人力自動マッチング
1.エッダ水道-【提灯あんこう】秘密基地
ネフィリアさんと愉快な仲間たちと一緒に晩メシを食べている。つーか俺が作った。
俺はリアルで特別料理好きって訳じゃないが、ゲームではスキル上げの一環と割り切ってホイホイと料理する。飲食物に関してはクラフト技能でぱぱっと作れたりはしない。しかし製薬スキルで工程を短縮することは可能だ。下ごしらえ済みの具材をクラフトしたりな。だから、まぁ製薬製薬って言ってるけど本当は違うのかもしれない。調合って呼ぶのが正しいのかもな。種族人間はとにかく物騒な方面に走りがちだから、薬剤師といえば毒という風潮がある。
面倒な下ごしらえを省略できるもんだから、バザーで買ってきた食材さえあれば料理なんて単なるパズルだ。どこの露店でどんな食材を取り扱ってるかも俺は大体把握してるしな。作業だよ、作業。女子力とかは関係ねえ。
「いや、でもさー」
俺が作ったメシをパクパクと食べながらマゴットが箸の先端を俺に向けた。
おい、それやめろ。指し箸って言ってな、簡単に言うと人前でパンツ脱ぐようなもんだぞ。箸ってのは口に含むもんだからな。よくもまぁ自分のよだれがついたもんを人に近付ける気になれるな、お前は。その神経が俺には理解できねえよ。
「うえっ!?」
アホの子は素っ頓狂な声を上げて箸を引っ込めた。
で、何だよ。
「う〜」
アホの子は顔を赤くして恨めしげに俺を睨んでいる。何だよ。さっさと言えよ。
「……料理ってメンドいし。できる人がやったほうが効率良くねー?って思うんだよね。つーかさ、あんた味にうるさいじゃん。文句言うなら食うなっていつも思うし」
まぁな。俺は認めた。俺は味にうるさい。
当たり前のことだけどよ、食わなきゃ生きてけねえじゃん? 俺、一石二鳥って好きなんだよな。食事の時間はどうしたってなくせねえからよ。ついでに何かできねえかなって考えたら味なんだよな。
料理できると食べるついでにスキル磨けるから無駄がねえんだよ。一度のメシで30分とすると、一日三食で90分だろ。毎日90分ってデカくねえか?
要はあれだ。ステータスの成長率上げるためにさっさとクラスチェンジしておく感覚に近い。このゲームじゃ成長率なんて変わらないらしいがな。
別にお前にプロの味は求めてねえよ。だが、まぁ俺がお前のメシに文句付けてお前が俺のメシに文句付けれたら面白えだろ。俺は俺のメシに文句付けれねんだよな。舌が慣れちまってるから。
そんなことを適当にくっちゃべっていると、不意にネフィリアが箸を置いた。
ん? まだ食ってる途中じゃねえか。急にどうした。
ネフィリアはじっと俺を見つめている。
「おかしいだろ」
何がだよ。
「お前、自由すぎないか? コタタマ……。お前はウサ吉という弱みを私に握られて私の命令には逆らえない。それなのに、普通にGoatのクランハウスに出入りしているし、むしろそっちがメインでこっちはサブみたいな……。おかしい。絶対におかしいぞ」
ついに言及されたか……。俺は目を伏せて嘆息した。
いつかはツッコまれるだろうとは思っていたが、なかなか言ってこないもんだから、てっきり黙認されたのかと思ってたぜ。
だがな、ネフィリア。俺が先生と一緒に行動するのはお前にとっても悪くない筈だ。そうだろ? お前は先生に勝ちたいと思ってる。俺はお前に先生の情報を流すことができる。もちろん交渉次第では、だがな。
「口先ばかり達者なやつめ」
バレたか。そうだな。俺は先生との輝かしい思い出を他人に漏らすつもりはねえ。ウサ吉をネタに脅しても無駄だぜ。俺は先生とウサ吉のどっちかを選ぶことが多分できねえ。
ネフィリア、お前が俺に教えたことだよな? 脅しは要求を選ばなきゃ意味がねえ。できねえことをやれって言っても脅しにはならねえ。無用な反撃を招くだけ。だろ?
「ノルマを増やすというのは?」
ネフィリア。俺を働かせすぎるな。お前が思ってるよりも俺は動ける。俺が本気で動いたなら、お前のコントロールできる上限を超えることは容易い。お前はやめろと言うし、仕事がないなら俺は休む。結局は何も変わらねえよ。
だが、パンクしてるのは俺も同じさ。ネフィリア……。実を言うとな、俺の人間関係がヤバい。放置に放置を重ねた挙句、どいつもこいつも勝手に動くもんだから誰と誰が繋がっててどんな情報を遣り取りしてんのかさっぱり把握できてねえ。
例えばマゴット、お前だ。
「え、私?」
お前、ポチョやらスズキやらとたまに会ったりしてんのか。
「うん、会ってるよ。つーか昨日も会った。一緒にガムジェム探しクエ行って来たんだけど、ジャムりんがトチってさぁ。ポチョ姉があんたのこと殺したって言ってたの聞いて、なんかそわそわしてたんだよなー。あんたら、もしかして仲悪いの?」
見ろ、この始末だ。ジャムりんだと? そこはかとなくシルシルりんとの繋がりを匂わせて来やがった。
もう俺はどうしたらいいんですかね? 俺の周りの相関図どうなってるの? JKの野郎はどこで何してんのかさっぱり分からねえし、リリララはゆんゆん電波飛ばして来るし、ガムジェム探しクエって何のことか分からねえし、そういえばエッダの調査はどうなったんだよ……。
ああ、一体俺はどこへ向かってるんだ。セクハラ神とか普通に言ってるけど、それはどこのどなた様なの?
助けてくださいよ、お師匠様。哀れな俺を何とかしてやってくださいよォー!
懇願する俺にネフィリアたんは目を細めた。
「つまり女関係を清算したいと?」
言い方ぁ……。
あのね、俺は別にナンパ野郎じゃないのよ。でもさぁ、元々ネトゲーって男女比率いびつじゃん? 女キャラ多すぎんよ。むしろ俺は頑張ってるほうだと思うけどね。漫画とかアニメだと理由もなく男キャラ出さないでしょ。人気取れねえ野郎描いても仕方ねえじゃん的な。その点、俺は普通に男キャラとも付き合いあるし、今まで殺してきたモブも合わせれば逆に男男女男男女男男男男みたいなトコあるよ。いや思い返せば俺の周りだけ野郎ばっかりじゃねえか。どういうことなんだよ。おっぱい揉むぞ。くそがっ。
俺は混乱のあまりナイチチねだりした。
ネフィリアは俺をじっと見つめている。ふいっと顔を逸らし、こう言った。
「そういうところだ」
なに?
「ぺらぺらぺらぺらと。お前は昔からそうだった。私の下に居た時はお前があまりプレイヤーと接触を持たないよう慮ったが、それは何故か分かるか?」
そういうところって言ったな。話の流れからすると、俺を野放しにすると人間関係でつまずくことが分かってたってことか?
「そうだ。お前は我が強すぎる。人間性が破綻していて、一人で勝手にどこまでも突き進もうとするから、その先に待ち受けるであろう破滅を見届けようとする人間がお前の周りには集まって来る」
破滅って何だよ。いや、そりゃあ散々な目には遭ってきたけどよ。社会で成功を収めてるお偉いさんはよくチャレンジ精神が大事って言うじゃねえか。
「当たりくじを引いた人間が、くじを引いたから自分は成功したと言ってるだけだ」
身も蓋もねえな。
しかしだな、ネフィリアさんよ。
「黙れ。いいか、コタタマ。お前のそのぺらぺら回る口がお前を破滅に導いてきた最たるものだ。私にとり、お前が女関係を清算するのは好ましい。だから教えてやる。無駄な喋りをやめろ」
無口キャラに転向しろってのか。
……ええ? そんなの効果ねえだろ。しかし俺を悪の道に引きずり込んだネフィリアの言うことは侮れねえ。試してみる価値はあるかもな。
とはいえ、突然のキャラ変は何かと無理がある。ウチの元騎士キャラがいい例だ。よく分かるぜ。他ならぬこの俺が振り回されて可哀想だったからな。
やるとすれば野良パーティーとかいいんじゃねえか? 見ず知らずの他人が相手ならキャラ変もクソもねえ。
よし、決めたぜ。明日にでも野良パに無口キャラで参加してみよう。そこで反応を確かめて、感触が良ければ徐々に口数を減らしていくっつー寸法よ。
手始めに俺は暫定版無口キャラを演じてみることにした。
「日本語難しいデース」
「コタタマ。それは単なる駅前英語塾の外国人教師だ」
アンディと呼んでくれ。
2.山岳都市ニャンダム-広場
マゴットにパンツ返すの忘れてたわ。
ポケットにガキンチョのパンツ忍ばせてるってヤバくねえか?
いや、でもどうやって返したらいいのコレ? 洗濯物にこっそり混ぜるとか無理なんだぞ。しょせんゲームのキャラクターだからな。身体汚れねえんだよ。風呂に入りたいっつー要望はあるんだが、リアルで入れよっていう話になるからな。温泉マップの解放が待ち遠しいぜ。あるかどうか知らんが。
何はともあれ、俺は山岳都市の広場にやって来た。
ゴミどもがパーティーメンバーを募集して揃って死にに行く不思議な広場である。死亡ツアー参加希望者の群れを、親子連れのティナンが動物園のパンダを見るような眼差しで見つめている。
仕方ねえ。期待に応えてやるか。俺は子ティナンの前でブリッジすると、両手両足をわさわさと動かしてジグザグに移動した。見ろ、坊主。これが人間様だ。
人間の悲しさ、理不尽さを余すことなく表現した俺は、ティナンの拍手喝采を浴びてパーティー探しに戻った。
つーかゴミども多すぎだろ。コイツら、どんだけ出会い求めてるんだよ。いちいちパーティーメンバー募るくらいなら、さっさと適当なクランに入ればいいじゃねえか。
とは言うものの、ネトゲーのクランってのは過疎の危険性が常に付き纏うんだよな。専用のクランチャットとかもよ、結局は話題が尽きて無言になるしな。まぁ大概のネトゲーは行き着くトコが素材集めのダンジョン周回だから仕方ねえ。毎日同じことやってるんだから話すことなんかねえよな。
あとは、まぁ誘われ待ちってやつだ。自分からクランに入れてくれって言うのは抵抗あるけど、誘われたら入るっていう層は一定数居る。見出されたいっつー気持ちは俺もよく分かるぜ。少しでも優位に立ちたいってのは当然のことだ。
今日も俺はバンシーバージョンである。もうなんかバレてる感あるけど、俺は初志貫徹する男。コタタマは死んだ。俺はペタタマだ。おっと今はアンディだったな。いや面倒だからペタで通そう。いきなりアンディとか呼ばれたらガン無視する自信あるわ。パーティー組んでるとイライラする場面も出てくるからな。
……もうね。前に進めねんだけど。ゴミ多すぎ。ここはゴミ集積場かよ。夢の島なのかよ。今の俺は無口キャラなんだよ。誰か何とかしろよ。パーティー募集するっていうレベルじゃねえぞ。
よし。無口キャラはいったん置いておこう。
コタタマメーターが沸点に達した俺は、ひとまず目の前のゴミの首を刎ねて叫んだ。
「並べ! クズどもが! 人力自動マッチングやんぞ!」
俺はゴミどもに整列を命じた。
人力自動マッチングである。
今時、大抵のオンゲーでは野良パーティー結成を自動マッチングという手法で行なっている。いや、既に旬が過ぎた感があるかもな。
要は、パーティー結成に際して心理的なストレスを和らげる試みだ。
自分からパーティー組もうとは声を掛けづらい、お荷物になるのが嫌、いわゆるソロ志向ってのは面倒事を嫌う心理に端を発している。
だが運営側からすると、プレイヤー同士の交流ってのは放っといても勝手にゲームを続けてくれる優秀なコンテンツだ。当然、手放したくない。よってパーティーはこっちで用意しますよという流れになる。
このゲームの運営はどうか。自動マッチングなんざ用意してくれる訳がねえ。ソロは一人で勝手に死ね、何なら他のプレイヤーの食い物になって死ねというのが、このハートフルVRMMOである。
運営はパーティーを用意してくれない。ならばと、このゲームのユーザーは人力自動マッチングなる怪しい手管を開発した。
言い出しっぺが全てを仕切るクソ面倒臭え仕組みである。
面倒臭えことを引き受けてやると宣言した俺に、ゴミどもが嬉しそうにもるもる鳴いて整列した。日本人の特技は整列である。並べと言われたらコイツらは並ぶ。
人力自動マッチングのコツは速度だ。とにかく早く。早すぎと言われるくらいでちょうどいい。ゲーマーは時間を惜しむ。ゲームってのは遊びだからだ。学校に行きたくねえ、仕事に行きたくねえ。誰しもがそう思ってるから時間の浪費を嫌う。
俺は身振り手振りを混じえてゴミどもに命じた。
「一列! 前へ!」
人力自動マッチングの列は十人一組が基本だ。一人や二人少なかろうが多かろうがどうでもいい。
一歩前進した十個くらいのゴミを俺は適当に選別していく。
「お前とお前とお前とお前! お前は死ね! お前でいい! 五人! 次!」
選別に漏れた連中が最後尾に回る。この繰り返しだ。
バランスなんざ配慮してたら日が暮れる。ヒーラーだけなんてことも普通に起こり得る。となれば当然、文句を言う輩も出てくる。
「おい! 生産職五人はひでえよ!」
マジか。くくくっ……。そりゃひでえな。それだけは避けようと思ってたんだが。まぁ仕方ねえ。特別扱いはできねえよ。俺は怒鳴り返した。
「だったらお前がやれ! 面倒臭えぞ! やらねえな!? 行ってよし! 次!」
どうしても嫌なら解散して並び直せばいい。もっとも今組んでる四人とはそこで関係が切れるがね。
さて、仕切り役には一つだけ特権がある。最後に残ったメンバーと組めることだ。
つまりある程度はパーティーメンバーを選べる。まぁ並んでる間に勝手にパーティー結成して抜けて行く連中も居るから思い通りにってのは難しいんだが。
こうして俺は無口キャラを目指して動き出したのである。
これは、とあるVRMMOの物語。
もう無理でしょ。
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