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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第八章 双方の世界で決戦
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嫉妬する二人


「おぉおお」

「よぉし!」


 貴樹が思わず声を上げれば、リーサも小さくテーブルを叩いた。


「それが聞きたかったんです! 実はルイ王女宛に、まずお知らせすることがあるの。殿下……貴女の母君の祖国で、王女様を自分達の主君としてお迎えし、国土を回復しようという動きがあります」


 瑠衣は思わず息を呑んだし、貴樹も同様である。


「誰が? その国のレジスタンスが?」

「レジスタンスというか、数が万を超えているから、もう立派な解放軍ね。その国は、今はアレクシア王国に併呑へいどんされているけど、それって別に国民の総意じゃないからね」


 リーサは顔をしかめて言った。


「そしてあたしも、基本的にその動きには賛同している。ただ、王女様のお立場がわからないから、先に訊いてみたわけ」

「でも……」


 絶句していた瑠衣が、ようやく尋ねた。


「なぜ今、そんな動きが」

「前々から話はあったんですよ。ただ、今は絶好の好機だという意見が数多く出始めました。なぜなら、王家が意外にもヴァランタイン公国の侵略に手こずっているから」


 ――これはつい先程入った情報だけど、と断りを入れ、リーサがさらに続ける。


「時間のズレがありますが、今日未明、ヴァランタイン公国軍と、アレクシア王家の正規軍がぶつかりました。おそらく、今頃は壮絶な決戦の最中でしょう。あの方は少し前に同族の裏切りにあって、そっちの軍勢を打ち破ったばかりなんだけどね」

 

 貴樹達はまたしても顔を見合わせた。

 となると、ロザリーは連戦かっ。

 貴樹の考えを読んだわけじゃないだろうが、リーサが詳しく教えてくれた。





「公国軍がコノリー伯爵軍と戦ったばかりなので、王家側は、疲弊ひへいしている今が好機と思ったようですね。連戦に持ち込もうというわけ。だけど今回、コノリー伯爵家が散々に打ち破られたことで、ヴァンパイアの各地の名家は、雪崩を打ってヴァランタイン公国側についてしまった。あえて国名は出さないけど、そういうわけで、あたし達の本国でも賭けに出ようとしているの」


「え、まだなにかあると?」

 リーサは大きく頷く。

「ヴァランタイン家と王家が大規模な合戦に及んでいる今、おそらくあたしの母国を含めた数カ国の連合軍が、敵の王都を急襲しているはずよ。この奇襲が首尾良くいけば、数百年続いたアレクシア王家を打倒できるかもしれないわ!」 

「うわぁ」

 貴樹は思わず唸ってしまう。

 ロザリーの予想外の快勝は、どうやら思わぬ効果を引き起こしているらしい。


「あとは……君のお友達のヴァンパイアさんが、どこまで三万の王国軍本隊を釘付けにしてくれるかなのよね。完勝が一番有り難いけど、時間を稼いでくれるだけでも相当、嬉しいわ。長引けば長引くほど、王都への奇襲が成功する確率が上がるの」


 リーサが男みたいに腕を組む。


「ただ、コノリー伯の軍勢を破った直後、あたしは当主のロザリー様にミラーマジックで連絡は取ったけど、本人は至って元気だった。だから、善戦してくれると信じたいところ」



「いやいや、大丈夫さ! あいつなら絶対大丈夫っ」 



 その点に関しては、貴樹は割と楽観的である。

 自分ほど、ロザリー・ヴァランタインの実力を知る者はいないと思う。その数々の経験から言っても、あいつの敗北なんか想像もできない。


「ロザリーは強い上に頭も切れるんだ。あいつを本気で敵に回すとか、俺に言わせりゃ、王国側の正気を疑いたい――いてえっ」


 いきなり脇腹を瑠衣が思いっきりつねり、貴樹は飛び上がりそうになった。


「ぱ、パワーアップしてるんだぞ、おまえもっ。いきなりなにすんだよっ」

「……知りませんっ」


 なぜか膨れっ面でそっぽを向く瑠衣である。

 理由は不明だが、拗ねたらしい。 


「なるほど……これがロザリー様の危惧かしらねぇ」


「――は?」

 貴樹が首を傾げると、リーサは実に人の悪い笑みを浮かべた。

「あたし達が、どうしてこんな危険な都会を、しかもこの夜に車で爆走してたと思うの?」

「いやぁ、そういえばそれを聞きそびれたな。なんでです?」

 素直に貴樹が問い返すと、リーサの笑みは一層深くなった。


「計画を話すためにミラーマジックでコンタクトした時、ロザリー様があたしに頼んだのよ。『貴女の計画に乗ってあげるから、わたしの頼みも聞きなさい!』とね」


「あいつが頼み事なんかするのは、珍しいな」

 貴樹は無駄に感心して腕を組んだが、瑠衣はなぜかはっとしたような顔をした。

「……嫌な予感がしますわ」

「当たりでしょうねぇ、あははっ」

 リーサはついに、声を上げて笑った。


「ロザリー様に頼まれたのよ、あたし達。貴方達を見つけて、そばでしっかり見張ってほしいと。ふふふあははっ」


 笑いすぎだろうと思うほど爆笑するリーサを見て、遠くから見守る男達まで笑っていた。


「あの方は、よほどあんた達がくっつくのが心配だったようね! でも、手遅れなのかな……なぜか、弾丸の傷もあっさり治っちゃってるくらいだし」


 そう言うと、リーサは小粋にウインクなどした。


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