ネフィリアvsコタタマ
1.スピンドック平原-上空
俺のエンフレは貧弱なニンゲンどものそれとはモノが違う。意のままに動く黒剣は粗大ゴミの装甲を容易く貫き、肉に食い込み、連れ去っていく。
レベル差が大きすぎるのだ。もはや非装甲型ですら俺を止めることはできない。
同じことだ。誰だろうと何だろうと……! ネフィリアー! エンフレだと? 今更っ……。
俺は弱いものいじめにならないよう気を遣わねばならなかった。それは油断だ。慢心だ。機体の差で圧勝すると俺はイヤな思いをする。弱いヤツらは「誰かのために」とか「精いっぱいがんばった」とか言えば同情される。負けても赦される。
俺はもう「そっち側」じゃないから「空気を読んで」そこそこ苦戦したほうが「みんなが喜ぶ」と知っている。
つまるところ勝敗に大した意味はないのだ。7と3がぶつかれば7が勝つ。それだけのこと。何の意味もない。
白い触手が粗大ゴミを弾いた。
接触した金属部が火花を散らす。
その形ッ!?
俺の追撃。粗大ゴミを切り裂いた小剣群が渦を巻くように展開。並のエンフレならとうに終わっている。
だが、ネフィリアは……。
球体のフレーム。
白い装甲がバラバラに宙を舞う。
まるで天体のリングだ。
装甲片が激しく回転し、俺の小剣に斜めからぶつかって逸らした。うまい。仕事を終えた装甲片がフレームに張り付いていく。
目は六つ。罪の意識がそうさせるのか、鋼鉄のまぶたは鉄線で縫われ、閉ざされている。
だからといって、いつまでも目を逸らしている訳にはいかない。
ぶちぶちとまぶたの肉片を引きちぎって、三対の目が開かれていく。血の色は赤。垂れた朱色が白い装甲によく映える。
……【目口】だとッ……。
しかも、その色。中間種ッ……!
そうじゃないかと思っていた。
ステラだけが中間種というのは明らかにおかしい。俺らが知らない、何らかのルールがあるのだ。
跳んだ!?
自信があるのか。
エンフレ戦は巨体であるがゆえに動きが直線的になりがちだ。
パワーとタフネス。それらが人間であった時と比べ物にならないほど跳ね上がるから戦術や戦略といったものに頼ることに後ろめたさを覚える。分かりやすく言うなら……ヤンキー漫画の殴り合いに拳銃を持ち出すようなものだ。それは卑怯だと思うだろう。しかし生まれながらにして高い身体能力を持ち、人間関係は良好……たくさんの友達が居る。それは卑怯ではないのか? 単に努力した結果と言って良いのか?
人間が感じる美醜の境界線はあいまいだ。なのに絶対的な価値観であるかのように扱われる。
俺もネフィリア機を追う。
俺はヤツをエンフレ戦の素人とは考えない。
スピンドックは?
エンフレ戦のリスクの一つにレイド級を刺激しかねないというのがある。
俺は六つある目で視線を散らしながら触手を繰り出した。ネフィリア機と違って俺の機体は触手が本体と分離している。独立して動かせるぶん可動域は上だ。
そして、その程度のことはネフィリアなら当然、織り込み済みだ。黒と白の触手が交錯する。絶妙な角度。パワーで勝る俺の触手がいなされる。
ネフィリア機が雲に身を隠す。彼女の声が四方から響く。
【検証チームも薄々は勘付いているぞ。いいか、コタタマ。このゲームのエンフレはな、後出しジャンケンだ。観測された瞬間に形態が固定する。出し渋るほどに上振れしやすくなる】
……レ氏がそう言ったのか?
言いつつ、俺は金属片を展開し、カウンターの構えをとる。
【いいや? 見てれば分かる。ロクロとテングは……あの着ぐるみどもはお前に何を教えた? エンフレのことを教えたハズだ。回りくどく】
スペックに大きな開きがある。
力押しで勝てるハズだ。自分を信じろ。
ネフィリアは笑った。
【着ぐるみ部隊の弱点だよ。彼らの立ち位置は『教育者』だから、他人に期待して、結論だけを述べない。ジッサイお前は惜しいところまで行ったろうし、長い目で見たら正解なのかもな。しかし今この瞬間において、お前は私より『下』だ。ヤツらを恨んでいいぞ? アイツらは他人に期待しすぎる一方で、面倒臭がっている部分が確実にあるからな。賢しい人間は自分の価値に鈍感なままでは居られんよ。ヤギ先生もそれらしきことは言っているだろう? あの人はお前と仲が良いからな。かなりの部分まで気を許して内心を明かしているハズだ】
……エンフレの声は「共振」を利用したもので、距離関係をある程度は無視できる。
マズいのは知恵比べに乗ることだ。
単純な力比べなら俺が勝つ。
……だからこそネフィリアは、無視するのは難しい言葉を選んで喋る。吐息混じりの声が俺の耳朶をくすぐる。
【これで、二度目だな。お前も本当は分かってるんだろ?】
……! キルケーの魔女か!
【そう。ガンダムだよ】
地球人プレイヤーのエンドフレームは他人の認識を取り込んで形成される。個人の意思や能力を軸にできるほどの際立った特徴がないからだ。
ならばリアルの流行が影響するのは当然のことで、むしろそうあるべきなのだ。
ネトゲーとサブカルチャーの間には切っても切れない高い親和性があり、それゆえにネトゲーマーはガンダムの新作とリンクしやすい。
中間種が生まれる条件はロボアニメがリアルで盛り上がることだ。
俺はジグザグに飛びながら触手を振り回した。
その目は見えすぎるんだよッ! だから俺はいつまで経ってもヤツに追い付けないッ! お前がッ! ネフィリア!
ネフィリアのジョブはブライト。回復魔法と攻撃魔法の両方を使える。とはいえ、回復魔法はエンフレに対して効きにくい。エンフレはプレイヤーの残機を燃やして動くが、【心身燃焼】は失った残機を補填する魔法ではないからだ。
ネフィリア機の触手を俺はロールして躱す。すかさずカウンターを放つが、すでにネフィリア機はそこに居なかった。
【ヤツ? サトゥのことか。妙なことを言う。お前はとうにヤツを越えている。その目、その力、その姿。お前は太陽圏最強のプレイヤーだよ。ろくに努力をしていないから後ろめたい。弱いフリをする。反論は? 聞くぞ、私は】
そんなに簡単じゃない! お前は一度だってゴミどもの言うことに耳を傾けたことがあるのかよ! バカだからって、無能だからって無視して! それがお前の弱点だろ! あるんだろッ……自覚! 魔女! お前はいつだって蚊帳の外だ! 高嶺の花なんだよ! お前ほどの女なら他に遣りようもあったろうに……!
ネフィリアはフッと笑った。
【耳が痛い。それについては私のミスだ。自分の立場にあぐらを掻いた。気持ち良くなってしまった。VRMMOというものを甘く見ていた】
……中間種。
レベルで言えば2000相当か。
やはり俺のほうが強い。
この程度なら勝てる。
……何を考えている?
俺は雲を抜けた。
ヤツに時間を与えるほうが怖い。
力と速さで圧倒する。レベル差で勝つ。それが俺の作戦。
決着を付けよう。ネフィリア。
これは、とあるVRMMOの物語
閃光のハサウェイ キルケーの魔女 1/30(金)より全国ロードショー……。
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