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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第八章 双方の世界で決戦
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ミレーヌの質問

 貴樹はまだ、瑠衣やロザリーが使う魔法のシールドについては、上手く使えないでいる。使用不可能なのではなく、練習不足で、とっさの時に反応できないのだ。


 風を操る能力があまりに便利で、そっちばかりを使っていたせいだ。

 今も貴樹は、シールド代わりに、使いやすい風の能力を使用していた。


「くそっ、守ってくれ!」


 命令に応じ、貴樹達から周囲へ向かって、局地的な突風が問答無用で吹いた。

 上手く衝撃波を緩和かんわしてくれたが、それでもふわっと身体が浮き、横の壁まで跳ばされてどかんっとぶつけられてしまう。


 これも、呪術結界のせいで本来の威力に達していなかったためだろう。

 貴樹が上手くクッションになったのでミレーヌは無事だったが、不死身に近いはずの貴樹にしても、相当に堪えた。

 思わず呻き声が出たほどだ。


「いてえ……」

「ねえ、どうして――」


 半身を起こしたミレーヌがなにか言いかけたが、貴樹はその後ろを見て、大きく息を吸い込んだ。

暗殺部隊の二十名全員を外へ吹き飛ばしたと思っていたのに、一人残っていたらしい!

 そいつは、どうやら事務机の影に隠れていたらしく、虚ろな表情の中にも不気味な笑みを浮かべ、こちらへ走ってきた。




「まだ終わってない、伏せろっ」


 貴樹は問答無用で起き上がりかけていたミレーヌをもう一度抱き締め、先程と同じく、風の能力でそいつを吹き飛ばした。


「いい加減、消えてくれっ」


 しかし……おそらく、そいつが狙い通りに外へ飛び出す前に、新たな爆発が起きたらしい。

 そいつはめでたく木っ端微塵になったが、比較的近かった貴樹達はモロにその爆風を受けた。貴樹は今度こそ、慣れないシールドを無理して展開していたが、最初の衝撃でまたしても横の壁に激突し、そこでシールドが大きくひび割れ……跳ね返って落ちた時には、もう消えていた。


 しかも、床に落ちた場所が全面窓があった窓際であり、今は全てが破壊され、すぐ向こうが外だった。落下した弾みで二人が転がり、そして――




「危ないっ」


 今度はミレーヌが反応し、貴樹に抱かれたまま手でブレーキを掛けようとしたが、あいにく止めることはできず、二人はそのまま落下した。

「ぐ、ぐそうっ」

 訳のわからない呻き声とともに、貴樹は軽い失神状態から目が覚めた。

 自分達が落下していることに気付き、ぞっとした。

 しかも、気付いた時にはもう十階分以上、落ちている!


「か、風よっ」


 まだぼんやりする頭で、なんとか力を解放し、風の力で文字通りのエアクッションを作ろうとしたが、もう地上は間近だった。


「せ、せめてっ車の上にっ」


 加えて、瑠衣の時にもやったが、貴樹は必死で身をよじってミレーヌが自分の上になるようにした。

 最後の瞬間、ミレーヌの薄赤い瞳が、じっと貴樹を見つめていた。

「どうして、そこまで――」

 あいにく、全部聞くことはできなかった。

 次の瞬間、貴樹が望んだ通りに、不法駐車された車の屋根に背中から落下し、衝撃で気絶していたからだ。

 ……あまりに激しい衝撃を受けた時には、目の奥で星が散るというが、本当にそうなることを、貴樹は身をもって知った。




  



 どれだけ気絶していたのか不明だが、おそらく、そう長い時間ではなかったはずだ。

 あの落下の衝撃でも、貴樹のヴァンパイアとしての不死身の再生力が発動し、目を開けた時には既にだいぶ回復していたからだ。


 ただ、場所は車の屋根ではなく、なぜかビルの屋上みたいなところだった。

 しかも、貴樹は膝枕されていて、純白の髪をツインテールにした女の子……つまり、ミレーヌが覗き込んでいた。


 意外だったのは確かだが……それ以前に、彼女の膝上から見上げると、黒いビスチェが際立たせた、突き出た豊かな胸が大いに気になったし、引き締まった白いお腹も気になる。

 おへそまで見えているのだから!

 目のやり場に困る衣装だった。


「気付いた?」

「あ、ああ」


 慌てて起き上がろうとすると、なぜか手で押し留められた。

「少し質問があるの。ここまで移動したのは、邪魔が入ってほしくないから」

「まず、貴方の名前は?」

「く、草薙貴樹」


「そう、貴樹ね。じゃあ、本命の質問だけど」


 意外にも落ち着いた声で言われたが、貴樹は先に尋ねた。


「大丈夫だった? 怪我は?」

「う、うん……平気よ」

 意外なことに、ミレーヌは小さく微笑んだ。



「それより、質問。貴方が人間のくせにヴァンパイアの能力や他の力を持つことは、もうわかったわ。でも、ミレーヌに飛びついた時、貴方は絶対に命がけだった。どうせ助かるなんて、考えてもいなかった! そういうことがわかる人なのよ、ミレーヌは」


 軽妙な言い方の割に、瞳は真剣だった。


「そこで質問です――なぜ貴樹は、ミレーヌを命がけで助けようとしたの? ぜひ、教えて」


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