあった。
そして彼女のいつも着ている深い紺色のワンピースはどことなく人に威圧めいた感じがして彼女にぴったりだった。
そんな点を踏まえるとより彼女らしい店の名前だと思った。
そして
そんな店のドアの前に立つと久々の友人との再開に私の頬が緩むのをかんじた。
********
そろそろ日も落ちて最後の客も帰っていった。
とりあえず黒猫のマーヤにミルクを挙げる。
チリン チリン
すると客の訪れを記すドアの鐘がなった。
振り返ると..........。
そこには茶色の髪が腰の辺りまで波を打ったように長く、ややたれ目がちの淡い赤色のマフラーを巻きつけた私の知り合いが立っていた。
「オッヒサ~!
梨華ちんー。めちゃくちゃ久し......「来世でお待ち しておりますお客様。」
まるでニコッと効果音がつきそうな笑顔で返してやった。
「.................。」
「.................。」
一瞬の沈黙。
しかし、その沈黙を破ったのは他でもない目の前の馬鹿だった。
「ムフフ、ムフフ、梨華ちん、そんな事言っちゃっていいのかな~?
お姉さん今日はなんとケーキ10個も用意しちゃったんだからね~。」
「............。」
「梨華ちんも流石に今日のお姉さんには逆らえないんじゃないかな~?」
そお言いながら私の頬をこずいてくる馬鹿。
............バタンッ。
思わず手でドアを閉めた。
三十分後、
「梨華ちん~ごめんなざ~い。 ズビッ グズ」
はぁ、いつまでも店の前でああやって騒がれても迷惑だし、いい加減ドアを開けてやるか。
*******
コトッ
「ひゃふ~。 やっぱり梨華ちんが作った珈琲って 最高だよね~。」
今、この机の上に珈琲を置いた馬鹿は私の古くからの友人で、西浜 真希 。
こんなグデグデな登場の仕方の割に実は検事なのである。
「で、今回はどんな面倒事なの?」
そう、この馬鹿が私を訪ねてくるときは大体面倒事を押し付けてくるときだけ。
「まあまあ、まだ私が面倒事を持ってきたって決まった訳じゃないですし~。」
「面倒事でしょう?」
「すみません。面倒事です。」
********
「裏カジノ?」
「そう、裏カジノ。」
私が今回調査しているのはあるマフィアが経営している裏カジノについてだった。
だが、その裏カジノに潜入するのは容易ではなく
こうして古き友人を訪ねた訳だ。
「私は一般市民です。
巻き込まないでちょうだい。」
たった今、バッサリ切り捨てられたけど。
ただ梨華ちんを攻略する方法がたった一つだけある。そう.............
「ケーキ20ホールでどう?」
私が静かに問い掛けるとピクッと梨華ちんの耳が反応した。
「ケーキ30ホール。」
「ケーキ23ホール。」
「ケーキ28ホール。」
「...........分かった、ケーキ28ホールね。」
昔から梨華ちんは超がつくほどの甘党なのだ。
だから引き合いにケーキを出すと梨華ちんも弱い。
「で、あんたのことだから私の潜入方法もどうせ
決まってんでしょ?」
私の親友はこちらを見ながら問い掛けた。
勿論、梨華ちんの潜入方法はもうきまっている。
私は梨華ちんのその未だ中学生位にしか見えない未発達な体を見下ろしながら答えた。
「勿論よ。」
と。
グー グー グー