地球防衛隊
1.地球-DM星人の収容所-居間
なんでダンジョンに入った?
「……ヒマだったから……」
そんなH×Hの念能力で条件を満たしたみたいな言い分……。
ビッグ丸太小屋で暫定リアルの人たちと面談している。モグラさんが掘った穴に勝手に突入した人たちだ。すぐさまゴミくんたちに命じて連れ戻したから良かったものの……信じられないほど危機感が欠如している。一体コイツらは何を考えているのか……。
いっそ警察に通報して身柄を委ねたかったが、前回の遠征で俺らは自分たちが警察に頼れる立場ではないことを知った。身分証明ができない。自分が何者であるかをうまく説明できない。この世界での過去が無く、所属も無い。それは恐ろしく無力なことで、信用を得るのがひどく難しい。
まずもって真面目に取り合ってくれない。「で、オタクはどこの誰なの?」の質問を突破できない。
俺らがこっちの世界で頼れるのは宇宙飛行士の人たちだけ。街中で会ったらスマホで写真を撮ってSNSに投稿して軽くバズる……そういった怪しいコスプレ集団にしか俺らは頼ることができない。
一方で俺はこう思うのだ。
この世界の人間は何かがおかしい。ここを見誤ると………………負ける。
俺の尋問めいた質問責めに女子高生は徐々に態度を硬化していく。世代をまたぐたびに子どもはどんどん小賢しくなっていく。高校生なら一般人が警察の真似事をすることに法的な問題があることくらいは知っているかもしれない。
「……私、ビビッてないスよ」
何を……何を言ってるの? さっきからずっと。
尋問は彼女で11人目だ。ダンジョンに身を投じた理由は人それぞれだが……共通して言えるのが、どいつもこいつも生き様が苛烈すぎる。警察に通報して終わりだろう、あんなのは普通。
……俺はビビッてるよ。君、俺が変身したトコを見てたよな? その強気の理由は何だ?
尋問はコイツで最後だ。こっちの手札はなるべく伏せておきたいが、宇宙服を着た胡散臭い連中が今頃こちらへ向かっているハズだ。エンフレを出しておいて潜伏も何もない。
俺は女子高生の目の前で片手を機械化した。どれだけギルド化が進んでも本質的な部分は変わらない。機械化すれば骨は砕け肉は裂け血がボトボト垂れる。ちとショッキングな光景だが、俺も焦っている。トラウマにならないことを祈るばかりだ。何しろ俺は……この世界の存在に必然性を見出せない。
リアルとよく似たつまらない世界。もしも俺が開発者なら、もっと面白い世界にする。例えば……そう、「上」の世界のような。
作り物めいているのは、どちらかと言えば俺たちのほうなのだ。
俺は機械化した手からボトボトと血を垂らしながら言った。
俺の本性はアッチのほうでな。中身はこの通り。真っ当な生きモンとは言えねえ。使い捨てのカラダさ。まぁ細かい説明は省くが……ほぼ不死身だ。そんな俺らですら死ぬことには抵抗があるぜ。なのに、お前らは……たった一つしかねぇ命を随分と粗末に扱うんだナ? 俺は疑ってるぞ……。お前、本当に人間か?
「……どうスかね」
……反応が薄すぎる。俺の血がドバドバ出ているのに大して気にしていない。日本人の高校生の反応か、これが……? それに、俺の言ったことは荒唐無稽だろうに、聞き返しもしない点が気に掛かる。予備知識もナシにすんなり飲み込める内容じゃないハズだ。
……前回の遠征で俺らは人前でスキルを使っている。死者を蘇生できるようなことも言った。俺が追放されたあと、エンフレで月に遠征したとも聞いている。ゴミがハシャぎそうなイベントだ。調子に乗ったゴミはまるで流しそうめんのように情報を漏らす……。チッ、誰だよゲロったの。始末書モンだろ。あーん?
このJKをどう騙くらかして口をパッカー割らせるか考えていると、居間のドアがバーンと開いてリチェットが早足で入ってきた。宇宙飛行士を連れている。気密性に優れた宇宙服を着ているせいで体格すら定かではないが女だ。腕を振らず、地を蹴り上げるつま先で身体を押し出すような歩き方。体幹のブレが不自然に少ない。訓練か何かで矯正した痕跡だ。人間は普通に生きていたらこうならない。歪んで当然。そして矯正にも個人差は出る。隊長だな。俺の目を見くびるゴミは大抵ここでミスる。癖は消せない。ただ人間の身体は毎秒毎時同じように動けるように出来ていないので、厄介なのはむしろ中央値や平均値を意識するピエッタのようなプレイヤーなのだ。特殊な訓練を積んだ人間はむしろ「外れ値」になるので見分けやすい。
隊長を引き連れたリチェットが俺の前で立ち止まり、バッと片手を突き出す。ンだよ、ウゼーな。パンツ覗くぞ。内心そんなことを考えつつ、俺は顔を上げた。リチェットが俺に突き付けたのは一枚の紙キレで、そこには『反省文』とあった。
「反省文を書けー!」
俺がッ!?
少し間を置いてサトゥ氏が居間に入ってくる。すでに反省済みらしく、首に札をぶら提げており、そこには『私は月を割ろうとしました』とある。
俺と目が合ってサトゥ氏はニッと不敵に笑った。
……ハァ?
俺はいったん不満げに首を傾げたものの、心当たりはバッチリあった。前回の遠征で俺は色々あって母星に出禁を食らっている。反省文だ? 書こうと思えば幾らでも書けるが、舐められるのは良くない。俺は渋面を作り、ひっくり返した手のひらをリチェットに向ける。
なぁ、リチェット。お前の言いたいことは分かるよ。けどな、よーく考えろ? お前らは俺ナシでやっていけるのか? え? どうなんだよ? 定型文でしか会話できねぇネトゲーマーがよォー!
リチェットさんがいつも腰に吊っている金棒を手に取る。俺は頭を下げて謝罪した。スンマセン。書きます。
そして内心で付け加えた。調子に乗るなよ。以前の俺とは違う。オメェーじゃ今の俺には勝てねーよ。
だがリチェットはウチの子たちと友誼を結んでおり、この女の不興を買うと俺は困ったことになる。それは強いとか弱いとかいう低次元な問題ではなく、つまり賢い俺はリスクを避ける選択をすることができるので偉い。
俺は反省文を書くのが得意だ。俺の人生は失敗ばかりだし、楽に生きようとしているので反省など幾らでもできる。なんなら規定の文字数に収めるために書く内容を削る必要すらあった。俺くらいになると反省文は起こったこと、事実の陳列から入る。フン……誠意ってのは単なる文章能力だからな。焼き土下座した利根川さんですら俺には反省の色は見えなかったぜ? 自分は悪くない。それだけだ。付け加えるなら……プライドか。カイジね。
俺は頭の中で文章を組み立ててサラサラと反省文を書いていく。
従順な態度を示す俺にリチェットさんはご満悦。偉そうに腕組みなどして、宇宙飛行士の親玉を振り返る。
「な? コイツは女子供に甘い。特に子供だな。コイツがガチギレするのはいつも子供絡みだ。それだけにロリコン疑惑は拭えないが、そこはもうある程度、信用して任せるしかないからな」
俺はビタッと2秒停止してから反省文の筆記に戻った。
俺はたぶん法律上許されるならロリコンになれる。そういう人間だ。
つい先ほどまで俺の尋問を受けていた女子高生はリチェットと宇宙飛行士が気になるようだ。高速で仕上がっていく俺の反省文を覗き込みつつ、チラチラと後ろを気にしている。
隊長が女子高生の背後に立ち、分厚いグローブに覆われた手をポンと彼女の肩に置く。上体をぐッと屈め、
「おおよその事情は把握しています。私に付いてきなさい。もしもあなたにやる気があるのなら」
……おい。待て。なんだそりゃ?
きびすを返し、立ち去ろうとしていた宇宙服の女が肩越しにこちらを振り返る。
「申し遅れました。私の一存では身分を明かすことができませんでした。ご理解ください」
宇宙服を着た連中がぞろぞろと居間に入ってくる。壁際に列を成して立つ。
隊長が言う。
「我々は地球防衛隊です。我々の目的は一つ。この星からゲストの脅威を取り除くこと」
意外な言葉だった。俺はこの女をョ%レ氏の協力者と見なしていた。しかしョ%レ氏はあの性格だ。敵味方が反転して見えるのはあり得るとも思った。
ゲスト? レ氏か? なら……。
「あなたもゲストだ。少なくとも、その尖兵に違いない。あなたは地球人ではない。DNAの一部が変異している。%細胞とやらを埋め込まれている。変異した遺伝子はおそらく異星人にとって有利に働くもの。あなたがよく口にする『翻訳機能』。その働きを補佐するものでしょう。いえ……あいまいな物言いはやめましょう。我々はこう考えています。他種族を守れ。あなたたちはエイリアンに利用されている。ゲームの住人だと、そう言えば許されると洗脳されている。そんなことを自分に言われてもと思っていますね? では、逆に聞きます。元来VRMMOとはそういうものではないですか? 擬似的な体験を得る為の技術だ。それを前提としたあなたの話を私がどういう気持ちで聞いていたか。想像できますか?」
できるね。簡単だ。残念ながら俺は話しながらずっとそういうふうに思ってた。俺の想像通り、あんたを説得するのは難しい。それだけだ。
「結構。意外と気が合うのかもしれない。交渉の余地はあると思っても?」
どうかな。こう考えてくれ。俺は口下手どもの最終点検装置だ。誰かが必要だと感じたら俺が出しゃばってくる。俺はお喋りが好きでね。極端な話……結論は出さなくていいと思ってる。
睨み合う俺と隊長をヨソに、リチェットが楽しそうに俺の首に木札を掛けてくる。
そこにはこうあった。
『私は裏切り者です』
裏切ってないよ。ギルドと裏で通じてた件でしょ? むしろ逆だから。逆よ、逆。長い目で見たらどうなのって話。
俺は自分がむしろ裏切られた側なのだと主張した。
これは、とあるVRMMOの物語
反省文自信ニキ。
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