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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第一章 日記の盗み読みでわかったこと
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衝撃の事実

 

 日記は白紙だったが、また二度ほど表面を掌で擦ると、字が浮き出てきた。

 信じ難いことだが、これは本当にそういうロックというか、魔法の類いかもしれない。


 ……以下、二時間かけて日記を全部読んだが、最初に書かれた去年の五月一日の日記は別として、他の日付は、あまり重要なことに触れられていない。

 いや、「もしかしてこれがそうか?」という記述はあるのだが、ボカして書かれている。ちなみにその日記には、貴樹にとっては驚愕の事実も書かれていた。


 たとえば、十二月十三日の日記だ。





☆十二月十三日☆

コンタクト


任務に就いてから初めて、本国からGがコンタクトしてきました。

わざわざ世界を渡って、連絡と調査のために、この日本へやってきたそうです。

どうやら兄上が、実験の進捗状況を知りたがっているそうです。……兄上はルイに全く興味がないと思っていましたが、さすがにご自分が命じたことは覚えていらっしゃったようですね。


兄上のご期待に応え、少しは関係を改善せねばと思います。

側室の娘とはいえ、それが王族たる者の務めですから。

……たとえ、基本的に兄上がルイを嫌っていることを知っていようとも。


そして、兄上といえば、今お世話になっている草薙家にも、形の上での兄上――お兄様がいらっしゃいます。

ルイが植え付けた模造記憶に欠陥はないと思うのですが、たまにルイのことを熱っぽい視線で見ている気がします。

まさかとは思いますが、兄妹ではなく、普通の女の子として認識し始めているのでしょうか。それはないと思いますが……もしそうなら、偽の記憶で混乱させたことを謝りたいものです……もちろん、そんなことは不可能ですけれど。


……ルイは、ごく普通の家庭であるこの草薙家に潜り込んで、ご迷惑をおかけしています。

故に、お兄様である貴樹様のわがままにも、できるだけ寛容な態度で接してあげたいと思っています。ルイにはそれだけの負い目があるのですから。




 


「あぁああああああああっ、世界が終わったあぁああっ」


 再度の読み返しを終え、貴樹は奇声を発して水色のカーペットの上を転げ回った。

 いや、瑠衣は実はルイで、しかもどうやら側室とはいえ王女の血筋とか、驚くべき記述は満載なのだが、それよりなにより、貴樹は個人的に大ショックだったのである。


 つまりその……瑠衣が実は、「別に、貴樹にさほど好意など持っていない」という事実がわかってしまったことに。

 日記の記述からは、その事実がびんびん感じられる。その特別痛い事実に比べれば、異世界の実在も王女も本当の兄の存在も、全くもってどうでもよろしい。


 一緒に住んでいるだけに、貴樹に対する記述が多いのだが、その多くはだいたい、貴樹の視線が気になるとか、負い目があるのでウンタラとか、そういうのだ。

 つまり、貴樹の態度は、むしろ瑠衣を困らせているらしい!?


 ちなみに、貴樹は自分でも「可憐で美しすぎる妹」が気になってよく見つめている自覚がある。いつも視線が合うとはにかんで微笑んでくれるので、「別に嫌がられてないな」と思っていたが……どうもそれは大甘な判断だったかもしれない。

 瑠衣がぶしつけな視線に寛容なのは、自らの負い目故だったのだ。


「もう駄目だ、死のうっ」

 貴樹は七割方本気で呟いたが、辛うじてロープを探すのは堪えた。

 まだ、瑠衣がなんのためにこの家に潜り込んでいるのか、その理由すらわかっていない。せめて、それくらいは突き止めたい。


 というか、今は遠方にいる幼馴染みといい、なんで俺はこういうアレな女の子とばかり知り合うのかっ。

 しばらく頭を掻きむしった挙げ句、貴樹は最新の日記……昨晩書かれたばかりの記述を再読した。この記述もまた、ある意味では重要だったからだ。



☆五月十日☆

貴樹様のご様子が


当家のお兄様にあたる貴樹様のご様子が、少しおかしいように思います。

まさかとは思いますが、なにか気付かれたのでしょうか。いえ、あるいはお風邪を召していて、そのせいかもしれませんが。

魔法のロックもかかっているから心配ないとは思いますが、とりあえずこの日記の隠し場所を変更しておきましょう。日記が原因などとは思えませんけど、念のため。

前にチェストを開けた時、ものすごく焦ってらっしゃったので、お兄様は女の子の下着が苦手なご様子。そこで、チェストの中に忍ばせておきます。


……潜入先の不穏な空気はともかく、任務もいよいよ佳境です。

またGの呼び出しがあり、明日の二時には落ち合う必要があります。

そろそろ、本格的な侵攻実験にかかるのでしょうか。

事前に聞いたところでは、特に死者が出るような実験ではないということなので、本来は喜ぶべきことなのですが。

どうしたことでしょう……ルイは不安です。



「侵攻実験ってなあ」

 ……また一段と、きな臭いではないか?

 貴樹は日記を閉じて考え込んだ。

 さすがにこれは、落ち込んでばかりもいられないようだ。


 二時というのはキツいが、妹が本当にそんな時間に外出するなら、こっそり後を尾行していく必要があるだろう。


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