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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第七章 ゲーム世界?
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愛が足りない

「瑠衣、ちょっと我慢してくれ!」

「――っ!」


 ささっと抱き上げると走り出すと、瑠衣は最初驚いた顔を見せたが、すぐに貴樹の首に自ら両手を回してくれた。


「そうそう、掴まっててくれなっ。適当な原付でも見つけて――」


 途中で二人ほど突っ込んで来たので、貴樹はそちらを見もせず、PKで弾き飛ばした。

 段々、この念動の使い方にも慣れて来た気がする。要するに、見えない第三の手だと思えばいいのだ!


「――続きだけど、原付見つけて乗り換えるからさっ」

「お兄様、あの左手のカフェをっ」


 急に、瑠衣が見知らぬカフェを指差した。





「アレがどうかした?」


「最後にステータス画面を開いた時、あそこが青色に光っていたんです! もしかして、なにか意味があるのではないでしょうか」

「ああ、ゲームのなっ」


 最後の「なっ」で、また性懲りも無く飛び出して来た人影を蹴飛ばした――が、これはどうも女子高生だったようで、「この痴漢っ」などと怒鳴られてしまった……緩んだ笑顔で。

 もはや女と言えども容赦している場合ではないので、貴樹もそれくらいはなんとも思わない。

 しかし、今度は全身が光り輝く女の子が突然、降って湧いたように現れたのには、驚いた。

 おまけに、手にしたレイピアを突き出してきた。


「わっ」

「こ、この人は!?」


 貴樹が飛び退いた瞬間、半透明の少女の顔を見たのか、瑠衣が叫ぶ。

「ブラッディエンジェルさんですっ」

「諸悪の根源かっ」


『はーい、ミレーヌでぇえええす! えい、勝負よっ』


「しゃべった!」

 てっきり幻像かと思ったので、笑顔で口を利いたのには驚いた。

「自分をモデルにしたエネミーキャラまで放出してんのかっ。悪趣味だな! て、危ないだろっ」

 半透明の3Dキャラみたいな立体像のくせに、レイピアを振るとちゃんと風切り音までした。おまけに、貴樹が避けた途端、後ろから来た感染者の顔にレイピアが刺さり、そいつが倒れてしまう。


「くううっ、最高っ。パンツ見えた!」

 まだ死なず、そのままゲタゲタ笑っている。

「なにが最高だよ、馬鹿!」

 額に穴あけて倒れている感染者に悪態をつき、貴樹は素早くベルトに挟んだ銃を抜く。

 もちろん、「ごめんっ」と断りを入れ、一瞬だけ瑠衣を肩に担ぎ変え、手を空けた。


「お遊びは終わりだよっ」


 最初から安全装置は外しておいたので、容赦なくガンガン撃ってやった。




『い、痛いじゃないっ』

 三発全部が命中し、泣き顔のミレーヌの虚像は光が四散して消えてしまった。

「ふう……て、まだ追いかけてくる奴がたくさんいるっ」

 足音でわかった。後ろから、もううんざりするほど敵が追いすがってくる。数は三桁以上いるかもしれない。

 全部弾き飛ばすのも難しいような人数である。


 休憩する暇もなく、貴樹はまた瑠衣を胸に抱き、走り出す。

 正直、もうゲームに付き合う気もないのだが、ちょうど他の人影を避けた方向が、瑠衣がさっき言ってたカフェの前だったので、とっくに全部割れた窓から飛び込んだ。


 何もなければ、すぐにまた道路に戻ればいいことだ。




「……おろ」

 しかし、貴樹はすぐに違和感を感じた。

 団子状態で後ろから追いかけてきていた連中が、なぜかこの店には入ってこない。

 全て、店の前までは来るが、そのまま他の方向へ散ってしまった。


「ええと、もしかして、ここって休憩ポイントみたいなものか」

「青く光っていたから、そうかもしれません」


 瑠衣を下ろすと、早速、ステータス画面を立ち上げて、調べてくれた。

「……あっ」

「ど、どうした」

 思わずなにかあるのかと身構えた貴樹だが、瑠衣は呆れた顔で教えてくれた。


「いえ……今のミレーヌさんの分身ですけど」

「皆まで言うなって。どうせ、点数低いんだろ?」


 先回りして言ってやると、瑠衣は首を振った。

「低いどころか、マイナス50点ですわ」

「――ぐっ」

 むかっ腹が立ち、貴樹は思わず瑠衣が見ている透過画面を覗き込む。

 そこにはデフォルメキャラのミレーヌがぷんぷん怒っている絵が表示され、吹き出しに「ミレーヌに対する愛が足りないわよっ」とこめかみに青筋立てていた。

「こ、こいつっ」

 呆れるより、怒りの方が勝ってしまった。


「遊んでんじゃないぞおっ。俺は断固、ゲームになんか付き合わないからなああっ」


 貴樹は今更のように喚いた。


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