Actスーツ
1.ョ%レ氏ランド- SHOP店内
何ィー!?
俺は驚愕した。
Guysパイセンの助力を得て第2ステージにコマを進めた俺らは魔法の杖を入手するべくランド専用アイテムを取り扱う土産物屋に侵入した。
第3ステージ攻略に備えて魔法の杖を購入する。そのつもりだった。
しかしそこで俺らが目にしたのは、これまで見たことがない新要素だった。
Actスーツ……!?
腕だけやたらとゴツいGuysスーツが筒状のガラスケースの中に浮いている。
てかコレ、GANTZのハードスーツだろ……。寄せて来やがった……!
……ョ%レ氏はそういうことをしない。スタッフか!?
レ氏ランドのスタッフは曜日ダンジョンで働くゴブリンとよく似た人たちだ。プレイヤーよりも運営陣に近く、タコとよく似た運営ディレクターと交渉できる立場に居る。
筒状の展示台の傍らに立つスタッフがごぶごぶと鳴く。何を言ってるのかは分からんが、虚空に浮かぶ仮想ウィンドウがActスーツをナメック語みたいな得体の知れない言語で装飾し、なんか凄そうな数値をピピッと表示していく。
意味は分からん。意味は分からんが……。
ほ、欲しいッッッ。
しかし高いッッッ。
金が……足りんッッッ。
……………。
つ、ツヅラさん……。
アイドルという商売は当たればデカい。【目抜き梟】というブランドの下でアイドル活動をしている【ひなとか。】はヤラシイ話、成功を約束されたグループだ。さらにロリキャラという圧倒的なアドバンテージ。給料が少ないということはあり得ない。
だがガキンチョに多額の金を持たせればろくなことにならない。例えば俺はガキンチョに聞こえの良いことを言って無限に金を搾り取る自信がある。誰だってそうだろう。保護者が出て来たら面倒なことになると分かっているから、そうならないよう手を打てる。
だから【ひなとか。】の金銭に関わる問題はリーダーのツヅラが担当している。コイツは侮れない。〆るべき点は〆る。そういう判断ができる女だ。あのモッニカから一定以上の信用を勝ち得ている。それは尋常ならざることなのだ。
しょせんはガキと甘く見たら負ける。
俺は中腰になってスリスリとゴマを擦る。
へへっ……。ステキなスーツでござんすねぇ。こんなのは初めて見ましたわ。今、この瞬間を逃したら二度と手に入らないかも……。
【ひなとか。】を率いるツヅラさんは中国人プレイヤーで、改めて見ると将来的に中国美女になりそうな特徴が散見される。ツヤのある黒髪は長く、外見年齢にそぐわない美意識の高さが窺えた。目は大きい。奥二重で、ふとした瞬間に見せる大人びた表情にはハッとするほどの可憐さがあった。
しかし今はそういうハッとするような瞬間ではなかった。いや、見方によってはそうかもしれないが……。振り返って俺をジッと見る。アイドル修行で顔面の筋肉に念入りに教え込んだ輝くような笑顔。
「なに? よく聞こえなかった」
俺はゾッとした。
今日イチの笑顔がこれから金を借りようとしている女から出た。
……俺の「弱点」。我慢が利かず、後先を考えず、即物的。それらをツヅラは把握している。
とっさに俺はやり方を変えた。
……俺はオメェーら【ひなとか。】の面倒を見てきたが、それは元Pだからで、モッニカから給料が出てる訳じゃねーんだ。タダ働きってほどじゃねーけどな……。グッズ料とかは個別に貰ってる。モッニカは俺との「契約」をチラつかせるが、契約には「義務」が生じる。ライブ当日は自由に動けねーとかな……。それはマズいんだよ。金は払った、だから働けってのは真っ当だからな……。真っ当であること。それはパワーだ。逆らってもろくなことはない。雨が降ってるから外に出ないってくらいに。
分かるか、ツヅラ。俺は今「社会」の話をしてる。殴ったら殴り返される、そういう簡単な話だ。
……ツヅラがチラと視線を振る。
「ツミレ」
おい。ツヅラ。こっちを見ろ。俺は今お前と話してるんだ。
ツミレがツヅラの傍らに寄って立つ。もう一人の呪骸の女。【巫蟲呪画】は呪詛の性質を持つ強力な魔法で、より完全な効果を得るには「生贄」と「術者」を揃えねばならない。ツヅラとツミレ。この二人のコンビは危険だ。俺は言った。
お前らが見逃されてるのは偶然じゃないぞ。単なるラッキーなんかじゃあ決してない。お前らは監視されていて、コントロールされてる。俺以外の誰かにな。
ツミレがジッと俺を見上げる。ふいと視線を逸らして、ツヅラのほうを見て、ウンと頷く。
「この人、私を殺した人だ」
いや、それは違うんだよ。
何も違わなかったが、俺はツミレさんに誤解がある旨を告げた。パピコ討伐ン時のコトだろう。
……あン時は俺も焦っててさ。サトゥ氏が……そう、あいつが全部悪い。現場と行き違いがあって……。
どう言えば角が立たないか模索しながら話すが、何故かツヅラが頬を赤らめて話を逸らそうとする。
「あ〜、まぁ、そんなコトもあったね」
お? ツヅラがお財布を取り出した。
どういった心境の変化があったのかは知らんが、俺は直角にお辞儀した。
あざす!
俺はツヅラさんの投資で無事にActスーツを購入した。
そそくさと着用する。
人間離れしたシルエットだとは思っていたが、実際にスーツを着た状態だと直立できない。とにかく身体をねじ込んでみる。
すると、窮屈なのに何故か動ける。
なんだ、これは……。俺の身に何が起きてる? 手足がスーツと一体化したような感覚。必要なのは脳みそだけと言わんばかりの一体感がある。
俺は……無敵だ。
2.レ氏ランド-第2ステージ
聞けー!
第2ステージ。四体のActスーツが偉そうに腕組みなどしてゴール地点の手前を陣取る。そのうちの一体が俺だ。
チャンネルの導きにより、俺はActパイセンらと巡り会った。
このゲームのチャンネル機能はプレイヤーをランダムに振り分けるようなものではない。出会うべくして出会う。そういう仕組みだ。この出会いは運命だ。
俺は大きく息を吸ってもう一度叫ぶ。
聞けー! 注目! 注目ッ!
Actパイセンの一人が内緒で教えてくれた。レ氏ランド完全攻略のメドが立ったと。他のプレイヤーと争うのは時間の無駄なので協力したいらしい。
異形と言っても良いActスーツの集団に通せんぼされて、ゴミどもが足を止める。
Actパイセンの一人が進み出て、腕組みを解く。
「俺たちはこれからレ氏ランドを完全攻略する。チャートはすでに俺たちの頭の中にある。お前たちにはそれを手伝って貰う」
高圧的な物言い。Guysパイセンらしくないと感じるが、パイセンらは元々喋らない。シャイなのだ。俺は少し違和感を覚えたものの傾聴する。
ザワつくゴミどもに構わずActパイセンが続ける。
「第3ステージの完走に必要なのは他を圧倒する個の力だ。見れば分かるだろう……。俺たちがそうだ。お前たちは捨て駒になれ」
……? 俺が知るGuysパイセンの方針とはまったく異なる。が、理屈としては正しい。極端な話、第3ステージをノーミスで完走できる走者が二人居ればレ氏ランドは完全攻略できる。Actスーツさえあれば、という判断なのかもしれない。
ゴミどもが喉を低く鳴らして笑う。
「そりゃそーだ。……本当に可能なら、な」
「見れば分かる? 生憎と俺はあんま物分かりが良くなくてな〜……」
「それ、Actスーツってヤツだろ。いっぺん見たことある。俺は買えなかった。あんたら金持ちなんだな。羨ましいよ」
俺はチラッとGuysパイセンを見た。Actスーツを着たお喋りなパイセンじゃないほうの……これまでずっと一緒に居てくれたパイセンだ。
パイセンはひなどもの傍らに立ち、ジッとActパイセンらを見つめている。
…………。
俺は複数の金属片を浮かべてゴミどもの首元にぴたりと添えた。言う。
……どうだ? 少しは物分かりが良くなったか?
Actパイセンらが「ほう」と感嘆の声を漏らす。そのうち二人が身を寄せ合ってボソボソと小声で相談する。
「悪くないのでは?」
「……気掛かりなのは」
「ギルド指数ですか。それと……」
ゴミどもの相手をしてやっているActパイセンが俺に「待て」と言うように大きな手のひらを向けてくる。
「Act.4。脅しはよせ。彼らは強がってるだけだ。自分自身で判断させろ」
……Act.1。あなたがそう言うなら。出過ぎた真似をしました。お許しを。
Act.1とは言うが、この三人の中でリーダー格はAct.2だ。見ていれば分かる。Act.1は何かと出しゃばるが、Act.3は常にAct.2を気に掛けている。
Act.1が声を張ってゴミどもに決断を迫る。
「さぁどうする! 俺たちは特別な装備を持っている! 正しい知識を持っている! 俺は誤魔化さないぞ! 俺たちに付いてくるヤツらは捨て駒にする! 犠牲なんて言い方はしない!」
ゴミどもは顔を見合わせた。チラチラとツヅラ隊のメンバーを見る。
ちびっ子たちは退屈そうにしていた。さっさと次行こうよと言わんばかりの態度だ。ゴミどもと目が合って、アイドル道場で植え付けられた習性によるものか、「?」と不思議そうに首を傾げてはにかむ。サービス精神が旺盛なちびっ子は軽く手を振った。
ゴミどもは不満げだが一応納得したようだ。
Act.1が大きな手のひらをバンと打ち鳴らす。
「よし! ステージ2の攻略を始める! 俺たちの前には出るな! ゴール手前で停止し、俺たちが次走者を選ぶ! 譲り合えとは言わない! だがスーツを着ているヤツは残せ!」
Act.1。俺のツレは残していいっスよね?
「なんだ? 気になる女でも居るのか? 子供に見えるが……まぁいい。お前は特別だ。他のヤツらとは違う。好きにしろ」
口約束を交わし、俺たちはペンギン走りを再開した。
ひなどもをGuysパイセンに託し、俺はActパイセンらと行動を共にする。本音を言えば……あまり一緒に居たいとは思わなかったが。
……Guysパイセンのことは尊敬している。彼らを地上に恵みを齎す太陽とするなら、俺は月になりたい。
Actパイセンは別種のGuysかもしれないが、武人に近しい雰囲気がある。自信があり、他人に正直であろうとしている。立派な人間だ。
とりわけAct.1パイセンは俺に期待を寄せているようだった。
「Act.4。この施設はギルドの実験場だ。ギルド人間の部位を培養。多くのプレイヤーに渡し、反応を見ている。このスーツはつい最近になって追加された新要素だ。レ氏の研究が最終段階に進んだことを意味するのかもしれない」
俺はちびっ子たちが気になる。ロリコンじゃないよ? ロリコンじゃないけど、俺はアイツらと一緒に居たほうが楽しい。Actパイセンとは初対面だしな……。イマイチなんかノリが合わないというか……。
気もそぞろに相槌を打ちながらチラチラと後ろを気にしていると、ツヅラと目が合った。ムッとしたツヅラが仲間に一言断ってからこちらに駆け寄ってくる。
俺はなんだか嬉しかった。軽口の一つでも叩いてやるかと身体ごと振り返ると、俺の様子に気が付いたActパイセンがサッと割り込んでくる。
「呪骸の女。未だにアイドルごっこをしているのか。己の価値を知れ。お前たちは数人で国を一つ潰せる。オムスビコロリンの最高傑作……それがお前たちだ。特にツヅラ。お前はな」
……それはどうスかね。
「事実だ。このまま腐らせておくには惜しい」
いえ、少し大袈裟かなと。俺ぁ〜コイツらの【巫蟲呪画】を攻略したことあるんで。パイセンはガキに甘いっスね。過大評価っスよ。
「……そうかもな」
パイセンは俺を立ててくれた。良い人だ。
「とにかくアイドルなど早々に辞めることだ。お前にはもっと相応しい場が……」
お前はGuysパイセンじゃない。
俺はガッとゴミの胸ぐらを掴んだ。グッと引き寄せて凄む。
コイツらはな〜今笑ッてンだ。余計な横槍入れンなよ。それがどンだけサゲるか分かんねーか? オメェーだって昔はガキだったろ。
装備に金掛けてるってだけのゴミがギャハハと笑う。本性を現しやがったな……! コイツっ、コイツらは賢いフリしてるだけのゴミだ! 手の込んだ真似しやがって!
賢いフリをやめたゴミが愉悦混じりの嘲笑を浴びせてくる。
「ワルぶって結局それかよ! 崖っぷち〜。オメェーは変わっちまった。今のオメェーはちっとも怖くねえ! そんなので守れンのかー!? えっ! 崖っぷち〜!」
俺はニッと笑った。いいぞ、楽しくなってきた。今のコイツとは少しばかり気が合いそうだ。
レスバ強ぇーな! でっ? 何の意味がある?
レスバの強さを人生に役立ててるのはひろゆきくらいだ。本人ですら持て余してる感がある。
それをッ! 何者でもねーオメェーがッ!
俺はドンとゴミを突き飛ばした。すかさず金属片を召喚して首を刎ねるよう命じる。
しかし俺の金属片は俺の意に反して宙でくるくると回った。目標を見失ったかのように飛散する。
ゴミがぴょこぴょこと素早く屈伸して煽ってくる。
「レ氏のギルドマン対策だよゥー! Actスーツ! 意味は分かるか〜? 『使徒』だよ! ヤツはギルドの攻略法を見つけたッ! ヒントを与えたのはオメェーだよ! 崖っぷち!」
そうかい! どうでもいい。俺は前に出る。俺が間違っていた。コイツはこの場で殺す。俺の気分を害した罰だ。
Actスーツの太く逞しい腕をブン回す。
拳と拳がガシーンと真正面から衝突した。
いきなり殴り合いを始めた俺らにツヅラがドン引きしていた。
「ええ……?」
これは、とあるVRMMOの物語
ゴミとゴミは惹かれ合う……。
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