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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第七章 ゲーム世界?
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武器庫で戦闘準備


 本当は瑠衣の日記を盗み見したかったのだが、さすがの貴樹も、瑠衣がぬいぐるみのアリスを抱いて寝ている部屋へ侵入する度胸はなかった。


 あと、結局眠気は全然訪れず、朝になってしまったが……貴樹の体調はすこぶる良好である。瑠衣の血の効果とかいう他はない。

 そこでやむなく、ずっと全チャンネルでやっている報道特別番組……つまりは感染事件のニュースをチェックしていたのだが、夜中はさほど目新しいニュースもなかったものの、朝方になってふいに各チャンネルが慌ただしくなった。


 どうやら、謎の飛行物体が発見されたとか。


 霧が出る前に都内で撮影されたとする映像は、どうもiPhoneで撮られた動画らしいが、想像以上に鮮明に流線型の飛行物体が映っていた。

 以前あった超音速旅客機のコンコルドに似ているが、あれよりは二回りほど小さい。

 それだけなら別にそう驚くことでもないのだが、その謎の飛行物体が重力を無視したような有り得ない飛行をやらかした上、秋葉原の方へ飛び去ったとなると、いろいろ思うこともある。


 おまけに、目撃した複数の住民が、空に響き渡る少女の声で、「ミレーヌの放送、見てくれたかしら! 我と思う人はゲームに挑戦してねっ」というセリフを聞いたという。

 現在、都内には広域避難命令が発動されているのだが、貴樹のようにまだしぶとく残っている者も大勢いるようだ。





「しかし……なに考えてんだ、あの子。罠にしても、いちいち派手だな」

 そこでドアがノックされ、支度を済ませた瑠衣が顔を見せた。

「お兄様、お早いですね! すぐに朝食の支度を――」

 言いかけ、テレビ画面に映った銀色の飛行物体を見た途端、慌てて近付いてきた。

 貴樹の横に座り、壁にかかったテレビ画面を見つめる。


「これ……先史時代のエアシップですわ。発掘された貴重な遺物で、簡単にこちらの世界へ投入されるような乗り物じゃないのですが」


「てことは、やっぱりありゃミレーヌが乗ってたのか!」

 貴樹がかい摘まんでニュースの内容を説明してやると、瑠衣は眉根を寄せた。


「おそらく間違いないと思いますけど……先史時代の遺物を勝手に持ち出したとすると、ますますあの方は王家のコントロールを離れていると思います」

「それはそれで、嫌な相手だな……万事、本人次第ってことだし」


 だが、どのみち貴樹のやることは決まっている。

 罠だろうがなんだろうが、彼女を取り押さえて、なにがなんでも呪術を解除させないといけない。他の手段を探すにしても、まずは本人を押さえるのが先決だ。


「しかし……瑠衣もついてくる気なのな、やっぱり」


「はい!」

 絶対に後には引かない意気込みを見せ、瑠衣は大きく頷いた。

「お兄様と一緒に参りますっ」

「……まあ、留守を頼んでも無理に後から来るだろうから、俺も止めないよ。幸い、昨晩は新たな力に目覚めたし」

 貴樹は肩をすくめ、多分「新たな力とは?」と質問しかけたであろう瑠衣を制して、先に自分から尋ねた。


「ところで、なんでセーラー服?」


「えっ」

 この質問はなぜか瑠衣の意表を突いたようで、瑠衣はにわかに焦り始めた。

「あ、あの……生徒手帳に『外出時にも、本校の生徒である自覚を持って行動するように』という条項があったので……制服が相応しいかと思ったのですが、お、おかしいですか?」


「い、いや……まあ、瑠衣が動きやすい格好でいいと思うけど」

 というか、まさか生徒手帳の注意書きなどを、まともに読むような中学生がいたとは。

「とりあえず、朝ご飯頼むよ」


「あの、本当におかしくないですか、これっ」

「大丈夫、大丈夫! 瑠衣は恐ろしいほど似合っているし」


 貴樹は、気にする瑠衣に笑って手を振ってやった。

 まさか鎧兜を着ろとも言えないし、悪いという法もあるまい……多分。






 瑠衣の心づくしの朝食を済ませた後、貴樹達は地下フロアの武器庫へ向かった。

 ロザリーが出掛ける前に、「自由に使って」と言われていたので、一応見るだけは見ようと思ったのである。

 存在自体は前にちらっと聞いていたものの、あいにくこの地下フロアに入り浸ったのはごく最近なので、貴樹ですら、本当に入るのは初めてである。

 そこは、奥まった場所にある部屋で、想像以上に大きい両開きの扉が入り口となっていた。


「しかも、ここだけ周囲がコンクリート打ちっ放しのままという……」


 思ったより大仰な、映画館のドアみたいな扉を見て、貴樹は首を傾げる。

 とにかく中を見るかと思い、預かった鍵でドアを開け、ギギィと開いてみた。

 ……幸い、照明は自動でついた。


 明るくなった瞬間、奥行きのある長方形の部屋の全貌が見え、瑠衣はもちろんのこと、貴樹ですら度肝を抜かれた。




「ロザリー……おまえ、なに考えてんだ」


 優に一分以上も経ってから、ようやく貴樹は呻く。

 左右の壁に整然と並んでいるブツを見て、「あいつ、この国で革命でもやらかす気か!?」と半ば本気で思った。


 ただし、なぜか右と左の壁で、所狭しと並んだ武器のおもむきが全然違っていた。

 

 向かって左手は現代風の武器、そして右手は剣や刀や槍など、いかにもロザリーが好みそうな古風な武器だ。


「ロザリー用と、使用人用か? まあ、ロザリーは銃なんかてんで馬鹿にしてたからな」


 貴樹は博物館の出来事を思い出し、頷いた。

 間違いなく、左手の壁際にぎっちり並ぶのは、使用人達が使う武器だろう。まず、銃がある……しかも、それこそあらゆる種類の銃が数百丁も。



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