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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第六章 鋼鉄の処女
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クリア方法


「な、なんだなんだなんだっ」


 ツインテールにした純白の髪と、それに白いマント……あとは胸にぴったりフィットした黒いビスチェと、同じ色のタイトスカートという格好の少女を見て、貴樹はあんぐりと口を開ける。

 こいつが敵なのは明らかなのだが、あまりにも意外な姿を見て、驚き呆れていた。

 だいたい、タイトミニのスカートは両サイドにスリットまで入っているし、おへそまで見せた薄着全開の姿は、とても戦士には見えない。


 狂気のロックスターという感じである。




「まさか、皆殺し兄妹の片割れさんでしょうか」

 瑠衣の呟きに、ようやく貴樹は思い出した。

 あのラザールの、血の繋がらない妹か!


「確か――鋼鉄の処女っ」

「……あの、そちらのあだ名ではなく、ブラッディエンジェルの方がよくないですか」


 瑠衣が控えめに抗議した。

 まあ気持はわかるが、なぜかそっちのあだ名を真っ先に思い出したのだから、しょうがない。

 貴樹は肩をすくめ、話を変えた。


「さすが他人……兄貴とさっぱり似てないな」

 ラザールと違い、この子は明らかに、呪術師よりアイドルとかモデルの方がしっくりくる。

 ただし、ロザリーが臭わせていたように、確かにそこはかとない狂気は感じる。今のところ発言に支離滅裂なところはないが、それでも。


 ……見つめていると、画面の向こうで手を振ったりダブルピースしたりと、無駄に愛想を振りまいていたミレーヌは、可愛い咳払いなどして語り始めた。




『まさかまだ何も知らない人もいないと思うけどー、一応教えておきます……というか、アレクシア王家の意向なんかミレーヌの知ったことじゃないので、ぶちまけておきます。先日からこの国で広がっている感染者の大軍は、異世界からの侵略だからね! まだ知らなかった人は、さっさと呑み込んでおいてね。めんどくさいの我慢して、ミレーヌが一度だけ、ざっと説明してあげるから』


 そう前置きすると、ミレーヌは本当にコレまでの経緯を説明し始めた。

 異世界の存在からアラン国王というアレクシア王国の君主の名前、それにかの国の地球への侵攻の意思など、次々と暴露していく。


 無論、貴樹達にとっては既に知っていることばかりだが、ここまで公共の電波に真実が流れたのは、この侵攻騒ぎ始まって以来かもしれない。

 一通り早口で語り終えた後、ミレーヌはわざわざマイクを元のアナウンサーから受け取り、改めてびしっとこちらを指差した。




『そこで、話は最初のゲーム話に戻るわっ。ラザールが始め、今や都内全域に広がっている呪術は、この十七歳ぴちぴちの、ミレーヌ・シャリエールが引き継ぎますので~。ここで朗報でぇーっす! ミレーヌはあのラザールほど不公平じゃないから、ちゃんとみんなが勝てる手段を残しておくわね。――つまりっ』


 そこでカメラの方へ無理に歩み寄ったらしく、ミレーヌの美貌がぐっとアップになる。

 つややかな唇の端を吊り上げ、彼女は優しく告げた。


『このミレーヌも、公平にゲームに参加してあげる! そうね~……ん~、秋葉原が気に入ったから、そこをミレーヌの本拠とします! ここ出たら早速、秋葉原に向かうわねっ。いわば、みんなが攻略するラスボス的な扱いかな? ミレーヌを見事に攻略できる人がいたら、ちゃんと呪術を解除してあげると約束するわ。既に感染した鈍くさい人はどうもならないけど、これ以上の感染拡大は防げるわよ? 悪くない条件でしょっ!? じゃ、待ってるからねっ』


 言いたいことを言い終わると、ミレーヌはいきなりマイクを画面の外へ投げた。

 そのまま、マントを捌いて颯爽とスタジオを後にしていく。

 カメラが途中までその姿を追った後、スタジオのあたふたしたアナウンサーに画面が戻った。







『え、ええと……ご覧いただいた通り、番組がしばらく前から異世界人を名乗る謎の少女に乗っ取られて、しまいましてしまいましてしまいましてしまうまぁあああああ」


 汗だくで報告してした中年アナウンサーが、ふいに声を詰まらせ、壊れたレコードのごとく同じセリフを吐き出し始めた。

 スタジオのどこかで「か、感染したのかっ」と声がしたが、その時にはもう、彼は一転して陽気な表情を見せていた。


『それでは、〆はこの私、定年まで十年を切っていた、水沢俊樹が引き受けましたぁ! みんなぁ、ミレーヌ様の言うことを夢にも疑ったら駄目ですにょおおおおお。そーんな悪い子は……こうなりますからねぇえええええ』


 いきなり目を見開いて、カメラへ突進してきた。


『うわああっ』

『ば、馬鹿馬鹿っ。正気に戻れ!』


 どうも自称水沢氏はカメラマンに襲い掛かったらしく、派手にカメラがぶれて、下に落ちた。後は逃げ惑うスタジオスタッフの足だけが見えるのみ。

 ……そのうち、お定まりの「しばらくお待ちください」の画面に切りかわってしまった。





「な、なんという……」

 あまりのことに、貴樹が呆然と暗くなった画面を見ていると、瑠衣がそっと手を握ってきた。

「やっぱり、あの人がブラッディエンジェルですね」


「そうみたいだな……しかも俺達の立場上、否応なくあいつの言う通り、倒しにいかないと」


 我ながら気乗り薄な声が出てしまい、貴樹は少し気が差した。

 しかし、あまり相手にしたくないタイプである。  


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