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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第五章 死の誤算
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奇襲

 土地勘がさほどなかったものの、だいたいの方向は訊いていたので、後は上空から探りながら飛べば容易だった。


 場所が小学校なので、大きなグラウンドのあるところで、人気のないところを見つければいいからだ。

 ただ、瑠衣はいよいよそこへ近付いた時点で、危険を冒して低空飛行に切り替えている。

 どうしても、敵の導師に見つかりたくなかったからだ。

 お陰で、たまに瑠衣が飛んでいるのを見た人々が、空を指差して驚きの声を上げていたが、彼の不意を突くためには仕方ない。


 そう、そもそも瑠衣は、彼が素直に呪術解除の要請に応じるなどと、甘いことは考えていない。

 普段から人の――いや、腹違いの兄の悪意に晒されてきた瑠衣である。

 甘いことは最初から考えていなかった。



 ――あの方がご自分の居場所を教えてくれたのは、別に瑠衣に呪術の解除を教えてくれるためじゃないわ。他の目的があるに決まっている。となると、瑠衣の成すべきことはただ一つ!


 

 この惨状を回避するためには、おおざっぱに分けて手段は二つある。

 一つは仕掛けた術者が呪術を解除すること。

 そうすれば、少なくとも今感染している人々が死ぬだけで済む。この手の呪術は危険極まりないので、術者は必ず解除の手段を持っているはずなのだ。


 ただし、止める方法はもう一つある。

 それは、術者本人が死亡することだ。

 大元の術者が死ぬことによって、呪術はその存在価値を失い、暴れ回る感染者達の命の火が消えることで事態は収束する。

 この場合も、既に感染した人々は助からないが、少なくともこれ以上の拡大は防げる。





「問題は……瑠衣に、人を殺すことができるかどうかっ」


 連なる民家の上をギリギリで飛行しつつ、瑠衣は唇を噛む。

 既に、目的地の廃校は目前に見えている。

 話し合いではなく、奇襲を選択したことに後悔はないが、頭の中で考えるのと、実際に人を殺すのは違う。

 瑠衣は未だかつて、人を殺した経験などないのだ。


「でも、やらなくては! なんとしても止めなくてはっ……いた!」


 グラウンドが見えた瞬間、あの男の位置がわかった。

 木造校舎にごく近い場所に、護衛の兵士三名と一緒に立っている。

 先程自分で話した通り、彼の目の前には既に魔法陣が描かれていた。

 彼の位置がわかった瞬間、瑠衣はさらにぐっと高度を下げ、人気のない歩道上を、地を這うようなスピードで飛んで行く。


「不意を突き、彼を倒すわっ。ためらわない……瑠衣はためらわないっ」


 何度も呟き、心を奮い立たせた。

 最後に大きく旋回して、瑠衣は廃校の裏手に回った。

 ここなら、グラウンドにいる彼らからは、校舎が盾になって見えない。

 崩れかけの裏門を飛び越えて侵入し、後はあくまで木造校舎を盾にして進む。ギリギリまで接近して校舎の角までホバリングして進んだ。


 後は、この角を回って飛び出せば、すぐ目の前が彼らのいるグラウンドだ。

 深呼吸していると、辛うじて彼らの会話が聞こえた。




「あの方は、来るでしょうか?」

「まず、来るだろう」

 問題の男が笑みを含んだ声で言った。

「陛下と違い、哀しいかな、あの方は情にモロすぎる。異世界の民と言えども、そのまま見捨てることはできまいさ」

「……まあ、確かに凄惨な実験ではありますが」

「おまえは、私に文句でもあるのか?」

「し、失礼しました!」

 

 なにやら揉め始めたが、ならばいよいよ好都合だろう。

 攻撃を仕掛ける時だ。


(ありがとう、アリス。貴女はしばらく、ここで待っていてね)


 地面に降り立った瑠衣は、ぬいぐるみのアリスを雨ざらしの彫像の台座に置いた。

 飛行魔法はさほど負担ではないが、これだけの呪術を展開した男である。できることなら、攻撃に全ての力を注ぎたい。

 素早く逃げられる利点を考慮したとしても、飛行と攻撃の両方に魔力を割くのは、避けるべきだろう。


(いきますっ。お兄様、待っていてくださいねっ。瑠衣はやります!)


 最後にもう一度心の中で貴樹に話しかけると、瑠衣は小声で詠唱を始めた。

 詠唱を終えた後、そのまま攻撃魔法をホールドして、瑠衣は校舎の角から飛び出す。


「――ライトニング!」


 青白い雷撃が、固まっている男と兵士達に向かい、一直線に走った。



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