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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第八章 双方の世界で決戦
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暗殺部隊

 

 貴樹達が休憩ポイント的なカフェを出たのは、単に時間切れになって出る他はなくなっていたからだ。


 ただ、既に瑠衣も全快していたし、直前まで中央線沿いを爆走していて、秋葉原は目前だったしで、頃合いと言えば頃合いだった。

 貴樹と瑠衣のヴァンパイア化した二人の威力は凄まじく、しかも両者共に貴樹の風の魔法が使える。二人でリーサ達を護衛しながら進んでも、ほとんど問題なかったほどだ。




「凄いわねぇ」


 ほとんど貴樹達に守られているだけだったリーサは、銃を持ったまましきりに首を振った。


「ロザリー様が二人いると思えばいいのかしら……それなら、誰と当たっても圧倒的なのも当然か」

「いやそれは――あ、ちょっと隠れてっ」


 貴樹はすぐに気付いたし、瑠衣もワンテンポ遅れて気付いた。

 秋葉原に入って間もないが、駅の前を駆けていく一団がいる。なんだかごわごわしたサイズの合わない軍服を着込んでいて、向かってくる感染者達をね飛ばしながら小走りに駆けていく。


 それぞれが強力な異能力の使い手らしく、衝撃波のようなもので、感染者達を撥ね飛ばせるようだ。

 幸い向こうは、未だに立ちこめている濃い霧のお陰で、駅舎に隠れた貴樹達には気付かなかったと見える。





「目つきが妙だけど――あいつら、アレクシア王家の正規軍だわっ」


 見送ったリーサが呟くと、彼女の仲間が首を傾げた。


「確かに軍服見りゃそうだったが……なんでみんなあんな服がブカブカで、サイズが合ってないんだ?」


「尾行してみよう!」

 少し考えて、貴樹は結論を出した。

 ついでに、またもや飛びかかってきた感染者を突風で吹き飛ばす。

「もしかしたら、そのままミレーヌのところまで行くつもりかも」

 言下に、貴樹は一気に力を解放して、周囲に群れてきていた連中を、一斉に遠くへ吹き飛ばした。


「いまだっ」


 全員、貴樹を先頭に走り始めた。






 下手をするとかなり長く走ることになるかと思ったが、実際は駅から尾行して、ほぼ数分足らずだった。

 中央通り沿いの不動産系の黒いビルが目当てだったらしく、男達は全員がそこで立ち止まった。

 総勢、二十名くらいはいるだろう。


 こっそり尾行していた貴樹達は、見つからないように霧を隠れのみにして、観察していたが……危険を冒して一人だけ接近していたリーサが、戻るなり早口で言った。


「服のサイズが合ってない理由がわかったっ。全員、軍服の下に魔法石をめ込んだベストを着込んでっているみたいっ。それが二十名も……とんでもないわねっ」


「え、どういうことっ? て、ここじゃ駄目だ、俺達もあの中へっ」





 急速にまた接近してきた多数の気配を感じ、貴樹達はそのままビルの中へ逃げ込んだ。

 幸い、なぜかここには感染者達が近付かないようだ。

 そこで、瑠衣が早口で教えてくれた。


「瑠衣も今持っていますが、魔法石は魔法の補助以外にも、多種多様な目的に使えます。例えば、あらかじめコマンドワード発動の爆裂魔法をかけておけば、合図の声一つで、魔法石内の濃厚なマナが一気に反応し、爆発します。つまり、爆弾の代わりにもなるのですっ」


「となると、今の連中は全員――」


 察しがついた貴樹は、慌ててエレベーターホールへ走った。

「どうするつもりっ」

「お兄様っ」


「どうするもこうするもっ」


 いや――本当に俺はどうするんだっ。

 開いたケージを前に、貴樹は自問した。

 もしあいつらが予想通りの任務を負っているとすれば、もしかしたら放置しておいた方がいいんじゃないか?


 黙っていても、ミレーヌを殺してくれるかもしれない。

 目的は暗殺だろうから、むしろこっちからすれば助かるのだ。

 多分、コントロールを離れたミレーヌを、王家が疎ましく思い始めたということだろう。


「ええい、くそっ」

 迷いつつも、貴樹は結局、ケージ内に入ってしまった。

 他の空きエレベーターはそれぞれ別の階に止まっていて、すぐ乗れるのはこれしかない。

 そこに気付いた時、当然のように続いて乗って来ようとした瑠衣達を、貴樹はとっさに押し戻してしまった。


「悪い、先に行かせてくれっ」

「そんなっ!?」


 瑠衣が息を呑んだが、その眼前でエレベーターのドアが閉まった。 

 すぐにガクンとショックがあり、上昇が始まった……二十階まで、すぐだろう。





 一階に停止していた二基のエレベーターケージのうち、一基が上がってきた時、ミレーヌは当然、「おそらくこれが暗殺部隊とやらね?」と予想していた。

 その予想は当たっていたし、二十名という人数も、まあまあ想定の範囲内だった。


 想定と違ったのは、その全員が自爆するつもりで来ていたことだ。


 どうもなんらかの精神支配を受けているらしく、一人残らず目が据わっていて、ケージの扉が開いた途端、こちらへダッシュしてきた。


「……あっ」


 ミレーヌは、連中を見て、全てを悟った。

 軍服の隙間から赤く染まった魔法石が見えているし、それが今、益々色濃くなっている。


(そう、そうか……そこまでわたしを殺したいのね、陛下は)


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