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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第五章 死の誤算
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貴樹の選択は

 セダンの席決めで、早速揉めた。

 というのも、貴樹とロザリーに続いてグレンが後ろに乗り込もうとしたのだが、そのロザリーがいきなりグレンを蹴り戻したのだ……黒ストッキングを穿いた足で。


「おまえは、助手席に行きなさい。こっち来ないでっ」


「俺だけのけ者ですかいっ」

「そうよ! わたしの横なんてとんでもないわっ」




「――車を出しますっ」


 ヨハン氏が迫り来る感染者達を見て、いきなり急発進させた。

 グレンが助手席に入った直後であり、危うくまた外に放り出されそうになっていた。

 それでも間に合わず、ヨハンは前に回り込んだスーツの男を一人、轢いてしまっていた。


「わっ」

「くっ」


 貴樹とグレンは思わず声を上げる。

 人体を思いっきり撥ねた瞬間に立ち会うことなど滅多にないが、車にもかなりのダメージが来るものだとわかった。ステアリングを取られて、どうして蛇行してしまう。


「あ、危ないな、おいっ。街中でそんなスピードで――うおっ」


 グレンが悲鳴を上げた。

 また新たに一人撥ね飛ばして、重厚な車体がスキッド音と共に蛇行した。ヨハンが素早いステアリング裁きで立て直したが、危うく電柱に特攻するところである。

「お嬢様、このまま安全圏に出ますか?」

 何事もなかったようにヨハンが尋ねたが、ロザリーより先に貴樹が反対した。


「いやいや、それじゃ駄目ですっ」

 運転席のオールバックの銀髪に叫ぶ。

 ずっと電話しているのに、電話にも出ないのだ。瑠衣に何かあったに違いない!

「瑠衣を見つけて合流しないと。あいつ、俺を探してまだ飛んでるかもっ。そうだ、ロザリー、ロザリーなら飛べるだろっ。上空から探せないか」

「そりゃ飛べるけど、貴樹だって飛べるわよ。忘れたの? わたしに可能なことは、もう大抵は、貴樹にだって可能よ」


「そりゃどういう意味ですかい!?」

「お嬢様、まさかと思っておりましたが、本当にあの儀式をっ」


 ロザリーの宣言に、グレンとヨハンがでっかい声を張り上げた。

 なぜかヨハンの動揺が特に激しい。




「いいから、おまえ達は前見ててっ。ヨハン、また来たわよっ」

 横道から飛び出した二人ほどが、車のボンネットに飛び乗って来た。

 一人は滑って落ちたが、もう一人の女子大生風の子は、見事にワイパーに掴まって堪えた。

「いやん、高級車いいわあああああ。あたしも乗りたいっ。海へ行きましょうっ。熱烈な抱擁をかわしてからぁああああっ」

 フロントガラスの向こうに、狂気に染まった瞳があった。

「お呼びじゃないよっ」

 貴樹が風を起こして吹き飛ばすと、きりもみ状態で飛んで行った。

 この辺でようやく、一番被害の激しい地域を抜けたらしい。狂気のごとく車を飛ばしたお陰だろう。

 改めて、車を止めてくれっと貴樹が叫びかけた時、いきなり瑠衣の声が響いた。




『ミラー魔法全開で、あらゆるミラーを対象に呼びかけますっ』


「る、瑠衣の声っ。どこだ!」

「貴樹、正面よっ。ルームミラーみたいっ」

 ロザリーに言われてそっちを見れば、確かに瑠衣の顔が映っていた。


『携帯電話は鞄の中に入ったままでした。やむなく、一方通行のミラー魔法でこの近辺全てのミラーを対象に発信します。お兄様、すぐに感染者のいる区域から脱出してください。瑠衣は、後でかならず合流しますからっ。いいですね、もしもこれを見たら、絶対に逃げてくださいね!』


「瑠衣っ。俺はここだぞ!」

 貴樹はルームミラーに突っ込む勢いで身を乗り出したが、本人の言葉通り、魔法にしても、これは一方的な送信らしい。

 返事はなく、どこか潤んだ瞳の瑠衣が、早口で続けた。


『短い間とはいえ、お兄様と一緒に過ごせて瑠衣は幸せでした……もしも再会できたら、全ての事情をお話ししますね』


 それを最後に、ふっつりと瑠衣の姿が消え、ルームミラーは元の鏡に戻った。

「おいおいっ、なにをしようっていうんだ、瑠衣っ。ヨハンさん、車を止めてください!」

 貴樹が叫んだ途端、グレンが割り込んだ。


「いや、待てっ。俺にはあの人が向かった先がわかる気がする!」




「どういうことよ?」

「どこだっ」

 ロザリーと貴樹の声が重なった。


「廃校だよ。少年。おまえの家から数キロほど西に、廃校となってる小学校があったろ? どうもこの騒ぎを起こした術者は、その廃校から魔法陣を使って元の世界へ戻るらしい。俺は少佐からその話を聞き出したが、殿下もなんらかの理由でその情報を入手したんじゃないか?」


「それ……確かな話か? 本当に瑠衣はそこへ向かったと?」

 固唾を呑んで貴樹が訊くと、グレンは苛立たしそうに首を振った。

「わかるもんか。ただの推測に過ぎないさ、そりゃ。俺はそんな気がするだけだ」

「……どうする、貴樹?」

 ロザリーが貴樹を見た。

 決断を委ねてくれるらしい。

 ただ、貴樹とて真実はわからない。もしもグレンの思いつきが間違っていれば貴重な時間をロスするかもしれないのだ。


(どうするどうするっ。くそっ、もう少し情報があればっ)


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