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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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GunS Guilds Online「それは人の名である」

 1.バイオベースルート-逆路


 タイミングは完璧だった。

 十三氏族が攻めてくるとすれば、先陣を切るのは一部の暴走したアホだと思っていた。真面目に会議して「確実に」とか「慎重に」とか言っている優秀でリーダー格の宇宙人ですら内心ではゴミ星人をバカにしているだろう。

 そして、それは正しい。

 全宇宙でも上澄みのお偉い宇宙人様のご貴重なお時間を削るくらいならノープランでテキトーに攻め込んだほうがいい。勝率は決して悪くないハズだ。

 モグラ帝国とウサギ王国の戦争とサトゥ氏とスマイルくん対決。目立ちたがり屋の十三氏族にとっては絶好の機会だろう。だから罠を仕掛けた。

 十三氏族を暫定地球に落とし、ティナンから引き剥がしつつ、ハードモードの開放を狙う……。

 さすがはクリスピー。タイミングは完璧だ。俺のことをよく分かっている。

 大地の崩落に巻き込まれたゴミどもがバラバラと降ってくる。この非常時にもぐらっ鼻だのウサ耳だのを付けてチャラチャラ遊び呆けていたクズども。お前らは俺の役に立って死ね。

 ここまではいい。誤算はモグ公の乱入だ。モグラ星人だと? ふざけやがって……。

 惑星ティナンに降り注ぐ陽光が遠ざかっていく。

 宇宙空間に放り出された俺は、気を抜けば間抜けに回転し始めそうな身体を手足の動きでバランスを取りつつ、俺のプランを台無しにした赤毛の女を睨む。

 ウチのAI娘一号と似た髪をしているから少しは許してやるが……似ているのは髪だけだ。女性にしては背が高く、グラマラスな体型をしている。自信に満ちあふれた仕草。散見される生命力の発露は暴力的ですらあった。奇抜な服装……。

 その女を追い抜いてモグラ野郎どもが次々と落ちてくる。


 マールマールの眷属。

 種族人間の宿敵とも言えるMOB。

 ヤツらの何がそれほどまでに俺たちを苦しめたのかというと、それはパワーとタフネスだ。

 いずれも種族人間に欠けているもので、そのギャップを埋めることはついぞ叶わず……。

 ハードモードを開放する。その発想自体は良かった。天啓と言って良い。

 そして、このイレギュラーだ。モグラ星人の襲来。

 だが、いいぞ。ツイてる。モグラ星人の女は明らかにモンスターに対して何らかの干渉をした。そういうことができるプレイヤーが居る。条件は何だ? 女はマールマールに呼び掛けた。下知じゃない。

 俺はこう思ったね。

 レイド級に対する「個人的なお願い」なんじゃないか?

 それは「弱い」ぞ。義務じゃない。社会的な抑圧でもない。善意に頼る遣り方は弱い。ひどく不安定で、ちょっとした工夫で崩せる。

 俺はハードモードを開放すれば安心だと思っていたから、そうじゃないと分かった、これは朗報だ。アホな遣り方に頼る宇宙人が居て、しかもそいつは十三氏族だ。自信があるから、たぶん今後も同じことを繰り返す。


 惑星ティナンから暫定地球へと落ちていくルートは、感覚的に息ができる水中に近い。思ったより寒くないし、暑くもない。俺はろくに身動きが取れないが、廃人どもは多少動き回れるようだ。

 俺に追い付いてきたリチェットが俺の腕に手を添えて俯く。

 

「コタタマ。終わりだ。ステラは間に合わなかった。力と意思は分離できない……。レイド級は完全な獣じゃない。今からハードモードを開放したところで、もう……」


 まだ、だ! そりゃ時間の問題かもしれねーけどッ……! 俺らにはさぁ! 俺らみたいなゴミにも仲間は居るだろ! そいつらが俺らの知らないトコで動いてくれてるんだよ! なんも不思議なコトじゃないよな!? 世の中ってそうだろ!

 負け惜しみだった。

 フリオの兄貴だけじゃない。プフさんの身体を乗っ取ったポポロンも眷属を操っていた。そういうことができる宇宙人も居る。

 ならば、俺たちがやっているのは、そいつらの独壇場を作っただけ、ということになる。

 襲撃してきたのがモグラ星人だったのは単なる偶然じゃない。

 外から見ていたヤツらは俺たちが置かれた状況を冷たい目で見ていて、この世界のMOBの習性に逸早く気が付いていたのだ。そして利用した。

 レイド級が持つ固有スキルは強力で、大きなエネルギーを要する物理干渉系が多い。

 そうした固有スキルを持つものを、この宇宙では、七土とか五系とか十三氏族だのと呼ぶ。例外は居るだろうが……そう多くない。

 つまり十三氏族なら、惑星ティナンのモンスターを操れても何ら不思議ではないのだ。

 ハードモードを開放しても、強化されたモンスターを操られたら意味がない。

 ……いや、意味はある。ノーマルモードの開放で、ティナンはいよいよ手が付けられない怪物と化した。これは相性の問題だ。しかしハードモードのティナンは、おそらく……変身した七土に迫る。おいそれと手出しできなくなるハズだ。


 変身……。十三氏族の女。ヤツも、きっと。


 俺はリチェットの手に自分の手を重ねた。大丈夫と言ってやりたかったが、あえて大丈夫だと態度で示した。リチェットにはこういうのが効く。言葉にしなくても伝わるみたいな、そういうヤツだ。

 リチェットがパッと顔を上げてフフリと笑う。


「だよなっ。私もちょっと行ってくる!」


 ……その、たまにやる、俺にちょっと真面目に答えさせといて「だよなっ」ってヤツはナニ? 何なの? 何を目的として……あっ、おい待て! ちっ、あのアマ……!

 リチェットは俺の言葉を無視して遠ざかって行った。謎のワザで落下速度をゆるめて……いや、スラリーか。スラリーを使っている。

 標的はモグラ星人の女だ。十三氏族とヤり合う機会なんてそうそうあるもんじゃない。……俺は割とよくその手の連中と出くわすけどな。半グレ的な宇宙人とツルんでバットで自販ブッ叩いてたら通りすがりのクソガキが七土種族でイキり散らかした挙句にボロカスにされてバカ煽られるとかサザエさんで言う三本立ての二本目くらいの感じだったぞ。

 しかしメスガキに念力をブチ込まれて脳みそザコ扱いされたりするのは俺の体感ほど世間一般では頻繁に起こることではないのかもしれない。十三氏族との出会いに興奮した廃人たちが気炎を吐く。

 

「女かっ」

「答えろ! 強い男が欲しいと言ったら!?」


 差し込む陽光と宇宙の凍て付く黒色空間の狭間にあって、スラリーの灯火が尾を引き、この世のものとは思えない光景だ。

 刃と爪の交錯。

 この場に居るのは種族人間においては上澄みの集団だ。すれ違うたびに、それらがひどく呆気なく切り裂かれていく。

 ……残酷な事実の一つとして、身体能力と技量は正比例の関係にある。高く跳べること、速く走れること。それらは選択肢を増やし、戦術の幅を広げる。往々にして、強い宇宙人は俺らよりも器用で、より精密に動く。

 モグラ女がキャハハと笑う。


「私が一等賞だ! ダメ星人!」


 ダメ星人って言うな。

 廃人も笑う。


「分からんヤツめ! 男がいいと言ってるんだ!」


 執拗に男を求めるのは相手が男なら余計なことを考えずに済むからだ。男に生まれた以上、どうしても女性の目を意識してしまう。そうした本能は生まれ持ったもので、廃人の理屈で言う「初期装備」だ。しかも武器、防具屋では買えない。売り飛ばして路銀にしたいが、貴重さゆえに保管してしまう。

 モグラ女は爪で応戦する。生来のものを人工物でコーティングしているように見える。

 奇抜な服装。細長い手足を惜しげもなく晒し、手首と足首にモコモコしたファー付きのカバーを巻いている。両足を折り畳んで宙返りする姿はパンチラ殺法に通じる部分があった。

 サトゥ氏とスマイルの二人掛かりで挑んでも容易く蹴散らされる。アオやミドリ、メガロッパやハチ、名だたる廃人が加勢しても同じことだった。


 十三氏族は「血」ではなく「名」の繋がりだ。

 地球人がそうであるように、大抵の宇宙人は運動能力や知能、体質に個人差がある。中でも上澄みと言われるような実力者を掻き集めて婚姻や養子縁組で形成された集団。それが十三氏族だ。

 名を重んじる彼らは過激で孤立しがちな傾向にある。その辺はもちろん人によるが……十三氏族というだけで敬遠されているのが実情だ。

 つまり、あの女はモグラ星人の英雄的な人物ということになる。

 あとから落ちてきた幾ばくかのゴミがエンフレを出した。襲いくる巨腕をモグラ女がひらりと躱す。スラリー……。スキルコピー、スキルドレインは地球人の専売特許じゃない。むしろ十三氏族ならば戦闘向きのスキルを多数持っているほうが自然だ。

 敵対関係にあるエンフレですら、上澄み種族にとっては「動く足場」に過ぎない。

 モグラ女がキャハハと笑う。彼女にとって種族人間の廃人プレイヤーは程良い雑魚キャラだ。弱すぎず、強すぎず。自分を脅かすほどではなく、やる気を感じる程度のウデはある。

 いいなァ! 強くて! この卑怯モンがぁっ!

「素質」は卑怯だ。労せずして手にした力を俺は妬み、弾劾する。

 俺はズッとモグラ女を指差した。俺は廃人みたいにうまくやれない。落下の圧でろくに身動きがとれない。だから金属片を操る。

 俺の憎悪を帯びた小剣群がパキパキと削れて「指」の形をとる。

【指】はギルドにしか効かない。だが、プレイヤーの母体は最高指揮官サラが作り出した【観客コレクション】と呼ばれるものをベースにしている。

 ギルドに対抗するため、死に強い意味を与えた戒律において、「意思」は極めて重要な働きをする。

 理由は色々とあるが……一つに、それは死の定義に関わる問題で、この宇宙には様々なタイプの宇宙人が居て、ギルドだけをうまく戒律の適用外に置くための措置であった。

 より正確に言うなら「複数の条件を満たした意思」だ。ギルドにも意思はあるが、不死の特性を持つ彼らのそれは生物としてかなり特殊で、身体的な素養と併せ、数値的に弾くのは難しくなかった。

 この「複数の条件を満たした意思」を担当しているのがプレイヤーだ。

 彼らはこことは別の世界を生きていて、放っておけば勝手に増えて勝手に育つので、作成と育成の手順を全て省略することができた。

 エンドフレームを母体とし、母体から生み出される端末を「囚人コンフレーム」と言う。

 ならばコンフレームにも【指】は効くハズだ。


 俺は落下しながら【指】を操作する。不遜にも単身で乗り込んできた十三氏族、モグラ女を指差す。

 この【指】こそが「原初の形」だ。

 水槽で健気に泳ぐ熱帯魚に自分はここに居るよと伝える形。それは悪意ですらない。

 俺は吠えた。

 女ァ!


 女の目と鼻から微量な出血が見られた。それは本質的なダメージで、単純な外傷よりも深刻なモノであるハズだ。

 女が笑う。壮絶な笑みだった。手のひらを下方へと突き出し、叫ぶ。


「【四ォーッッッッツ】!」


 手のひらの先、俺の四肢がねじれてブチュっと潰れた。

 女がお腹を抱えて笑う。


「アハハ! 摘んだらポロッと取れた! 少し摘んだだけなのに!」


 殺ろうと思えば殺れたハズだ。遊んでいる。俺を甚振って楽しんでいる。そういう性格でなければ、そもそも今ここに居ないだろう。

 コロコロと鈴が転がるように笑った女がスッと表情を消す。


「もういい。オマエ、少し不気味だ。死んどけ」


 俺はモグラ女の露出した肌を凝視する。

 俺の両目がギルド化した。

 透視の性質を持つこの目は可能性の獣だった。

 頭の中に幾重もの声が響く。


【なんじ、弱き人の子らよ……】


 モグラ女がハッとして目を見開く。


「エロス!? この星にも使徒が居るの……!? カンベンしてよォー!」


 神が持つ権威の一つに【人を呪わば穴二つ(オールカウンター)】がある。

 人の身でどうこうできる存在ではない。

 だが、十三氏族は神すら超えるというのか……?


「ああ、もう……! これがいいんでしょ? キッショいなぁ……!」


【ニン、ゲン……!】


 モグラ女に素足で踏まれて口汚く罵られたセクハラ神様の御神体が風に吹かれて散っていく。

 俺は完全変身した。

 セクハラ神様が足止めをしてくれている。今のうちにモグラ野郎どもを追う。

 俺は廃人どもみたいに落下しながら戦うことはできない。しかし自ら落ちることはできる。もっと速く……!

 エンフレを引きずり出し、目を凝らして地上を見る。

 なんだ? 何をしてる……?

 俺はビビった。

 モグラ野郎が空けた穴に人間が入ろうとしている。どう見ても警察とか自衛隊じゃない。

 その中の一人。

 俺のギルド化した目がJKの唇をつぶさに捉える。

 俺の読唇術はネフィリアに仕込まれたもので、専門的な訓練を受けた訳ではない。なので、状況的、性格的に発言が限定されていないと絞り込むのが難しい。

 それでも、この時は彼女が何を言ってるのかハッキリ分かった。


「オタついてらんないでしょ……!」


 この世界の人間は何かがおかしい。

 だが、本当にそうか……?

 授業中に攻め込んできたテロリストを一人で制圧する妄想は男子の嗜みだ。

 それがいざ現実になった時、怯えて動けないのは当然か……? クラスで二人か三人は果敢に立ち向かってしまうのではないか?

 何故ならイメージトレーニングはとうに終えている。


 俺たちのダンジョンアタックが始まる。

 それは、なろうでよくある現代ダンジョンというヤツなのだが、より様子がおかしいものとなる……。




 これは、とあるVRMMOの物語

 妄想を実行に移せる人間がどれだけ居るか。それは誰にも分からない……。少なくとも、あなたはどうだろう? 他の人間とは違うのでは? やれるつもりではないか?




 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
ペタさん…もしかしてログアウトした?
暫定リアルの人間は、もしもプレイヤーが、元からローファンタジーの世界にいたら、を体現する存在なのかも…戒律は、より死を感じる者に加護を与える。死んだら終わりのデスゲームのプレイヤーには、どんな加護がお…
ネカマじゃない方のJKがいちいちカッコいい
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