圧倒的な面接
1.黒星-ベムトロン邸-会議室
動画作成のアシスタントを募集している。
金は出さんが、クロホシの住人は暇人ばかりだし、性格的に配信はやらないけど配信活動そのものに興味はあるってヤツは居るんじゃないか。【目抜き梟】の外部スタッフがそんな感じなんだよな。あとは技術的なことを実地で学んでゆくゆくは独立したいってヤツとかね。俺としてはさっさとクロホシを出て行きたいので、三の矢、四の矢を用意したほうが有利な気がしている。
書類審査とかダルいので、興味があるヤツはウチに来いと募集を掛けてライブ配信をしている。
面接官は俺とベムやんだ。
朝から叩き起こされておねむのベムやんがうつらうつらと舟を漕いでいる。
「なん……なんだ……? これ、何やってるんだ……?」
強制コラボである。
リアルでは身バレからのリア凸で警察沙汰になりかねんので、こんな無茶はできないが、ゲームでそこまで気を遣う必要などあるまい。
俺は炎上系クロホシチューバーなので、どんどんヤバいことをやって行こうと思う。なーに、謝ればベムやんは許してくれるさ。俺は味を占めていた。
俺は配信中であることは伏せてベムやんに説明した。リスナーへの説明もできて、一石二鳥だ。
ちょっと触ってみて思ったんだけどさ、こっちの配信って地球のそれとはだいぶ勝手が違うんだよな。ベムやんの言う【聴衆】の性質を利用する感覚は大体分かったけど、どこまでやれるのか分からん。技術的にそれは無理でしょとか、そういう線引きの感覚が俺の中にまったくないワケよ。しかもこれ人によって違うよな? 俺は身体の近くで金属片を扱うのが得意なタイプなんだよ。俺なりに色々と研究して、そういう……ギルド的な系統っつぅの?が関わってるんじゃないかと思ってね。
おねむなベムやんが「んー……」と相槌らしきものを打つ。俺は続けた。
系統は変わらんだろ。ならアシスタントを雇えば単純にできることが増えるんじゃないか? 俺には無理だけど、遠隔でカメラを操作したりとかさ。あとは演出かな。で、雇ったアシスタントはこっちに通って貰うことになるからな。家主のベムやんにも一緒に面接して貰おうってワケよ。
俺が説明している間にベムやんは幾分シャッキリしてきた。
「まぁ……そうかもな。でも来るかなぁ? お前、評判が悪いぞ」
そこはベムやんの人徳に期待してる部分もあるよ。威を借りるようでスマンが、こればっかりはな。ベムやんも薄々勘付いてると思うけど、俺はあんたの直系だ。だからあんたも俺をここに置いてくれてるんだろ?
「フン……。まぁな。分かるさ。私は七土だ。ギルドの力を人間が完全に使いこなすことはできないだろうが、感覚器が発達していたほうが自分なりの解釈は進む」
七土種族にも得手不得手はあるが、地球人よりも感覚が鈍いということはないだろう。索敵能力は生存率に直結する要素の一つだ。
ベムやんのことだ。俺が無断で配信していることに勘付いたかもしれない。怒られるかな?と思ったが、彼女は特に気に留めた様子がない。オイシイと考えたのかもしれない。撮れ高チャンスだと。
ベムやんは配信にどハマりしていた。
俺は彼女のリスナーの反応を意識してベムやんの貴重なオフショットを狙っていく。
まぁ気楽に構えてくれ。イキナリ何十人も押し寄せることはないだろう。あったとしても捌ききれないようだったら後日に回せば済む話だ。
ベムやんがだらしなく上体を寝かせる。頬を長テーブルに押し付けて、「眠い……」とボヤく。遅れて今初めて気が付いたように自分の露出した二の腕を見て言う。
「面接……。面接か……。この格好じゃマズいか?」
そこは任せる。
ベムやんは就寝時に色っぽいネグリジェを着用するのだが、さすがにそのままだと哀れなので、部屋を出る前に床に脱ぎ捨てられていたラフな部屋着を着るよう申し付けておいた。部屋の外で着替えるのを待っていると勝手にベッドに戻ろうとするので多少手こずったが。
「まぁマズいか……」
一人で結論を出したベムやんが教室で居眠りする体勢のまま、片手を上げて金属片を操る。イヤ金属粉か。黒い粒子がベムやんの肢体を取り巻き、たちまち街に繰り出しても恥ずかしくない程度の装いとなる。
俺にはちょっと真似できそうにない。こういうことをサラッとこなす辺りにギルド堕ちとしての歴の違いを感じる。
おお……スゲーな。それ俺にもできるのか? 着の身着のままコッチに来ちまったから着るモンがろくにねーんだ。
「どうだろう……。こういうのはセンスだからな。それよりも……こっちにも服屋はある。あとで連れて行ってあげる」
他人の服を金属片で作るってことか? そんなヤツも居るのか。
「外じゃあんまり必要ないワザだからな。力の総量はレベルで決まる。が、それだと説明が付かない現象もある。そういうのを【技能】と呼ぶんだ」
……技能で作った服は力の総量に影響しない? それは……そうか、ギルドは滅びない。つまり無限の力を持っている。だからこそ正体が分からないんだな。
その調子でしばし雑談していると、ベムやんが不意に姿勢を正した。お、誰か来たか?
ベムやんの家には用途が不明な部屋が幾つかある。今俺たちが居る会議室もその一つだ。まぁベムやんはギルド堕ちの代表的な人物の一人だから、家を集会場に使われているのかもしれない。
その会議室のドアがバーンと開いて、一人の女性がズカズカと乗り込んできた。
「ベムトロン様! その女を今すぐココから叩き出すんですよ! さあ! 早く!」
その女とは俺のことだろう。整形チケットが使えるのに野郎の姿のまま配信するのは単なる時間の無駄である。
ベムやんはキリッとしている。フッと微笑し、
「お前か……」
この女……!
俺は察した。ベムやんがカッコ付けている。俺の前では割とだらしないベムやんだが、それは俺が箸にも棒にも掛からない星人だからという側面がある。
ベムやんがサッと椅子を立ち、手のひらをバンと長テーブルに叩き付ける。言った……!
「ここに来たということは私の下で働くつもりがあるということだな……!?」
俺を追い出すつもりでここに来た女が激しく動揺した。
「えっ、あっ、も、もちろんです!」
結局は同じこと……! 俺の下だろうが……ベムやんの下だろうが……!
女は混乱している。同居人を追い出すよう直訴しにくるような人間が、マトモな精神状態をしているハズがないのだ。
突如として始まった面接に女がおっぱいの前で手をグーにして自己PRをする。チラッと俺を見て、
「お役に立てると思います! 私、変身できるタイプなので……!」
変身できる種族……!
「脳みそカバーもできます! 念力効きません!」
脳を保護する機能……!
腕をバッとクロスした女が誇らしげに叫ぶ。
「PKディフェンス!」
ニヤッと笑って俺を見る。
……そこはかとなく見下されているような気もするが……まぁ……使える……!
鼻を鳴らしたベムやんが肩に掛かった長い髪をサッと指で払う。
「そのことが編集作業と何の関係があるッ!」
ない……!
編集作業は根気の要る作業だ。途中で勝手に変身されて餓死されても困る。困るが、変身できないよりはできたほうがいい……!
しかし女はベムやんの言葉に衝撃を受けたようだった。
「ああっ!」
フラついて、その場にひざから崩れ落ちる。
「わ、私は……目先のことに囚われてっ……! そこの女に負けじと、それしか……それしか考えていなかったッ……!」
嗚咽を漏らす女をベムやんが厳しく叱咤する。
「立て! キサマは女だろう! 女は涙を見せてはイカン! 女の涙に騙されるような男は薄っぺらだ! そのような無様な男はキサマにとって何の足しにもならん!」
俺はお口チャックした。言いたいことは山ほどあるが、勢いだけで喋っているようなことに反論しても時間の無駄である。
目尻に浮かんだ涙を拭いさった女がグッと立ち上がる。その瞳には闘志が燃えていた。
「私はっ……! 私は泣いていません!」
いいや、泣いていた。口出しはしないが。
女が腰を直角に曲げてお辞儀した。
「私をここで働かせてください! 編集なんてやったことないし興味もありませんがココで引き下がったら私は……私は負け犬じゃないッ!」
熱意だけで押し切ろうとしてくる女に、ベムやんがニヤリと笑った。
「よかろう! 正直言って誰でもいいしなッ!」
誰でもいいってことはないが……。
ベムやんが事後承諾でチラッと俺を見てくる。俺はコクリと頷いた。
誰でもいいということはないが……女なら誰でもいい。
採用ッッッ!
これは、とあるVRMMOの物語
名前も知らない女、inッ!
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