地球編、第四章。獣の使者たち
1.DM星人収容所-研修室
自認地球人の活動拠点は、とある地方都市の駅近郊にある森の中、ひっそりと建てられたビッグな丸太小屋である。
家というより施設に近く、外観は心休まるログハウスなのに仕事でしか使わないような名称の部屋が多数ある。
そのうちの一つ、研修室にて。
俺は限界調査の顛末を偉そうな宇宙飛行士どもに説明してやっていた。
ホワイトボードに貼り付けた写真の一つ、俺が舌をでろんと出してハラワタぶち撒けてくたばっているグロ画像を指揮棒でピッと指す。
「と、まぁ、フルパワーぶつけたら反動が内臓にキましてね。モグラ型のラストオーダーはターゲットを仕留めたら解けるんで。トドメをミドリが刺しました」
メガロッパとアオも俺のあとを追うように息を引き取ったが、丸太小屋で待機していたヒーラーにまとめて蘇生して貰った。DM星人が使う防御性スキル【心身燃焼】は身体の部位から全身を再生できるため、ミドリ一人でも俺たちをお持ち帰り頂くことができた。
続いてミドリが満面の笑顔でピースしている写真、の後ろで槍をブッ刺されてご逝去されたモグラさん、の頭部の銃創を指揮棒で指し示す。
「当面の課題はやっぱ『五人目』っスよ。俺が目でモグ公のタゲ取りしなかったらどうなったことか」
地球防衛隊のオフィサー(船長クラスの宇宙服さんたちのことらしい)はDM星人との対話を許可されている。
「問題はS-Pの出力か」
「設計思想そのものが通常兵器とは異なるからな」
「……監視員はどう見る?」
S-Pとは対怪獣ライフルの略称。ガンダムのことをガノタが「RX-78」と呼ぶのと同じノリだ。S-Pだと略しすぎて伝わりにくいとかで「S-PRIME」と呼ぶヤツも多い。
銃ってのは人間を撃ち殺す為のものだ。対怪獣戦に用いるライフルは長期的に見て専用のモノを開発したほうが良いらしい。……そうかぁ? モグラさん専門家の俺なんかは対戦車ライフルにしようぜって進言したんだけどなぁ。いくらモグラさんでも戦車より硬いなんてことは絶対にない。俺の言う通り対戦車ライフルを五人目に持たせてたら確実に仕留めることができていたと思うぞ。知らんけど。俺はテッポーなんか撃ったことねぇしな。プロ目線で素人には扱えないって言われたらハイハイそうなんですねと納得するしかない。まぁ素人に撃たすなよって話ではあるんだが。
……と、まぁ船長に何度も言ったことを今ここで繰り返しても仕方ない。変テコな武器を寄越すな、そこらのニーちゃんネーちゃんを現場に出すな。これまでのミスを認めて大きく方針を変えるのは勇気の要ることだろうが、俺には確信があった。武器は型落ちのライフルで十分だし、つい先日まで友達と一緒に放課後カフェで新作スイーツの有り無し議論していたJKは即戦力とは言い難い。せめて成人年齢に達した人物を五人目のパーティーメンバーとして迎え入れたい。それほど難しい要求をしているつもりはなかったのだが、どうしても分かって貰えなかった。
言っても無駄ならもはや何も言うまい。
そうだなぁ……この場は別の切り口からネチネチ言っとくか。
ノーマルモグラ越え記念で撮影したメガロッパ(瀕死)とミドリ(元気)が私らサイキョ〜みたいなノリで指ハートしている写真を指揮棒でピッと指す。
「甘ちゃんスね。あの発砲のタイミング。ミドリとメガロッパを助ける為に撃った。あそこは見捨てるべきだった。狙ったのか逸れたのか、弾を頭に当てたのもNG。頭蓋骨を貫ける威力があるならそもそも俺らが削る必要なんてないデショ。ないんだ、そんな威力は。わざとそうしてンでしょ? ナニか企んでるのは知ってますヨ。けど、この際それはいい。俺は監視員ですからね。分は弁えますよ。ただ、俺らを肉壁扱いするならハンパはよしましょうや。キチッと見捨てて貰わんと」
「監視員。それは違う」
「たしかにスナイパーは冷徹な判断を求められる」
「が、それ以上に……仲間を見捨てるヤツはクズだ」
カカシ先生? ナルトね。
イイ人ぶる宇宙服どもに俺はカッとなって吠えた。
だったらそこら辺のパンピー連れてくるのやめろや! 変テコな銃持たせンのもやめろ! 幾ら掛かってんだアレ!? 絶ッテェー元取れねーだろ! あるモン使やイイんだよ! 対戦車ライフルとかよォー!
偉そうな宇宙服どもは俺を無視した。一人が使っているノートパソコンを全員で覗き込み、
「S-Pシリーズのロールアウトを急ぎます」
「やはり実包の規格を統一するのは難しいか……」
「ラストオーダーなどフィクションだからな」
「13Sの映像解析はどうなっている?」
「時間の問題かと。ただ……」
「戒律か。眉唾だが……」
「私だ。うむ。うむ。ああ、それでいい。進めてくれ」
俺そっちのけで仕事し始める宇宙服どもに俺はムッとした。絡まれると邪険にするが、無視されると振り向かせたくなる。それが俺だ。
ド肝を抜いてやる。いそいそと一発芸の準備をしていると、ノーパソを覗き込んでいた宇宙飛行士の一人が不意に顔を上げた。
「監視員」
サッと席を立ち、同僚をかわして俺に歩み寄ってくる。足取りは重々しいが、それは高い階級からくる威厳の表れに思えた。
地球防衛隊の隊員が身に付けている宇宙服は強化服の一種ではないかと目されている。重装備に見えるが、いざ襲い掛かると機敏に動くのだ。
俺は脱ぎ掛けていた上着に袖を通す。
暗いバイザーに遮られ、宇宙飛行士の表情を窺うことはできない。
「対怪獣ライフルS-PRIME。プライムの語源はラテン語のプリマ。プリマは単位の区切りを示す。『10'12』なら10秒12というようにな。これをプライム記号と言う。名は体を表す。S-PRIMEは一つの区切りだ。先へ進むためのな」
そう言って、分厚いグローブに包まれた手を俺の肩に乗せた。
……お、おぉ。突然、真面目な話を……。いや、真面目でもないか? ふわっとしてやがる。だから何だよって話でしかねぇ……。
だが、そもそもコイツらはDM星人を信用していない。たとえ核心に迫る内容じゃなかったとしても、DM星人が知り得ないことを教えてくれたのは進歩かもしれない。
俺はハードボイルドに笑って研修室を退室していく。
一つの区切り、か。覚えとくぜ。
「監視員。今回はご苦労だった」
「先生によろしくな」
……俺の名を頑なに呼ばない連中が、どうして先生のことを気に掛ける?
研修室を出る前に一度だけ振り返って宇宙飛行士たちを睨み付けるが、彼らは何の反応も示さなかった。マジックミラーと似た仕組みなのか、こちら側からではバイザー越しにどんな顔をしているのかまったく分からない。……人間であるかどうかも。
2.東京駅地下-総武線ダンジョン
報告を終えた俺は、ワーカーの一員としてダンジョンの舗装工事に加わることにした。
地球防衛隊は、DM星人にできるだけゲーム用語を使わないよう指導している。
彼らは何らかの洗脳を受けており、社会復帰をするための土台作りとして使う言葉から変えていきたいらしい。
ワーカーという分類もその一つ。生産職というシステムにより付与されるジョブではなく、舗装工事に従事するものであればヒーラーだろうが人間爆弾だろうが分け隔てなくワーカーと呼ぶ。
俺もワーカーだ。
監視員の役目だから仕方なくメガロッパたちに付いて行ったけど、俺は誰かをサポートしたり何かを作ったりしているほうが性格的に向いている。
現場で指揮をとっているのは地球防衛隊の隊員だが、ヒラの隊員はDM星人と言葉を交わすことを禁じられている。情報漏洩を防ぐ意味があるのだろうが、もっとも警戒しているのは仲良くなってしまうことなのではないか。
DM星人は男女ともに「あまり自覚はないが実は容姿端麗」というラノベじみた特性を持つ。本体はそんなでもないし、自作した美貌を鼻にかけるのは難しい。こればかりは性格がどうこうではなかった。
とにかく現場監督の宇宙服は喋れない。上からそう命じられている。ならば俺らが何とかするしかない。宇宙服が持参したノーパソには3Dモデリングした施工図が映っている。俺らはそれを覗き込む。文字でのやり取りも禁止されているらしく、色を塗ったり拡大図をグリグリ回したりして俺らに何をやって欲しいのか伝えてくる。俺らは別にプロの業者とかではないので、工事を進めると粗い部分が出てくるのだ。あまりに細かい作業は他の宇宙服が出てきてカンカン手直しする。
舗装工事はエンフレとクラフト技能の両輪だ。
重機を入れるよりエンフレを足場に作業したほうが早い。なんならエンフレにガッチャンコさせてしまえば良い。この手の作業は俺らは慣れっこだ。モグラ帝国の築城よりよほど単純だ。面倒なのはキリがないってことか。せっかく舗装してもモグラさんがあちこちに穴を空けるからなぁ。
あとエンフレの制御に難がある。エンフレは戦うことしか能がないデカブツだ。自然と欲求が戦闘に向くので人格を保てなくなる。
要するに、急に、
【下等なニンゲンごときが、この俺を……】
とか言い出すのである。
呼応した別の粗大ゴミが因縁の対決に乗り出すと面倒なので、俺は素早くガラガラを鳴らす。
エンフレの荒ぶる魂を鎮めるには原始の記憶に呼び掛けるのが一番良い。つまり赤ちゃんプレイだ。
こんなこともあろうかと俺は女キャラに化けてある。
おらー! ママの言うことを聞くんだよォー!
【ママ! ママー!】
粗大ゴミは肥大する自我の制御に手こずっている。
ゴミの悲鳴が上がる。
「モグラだ! モグラが出たぞー!」
せっかく舗装した壁を突き破ったモグラさんが、近くで立ちすくんでいるゴミの顔面を鷲掴みにして地中に引きずり込んでいく。
あれをやられるとDM星人はマズい。食べ残した部位を回収できるかどうかに懸かってくる。
舗装工事の性質上、壁の近くを歩くなというのは無理だ。エンフレが作業している横で振動を察知することも困難。
比較的、近くに居たワーカーが駆け付けて剣を抜く。せめて攫われる前にと振るった刃が空を切る。
「ちっ……! 取り返しに行く! 魔法使いとヒーラーも来てくれ! あと〜」
俺。
俺はゴミが言いたいことを察してちょこっと手を上げた。
地中のモグラさんを無理に追うと周囲の土砂が崩れてきて生き埋めになる。舗装しているヒマがない時は園芸スキルの出番になる。
俺のジョブはグリーンマン。ファーマーの四次職だ。【楽園追放】の二段階目を使える。
「ほ、他に居ねぇか……?」
何でだよ。俺に任せろって。悪いようにはしねーから。おら、さっさと行け。時間との戦いだぞ。ミイラ取りがミイラになりかねんが……なに、その時はその時だ。
尻込みしているゴミくんに俺はニコッと笑った。
安心しろ。俺は優しいから見捨てないぜ。お前も監視員にならないか?
これは、とあるVRMMOの物語
上弦の監視員……。
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