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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第八章 双方の世界で決戦
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吸血決行

「だ、大丈夫かっ」


 テーブルの上の細々したものを全部とっぱらい、貴樹は瑠衣をそっと横たえた。

 呼吸がだいぶ苦しそうだし、ヒューヒューと掠れたような音がする。


「お、俺だって治癒魔法が使えるはずなんだが」

 しかし、この状態で治そうとすると、まだ身体の中に入ったままの弾丸はどうなるんだ。だいたい、生まれて初めて使う治癒魔法が、こんなシビアな場面って。




「流れ弾に当たったの!?」


 ようやく駆け込んできたリーサが、ぎょっとしたように話しかけてくる。

「ああっ」

「診せて……て、これは」

 リーサがセーラ服を脱がそうとして、途中で止めてしまう。


 おい、よせっ。そんな顔すんなっ。もう間に合いませんとか、そういう話は聞きたくないっ。

 あと、男共三名も次々に寄ってこようとしたので、貴樹は瑠衣を抱き上げて、奥の事務室に走った。


「悪いが、誰も来ないでくれっ」 





 

 事務室には、そこに付随した仮眠部屋みたいなのがあったので、貴樹はそこに瑠衣を寝かし、なおも慣れない治癒魔法を使おうとした。

 くそっ、こんなことなら、ロザリーにやり方を聞いておくんだっな!


 力が入手できたのと、それをすぐに使えるかどうかというのは、決してイコールではないのだ。特に、治すような治癒系の魔法は。


「お、おにいさま……もう……いいです……」

「いいって、なにがだよ!」


 傷口に手をかざしていた貴樹は、ぎくりとして瑠衣を見る。

 瑠衣は……妹は、どこか吹っ切れたような透明な表情で見上げた。



「るいも魔法使いなので……間に合わないのはわかり……ます。おにいさまに大事にしていただいて、るいはうれしかっ……」

「もういいっ、しゃべるな、瑠衣っ。俺は決心した!」


 頭の中がぐるぐるしている。

 一応、最悪の状況を考えて、前にあの部屋の魔法陣を撮影し、その画像をカラープリントしてある。屋敷を出る前に一度貴樹が奥へ走ったのは、その肝心なプリントアウトした画像を忘れるところだったからだ。


 今はちゃんと、折り畳んでポケットに入れてある。


 しかし、本当にそんなものが代用になるかどうかは、わからない。

 本来、ちゃんと床に描くべきものなのかも。

 だが、瑠衣にはもう時間がない。そんなのを図柄を悠長に床へ描いている間に、おそらく死んでしまうっ。


 一瞬でそこまで考えた貴樹は、そのまま手早く服を脱ぎ始めた。

 一応、ほぼ暗闇も同然だが、瑠衣にも断りを入れておく。


「瑠衣っ、ロザリーと同じ儀式をやるっ。悪いが、脱がすぞっ」

「……あぁ」


 なんだか弱々しい吐息が聞こえた。

 どこか喜んでいるように聞こえたのは、貴樹の気のせいだろうか。


『ねえ、あんた達――』


 ドアの外から、またリーサの声がした。

「うるさいっ。入ってきたら、ぶっ飛ばす!」 

 滅多にしたことがないが、貴樹はドアに向かって怒鳴りつけた。

 今は本当に、一分一秒でも惜しい時だっ。


 普段なら恥ずかしいという気持が真っ先にあっただろうが、貴樹は本当に素早く、そして瑠衣の身体をなるべく動かさないようにして、制服を全部脱がせた。


「抱き合うことに本当に意味があるのかどうかわからないけど、一応、手順を守る。ごめんな、瑠衣っ」


 そっと謝ったが、瑠衣は笑顔で首を振った。

「いい……んです……うれしい……ようやくのぞみが……」

「何の望みだよっ。あ、そうだ先にこれを」

 プリントアウトした魔法陣の紙を広げ、先にベッドの上へ敷いておく。とても十分な大きさとは言えない気がしたし、もっと事前に完璧な準備をするべきだとも思った。


 だが、今それを愚痴ってもどうにもならない。

 貴樹はいかにも自信がありそうな表情を作り、裸体の瑠衣を抱き上げ、膝に横向きに抱きかかえた。


「こうして密着して……じゃあ、いくぞ瑠衣っ」

「……どうぞ……ぞんぶんに……ああ、おにいさま」


 どんどん声が小さくなっていく瑠衣を見て、貴樹は最後のためらいを捨てた。

 亡くなった後では、もう意味がない。


 瑠衣の首筋に顔を近づけ、なるべくそっと牙を立てた。



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