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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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地球編、第三章。僕らの星。完結

 11月。世界各地に飛来した地球外生物を地球防衛隊は「怪獣」と呼称。同月、怪獣が潜航した地下道を「ダンジョン」と呼び、これの攻略に当たることを発表した。

 同年、12月。ダンジョンの舗装工事を開始。怪獣を追って地球に飛来した地球外知的生命体「ゲスト」との接触を公表。ゲストを舗装工事に投入。並行してダンジョン攻略を開始……。


 舗装工事とは言うが、怪獣が掘った穴をそのまま利用できるケースは稀だ。人員と装備の投入、導線の確保、都市機能の維持、スポンサーの意向……様々な問題があり、ほとんどの場合こちらで都合の良い出入り口を設けることになる。突入口をダンジョンに接続、崩落を避けるためダンジョン内を舗装しながら内部を進んでいく。

 ダンジョン攻略の目的は最深部に潜伏していると思しきゲストの特殊個体、通称「十三氏族」の討伐だ。

 ダンジョンに出没するモグラ型の小型怪獣は脅威だが、銃火器を使えば十分に対抗できる。ただし地球防衛隊と協力関係にあるゲストの一団に兵装を供与することは大きな問題があった。何が問題なのかと言えば全てだ。予算が足りない、法律が許さない、信用ができない、地形条件に適していない。

 とはいえ、十三氏族の討伐は急務だ。いや、本音を言えば捕縛を期待している。地球外知的生命体との接触は地球人類の悲願だ。協力関係にあるゲストの一団は地球人を自称するだけあって、先進的な知識を何一つ持たない。そのくせ、魔法じみた能力や巨大化に加え、不死身とも言える特性を持っており……そして今一つ積極性に欠けていた。何しろ地球人を自認する集団であるから、特に敵愾心を持たず、命令すれば文句を言いながらも従う。

 つまるところ……肉壁にこの上なく適していたのである。



 1.東京駅地下-総武線ダンジョン


「私たち、そんなに怪しいですかね……?」


 ゲストの少女が不満げに唇を尖らせ、そう呟いた。

 死んでも惜しくない駒と言えば語弊があるものの、ゲストはあらゆる面においてダンジョン攻略に適した人材であった。何より素晴らしいのは法的に「人」に分類されるか怪しい点で、彼らの証言を信用するのであれば倫理的な問題をほぼ全てクリアできるのだ。

 彼らの肉体はフェイクやダミーであり、思考操作で動くアバターなのだという。

 だから死ぬことをまったく恐れないし、戦闘行為そのものが遊戯の域を出るものではない。

 むしろ彼らはこう言うのだ。こちらの住人が戦闘に参加するのは精神衛生上よろしくない、と。それでいて自衛隊や軍隊がダンジョン攻略を担当しないのは気に入らないようだ。いや、出て来られたら出て来られたで、それはそれで困るのだが……というようなあいまいな態度を見せる。

 

 自認地球人のゲストである彼女らを、便宜上「DM星人」と呼ぶ。

 DM星人は美しい容姿をしたものが多い。

 パーティーの先頭を行く少女も例外ではなかった。

 艶やかな長い髪。ダンジョン内を行き交う微風に目元まで伸びる前髪がさらりと揺れ、髪の隙間から左右で異なる色彩の瞳が覗く。

 彼女の名前はメガロッパという。クラン【敗残兵】に所属する腕利きのアタッカーだ。

 一見すると華奢な少女で、俯き加減で喋る仕草やトボトボと歩く癖が可憐ですらある。

 DM星人には大なり小なりそういうところがあった。地球人であれば将来を嘱望されるほどの美貌を持ちながら、どこかネガティブなメンタルをしている。

 DM星人の扱いに不満を漏らしたメガロッパに、やや遅れて歩く男性が「意外な」というように片眉を上げて応じる。


「そりゃーな。つか、オメェー……納得してなかったのか? 俺ぁ〜てっきりオメェーがこうなるよう仕向けたのかと思ってたぜ」


 DM星人の男性は荒れた口調で話す人物が多い。それは一種の流行のようなもので、己の品位を貶めることで安心を得る……といった心理状態らしい。過去に何か悲しいことでもあったのだろうか?

 彼はアオ。通り名のようなものらしい。DM星人は本名を名乗りたがらないものが多い。それは然るべき場面で偽名を使ったほうが何かと便利で、例えるとすれば常用するパスワードを二つか三つ用意し、使い分けることと似ている。


「納得してますよ。そういうことを言いたいんじゃなくて……」


 メガロッパは言葉を濁した。察しろと言うようにチラリと視線を後方に振る。

 彼女の意図を読み取れずアオは首を傾げるが、二人から少し離れて壁際を歩く女性は察しが良かった。


「アオはニブいな〜。メガロッパちゃんは話を聞いて欲しい人が居るんだよ」


 アオも察した。


「ああ……そういうことか。下らねぇ……。もうちょっと真面目にやれねぇのか?」


 とんだ濡れ衣にメガロッパが赤面して怒鳴る。


「そっちの話じゃないっ! 『五人目』のことッ!」


 壁際を歩く女性がころころと笑う。


「あはは。違った? ごめ〜ん」


 ちっとも悪びれた様子がない。分かっていて、わざと間違えてからかっているのだ。

 彼女はミドリ。とろんとした眠たげな目が特徴的な女性だ。気怠げな口調も相まって無気力な印象を受けるが、女性的な所作は洗練されており、情欲をかき立てるような妖しい魅力がある。


 剣士のメガロッパ、斧使いのアオ、槍使いのミドリ。アタッカーが三人。

 お世辞にもバランスが良いパーティーとは言えないが、戦力としては過剰だった。いずれもDM星人でトップ50に数えられるレベルのアタッカーだ。DM星人全体で最強のアタッカーを決める大会があったとして、そのトーナメントに名を連ねる実力がある。

 そうしたレベルの強者が三名。実験的な意味合いが濃く、おそらく二度と見ることは叶わないだろうマッチングだ。そのことは本人たちも分かっているのだろう。今この時を惜しむような雰囲気があった。

 メガロッパを先頭に、舗装されたダンジョンを進んでいく。一定間隔で設置された照明が人数分の影法師を足元に落としていた。

 地下通路の問題点は四つ。地熱、圧力、ガス、地下水だ。これらの問題を、DM星人たちは魔法じみた能力と巨大化による労働力で強引にクリアしている。突貫工事で撒かれた砂利が、一歩進むごとに決して小さくない音を立てる。アスファルトで舗装するという案も出たのだが、DM星人は繊細な作業が苦手だった。

 内部の通路は広い。巨人が四つん這いになって通れる広さ。これをDM星人のワーカー……舗装工事を担当するメンバーたちは「ハイハイ寸法」もしくは「ハイハイメートル法」と呼んでいる。

 舗装工事の指揮をとる地球防衛隊は、ダンジョン攻略において忍び込むことを放棄している。

 アオは恋愛話が苦手だ。建設的な話し合いをしたいという生来の生真面目さもあり、パーティーの編成について愚痴をこぼす。


「五人目か。フン。引っ込んでりゃーいいんだよ。あの宇宙服ども、何がしてーのか俺にはイマイチ分かんねえ」


「……ええ。十三氏族との対話を望んでいるようですが、それは表向きの理由かも。手段を選びすぎている」


「え? どういうこと? 教えて〜。メガロッパちゃん」


 首を傾げて甘えた声をあげるミドリ。彼女にとって会話の内容はさほど重要なことではない。興味があるのはメガロッパという人間そのものだ。

 一方、メガロッパは美女に頼られて満更悪い気分でもない。この日のミドリはグレーの制服と似た格好をしており、一歩間違えばコスプレと捉えられかねない装いを上品かつ器用に着こなしていた。そういうことをされるとメガロッパは焦るのだ。

 DM星人が「本体」と自認する身体は別にある。そちらの身体は地球人と同様の形式をとるようで、容姿の面で言えば、アバターと比べて少々…………といったデリケートな事情があるそうだ。

 メガロッパも胸に事情を秘める乙女の一人。見目麗しいアバターに意識を移せば、男子の羨望の眼差しに仄かな優越感を抱いてしまう。それはきっと罪ではない。

 地球防衛隊はDM星人の言い分に懐疑的だ。

 VRMMOという罠。

 なりたい自分になれるという娯楽は人を操るのに最適で、身を焦がすようなコンプレックスを一時、忘れることができるだろう。しかしそれは一過性のゲーム体験であるに過ぎず、ゆえに満たされることはなく、心は渇き、飢えている。

 メガロッパの裡に生じた焦燥感はそうした心理に根ざしている。なりたい自分は勇気をくれる。思いきって履いてみたミニスカート。ホントは気にしてる? あの子のこと。ねえ、教えて。あんなオシャレ、私は知らない。誰に教えて貰ったの? 少し前の私。鏡の前でハシャいでたの。バカみたい。

【目抜き梟】クリスマスライブで発表予定の新曲だ。

 それはそうとして、メガロッパはオタクが好きそうな服を着ていた。そこら辺の服屋でテキトーに買いましたと言わんばかりのテキトーな英語とロゴがプリントされたトレーナーでサバサバ系女子を演出。安っぽいショートパンツでストーリーを補強している。アバターに視力の矯正は必要なく、ファッション色があまりに強すぎるという事情がなければメガネを掛けて、ちょっとそこのコンビニまで感をより強調していたに違いない。

 都会的であるハズのオシャレに興味ありません感が、ミドリの無邪気とさえ言える暴虐な着こなしを前にして虚飾が剥げ落ちていくかのようだ。負け犬、みじめな女……。

 だからといって今更になって退くことはできない。女のプライド。メガロッパは別に寒くもないのにトレーナーの袖に手を隠し……萌え袖……足を止めることなく思案顔でゆるく腕組みした。


「ダンジョンは世界中にあるんです。これは早いもの勝ちの競争なんですよ、本来は。仮に地球防衛隊が一国に縛られない国際機関だったとしても出資元の意向は無視できません。早急に成果を出すよう要求されているハズ……。なのに、こうして私たちに攻略を委ねている。何か別の目的があるとしか……」


 水面下で火花を散らす女の戦いに、アオだけが取り残されている。


「ギルドかもな。どこの誰とは言わねーが……。居るだろ、なりかけのヤツが」


 え?と目を丸くして振り返るメガロッパとミドリに、それほど意外なことを言ったつもりのないアオは動揺した。女はニガテだ。余計なことを考えず、シンプルにまっすぐ生きたい。それだけのことなのに、どうにも本能ってのは厄介で、引き止めてくるたおやかな腕を拒みきれない。ミドリのぽかんと開いた唇の赤さや、メガロッパの普段は前髪に隠れているぱっちりとした目。アオはとっさに顔を背け、異性の前で少し張り切っている己を悟られぬよう虚勢を張った。


「ハッ! 人間ッてのは時々辞めたくなる。珍しいこっちゃねぇ。俺もそうさ。誰だってそーだろ」


 付き合いだけは長いミドリが「おやおや?」という顔をする。アオとは何をするにも一緒で、もはや何の興味も湧かないのだが、たまに面白くなることがある。メガロッパか。急に味方みたいになって。接し方が分からず。不器用マンにクラスチェンジしたのか。これは、からかうしかない。無駄にするな。

 一種の義務感に駆られ、行動に移そうとしたところでミドリはハッとした。彼女が壁際を歩いていたのは、索敵の役割分担によるものだ。他の二人に声は掛けない。敵は格上。先手を取りたい。腕に絡めて持っていた槍を頭上に掲げ、くるりくるりと踊るように助走に入る。

 他二人も臨戦態勢をとる。敵が来る。ミドリが逸早く察知したのは壁を伝う振動によるものだろう。モグラ型の小型怪獣は地中を掘り進む。

 通路を囲う半円筒状の天井と壁。砂利道は足場としていささか心許ない。強く踏み込んだ時にぶつけた力が分散してしまう。走るぶんには……まぁ許容範囲か。

 アオがニヤッと笑い、背に回したベルト式の固定具から斧を外した。斧を肩に担ぎ、ミドリに合わせて迂回していく。

 アオとミドリは同じ人物に仕え、常日頃より行動を共にする熟練コンビだ。

 二人に合わせる。メガロッパが腰の剣を鞘ごと引き下げ、鯉口を切る。すらりと剣を抜き、そろりと歩を進める。

 今更、ミドリについてどうこう言うつもりにはならないが……。メガロッパの剣幕に、アオがヒュウと口笛を吹く。

 余計な音を立てるな。メガロッパがチッと強く舌打ち。アオはニヤニヤしている。


 DM星人にとって戦闘は遊戯の域を出ない。

 スタイルは人それぞれだ。遊びだからと手を抜くのは許せないもの、遊びだから盛り上げたいもの。

 生くるは華、散るも桜、咲く血肉は誉れ。

 とうてい現代人の価値観ではない。

 地球防衛隊がDM星人を地球人と認めない最大の理由がそれだった。

 

 強い振動が辺り一帯を駆け抜ける。足元の砂利がパチパチと弾け、天井からパラパラと粉塵が落ちる。ドンと再度の強い揺れ。壁に亀裂が走る。亀裂がたちまち広がり、次の瞬間には決壊した。壁を突き破って巨体がまろび出る。

 モグラ型の小型怪獣。

 DM星人の証言より、地球に飛来したモグラ型の怪獣は幼体のようなものだと判明している。

 そうした経緯で「小型怪獣」と分類したものの……この巨軀。

 壁を破った勢いが余ってつんのめり、上体を屈めていたモグラ型がぶるりと身震いした。自慢の毛皮を汚す粉塵を振り落とし、つぶらな目をぱちりと瞬かせる。鼻をひくひくと鳴らし、ソッとこちらを振り向く。


「お、お、お……!」


 アオは興奮した。全身に鳥肌が立つ。

 今回のように地球防衛隊の要請により組まれた戦隊を「指定パーティー」という。

 指定パーティーに課される任務は例外なく困難なものとなる。

 この三人なら指揮をとるのはメガロッパだ。チラと肩越しに振り返り、後方を確認した。

 モグラ型が巨体を揺さぶり、ぬうっと後ろ足で立ち上がる。だらりと垂れた両腕の先端には異様に発達した爪が具わっている。

 体長は2メートルを下るまい。地球上に生息する大型の肉食獣には体長3メートルを越す種も居る。しかしモグラ型の膂力はそれらを優に上回るだろう。生物としての成り立ちが違う。違いすぎる。

 この怪獣をDM星人は「魔物」と呼ぶ。

 魔物の定義は生物の限界を越えた種だ。

 DM星人が敵視するタコ型ゲストも魔物の定義に当て嵌まる。

 メガロッパがウンと頷き、正面に視線を戻す。オーダーを発令する。


「限界調査を開始。攻撃性スキルの使用は禁じます。標的はモグラ型。近接戦闘にて討伐します。アクション!」


「その掛け声、やめねーか……?」


 引き下がるメガロッパを追い抜いてアオが前に出る。


「うるさい!」


 メガロッパが一喝。スマイルの手下はカッコつけだ……。

 彼女はもる語パーティーの信奉者だった。もる語を使えれば早いのに使えないヤツが文句を言うなという思いがあった。


「行っくよー!」


 ミドリが跳ぶ。槍を振り回し、その遠心力を利用して跳んだ。低く長い跳躍。ミドリの輪郭がぶれ、二重、三重の残像が尾を引く。

 スライドリード。

 DM星人が持つスキルは、地球人のそれとはまったく異なる。

 ミドリが地面スレスレを滑空していく。地に触れるか触れないかの着地。直後にまた跳ねる。二度の跳躍で通路を横断し、壁を蹴ってモグラ型に槍で攻撃。止まらない。ゴムまりのようにあちこちを跳ね回り、モグラ型に斬撃を浴びせていく。

 メガロッパが瞠目する。これがミドリの戦い方か……!

 速いだけじゃない。緩急。泳ぐように宙を駆ける。スラリーの使い方がうまい。遊びが多すぎるような気もするが、それだけに動きが読みにくく、撹乱には向いているかもしれない。欠点は斬撃が浅いことか。

 モグラ型の全身を覆う被毛は硬く、刃が通らない。例えるならプラスチックを無理にハサミで切る感触に近い。ミドリが全速力で刺突を浴びせれば大ダメージを期待できるが、まず貫通することはない。足が止まってしまう。捕まったらおしまいだ。

 怪獣は学習する。素早く動き回る相手を最初は警戒しても、同じ攻撃を繰り返せば、それほど怖くないと理解して大胆になっていく。

 しかしミドリには相棒のアオが居る。


「分かるぜ。女じゃダメなんだろ……? ビビっと来ねぇよな」


 ミドリが幻惑し、アオが死線を潜る。それがこのコンビだ。

 モグラ型の剛腕を掻い潜ってアオが斧を跳ね上げる。一歩間違えば死ぬ。そのヒリつきが堪らない。小技は要らない。全力で斧を叩き付ける。刃が通らない。信じ難い手応え。とても生物のものとは思えない。これで眷属だッてンだからな……。

 アオの表情が恍惚としていく。

 至近距離の攻防。スライドリードの扱いに熟達したDM星人は息が掛かるほど密着した間合いから強く鋭い斬撃を繰り出せる。

 モグラ型は纏わり付いてくるアオを嫌がっている。アオの連続攻撃。肩と足に裂傷を負っている。直撃は受けていない。掠ってすらいない。嫌がるモグラ型の前足がアオに触れて、その拍子に爪が当たったのだ。

 隔絶したフィジカル差があった。

 モグラ型は気付いていないようだが、DM星人は爪で引っ掻かれただけで死ぬ。

 怪獣はDM星人の脆さや非力さを想定できない。野生の勘で、そのような生き物が絶滅を免れることはできないと知っているのだ。

 だがDM星人は自認地球人であり、彼らの証言を信用するなら怪獣とは別の惑星で生まれた種族だ。

 頭上から急降下したミドリの刺突。

 アオがモグラ型の背後をとった。全身に力を込めてモグラ型に組み付く。


「イクぜ……」


 モグラ型がのけ反る。

 メガロッパが跳んだ。嬌声を上げて加速する。スライドリードの二段階目。少女の肢体を稲妻が迸る。

 DM星人のスキルは四つの段階を持つ。

 両足を揃えて畳み、空中で逆さまになる。モグラ型の頭上をとる。常軌を逸した動きにモグラ型は反応できない。メガロッパが手を大きく振って慣性をねじる。とんぼを切って着地した。繰り出した斬撃は五つ。

 あまりに速すぎた。

 これを見て、同じ人間と思えというのは無理かもしれない。

 強化魔法。スライドリードの極致。

 メガロッパが手に持つ剣に視線を落とす。

 鍛え抜かれた刀身はヒビ一つない。

 どくっ、とモグラ型の巨体から赤黒い液体が盛り上がり、垂れ落ちていく。粘度を帯びたそれはタタッと砂利に跳ね、赤黒い染みを作った。

 血だ。

 メガロッパの剣がモンスターの毛皮を裂き、肉を抉った。

 ノーマルモードのモンスターに、種族人間がついに追い付いた。


 生命の危機に直面したモグラさんが咆哮を上げる。


 Zoooooooooooooooooooooooooo


 メガロッパがガクリと膝を折る。負荷が大きすぎた。脆い種族人間を切るのとは訳が違う。ごぷっと吐血。内臓を痛めたか。強化魔法はスラリーの解釈を広げたもので、五体を一体とすることが肝要らしい。ならば抱えきれない反動は内臓に行く。

 モグラ型が振り返って、自分に痛手を負わせた小さな生き物へと前足を伸ばす。己の正しさは証明された。どんなに弱そうな生き物だろうと死んでいないからにはそれなりの理由がある。ひどくまずそうな生き物だが、コレは食べる価値がある。

 全身汗だくのアオがバッと這い上がり、手足を総動員してモグラ型の首を絞める。

 指名を受けるほどのアタッカーならば強化魔法は使えて当然。アオも使っていた。代償は大きい。メガロッパと同じだ。怪獣の肉と骨は信じ難い強度をしている。それを叩き続ければ人間は無事では済まない。

 モグラ型は首を絞められてもびくともしない。血の、肉の、骨の構成素材そのものが地球上の生物とは違う。

 ミドリが動けないメガロッパを庇う。戦闘能力が残されているのは彼女だけだ。

 メガロッパが口からボトボトと血を垂らしながら掠れた声で命じる。


「戦、え……」


 ミドリは従わない。撤退を選択。アオを見捨て、メガロッパを背に抱える。

 モグラ型はメガロッパに執着している。

 逃走するミドリに一瞬で追い付いて回り込んだ。

 怪獣は鈍重な印象を受けるが、DM星人よりも速く動ける。筋力の桁が違うのだ。つい先程までは速く走る必要性がなかった。今は違う。手負いのモグラ型は無駄な消耗を避けるだけの余裕がない。

『五人目』が発砲。

 地球防衛隊は怪獣に対して銃火器が有効であることを認めたが、DM星人に兵装を供与することを拒んだ。不死身の兵の生還率を気にしても大した意味がなく、ゲーム感覚で生きているDM星人の倫理観は信用に値しなかった。

 だから地球防衛隊はDM星人よりは幾分マシな民間人に特殊な兵装を与え、ダンジョン攻略に送り込んだ。

 それが五人目のパーティーメンバー。

 顔はおろか名も知らない狙撃手だ。

 怪獣を撃破するためにはDM星人を矢面に立たせて、ライフルで狙撃するのが最適解だった。

 音速を優に越える弾丸がモグラ型の頭部に着弾。大きくのけ反ったモグラ型がグラリと一度大きく揺れ、どうと倒れ伏す。

 ……甘い。

 ミドリの背でメガロッパが鮮血を撒き散らしながら死力を尽くして叫ぶ。


「逃げろっ! 生き、てるッ!」


 モグラ型がむくりと起き上がる。

 やはり届くのか。

 ラストオーダーを確認。

 限界調査を達成。

 モグラ型がビクッとして弾けるように壁のほうを振り向く。


 地球防衛隊がメンバーを選定、指名する特殊な戦隊を指定パーティーと呼ぶ。

 指定パーティーが請け負うミッションは極めて重要なものであり、失敗は許されない。裏切り、敵前逃亡など以ての外だ。

 それゆえに指定パーティーは多くの場合、「監視員」と呼ばれるDM星人が隊長を務める。

 監視員に選ばれる条件は様々だが、特に重要視される条件が二つある。一つは類稀な能力を持つこと。地球防衛隊はまだ見ぬ才能を求めている。そしてもう一つの条件が……。

 地球防衛隊に忠誠を誓うことである。


 モグラ型が熱い視線を注ぐ先……。

 一人の男が壁に背を預けて立っている。

 溜息を一つ。経過を書き留めていたメモ帳をパタっと閉じて言った。


「仕留める自信がないなら、撃つな」


 そう、俺である。


 宇宙飛行士の皆さんにダメ星人どもの情報をリークした俺は監視員へと昇格していた。今や地球防衛隊の一員と言っても過言ではあるまい。

 唸り声を上げてのしのしと迫ってくるモグラさんに、こちらもズイと踏み出し、二十の金属片を宙に浮かべる。片目をギルド化。分割された視界にモグラさんの毛深い胸板、自然が育んだ逞しい臀部と四肢、惚れ惚れするような肉体が映し出される。

 どうせヤるなら万全な状態のお前さんとヤりたかったが……。悪く思うな。俺も上に命じられててな。

 モグラさんがダッと地を蹴って駆け出す。

 俺は半身を機械化した。

 アナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【警告】

【強制執行】

【僕らの星】


【勝利条件が追加されました】

【勝利条件:グリーンマンの殺害】

【制限時間:00.00】

【目標……】


【グリーンマン】【コタタマ】【Level:10】


 俺が自分の意思で強制執行を発動した。

 ギルド化が進んだ俺は強制執行を無視できる。

 ラストオーダーが入ったモグラさんをフルパワーで確実に仕留める。

 それがかつての好敵手へ手向ける最後の礼儀だと思ったから。

 俺は雄叫びを上げて怪鳥のように飛び上がった!




 これは、とあるVRMMOの物語

 コタタマの戦いは始まったばかり……!



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
そういえば、地球には女神像、あるんですかねぇ?
いつも通り泳がされてるんだろうなぁ
そう。俺である
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