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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
962/983

四人目

 1.ポポロンの森


 キャメルがポチョに弟子入りした。

 俺は気まずくて正直イヤだったけど、とりあえず好きにやらせることにした。

 漫画を描けるというスキルは時代に沿っている。昨今、AI生成が話題になってるけど著作権がどーとかでネットで荒れることが多い。だから少なくとも数年は安泰。人間には感情があるから、どんなに理屈に合わなくともそう簡単には意見を変えない。気に入らないものは気に入らない。漫画家の需要が急激に落ち込むことはない。ならばキャメルの問題は時間が解決してくれる可能性が高い。

 チームポチョのメンバーはキャメルの為に時間を作った。ステラのワガママであちこちに引っ張り回されているが、ウチの子たちは別に廃人ではないから、無理に時間を作ろうと思えば作れる。リアルの生活があって長続きはしないだろうから注意深く見守る必要はあるだろうが……。睡眠時間ってのはコストパフォーマンスに直結するからな。

 一時的に収入源を失ったキャメルは思い詰めているようで、やる気に満ちあふれていた。屈伸などして準備運動しながら、


「強くなる為なら何でもやります。遠慮はナシで。お願いします!」


 俺は横から口出ししたくなるのをグッと堪えた。何でもやりますは禁句だ。俺の横で地べたに体育座りしているスズキが俺に身を寄せて小声で、


「……ねえ、大丈夫?」


 スズキは、よく今までロリコンが放っといたなと思うほど小さくて可愛らしい。見た目こそ幼いが精神的には成熟していて、女性らしい仕草を自然と身に付けている。いや、それすら言い訳だ。俺は部分的にロリコンなのだろう。世間一般でJKに欲情するのは異常らしい。なら俺は異常でいい。内心イイ人ぶってんじゃねーよと思うだけだ。

 俺は近くで見ると意外と長いスズキのまつ毛にドギマギしながら小声で答える。

 ……キャメル、キャミーみたいな体験をしたプレイヤーはそう居ない。あいつのことは結局のところあいつ本人しか分かんねーんだ。本人がヤれるってんなら信じるしかねーだろ……。

 ポチョさんはウキウキしている。ウムと頷き、


「その心意気やヨシ。今からお前に【心身燃焼】を打つ。私が直々に相手をしてやる。キルペナがアレだからパーティーを組む。質問は?」


 キャメルがちょこっと挙手する。


「意味ありますか? デスペナが付くと普段通りには動けなくなります」


 それはそう。【心身燃焼】ではデスペナを解消できない。普通に考えたら今のキャメルではポチョさんには太刀打ちできない。最初の二、三回はともかく、デスペナが嵩めば使い物にならなくなるだろう。そんな状態で訓練を続けても変な癖が付くだけのような気がする。

 言われてみれば……という感じでポチョさんがチラッと俺を見てくる。

 俺は地べたにあぐらを掻いたまま補足した。

 ポチョの剣法は捻流とも拝流とも違う。元々、固有スキル……オートカウンターのアビリティを習得していることもあってカウンター主体の戦法だった。その後、捻流の台頭もあってカウンターだけではやって行けなくなった。基本的に対人戦は先手を取ったほうが有利だ。手傷を負えば戦力ダウンするのだから当然だ。つまりカウンター戦法というのは一対一において実力差がないと成り立たない。精神状態や地形効果なんかもあって絶対に不利とは言い切れないが、実力が互角の相手に100回やって勝ち越せるような戦法ではないことは確かだろう。メガロッパ辺りがその不備を指摘したことがある。ポチョのオートカウンターは絶対に来ると分かっていれば怖くない。最適な動きってのは読まれる。豪速球投手がストレート一本で世界を獲れるほど甘くないのと一緒だろう。だからポチョはオートカウンターを停止するワザを覚えた。さっき捻流でも拝流でもないと言ったが、捻流めいたワザや拝流めいたワザを使うことはある。それ以上のことは俺には言えないな。俺は剣士じゃないし、ポチョが具体的にナニをやって勝ち星をあげてるのか分からねえ。……まぁ才能なんじゃねーか? 知らんけど。

 同じく地べたに体育座りして見学している赤カブトにチラッと目線を振るが、彼女もウンウンと頷くばかりで特に反論はないようだ。

 遠回しに真似しようと思って真似できるものではないと言ったつもりなのだが、キャメルは諦めが悪かった。


「……お願いします!」


 対するポチョさんは嬉しそうだ。

 チームポチョの弱点は何かと言えば、それは三人パーティーだったことである。マグちゃんは家でのんびりすることを好むし、レアキャラのトドマッはログイン時間が合わない。それでも何とかやって来れたのは赤カブトが前衛寄りの魔法アタッカーという稀有な資質を持っていたからだ。ここに前衛を一人追加できればチームポチョはほぼ理想的な形で完成する。戦士職の上位職はヒーラーを兼ねるから、安定感が一気に増すだろう。ここぞという場面で武具を修理できるマグちゃんと部隊の参謀役もこなせるトドマッが加われば廃人軍団にも勝るとも劣らない仕上がりになるかもしれない。その場合、六人パーティーになるが、四人パーティーないし五人パーティーが理想とされるのは報酬の分配で揉めるからだ。気心の知れたメンバーなら問題ない。

 横着して赤カブトに寄り掛かっているマグちゃんがボソッと言う。


「無理でしょ」


 キャメルが仕掛ける。腕まくりするや、剣を抜いて前に出る。露出した前腕からにょきっと顔を出したウッディがピュンとレーザー光線を放つ。これをポチョは華麗に側転して回避。

 このゲームのプレイヤーはレーザー耐性を持つ。パッシブスキル。ギルドの光学兵器を封じるための措置だ。惑星ティナンの【歩兵】が実弾兵器を用いるのはGGO社の「成果」なのだ。

 レーザー耐性は接触判定を一時的になくす回避アクションという形態で出力される。回避アクション中のプレイヤーは自由に動けない。

 だが、そのような分かりやすい弱点を上位プレイヤーはそのままにはしない。接触判定の再起を代償に回避アクションをキャンセルしたポチョが空中で剣の柄を握る。オートカウンターのアビリティを持つ彼女は、強制的な行動からの復帰に慣れている。ガタつかない。鞘を引き下げ、抜剣からの一閃。

 パッと鮮血が散り、キャメルの片腕が宙を舞う。

 切断された腕を苦しげに押さえて、キャメルが片膝を突く。

 ポチョさんが言った。


「全然ダメ。走って戻ってきてね」


 一方的に告げてキャメルの首をドンと落とす。

 キャメルは死んだ。

 …………。

 俺も死んだ。

 俺くらいになると、死因はそれほど重要ではない。肝心なのは歴史から姿を消すセンスだ。レイド級が史実を決めるというなら俺らは好きにやらせて貰うぜ。そういう仕様だ。織田信長は本能寺に居てくれないと困るが、俺らは織田信長じゃない。そういうことなんだろ?

 チームポチョに仲間入りしたキャメルが非業の死を遂げるパターンは予想していた。聖騎士のジョブに拘りを持つポチョは蘇生魔法を使えない。ウチの蘇生魔法担当はアットムくん(非参加)。死に戻りは大前提。キャメルもその程度のことは読む。ならばセーブポイントは最寄りの女神像。

 ふわっと幽体離脱した俺は女神像と自分を結ぶ糸をイメージ。ぴんと張った糸で自分を上空にブン投げて、あとは落ちていくだけ。俺の経験上、幽体の移動速度はイメージで決まる。そして人間は光速なんてイメージできない。知識として、文字として知っているだけ。1秒で地球を7周半なんて言われても「ほーん速いねぇ」ってだけ。無理もない。人間は電気信号で物を考えている。それを上回る速度の事象は「物理的」に「想像」できない。至極当然のことなのだ。それは亀にウサギの気持ちになって考えてみろと言うようなものである。ほ乳類ですらない。想像できるワケがない。

 人間がイメージできる最高速は落下だ。プロレーサーとか空軍の軍人ならもっと上の最速イメージを持ってるかもな。ただ俺らはプロレーサーや軍人がネトゲーやってたら説教するぜ。遊んでる場合じゃねーだろってな。

 落ちる。走らなくてもいい俺には余裕がある。キャメルは? チラッと眼下に目線をやると、キャメルの幽霊がダッシュで地上を死に戻りしていた。ハイハイ、ゴミと競う感じね? そういう段階ですか。俺は内心で激しくイキッた。

 俺は死に戻りに関しては国内でトップ10に名を連ねている自信がある。廃人ですらない、この俺が。それがどれだけ凄いことか。イヤそんだけ死んでるってことだろ全然誇れねェ〜〜〜よッ!

 俺は内心全力ノリツッコミした。暇すぎた。遅いよ。キャメルを待ってる間10秒くらい何もやることがない。俺せっかちなのかなぁ? でも時は金なりって言うじゃん? 10秒って結構よ? 大富豪に30秒いくらで買う?て言ったら軽く億出すんじゃない? 兆出すからまとめ買いしたいって言いそう。時は金なり。行くトコまで行ったら時間よな。買えね〜よ。夢見んなっ。ということでね、キャメル先生。キャメルっ。キャミっ。キャ〜ミっ。俺は犬を呼ぶみたいにキャミーを呼んだ。

 名前を呼ばれてハッとしたキャメルがその場でくるくると回る。バカだな〜。文脈を読めよ。ここは俺以外に居ないでしょ。承太郎も言ってたでしょ。見るんじゃなく観るんだって。猿じゃねんだからさ。少しくらいは俺がどういう気持ちで居るのか考えて欲しいよね。

 キャメルに特に心当たりはないようなので、俺は女神像に命じて再生を始める。

 女神像の正体はギルドの残骸だと言われているが、実のところ正体は未だに分かっていない。

 この星には最初に不時着した【歩兵】が居ると言われていて、たぶん彼らがそうなのだと言われている。ただ、情報が錯綜しすぎていて、その情報がドコから出たのか分からない。ギルドの残骸というのも怪しい。曜日ダンジョンに最下層にそれっぽい残骸があって、ギルドの中にはセーブポイントに志願する変わり種が居るという程度の認識だ。

 そうではないとしたら? 俺の今まで見聞きしてきた感触では、ギルドを行動不能に追い込むのは不可能だ。なら? 女神像の中に詰めるのはギルドマンでも良くないか?

 CoS。ログアウト不能の状態異常。血圧計が手首から外れない。深刻なようでいて、「仕事」として見ればぬるい。金さえ払えば難しいことではない……。暫定リアルの宇宙飛行士。ョ%レ氏には「協力者」が居る。あるいは、このゲームの半没入式ログイン方法はそれを目的に導入されたのではないか? 半没入なんて半端なことをするよりも、生活のベースを完全に電子化したほうが法令的にはかなり通りが良くなるハズだ。

 俺はこの時、初めて気付いた。

 宇宙旅行に限った話ではないのだ。人間の肉と骨は重すぎる。リアルで生きる限り、この枷が外れることはない。だから世の中はどんどん電子化の方向に進む。そのほうが速くて楽だからだ。理屈としてシンプルで当たり前のことだから、この流れは止まらない。それは不確かな人の一生よりもよほど確定した事柄に思えた。

 お前も不安なのか……。

 俺は肉体を再生しながらゆっくりとキャメルに歩み寄っていく。

 ハッとしてキャメルが肉体の再建に取り掛かる。女性キャラクターのそれは、剥き出しのハラワタや筋組織を見せるのを嫌うため、どうしても行動開始が遅れる。その美意識を俺は好ましく思う。

 彼女はまだ喋れない。俺は一方的に告げた。

 チームを抜けろ。お前には向いてない。メガロッパを紹介してやるよ。それでどうだ? あの娘、ややもするとポチョよりも実力があるのかもしれない。

 俺は随所で鬼滅っぽいセリフを吐いてキャメルの反応を見る。観察する。漫画家の心を一番動かせるのは好きな漫画のセリフだ。

 俺はキャメルの返事を待つ。キャメルは衣服で肌を隠すように筋骨を再生していく。所有権で縛られた装備品は再生の対象だ。ある程度の経験を積んだ女キャラは衣服の再生、その速度やタイミングをかなり精密にコントロールできる。露出狂とかではない。JKがミニスカを好むように、自分を美しく演出する為の様式というものがあるのだ。

 再生の時間を待つのが惜しいとばかりにキャメルが立ち上がり、彼女の白いふくらはぎを、這い上がり、包み隠すように、紺色の靴下と厚底のブーツが順を追って再生していく。

 俺の姿を認めて、キャメルはフンと鼻を鳴らす。くるりと俺に背を向けて言った。


「私には関係ありません。失礼します」


 おい待てェ。失礼すんじゃねぇ。

 ……俺の読みは的中した。この女、劇場版を見てる。俺も見た。お互いがそうと分かっている今なら説得できる。人間は納得できる意見よりも共感できる相手のほうが大事だからだ。それは極めて自然なことである。

 ぴたりと足を止めたキャメルが肩越しにチラリと俺を見てくる。あん?

 キャメルの左手が剣の鞘を掴む。親指で剣の柄を押し出し、鯉口を切る。はぁ?

 俺は右目をギルド化した。コマ割りの視界が発動。未だ完全に使いこなせているとは言えないが、片目だけならカバーできる。

 身体ごと反転し、素早く地を蹴ったキャメルが襲い掛かってくる。いや何か言えよ。まぁお前程度のプレイヤーじゃ今の俺には……。

 俺の目は近接戦では大して役に立たない。見てから動いても遅いからだ。だが、それも過去の話。俺が新たに獲得したコマ割り視界は、様々な角度から対象者の手足の動きを俺に教えてくれる。

 レ氏ランドで学んだことだ。

 俺に足りなかったのは視覚の情報量だった。

 目にばかり頼っているから他が鈍くなる。それは事実だが、大切なのはそこじゃなかった。

 俺は映像の処理能力に長ける。ならば、より多くの映像を集めれば良かったのだ。

 俺は目がいい。キャメルの手の振り、足の張り、腰のひねり、お尻の形やおっぱいの揺れが、俺に必要なことを全て教えてくれる。

 キャメルが俺の頭上を飛び越え、とんぼを切って着地した。捻流。放たれた斬撃は三つ。見様見真似だろう。それらを俺は浮かべた金属片で全て受けきった。

 キャメルは決して弱いプレイヤーではないが、小さくまとまっていて、突出した「怖さ」がない。それでは今の俺にはカスリ傷一つ付けることはできない。何度やっても同じことだ。

 そのことはキャメルも分かったのか、振り返って剣を鞘に納める。


「ああ、本当に強くなりましたね。まずは、この差を埋める。そこからです。やはり私は間違っていなかった……」


 ……?

 俺とキャメルは別にライバル関係でも何でもない。彼女が何故、急にそんなことを言うのか分からなかった。

 一人で勝手に納得して歩き去ろうとする彼女に俺は慌てて声を掛ける。

 お、おい! まだ答えを聞いてねーぞ! なんでポチョなんだ!? なんでそこまで……俺に拘る!?

 キャメルは振り返らなかった。吐息を漏らすように微かに笑った、か? フッと一瞬の間を置き、


「理由は色々ですよ。恩返しもその一つ。あなたには感謝してます。だから、ついでに……殺してあげようかな、と。そういうの好きなんでしょう?」


 …………。

 俺は否定しなかった。

 正直、キャメルの言う通りだったからだ。

 そんな自分を認めたくなくて、俺は彼女が十分に遠ざかってから悪態を吐く。

 べ、別に嬉しかねーよ……! 殺すだの、殺さないだの、意味分かんねーし!

 俺は真面目な話をしていたのに、すぐにそうやって破廉恥な方向に持っていく女に俺は許し難いものを感じてブンブンと握り拳を振った。秘蔵のパンチラショットを整理しながら、次に会ったらどう説教してやろうかと頭を凝らすのであった……。




 これは、とあるVRMMOの物語

 もうダメなんだね。



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
暫定宇宙飛行士、ねぇ…ギルドを植え付けて、それをセーブポイントに…それ、人間の必要があるんですかねぇ?
これは恋太郎パイセンに並ぶ日も近いな
デカい話になるか?って身構えたらいつものアレで もうダメなんだね。ってナイと同じ気持ちになった
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