新生モグラ解放軍
1.マールマール鉱山
ゴミどもを率いるコゴローと共にモグラ城に向かう。小細工はナシだ。ゴミどもはもぐらっ鼻でありながら帝国に反旗を翻すことになる。それはコゴローの未来に賭けたい気持ちや、ウサ耳の横暴に屈したくない気持ち、帝国は何故戦おうとしないのかという気持ちの表れだった。
先の耳鼻戦争で帝国は負けた。しかし、だから何だ? これはゲームだ。プレイヤーは何度でも死ねる。ならばプレイヤーの国もまた何度でも立ち上がることができる。
……たぶんサトゥ氏も同じように考えているだろうな。俺には分かる。もしも今、戦端を開いても前回と同じ結果になる。イヤもっとひどい結果になる。女キャラとネカマが結託したウサギ王国は強すぎる。正面からぶつかっても勝ち目はない。
リチェットはもぐらっ鼻の心をへし折りに掛かっており、対するサトゥ氏はもぐらっ鼻の負けん気を呼び起こそうとしている。
弱腰な帝国軍部に不満を抱くもぐらっ鼻たちが続々とコゴローの元に集まってくる。これはモグラ解放軍の再興だ。
マールマール鉱山に大きな影がサッと落ちる。上空を見上げたコゴローが眉をひそめて呟く。
「……エンドフレーム?」
へっ、分かりやすい脅しだな。怖いねぇ。
俺はモグラ解放軍の副官だ。せっかくの息子の晴れ舞台だ。近くで見てやりたいじゃないか。プレイヤー側の事情に疎いコゴローに簡単に解説してやる。
非装甲型のエンフレ。女のエンフレはああいうタイプが多い。強くて速いが、不安定だ。いつ暴れ出しても不思議じゃねぇ。
エンフレ戦と言えば異常個体の独壇場だったが、それも過去の話。正常個体はガムジェムの力を借りてエンフレを出せるようになった。最初のうちは何をどうしたらいいか分かんねえってんでオタついちゃいたが……まぁ見れるようにはなったか。
目下の課題は安定性だな。俺もそうだが……異常個体は機体の制御に苦労したことがない。最初からある程度は動かせたし、それが当たり前だと思っていた。
だが、正常個体のエンフレは違う。まったくの別物と言っていい。何故こうも違うのか? 性別の違いだろう。人間という生き物を二つに分けたなら、真っ先に来るのが男か女かだ。人種、年齢、様々な候補はあるだろうが、性別はそれらと並ぶ。もっと言えば……俺らは同じ地球人の女よりも、異星人の男のほうが共感できるかもしれない。
男と女は別の生き物なのだ。未来永劫、争い続けるだろう。女は男の言うことを聞いていれば良いという時代があったから、そうした歴史的な背景もあって、根が深い。ご先祖様が遺した負の遺産ッてヤツだ。そうしたものが男女平等を叫ぶ現代社会にあって一気に吹き出した。それ以上でも以下でもない。単なる事実だ。それゆえに誤魔化しが利かない。
上空を陣取る非装甲型が地上のもぐらっ鼻を見下し、その双眸が赤い残照を引く。
コゴローがボヤく。
「そんな物騒なモンをホイホイ出すんじゃねーよ……」
俺が居るからな。
「あ?」
ちょいとばかりズルしてな。エンフレ戦に限って言えば、この辺で今の俺に勝てるヤツは居ねえ。大人と子供くらいの差があるのさ。制限時間あるし無敵とまでは言わねーけど……100機くらいは落とせる。多少暴走しても俺が居ればそうひどいことにはならない……そんなトコだろう。
「……あんた、意外と凄いヤツなのか?」
さぁな。でもな、コゴロー。俺はこう思うよ。たぶんギルドってのはゲストが考えてるのとまったく違う。もしも正体ってのがあるとしたら……その真相とやらに俺は近い場所に居るんだろう。才能とか能力じゃねーな。立場だろう。攻略の最前線に居る俺は最先端の力を持ってる。でも、この力はショコラには使えねーぞ。どうするつもりなんだ? ゴミが束になってもヤツには敵わねー。
「俺の考えは違う。ショコラがティナンに手出ししないのは、親父……あんたの血を継いだからだ。捨てきれない甘さがある。……俺はあんたのことが嫌いだけど、血も涙もない人間だとは思ってない」
……その考え方は危険だぞ。もしも違ったら取り返しが付かない。
「ショコラは……俺にとって、たった一人の妹なんだよ」
……レ氏が、な。口を滑らしたのか、あるいはもっと別の狙いがあるのか、こう言ってたことがある。ギルドが滅んだ時、お前の尻尾とショコラの角は消えてなくなる。お前の不死性は失われ、ショコラは人格に変化が起きる。
「……人格が変わる? じゃあ……」
ああ、そうだ。コゴロー。ショコラの角を折れ。
俺の考えを言うぞ。コゴロー……。お前とショコラはほぼ同時に生まれた。ショコラの角は、本来ならお前に生えるハズだったんだ。俺がレ氏に種付けされて生まれたのがお前だ。その時、先生が繭に触れてる。先生に角は生えていないが……ショコラの角は羊のそれと似ている。何がしかの影響を受けたんだろう。じゃないと説明が付かない。ショコラは俺とジョゼットの娘だ。ティナンにも、俺ら人間にも、角は生えてない。なら? お前に生えるハズだった角を、生まれた場所は違えど、ショコラが引き受けたんだ。角と尻尾が揃ったなら……たぶんお前はギルドそのものになっていた。俺はな、ショコラがラムダと似ていると思ったことがある。ギルドの最高指揮官にな……。
言うつもりはなかった。話すつもりはなかった。言えば、コゴローはショコラを見捨てることができなくなる。だけど、もう……同じことだった。コゴローは俺の悪いところを受け継いでいる。どんなにワルぶっても捨てきれない甘さがある。
……コゴローに生えるハズだった角を引き受けたことで、ショコラは人格が歪んだ。ショコラがコゴローに執着しているのは目には見えない「繋がり」があるからだ。
まぁショコラ本人からしてみれば、そんなのは知ったことではないという話でしかないだろうが。
コゴローは俯いて笑った。
「……へっ。ドコまで行っても兄妹ってコトか」
モグラ城の手前では帝国兵が陣を敷いていた。
コゴローが進み出る。頭のウサ耳を外して叫ぶ。
「道を開けろ! ショコラと話をしに来た! 俺の妹はドコだ!? 城ン中か!?」
おそらくそうだ。ウサ耳どもの考察は正しいと思う。ショコラはコゴローのほうから会いに来て欲しがってる。それなりに苦労して自分の前に立って欲しい……そんなところだろう。
エリアチャットが走る。ショコラの声だ。
『私のモノなのに』
勅命の力。やはり持って生まれたか……。
コゴローの【指揮官】としての下知の力と、ショコラの勅命の力がぶつかる。幾ばくかのギルドマンが離反した。正気を取り戻し、その場に留まるもの、引き返すもの、帝国兵に合流するもの、様々だ。
勅命と下知。
これは、この力は、重力だ。
圧倒的な個が渦のように弱者を巻き込んで歴史の在り方を決める。そこには運命じみた引力が生じる。坂道を転がり落ちるように抗えない。抗う、抗わないという問題ですらないのだろう。落ちる。現象としてそうなっている。
コゴローが叫ぶ。
「ショコラ! 兵を引け! これは俺らの問題だろ! 違うッてのか!?」
ショコラの返事はなかった。
俺は手振りでモグラ解放軍に臨戦態勢を取るよう命じる。どっち付かずのギルドマンを巻き込むには今しかない。
オメェーら! 王サマを決める権利くらい欲しーわな! コゴローとショコラのどっちに付くかって話じゃねー! ヤる気あんのかねーのかイマイチ分かんねークソ廃人の王サマに今後の具体的なプランを聞くとしよーや! でもアイツひねくれてっからよー! 磔にして素直にお喋りできるようにしてやんねーとな! さぁ〜おっぱじめようや!
俺の発破にモグラ解放軍がうぇーいとヤる気なさそうに唱和する。疎らに武器を手にブラ提げて前進。
ウサ耳に虐げられしもぐらっ鼻のクーデター。
ここにモグラ城攻略戦が開始した。
これは、とあるVRMMOの物語
サトゥの血の色が気になるよ。早く処刑しなくちゃ。
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