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妹日記から始まる異世界侵略  作者: 遠野空
第二章 侵攻実験の謎
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侵攻実験の謎

 下着のまま唐突に寝込んでしまった瑠衣を抱き上げ、部屋のベッドまで運ぶだけで、貴樹はかなりの気力を消耗した。 


 いや、瑠衣の体重など知れているので、問題はそこではない。

 この短い距離を運ぶ間だけでも、自制心を試されたということだ。なにしろ貴樹の中で悪魔サイドの心が「瑠衣は眠ってるし、ちょっと下着脱がせておっぱい見ても、わからないぜ?」などとそそのかしやがるので。

 幸い、終始前屈みではあったものの、なんとか良心担当が勝利を収め、貴樹は瑠衣にパジャマを着せて、ベッドに寝かせるミッションを成功させた。


 心底疲れ、自分の部屋に戻ろうとした……が。

 例の日記のことを思い出し、またこっそり危険な隠し場所を確かめ、日記を引き出してみた。

 もはや慣れてしまったページを撫でる動作の後、一番新しい記述を確かめる。

 やはり、瑠衣は今晩、既に日記を書いていたようだ。





☆五月十二日☆

預かった強化薬? を飲まねばなりません


でも瑠衣は、このお薬はどこか怪しいと思います。

本国の兄上が保証するような効能もあるのかもしれませんが、あの初対面の少佐が、瑠衣がこのお薬を受け取る時、なんだか嫌な笑い方をしたのです。

本音を言えば、あまり飲みたくありません。

でも、王国内の魔法使いが、一昔前に比べてずっと少なくなったらしいのも、事実です。

瑠衣は……瑠衣は王室の末席に名を連ねる者として、その義務を果たさねばなりません。

たとえ、危険があろうと。


とはいえ……時に、お世話になっているこの家の貴樹さんに全ての事情をお話しして、助けて欲しいと思う時があります。

でも、貴樹さん――いえ、貴樹様は侵攻される側の住民さんなのです。

瑠衣が救いを求めるのは、見当違いもいいところです。

それどころか、貴樹様に殺されても文句は言えないところです。瑠衣はまぎれもなく、侵略する側の敵なのですから!

そうでなくても、いつの日にか、貴樹様に全身全霊で謝罪しないといけません……それだけのことをしているのですもの。

でも、瑠衣は贖罪として差し出せるようなものを、何一つ持っていません。本当になにもないんです……この身以外には、なに一つ……哀しいことですね。





 日記を二度読み返した後、貴樹はため息をついて元の隠し場所へと戻した。

 なるほど、それであの偽薬を一気のみした挙げ句、酔っ払って脱いだのか。

「おまえ、真面目すぎるぞ、瑠衣」

 ベッドですやすやと眠る瑠衣の方を見て、貴樹はぽつんと告げる。


「俺に謝罪なんかいるかよ。子供なんだから、もう少し周囲に頼ろうぜ……まあ、俺が頼りがいありそうに見えないのは、認めるけどさ」


 自分もガキに過ぎない身だが、それでも今は瑠衣に手を差し伸べている。

 まだほとんど役に立っているとは言えないものの、少なくとも黙殺したり、どこかに通報したりはしていない。

 ていうか、どうせどこに通報したって、誰もこんな話は信じないだろうが。


「少なくとも、『自衛手段以外の理由で、この世界の人間を殺すことはありませぬ』とか、あの馬鹿たれ少佐は言ったよな」


 昨晩の密談を思い出し、貴樹は呟いた。

 救いがあるとすれば、そこか。とにかく、間近に迫った侵攻実験とはどんなものか、気付かれないように観察しよう。


 こんな時、せめて幼馴染みのあいつがいてくれたら、もう少し動きようもあるんだが。


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