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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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殺すKAKUGOのオンライン

 1.ティナン姫の屋敷-地下牢


 トップクラン【敗残兵】のスーパールーキー、メガロッパの容姿を一言で表すなら霊感少女って感じだ。

 長い黒髪。【目抜き梟】代表のリリララほどではないが、腰に届くくらいの長さはある。前髪で目元が隠れている。あれだ、ギャルゲーでヒロインが十人くらい居たら一人はこういう感じだよな。自分に自信がないから素顔は隠してるけど実は美少女っていう。男の独占欲に訴えかけてくるタイプ。

 まぁ好みは人それぞれだ。よその子のキャラクリに口出しするつもりはない。だがリアルっちゃリアルかもな。この子も【敗残兵】の一員である以上、立派な廃人の一人であることは確実。まともである筈がない。

 職業は読めねえな。武器は持ってないし、飾り気のないワンピースを着ている。鎧に頼らない近接職も普通に居るし、今日はたまたま私服ってことも考えられる。


「う〜……」


 俺の先制セクハラにしゃがみ込んだメガロッパは恨めしげに俺を見上げている。

 だが、これはゲームだ。プレイヤーには性別を選ぶ権利があり、女キャラを作った以上はセクハラされる覚悟あってのことと俺は見なす。

 前髪越しに伝わる非難の眼差しを俺は真っ向から受け止めた。もるぁっ。威嚇の声を上げて宰相ちゃんを牽制しつつ、コニャックに目を向ける。


「コニャック。どうしてコイツを連れて来た? お前はウチのクランメンバーの面会も断ったと聞いてるぞ」


 コニャックは人間同士の遣り取りに強い興味を抱いているようだ。そわそわと身体を揺すっている。


「ん? ああ、いや。私も役所勤めのティナンだからね。姫様の言うことは絶対さ」


 姫さんが? さすがにトップクランのクランメンバーは別ということか。まぁそれはそうだろうな。マーマレードはガムジェムをプレイヤーに集めさせると言っていた。


「そもそも君はここを出ようと思えばいつでも出られる。メープル殿下にはセシル、いやアットムか。アットムから説明があったようだし、マーマ殿下もあまり怒ってはいない」


 そうかい。だが出て行くつもりはねえぜ。生憎と俺は全プレイヤーから追われる身でな。幾らか期間を置けば状況も変わるだろう。それまでは世話になるつもりだ。


「ううむ。自ら望んで牢獄にとどまる者が居るとは。人間とは本当に興味深い……」


 リアルでも食い詰めたやつが捕まるために盗みをやったりするからな。珍しいことじゃないさ。

 コニャックは宰相ちゃんの接待に入った。くるくると踊るように立ち回り、宰相ちゃんに椅子を勧める。


「さ、さ、座って。あ、私のことは気にしなくていいよ。立ってるのが好きなんだ」


 何だそれ。そんなことないだろ。じゃあ何でここに椅子があるんだって話になるぞ。何を浮かれてやがる。そんなにゴミとゴミの会話に興味があるのか? よく分からないやつだ。

 おい、しかも俺の紹介を始めたぞ。


「この子は私のお気に入りでね。とてもお喋りなんだ。たまにヤラシイ目で見てくるけど挨拶のようなものさ。気にしなくていいよ。コタタマっていうんだ。人間の中でもかなりの変わり者かもしれない。君たちの言葉を借りればレアリティが高い個体という訳だ。さ、コタタマ。挨拶して」


 オハヨウ! オハヨウ!

 俺は挨拶した。


「よしよし、こっちへおいで」


 俺は鉄格子に張り付いた。


「よーしよしよしよし」


 俺はうまく挨拶できたのでコニャックに撫で回された。

 もるるっ。ひとまず喜びの声を上げてから、俺はコニャックの手を振り払った。ペットか! しかし首根っこを掴まれて逃げられない。なんてパワーだ。やはりティナンは人間とはモノが違う。

 俺はコニャックが満足するまで撫でくり回された。


 解放された俺は定位置に戻ってクールに座り込んだ。片膝を立てて片腕を引っ掛けるいつものポーズだ。宰相ちゃんをちらりと一瞥して鼻を鳴らす。


「で? 俺に何の用だ?」


 宰相ちゃんは椅子の上に体育座りしてメモ帳を開いている。膝を下敷きにすらすらとボールペンを走らせているが、ここからでは何を書いているのか見えない。


「監視です。私はサトゥさんからお前を見張れと言われてますから」


 は? 牢屋に入ってる俺を監視してどうするんだよ。

 宰相ちゃんはメモ帳に視線を落としたまま淡々と答えた。


「じゃあ聞けば答えてくれるんですか? あの壁に刺さってる武器は何? 状態異常を引き起こすという話ですが……それがデサントの特殊能力なんですか?」


 クラスチェンジ条件は掲示板に流れたんだろ? 自分たちで調べろよ。誰でもいいからクソ虫側に回せばいいだけの話だ。


「それほど簡単な話ではありませんよ。【ギルド】は基本的にプレイヤーをティナン側と見なしています。潜入に成功したメンバーも居ましたが、行動を監視されて追放されたようです」


 そうか。じゃあ取り引きしろ。クソ虫に利益があれば追放はされない筈だ。


「それが難しいんです。私たちは一時的にデサントになれればいいとは考えていません。それでは後が続きませんから。安定供給のルートが欲しいんです。それに、迂闊なことはできない。追放というのは、永久追放です。一度でも裏切ったプレイヤーを【ギルド】は決して信用しません。あいつら、データを共有してます」


 ちっ、つまり結局は敵を増やすだけなのか。やけに厳しいな。いや、そうでもないのか。環境さえ整えば一時間足らずでクラスチェンジできる。だが……。


「そういうことです。おそらく最終的にはデサントの交換で話がまとまるでしょう。しかし【ギルド】側に付くプレイヤーが少数派であることは考えるまでもなく、あちら側のデサント候補者は早々と枯渇するでしょうね」


 デサントのクラスチェンジ条件は、敵対勢力に属する戦闘職とのパーティー結成だ。

 互いに戦闘職を出し合って候補者にパーティー申請を飛ばせば、両方にデサントが同じ数だけ生まれることになる。……いや、違うな。クソ虫側のプレイヤーは戦闘職を攫ってきて脅せばいい。ティナンがプレイヤーを管理下に置くのは無理だろう。宰相ちゃんには何か考えがあるのかもしれない。

 ……クソ虫には狙撃がある。おまけに神出鬼没だ。行動不能時には自壊し、何度でも復活する。プレイヤーと似た特性……。やはり異世界の人たちなのか。ただしこちらはRPGなのに、あちら様はFPSだ。動きにムラがなくバラつきもない。FPSと言うよりは用意されたミッションに参加して移動はオートの狙撃ゲーなのかもしれない。ひょっとしたら今頃は向こうでも似たようなことを考えてるのかもな。ゴミとゴミが互いに腹を探り合っている。

 せっかく合体できるようになったのにウサ吉にまとめて粉砕されたからな。今思うとあれは年越しイベントでマールマールさんに一歩及ばなかった俺たちと似たような状況だった。無理ゲーであることをヤツらも嘆いているのか。

 いずれにせよ、クソ虫どもの監視の目を逃れるのは難しいかもしれない。


 なるほどな。面白い話だった。

 俺は宰相ちゃんに情報を提供することにした。

 デサントの【戒律】についてはどこまで分かってる?


「何も」


 そうか。一つは分かったよ。デスペナルティの倍加だ。自然回復も時間が掛かったな。

 装備制限に関しては試してないが、鍛冶屋の延長であることを考えれば多分ないと思う。少なくとも刃物は装備できた。

 

「……まるでボーナスキャラですね」


 悲しいが、そういうことだ。戦車随伴歩兵ってのは死傷率がひどかったらしいな。そこから来てるのかもしれない。デスペナルティの倍加……。デサントを一人殺せば二人殺したのと同じ効果が得られるって訳だ。

 それだけ言って、俺は経験値稼ぎを始める。宰相ちゃんはひたすらメモを取り続けている。

 コニャックが「えっ」と驚きの声を上げた。


「それだけ? もっと色々とお話ししようよ。私は今とてもわくわくしてるぞっ。ほらほら、どんどん喋って?」


 何なんだよ。完全に動物園の飼育員のノリじゃねえか。

 コニャックにせっつかれて、宰相ちゃんが渋々とペタタマくん(人間・オス)に話し掛ける。


「コタタマさん。私はお前をライバルだと思ってます」


 新人風情が何言ってやがる。


「私はトップクランのメンバーですから。攻略組の一ヶ月はミドル層の五ヶ月に相当します。すぐに追い抜いてしまうでしょうから、攻略組でもないお前をライバル視するのは私にとって屈辱的なことです」


 なんかさっきから言葉に棘があるな。お前呼ばわりも気に入らねえ。

 何なんだよ。言いたいことがあるなら言えよ。


「負けは負けです。私はお前に負けました。なので、お前を格下と見るのは甘いと。マスターが」


 ああ、バレンタインイベントの件か。

 そりゃあお前は悪くないんじゃねえか? 俺が言うのも変だけどよ。味方に足を引っ張られたんじゃ仕方ねえだろ。


「いいえ。あの六人は特別なんです。私たち【敗残兵】のメンバーは、彼らに雇われているようなものです。その自覚が私には欠けていた」


 そんなもんかね。まぁよその家の台所事情に口出しはしねえさ。お前がそう言うならそうなんだろう。

 しかしライバルって言われても困るぜ。あの時は何となく流れで俺が頭を張ったが、俺は廃人じゃねえからな。お前に雪辱の機会が訪れるとは考えにくい。つーか俺もモグラさんチームの一員だし、仲良くやって行こうや。な?


「嫌です」


 にべもない。自称ライバルが増えてしまった。もるるっ……。


「ああ、言い忘れていましたが」


 俺が悲しげに鳴いていると、不意に顔を上げた宰相ちゃんがくるりとペン回しをして失敗した。カツンと床にボールペンが落ちる。

 宰相ちゃんは床に転がったボールペンをしばし見つめてから、何事もなかったかのように続けた。


「先生が処刑されるようです」


 顔真っ赤だぞ。大丈夫か?


「うるさいです!」


 吠えるな吠えるな。

 ……ん? 先生が何だって? 今なんて言った?


「処刑です」


 コニャック。世話になったな。

 俺はコニャックに別れを告げた。

 旅立ちの時が来たようだ。

 悲しいぜ。俺はプレイヤーを皆殺しにしなければならないようだ……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 今日は死ななかった。



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先生に手を出すことは決して許されない
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