光のロリコンと闇のロリコン Episode:1
1.山岳都市ニャンダム-ロリコン評議会
ティナンの健やかなる成長を願う紳士の会。
表向きはそのように謳っているロリコンの集会にアットムと一緒に参加している。
俺は別にロリコンじゃないんだが、どういう訳か毎回しつこく招待状が届くのだ。意地でも参加するものかと思っていたけど、相方のアットムくんが参加すると言うし、評議会で議長を務めているのがいつもお世話になっているロリコン先輩とあって、しゃーなしに会場へと足を運んだ。
開廷の時を待つ、会場にひしめくロリコンども。
恐ろしいことにコイツらは山岳都市側に存在する権利を認められている。
ティナンに害なすものを許さないという意味で、ロリコンほど頼りになる存在は居ないのだ。
性癖が一致した集団は時として信じ難い力を発揮する。
ハッキリ言ってネトゲーマーはロリコンだらけだ。
ロリキャラってだけで人気が出るし、運営側もそれが分かっているので優遇されることが多い。見た目が可愛く、性能的に優れていて、手の込んだストーリーを持っている。まさに無敵だ。
そこに来てこのゲームは割とマシなほうで、男目線で女性と接したいという理由から男キャラがそれなりの数いる。女性ホルモンか何かの影響で、女キャラを使っていると考え方が女性寄りになっていくらしい。キャラクリで脳みそをいじる知識なんか俺らにはないからな。
ロリコンとは言うものの、コイツらの大半はファッションだろう。俺はそう信じたいと思っている。
VRMMOのロリキャラはデフォルメで誤魔化しが利かないから、漫画やアニメみたいに完成した美貌を持たない。むしろお世辞で「あらあら将来が楽しみね〜」とか言われるくらいのほうがリアリティがあって可愛く見えるのだ。ちんちくりんとしか形容できない外見の、手足が短い生き物に欲情するのは難しい。あんなの犬猫と変わらん。
それに、まぁ、ロリコンってのはぶっちゃけ自分と対等の女性がイヤってだけだろう。リアルでキレーなチャンネーが何かの間違いでコロッと惚れてくれたら迷うことなくそっちに行く。その程度のモノでしかない。
理屈で考えたらそうなるのだが……。
会場にひしめくロリコンどもは真剣な眼差しで開廷の時を待っており、俺は自信が揺らぐのを感じた。一体つるぺったんの何がイイと言うんだ……。
戦々恐々としている俺の腕を、となりに立つアットムがちょんちょんと指で突付いてくる。
ああ、と俺はポケットから手を出してアットムと手を繋いだ。
俺は弱い。というか生産職の俺が弱くて何が悪いのか。ロリコンの巣窟に身を置いた俺がいざという時に頼れるのはアットムくんだけだ。
ロリコンには敵が多い。評議会は過去に何度も襲撃を受けている。ロリコンを目の敵にする勢力からすれば、これはロリコンを一掃する大きなチャンスなのだ。
俺はアットムくんとはぐれないよう、しっかりと指を絡めておく。
開廷の時間だ。
すり鉢状になっている会場の中心にロリコン先輩……議長が立ち、無難に挨拶をこなす。同胞の無事を祝ったり、今年一年色々あったけどみんな良くやったとか、そんな内容だ。
ひとしきりロリコンどもを褒めちぎったあとに、ロリコン議長は本題に入った。
『今回の議題は闇の勢力についてだ。騎士団の目覚ましい活躍もあり、事は順調に推移しているように見えるが、それは見せ掛けのものに過ぎないと私は考えている。ここで追求の手をゆるめるのは愚の骨頂。潜在的な脅威に対して我々は、より綿密に備えねばならない。場合によっては過激な手段も辞さない覚悟だ』
評議会で毎度のように議論されている事柄だ。
No Touchの精神を貫く光のロリコンに対して、あわよくばロリキャラとお付き合いを目論む闇のロリコン。
それらは表裏一体の存在であるがゆえに、決して相容れることはない。
つまり闇のロリコンが何かしでかすたびに光のロリコンは肩身の狭い思いをし、一緒くたに弾圧され、それでいて性癖を本人の意思で変えることなどできないのだ。
いつもの議題に評議会の面々はうんざりしている。
「つまり金を寄越せということだろう?」
「十分な予算は与えている」
「順調ならば、それで良いではないか」
彼らはティナンを守るために団結した集団ではあるが、それでも金が無限に湧いてくる訳ではない。
「こちらとしても厳しいのだ。今のモンスターは強すぎる」
「我々とて闇側の脅威は重々承知だ。相互組合は良くやっている。今しばしの辛抱だ」
「議長。あなたがそうまで焦る理由は何なのだ? 何か我々に隠していることがあるのではないか?」
ロリコン議長は評議会の長として、金を出し渋る連中を説得せねばならない。それは使い道がよく分からない商品を売ることと似ていた。
『騎士団は完璧な仕事を求められる。事が起こってからでは遅いのだ。最精鋭の人材と最先端の装備。最前線で身体を張る彼らは、常に闇の誘惑に身を晒している。彼らが戦場でどのような言葉を浴びるか……想像は付くだろう。闇は……狡猾だ』
「議長。あなたの言うことも分かるが、あなたは騎士団に寄りすぎている。それは個人的な感情ではないか?」
「無論、騎士団の働きは評価する。が、無い袖は振れん。他にどうしろと言うのだ」
「金は出している。それでは足りないとあなたは言う。いつも。それでは困るのだ。どれだけあれば、完全で、不足がなくなるのか? それを知りたい」
崇高な理念を掲げて結成された評議会であるが、今となっては延々と金を出す、出さないで揉める集団になってしまった。
それは腐敗ですらない。理想だけで人は動かない。組織が大きくなればなるほど費用は膨大なものとなり、推し活では済まなくなっていく。当初は気分良く投資していたものたちも、それが毎回ともなれば愛想が尽きる。
ロリコン議長は、そんな彼らが以前の情熱を取り戻し、心置きなく推し活できるよう強く願っている。懐からサッとナイフを取り出し、
『ここに一本のナイフがある。良く切れるナイフだ……。武器のお手入れって大変よね。こう毎日だとイヤになっちゃうわ……というそこのあなた!』
ロリコン議長はナイフの実演販売を始めた。
それが聞きたかったとばかりに議員たちがグッと身を乗り出す。
「あれが噂の……」
「今ならなんと無料でもう一本と聞く」
「バカな。元は取れるのか……?」
アットム。行こうぜ。
俺は相棒に声を掛けて、会場をあとにした。
議長を迎えに行こう。予算は増えない。なら今ある金でやりくりするしかない。それを今から考えよう。
2.ロリコン聖堂
評議を終えたロリコン議長と合流し、ロリコン騎士団の元へ向かう。その道すがら、議長は早足で歩きながら憤慨していた。
「金、金、金……! もう、うんざりだ……!」
悲しいことに、それは評議会の総意だった。
もっと有意義な話し合いをしたいのに、何をするにも金が必要で、その金を誰が出すのかという話になる。……思うに、ロリコン評議会は組織として大きくなりすぎたのだ。
パイセンも大変っスねぇ。毎回あんな感じスか?
毎回あんな感じなのは知っていたが、俺は自分の整合性を保つためにロリコン界隈の素人でありたかった。
無駄な努力を続ける俺に、横を歩くアットムが「ふふっ」と微笑む。茶化すな。俺は自分の耳たぶを指差した。アットムが「おっと」と少しおどけて目を逸らす。俺とコイツは長い付き合いだ。人には言えない弱点を幾つも知っている。
ロリコン議長は大きく溜息を吐いた。
「……まぁね。リアルでもそうだろう? 何か大きな事件が起こって、ようやく世論は動く。世論に後押しされて承認が降りる。だが、それらは金さえあれば未然に防げるんだよ。闇バイトもそうだな。問題は何なのか、どこにあったのか、突き詰めていけば、やはり根源的には金だ。せっかく金を集めても無駄になるかもしれない。けど、無駄に終わらせることが最善なんだ。それは成果なんだよ」
アットムが異論を挟む。
「でも、先輩。僕には彼らの言うことも分かります。強い光は濃い闇を生む。僕には先輩が少し急ぎすぎているように思えます」
ロリコン議長も承知の上だろう。ウンと頷いて言う。
「アットムくん。君は正しい。騎士団を信じているんだね。けれど、私はそんな君のことも疑わなくてはならない。それが私の仕事だ」
「……僕が闇に堕ちると?」
「そうじゃない。私の疑いが友人の潔白を証明する手段の一つになる。私はそういう立場に居るんだよ。とても悲しく、そして厄介なことにね」
評議会でも言われていたことだが、ロリコン議長は騎士団の活動を全面的に支持する理解者だ。それは見方を変えれば騎士団を私物化できる、ということでもある。本当なら一定の距離を置いて陰ながら支援するのが最良なのだろう。だが、それでは間に合わないことが多すぎるのだ。
ロリコン聖堂は光の戦士たちの本拠地だ。
闇のロリコン撲滅を悲願に掲げる彼らは、事案発生に備えて日々の修練を欠かさない。暗黒神ロリータへの理解を深めるために瞑想するものや、剣で打ち合うもの、No Touchの精神を学ぶもの、様々だ。
ロリコン議長に敬意を払うロリコンは多い。一礼する彼らに議長は手を上げて労いの言葉を掛けていく。
「未来の騎士たち。私がクビになったらあとを頼むよ。もっとも私は相当しぶといがね。嫌がらせは得意なんだよ」
真面目なフリしてるけど、コイツら例外なくロリコンなんだよな……。
俺がそんなことを考えていると、凄腕のロリコンが俺たちを出迎えてくれた。
オーティンティン。
評議会の最大の戦力、ロリコン騎士団の一員にしてヤバいキャラネを持つ壮年の男だ。実妹に強い憧れを持つことから、ロリコン兄貴とも称される。
「議長。お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
先導するロリコン兄貴が、振り返らずにアットムに声を掛ける。
「アットム。また腕を上げたようだな」
アットムは騎士団のメンバーではないが、それは山岳都市を治める王族ティナンの覚えがめでたく、側近として重用されているからだった。
ちんこみたいな名を持つ男は、アットムの剣の師だ。剣の師というか剣士対策の練習相手で、それは騎士団のルールでは師匠と弟子という扱いになるらしい。
アットムとしてもロリコンの先達を蔑ろにはしない。
「マスター。……どうでしょう。最近は力不足を思い知る毎日です」
「良いことだ。力を得た人間は驕り高ぶる。それが自然なことだ。自信と慢心は同時に持て。慎重であれば良い。それだけのことだ」
禅問答かな?
正直、俺はアットムの師匠を気取るこの男があまり好きではない。アットムの師匠は大司教様だ。
ちんこみたいな名を持つ男も俺のことをあまり良く思っていないようで、歩きながらロリコン議長に苦言を呈する。
「議長。エロスの司祭に気を許すのは程々にするべきです。彼は異教徒ですよ」
ロリコン議長は苦笑した。
「そう言わないでくれ。彼は友人なんだよ。とても頼りになる。第一、私の解釈では、エロスはロリータの一面だ。古い神は幾つもの貌を持つ」
俺が仕えるセクハラ神様は、もっとも古い神の一柱。三柱神の一柱にして愛を司る神だ。
女なら誰でもいいという派手な教義を持つが、ロリキャラだけは別という扱いになる。つるぺたは趣味じゃないんだろう。
そこの部分をもう少し掘り下げると、キレーなチャンネー予備軍のちんちくりんに多少は優しくして点数稼ぎしとかんとマズいよね、ということになる。
しかし名を呼ぶことすら憚かられる男にとっては少し違うらしい。
「……私の解釈では、エロスは愛を騙る邪神だ。ロリータとは対立関係にある」
おん? 兄ちゃんよぉ。あんまセクハラ神様に上等くれてっとひき肉にしちまうよ?
ぴたりと立ち止まったロリコン兄貴がこちらを振り返ってニヤリと笑う。言った。
「ちょ、ちょ、ちょんまげ〜?」
ひき肉です!
じゃないのよ。やらせんな。アットムくんとか元ネタ知らんだろ。
アットムくんはニコニコしている。やはり知らんらしい。ネットミームに疎い男である。
3.ロリコン聖堂-ロリコン反省室
ロリコン騎士団で重要な会議をする時、マスタークラスのロリコンたちは反省室に集まる。
元々はNo Touchの精神に反した同胞を懲らしめる為の部屋で、指導の一環として剣術を教えることもあった為、学校の保健室くらいの広さはある。
俺はホワイトボードをごろごろと持ってきて、主要なロリコンが全員揃っていることを確認した。
えー。それではロリコン会議を始めます。
今日は議長も来てくれてるぞ。お前ら拍手!
わァっとちいかわみたいな歓声を上げたロリコンたちがパチパチと拍手した。
これは、とあるVRMMOの物語
なんでお前がシキるんだよ。
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