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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第三章 全てが敵になる
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当日朝


☆五月三十一日☆

前日の夜


いよいよ、前々から気になっていた侵攻実験の開始日が来ます。

グレンを通じて何度も問い合わせをしていますけど、最後の最後まで詳しい内容は教えて頂けませんでした。

明日はグレンが迎えに来て、そのまま駅前のホテルに向かうそうです。


お兄様に嘘をつくのは心苦しいですけど、明日は平日ですし、学校へ行く振りをして、そのままこの家に戻って迎えを待つ他はありません。

仮病を使うことも考えましたけど、お兄様が心配して一緒に休んでしまわれると、困ります。

それに……お兄様にはぜひとも、明日はいつものように高校に通学していただかないと。


なぜなら、お兄様の通う高校は、侵攻実験がある駅前より遙かに西側にあり、実験の想定影響範囲を超えているらしいからです。

もし、お兄様の学校にまで影響が及びそうな時は、瑠衣がなんとか持ち場のホテルを抜け出し、安全圏までお兄様を逃がして差し上げないと!


……それにしても、お兄様とあのヴァランタイン家の方が友人関係だったのは、本当に偶然だったのでしょうか。

そもそも、なぜこの日本にヴァランタイン家の人が滞在しているのか、それも奇妙です。

本当は怒られるのを承知で、お兄様がどこまでご存じなのか詳しくお尋ねしたいところですけど、そうすると私も、あのロザリーさんが本当は外国の名家の出身などではなく、瑠衣と同じく異世界が出自だと打ち明ける必要が出てくるかもしれません。

当然、グレンのことも単なるお友達のお友達ではなく、王家の使用人であることを話す他はなくなるかもしれないんです。


だから、うやむやにするしかありませんでした。

瑠衣がここまであのロザリーさんのことが気になるのは、やはりそのお立場からではなく、はっきりと意識し始めた嫉妬心からでしょうか。


しかし、今はそのことも一時、忘れないと。

明日の実験とやらが、無事に済むことを望みますが……なんだか瑠衣は嫌な予感がします。

グレンも詳しい内容を知らないなんて、よほどのことですし。

それに……最近ではひどく疑問に思うのです。抑えようもない疑問に、毎日悩んでいます。

瑠衣は確かにアレクシア王家の血筋ではありますが、お兄様の目指す道は、おそらく瑠衣が望む道とは大きくかけ離れています。


王家のためと言えば聞こえはいいですが、今の瑠衣はただ兄の方針に従っているだけです。

本当は、今の瑠衣にとっては、腹違いの本物の兄などより偽装のお兄様である、貴樹様の方が大事なのに。

先日、そのお兄様が博物館でこの身を庇おうとしてくださったこと、瑠衣は生涯忘れることはないでしょう。


どうか神様、明日は何が起ころうと、お兄様だけは無事で済みますように。

そして願わくば、瑠衣がまたこの家に戻ってこられますように。

瑠衣は……お兄様と別れて、元の世界に戻りたくありません。

ねえ、アリス……あなただって、きっと同じ気持ちでしょう?








 六月一日当日の朝、貴樹はいつものように学校へ行く振りをして、その実、ロザリーと待ち合わせした郵便局の前に直行した。

 そこにはヴァランタイン家が提供してくれた黒いセダンが待っていて、ロザリーももちろん、車の後部座席にいた。


 昨日の作戦会議では結局、「まずは侵攻実験とやらの実態を観察して、その上で自分達ができることを見つけよう」という話になり、貴樹はロザリーと行動を共にすることにしたのだ。

 本当は、瑠衣が書いた日記をまた見たかったのだが、さすがに昨晩はそのチャンスがなかった。今から家に戻っても、どうせ今頃は瑠衣がこっそり帰ってグレンの迎えを待っているだろうから、鉢合わせしてしまう。

 日記を読むのは、またの機会に譲るしかないだろう。




「……ていうか、それ以前に俺、瑠衣を無理にでもここへ連れてくるべきだったかもな」


「わたし達で保護するってことかしら?」

 隣に座ったロザリーが、眉根を寄せる。

「まあ、そういうこと。あるいは、俺だけでもそばにいてやるとか」


「でも今日に限っては、あの子だってアレクシア王家が用意したホテルにいるのが、一番安全なはずよ。そのことは、昨日も散々話したでしょう?」

「ま、まあ、そうなんだけど」



 貴樹は、小さく頷く。


 そう、瑠衣の行き先はスカイホテルとかいう駅前のホテルだとわかっているし、どう考えても、一番安全なのはそこのはずだ。

「でも、アレクシア王家ってのは、とことん瑠衣に優しくないからな……身内なのに」

「それなら、何か起きた時にわたし達が動けるよう、近くで待機するのが一番よ」

 ロザリーは慰めるように貴樹の手を握り、運転手を務める執事に命じた。

「ヨハン、車を出しなさい。まだ時間はあるけど、警戒のためにも、駅前付近を車で流しましょう」


「かしこまりました、お嬢様」


 ヨハンは恭しく答え、滑るように車が動き出した。



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