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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第六章 鋼鉄の処女
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ミレーヌ襲来


 

☆六月五日☆ 

侵攻実験から数日が経ちました


瑠衣とお兄様は、未だにヴァランタイン家のお屋敷の地下フロアにお世話になっています。

着替えやこの日記、それに廃校に置き去りだったアリス(ごめんなさい、アリス!)は、事件の翌日に取りにいきました。もちろん、お兄様の付き添いで。

まだその日までは、この周辺に感染者は来ていなかったのです。今はもう……そこら中が危険地帯ですけど。

ギリギリで回収が間に合ったので、こうしてまた日記をつけることができます。


最近の出来事で一番驚いたのは、ロザリーさんがヴァランタイン家の新たな当主だったことと、それに噂でしか耳にしたことのない神聖な儀式を、お兄様相手に行っていたことでしょうか!

普通なら真祖の末裔であるロザリーさんが誰かを吸血すれば、必ず相手は従僕になってしまいます。いわゆる、従属現象ですね。

でも、唯一の例外があって、それがその儀式らしいです。


つまり……その儀式を行って吸血が成功すれば、従属化は起きないどころか、お互いの能力を補完し合う最高の結果となるそうなのです。

ロザリーさんが昼間でも平気になったのは、そのお陰なのですね……。


ただ、もちろん儀式には条件があります。

瑠衣も噂で聞いただけですけど、おそらく間違いないでしょう。

儀式が成就するには、儀式の担い手――つまりロザリーさんが吸血する側の人を……つまりお兄様を……ああ、ここから先は書けませんっ。

瑠衣にとっては、とてもショックなことなのですもの。


とにかく、その唯一の絶対条件をクリアできて、初めて儀式が成就し、互いの補完が成功するそうです。


まさか、ロザリー様がそんなお気持ちだったなんて!

あのお方の血筋と影響力からして、本来瑠衣は喜ぶできなのでしょう……お兄様にとって、悪いことではありませんもの。

でも、どうしても素直に喜べません。

だって……瑠衣にはもうお兄様しかいないのに、そのお兄様ですら、ロザリーさんと一緒に瑠衣の元から去ってしまう気がするのです。

瑠衣もお兄様と一緒に同じ儀式をすれば、少しは安心できるでしょうか?


首尾良く儀式が成功すれば、つまりお兄様は瑠衣を――

本来はその事実を教えて差し上げるべきですけど、瑠衣はどうしても言えませんでした。

本当に卑怯な女の子です、瑠衣は……こっそり、お兄様のお気持ちを確かめようなんて。


……今回も、書いていてなんだか嫌になりました。

本当は、もっと心配すべきことがたくさんあるのです。

新たに強力な感染者も生まれたらしく、お兄様は「これは自分達がなんとかすべき相手かも」と仰ってました。

もし本当にお兄様があの化け物を倒しに向かわれるのなら、瑠衣も必ずついていくつもりです。

覚悟を新たにして、今日の日記はページごと捨てます。

アリス、いつも愚痴が多くてごめんなさい。







 六月六日になり、痺れを切らしたミレーヌ・シャリエールは、自ら構築した魔法陣を経て、異世界である日本へ渡ってきた。

 アレクシア王家の正式な許可など待っていては、いつ来られるかわかったものではない。

 もちろん、到着したその足で都内の拠点へ向かい、あのラザールと最後に一緒だった兵士三名を探し出した。


 間抜けにも、ラザールによって魔法攻撃の盾にされ、廃校で気絶した護衛兵士達である。

 気絶から醒めた後は、なぜか攻撃したルイ王女もラザールも消えていて、やむを得ずその場から逃げ出したそうな。

 幸か不幸か、王家の正式な命令書がミレーヌを追うように後から来て、彼らは拒否することもできず、ミレーヌを問題の廃校へと案内することとなった。

 ミレーヌが勝手に向こうから持ち出したエアシップに乗り込み、空を飛んでのことだが……着地してからは危険極まりない。


 真っ昼間のことでもあり、既にこの廃校の周囲にも感染者達がうろついている。

 危険極まりないのだが、ミレーヌは平然と最後にラザールが立っていた場所を眺め、周囲など気にしなかった。




「ふぅん、ここがあいつを見た最後の場所なのね」


「は、はい、ミレーヌ様」

「間違いございません!」

「お守りできずに、申し訳ありませんっ」


 ガタガタ震えながら、兵士達は口を揃えて神妙な態度を示した。

 本当は、「あの腐れ導師、俺達を攻撃魔法の盾にしやがってえっ」と恨んでいるのだが、この子にそんな苦情は言えない。なにしろ……相手は皆殺し兄妹の妹――鋼鉄の処女と呼ばれる、札付きの危険人物である。下手なことを言ったが最後、殺されかねない。


 見た目こそ、タイトミニの白いスカートとマントが似合う美少女だが、兵士達は彼女についての噂を知っているだけに、生きた心地がしなかった。


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