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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第七章 ゲーム世界?
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空を飛ぶリスク

 そう思い、風切り音がするほどの勢いで上昇していくと――ふいに、一定間隔で音がし始めた。

 ひどく神経に障るような、ある種の警告音的な音が、連続で鳴り始める。


「わっ。脅かすなよっ」


「どこから聞こえます?」

「いや、さっぱり……特定しにくいな」

「不気味な音ですね……聞いてると不安になるような」

「だよな。安物の玄関ブザーをもっと低い音にして、等間隔で鳴らすような感じ?」


 耳を済ませると、気のせいではなく、あきらかに「ブッ・ブッ・ブッ・ブッ」と音が規則正しく鳴っている。

 しかもその音は、少しずつ鳴る間隔が短くなり、気ぜわしくなっているような。




「お兄様、後ろにっ」

「ど、どうした!?」


 緊迫感溢れる瑠衣の声に驚き、貴樹が振り向くと……妹の言う通り、自分達の後ろから、何か巨大な影が近付いてきた。それに、羽ばたくような音も。

 今や、警告音みたいな音が、余裕なく「ブブブブブブッ」と間隔短く鳴りまくっている。


『はいは~い、何名かのプレイヤーが、都内上空を飛んでいるみたいだから、親切なミレーヌから最初の付帯ルール開示!』


 また唐突にミレーヌの声がした。


『自力とかメカの力借りて、空を飛べるような恵まれた人も中にはいるでしょうけど、その方法、難易度高いわよ? だって、地味に地上を進んでる人から見れば、一種のズルだものね。ミレーヌは全ての恵まれない初心者プレイヤーの味方なので、ズルする人には厳しいのです! だから……そういうナメたプレイヤーは、徹底的にいたぶる仕組みになってるからね?』


 後半でいきなり声が冷たくなった。





「す、ステータス!」

 気になった貴樹が画面を立ち上げると、マップで貴樹達を表す光点の後ろから、明滅する赤い点が急速接近している。しかも、この不気味な音は、その明滅に同調して鳴っているようだ。


「て、敵っ……ていうか、ゲームでいうとエンカウントの警告だったのか、これっ」


 焦った貴樹は、透過スクリーンみたいなステータス画面の、敵を示すであろう点に触れてみた。すると、親切にもぱっと横に敵の名前……エネミーネームが出た。


「……あっ」

 こんな場合にも関わらず、背後から覗き込んでいた瑠衣がため息をつく。

 呆れたらしい。

 それはまあ、敵の名前が、「名前の割におっきなスモールドラゴン」とあったら、脱力するのも当然だろう。


「なんだよ、そのエネミーネームはよ。やる気が――て、もう来たあっ」

「いやっ」


 ごおっという羽音がして、貴樹達の直上から黒い影が襲ってくる。

「瑠衣、しっかり掴まれっ」

 貴樹は寸前で自転車を急回避させ、なんとか避けた。

 きわどい……実に、きわどいところだった。避けた刹那、自転車のすぐ脇をでっかい龍みたいなのが真っ逆さまに急降下していく。

 クチバシを大きく開けたまま。


「ど、どこがスモールドラゴンかっ。そのまんまでっかいドラゴンだろっ」


 貴樹は心臓が口からはみ出す気分を味わいつつ、瑠衣に叫んだ。

「瑠衣、魔法のシールドみたいなのが展開できるようなら、頼むっ」

 気の利く瑠衣は、悲鳴を上げつつも呪文を発動待機にさせていたらしい。

 頼もしく「今すぐにっ」と応じ、すかさず小さなロッドを振った。


「マジックシールド!」


 途端に半透明の魔法防壁が二人を自転車ごと覆った。

「ナイス、瑠衣! よし、後は俺が――て、いちいち早いっ」

 あの巨体の割に信じられない旋回能力だった。

 あのイカサマな龍は貴樹達の直下ですかさず巨体の向きを変え、早くも急上昇に転じている。しかも、既にまたクチバシを開けているっ。


 喉の奥に灼熱の赤い塊が見えた。





「ブレスでも吐こうってか! そうはいくかっ。風よ、敵を斬り裂けっ」


 言下に、ぶぉんっという風の音が多重で貴樹の周囲に響き、ちょうどなにか剣呑なブレスを吐きかけていた龍まで一直線に進み、そのまま直撃した。

 巨体なので、攻撃は当たりやすい。

 そして、貴樹が全く手加減せずに放ったせいか、風の刃は見事に龍の巨体を三分割して、空中で倒していた。


 たちまちナメた名前の龍が四散し、黒い霧と化して消えていく。


「よっし! ひやひやしたが、ブレス吐く前に間に合ったっ」

「やりましたねっ」


 思わず二人で声を上げてしまう。

「今のは高い点数だろっ」

 参加するつもりはなかったはずなのに、貴樹は思わず期待してしまった。

 早速ステータス画面を開くと――




「……うっ」

「これ……ひどくないですか」


 二人同時に声に出していた。

 ミレーヌのデフォルメキャラが、笑顔で「やったね、5点ゲットォオオオオオオ」と吹き出しで勢いよくアピールした上、チアガールみたいにボンボンを振り、片足を大きく上げてパンチラ披露している。

 貴樹は珍しく、パンストの奥の純白ショーツを見ても、あまり嬉しくなかった。


 むしろ、点数が低すぎて泣けた。


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