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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第六章 鋼鉄の処女
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押し倒す

 口に含んだ瞬間、貴樹は震えた。


 てっきり、記憶にある金臭いような味が広がるものとばかり思ったが、まるで外れた。というか、おそらくこの味は、かつて飲み食いしたどんな食材とも似ても似つかない。

 胃にではなく、まるで自分の魂そのものに染み渡っていくような抵抗しがたい味で、気付けばあっという間に全部飲み干していた。


 ロザリーが吸血してきた時、我を忘れたように震えていた彼女に不思議な気がしたものだが、貴樹は今こそ、あの時の彼女の気持ちが存分にわかった。

 確かに……この快感に耐え、さらなる血への渇望を止めるのは難しい。


 むしろ、あのロザリー・ヴァランタインは恐るべき自制心の持ち主だったと思い知った。

 全身を震わせながらも、なんとかこの快感と渇望に抵抗しきったのだから!

 あるいは貴樹の血が瑠衣ほど美味ではなかった可能性もあるが、とにかく貴樹はロザリーほどには我慢強くなかったようだ。

 いつの間にか、飲み干したマグカップが手から滑り落ち、瑠衣をソファーに押し倒していた。


 胸に手を当ててがっちりか細い身体を固定し、顔を首筋に近づけようとする。





「……あ」

 瑠衣は――吐息のような声こそ上げたが、怯えた表情などは見せなかった。

 泣き笑いのような笑顔で貴樹を見つめたかと思うと……自らブラウスのボタンを外し、貴樹が牙を立てやすいように、肩の部分をそっとはだけて見せた。

 その後、恥ずかしそうに目を逸らす。


「お兄様……どうぞ、存分に」


 露わになった肌の鮮烈な白さを目にした途端、ようやく貴樹の心に多少なりとも自制心が戻ってきた。




(おいよせ、馬鹿っ。瑠衣を従属化させるつもりか! これ以上は駄目だ、引き返せっ。もう二度と、兄妹には戻れなくなるぞっ)


 もう二度と戻れなくなる……我ながらこの脅しは、貴樹自身にとって有効だった。

 お陰で、急速に意識がのたうつような欲望地獄から浮上したが、今更ながらに瑠衣の胸を鷲掴みにしていることに気付き、貴樹は慌てて手を放す。

 このけしからん妹は、どうもブラを着けてなかったらしい。

 モロに膨らみの感触を味わってしまった。


「……お兄様?」

「お、お兄様じゃないわっ。危なかった……とことん、危なかったぁ。しかし――私は帰ってきた!」


 荒い息の下から呻き、貴樹はなんとか身を起こす。

 前に見たロザリー以上に、ぶるぶる震えていた。

「言っただろ、間違ってもおまえを従属化したくないんだって!」

「で、ですから、瑠衣はそれでもいいと」


「俺がよくないわあっ」


 貴樹は慌てて手を振った。


「だいたいな、ロザリーとの儀式の時は、俺達は全裸で魔法陣の上に立ってたんだぞ! あのやり方に意味があるのかどうかはともかく、本格的な儀式だとそうなるんだっ。ただガブガブ噛んで飲むだけだと、微妙に違うだろっ」


「ぜ、全裸……ですか。そういえば、魔法陣のお部屋が他にも幾つかありましたね」

 微妙にショックを受けたような顔で、瑠衣がようやく起き上がる。

「おい胸、胸っ。ボタンが外れたままっ。微妙に見えそうだから隠せ! あと、たとえ寝る寸前でも、ちゃんとブラをだな――」

 この思い詰めた妹は、全然聞いていなかった。

 むしろ、いきなり貴樹の腕を掴み、揺さぶった。ついでに、一緒に瑠衣の胸も揺れた。

 一瞬とはいえ、ブラウスの隙間から、胸の先端部まで見えてしまった……若干、微乳とはいえ、なんという美乳!

「お兄様っ、今から二人でその部屋へ参りましょう。瑠衣はそこで脱ぎますからっ」

「ぬ、脱ぐな、馬鹿」

 思わず想像しかけ、貴樹の声が震えた。


「ていうか、頼む、勘弁してくれっ。俺はめっぽう、欲望に弱いんだ。もう固いの当たったとか、そういうやりとりはご免なんだよっ。熱が出るだろ!」

「……固いのとは?」


「真面目な顔して訊くな! こっちの話だっ。あ~、あ~、もう俺はなーんも聞こえませーん」





 貴樹はあえて瑠衣から目を逸らし、わざとらしくテーブルの上のPC画面を切り替える。

 ごまかすつもりで、何気なくこの屋敷周辺の屋外にカメラをクリックしたが。

「あっ」


「あっではありません! お兄様、まだお話は終わっていませんっ。そのお部屋に今から二人で」

「いや、ごまかしているんじゃないっ。瑠衣、これを見ろ!」


 液晶の大画面を瑠衣の方へ向けてやる。

 さすがに拗ねていた瑠衣も、息を呑んで沈黙した。

 貴樹がクリックした外部カメラは、屋敷の遠方を映していたカメラなのだが……月明かりに照らされた家々の屋根を呑み込むようにして、白い物が押し寄せてくる。

 まるで渦を巻くように不気味に動き、全てを覆い尽くすように。


「霧……これ、霧だよな?」

「お兄様、なんだかこの霧、邪悪なものを感じます」


 瑠衣が、囁くように言う。


「おまえもそう思うか……じゃあ、俺の気のせいじゃないんだな」


 二人が見守る画面の中で、蠢く白い霧はついに屋敷の目前にまで迫り……そして、屋敷そのものもすっぽりと呑み込まれてしまった。


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