命の歌
1.クランハウス-居間
赤カブトと一緒に昼メシを食べていると、ログインしてきた半端ロリがいきなり宣言した。
「クラスチェンジしてくる!」
え? クラスチェンジって猟兵か?
いや、なんか散歩に行ってくるみたいなノリでさらっと言うけど難しいだろ。
スズキはうきうきした様子である。
「んとね、今ね、街に行くと狩人パーティーっていうのがあるんだよ」
ああ、猟兵にクラスチェンジするための集まりってことか。それは知らなかったな。
だがスズキよ、俺も猟兵のクラスチェンジ条件くらいは聞きかじってる。後衛だけじゃ厳しいだろ。
猟兵にクラスチェンジするためには幾つかの手順を踏まなければならない。
具体的にはブーンに攫われたパーティーメンバーの救出だ。
仲間を攫ったブーンを見失わないよう追っていくと、特別なマップに入る仕組みになっている。ブーンを従える巨鳥ワッフルの巣である。
【スライドリード(速い)】を使える近接職とブーンを一掃できる魔法使いの助けが要るだろう。まぁ魔法使いはここに約一名居るわけだが。
あんぐりと口を開けてパスタにかぶりつこうとしていた赤カブトが、俺とスズキの注目を浴びてぴたりと動きを止めた。迷った末にひとまず食うことにしたようだ。パスタを口に突っ込んでもぐもぐと咀嚼する。
赤カブトさん待ちの俺らに、ミニスカローブは照れ臭そうに毛先をいじり始めた。
「……猟兵って狩人の偉い人だよね? どうやって出世するの?」
相変わらず物を調べるってことを知らねえ女だな。
すると赤カブトは不服そうに口を尖らせた。
「分からないことがあればその場で聞けばいいって先生は言ってくれたもん」
先生が。なら仕方ねえな。
俺は赤カブトに猟兵のクラスチェンジ条件を教えてやった。
赤カブトは瞳を輝かせた。
「なんか面白そう! 私も一緒に行っていい?」
だから一緒に来いって話をしてるんだよ。
俺も行くぜ。クランメンバーの転職をフォローするのはネトゲーマーに受け継がれてきた伝統だからな。
窓ガラスを突き破ってロン毛の黒コートが乱入してきた。セブンだ。床をごろごろと転がってしゅたっと立ち上がる。早くも血塗れになった効率厨が「ふん……」と鼻を鳴らして俺らを睥睨する。
「話は聞かせて貰った。俺も同行しよう。お前は、崖っぷち?」
ブッ殺すぞ。玄関のドアを開ける手間を惜しむんじゃねえよ。
何しに来た。帰れ。
「時間が惜しい。次の段階へ進もう。近接職の当てはあるのか? ないな? そうだろうと思い俺が連れて来た。メガロッパだ」
窓枠を乗り越えて入って来た宰相ちゃんが床に散乱したガラスの破片をテキパキと掃除していく。
セブンはアホだが腕は確かだ。国内サーバー最高峰の弓取りの一人だろう。猟兵の第一人者でもある。
時間が惜しい。それはその通りだ。ウチの子のクラスチェンジを手助けしてセブンに何の得があるのかは分からないが、舞い込んだチャンスをみすみす見逃す手はない。ちんたらしていたらこの男は普通に帰りかねない。
よし、行こう。おい、メガロッパ、何をグズグズしてる。掃除なんて帰ってからやればいい。そんなものは後回しだ。お前んトコのサブマスターが次の段階に進むって言ってるんだから従えよ。
「効率バカが二人……」
俺は効率厨じゃねえ。効率を重視する時もあるってことだ。
話は歩きながらでもできる。行くぞ。
俺はウチの子たちを引き連れ、窓枠を乗り越えて外に出た。
セブンと肩を並べてさくさくと森を歩き、二人揃って仲良くブーンに攫われた。
「ぺ、ペタさん!?」
「コタタマー!」
「死に損ないが二人……」
どういうことなんだよ。ハイペースにも程があるだろ。
くそっ、ブーンの蹴爪が肩にガッチリと食い込んでやがる。
ブーンを撃ち落とすべくスズキが矢を放つが、【スライドリード】で急加速した矢群をブーンは空中で錐揉み回転して振り払った。こいつアニメの戦闘機みたいに動きやがる。殺人メリーゴーランドを強要された俺の意識は一瞬で途絶した。
2.ワッフルの巣
目を覚ますと、そこは既にワッフルの巣であった。
【警告!】
【レイド級ボスモンスター接近!】
接近つーか目の前に居んのよね。
デカいブーンである。もうね、マジガンダムだわ。
ワッフルがぐりっと目を動かしてゴミの俺を見下す。全身から命の火を放っており、まるでフェニックスのようだ。
巨鳥ワッフル。まぁ最強のレイド級ということになるのだろう。
地獄のチュートリアルで初日組はワッフルを打破したが、その時ワッフルは【NAi】に死ぬまで戦えと命じられていた可能性が高い。つまり普通に戦ったらゴミどもと永遠に戦う羽目になりそうだったので、ワッフルは手を抜いたのだ。
ひしめくブーンがぢょんぢょんと大合唱している。
デカい巣である。本能によるものか木の上に巣を作らねば気が済まないらしく、木がへし折れないようブーンたちが幹に密着して支えている。
雛が三羽。ワッフルのお子さんだろうか。俺を虫か何かと勘違いしているらしく、ちょこちょこと寄って来て俺の身体をついばみ始めた。
セブンも目を覚ましたようだ。
「ちィ……」
ちィじゃないよ。
お前の所為だぞ。お前は死鳥に魅入られた男だ。俺は巻き添えを食った。そうに決まってる。
「いいや、お前だ。一日に一回は死ぬ男に言われたくない。巻き添えを食ったのは俺だ」
何をっ。このっ。
俺とセブンは取っ組み合いを始めた。
Gyooon……
ワッフルが鳴いた。
俺たちの鼓膜が破れた。
両耳から血を垂れ流している俺とセブンをワッフルはじっと見下ろしている。
俺とセブンは目線を交わし、ひとまず雛のふりをすることにした。
ぴよっ。
ぴよぴよっ。
今日からここの子になります。よろしくお願いします。
俺とセブンはワッフルのお子さんに頭を下げた。
死んで堪るか。生きて帰るんだ。
俺とセブンの雛生活がスタートした。
これは、とあるVRMMOの物語。
死に魅入られた男が二人。互いに互いを引き立てる。そして死ぬ。
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