……闇……
1.ティナン姫の屋敷-地下牢
薄暗い地下牢を二人の女が歩いている。
一人はティナン。もう一人は人間だ。
左右の座敷牢に押し込まれている囚人が鉄格子にしがみ付いて目の前を通り過ぎていく女二人を目で追う。
「女っ……! 女だっ……!」
「眼福もる」
「ありがたや、ありがたや……」
女日照りの日々に心が病んでしまったらしく、拝む者まで現れる始末である。
圧倒的な感謝に高校生くらいの女が小さく悲鳴を上げる。
「か、彼らは……?」
「政治犯やテロリストだよ。ここに居る理由は……分かるだろ? 彼らには聞きたいことがたくさんあるんだ」
飄々と答えたのはティナンにしては育った女だった。中学生くらいに見える。
彼女の名前はコニャックという。ティナン姫の直属の部下であり、捕縛したプレイヤーの尋問を担当している。おそらく山岳都市で最もプレイヤーの生態に詳しいティナンだ。
コニャックが囚人を見つめる瞳には狂おしいまでの愛情がある。
「イマリン。今日も綺麗だよ。切れ長の瞳がとてもクールだ。パンテッラ。もる語がキマってるよ。今日も可愛らしい鳴き声を聞かせてくれるんだろう? メルメルメ。反対から読んでもメルメルメ。君は長身の女性が好みなのかな? 正直意外だ。君たち人間は神秘に満ち溢れているよ。驚くほどに」
コニャックの隣を歩く女……。【敗残兵】のクランメンバー、メガロッパは少し怯えた様子でコニャックを見ている。牢に繋がれた囚人と親しく接する白衣のティナンに異質なものを感じたのかもしれない。
「……思ったよりも警備は厳重ではないんですね。逃げられませんか?」
「逃げるさ。逃げる。特に……キャラクターデリートを利用した脱走を防ぐのは困難を極める。死に戻りも厄介だ」
コニャックはあっさりと認めた。
「しかし彼らとしてもそれは避けたいらしくてね。解放を見返りに幾つかのテストに付き合って貰ってるのさ」
一部の凶悪犯を地下で飼っている理由がそれだ。
情報は漏れる。だが知らないことは喋りようがない。勅命の力を持つ王族の近くに置かなくては管理しきれないという面もあるだろう。軽犯罪とは訳が違う。脱獄するしか生き残る道がない。けれどプレイヤーは死んでも生き返るから、互いに妥協点を探っていくことになる。
地下牢を奥へ進んでいくと、見るからに雰囲気が異様になっていく。座敷牢は途切れ、石を敷き詰められた壁に点々と武器が突き刺さっている。
「これは……?」
気にするなと言うほうが無理だろう。メガロッパの足が鈍る。
コニャックは振り返らずに答えた。
「壮観だろう? これは彼がやったんだ。いつでも逃げられる、そう言ってるのさ」
二人は地下牢の奥に居る人物に用があるようだ。
それでは困るとメガロッパが非難の声を上げる。
「やはり警備が甘いのでは? せめて見張りくらいは……」
「無駄だよ。どうやって魔石を調達しているのかも分からない。おそらくは内通者が居る。だが逃げない。牢の中が一番安全だと理解しているんだ。悪知恵が働く子だよ。凶暴で……しかし感情を抑えるすべも持っている」
コニャックは後ろを付いてくるメガロッパの動きを把握しているようだ。壁に刺さっている武器におそるおそる手を伸ばすメガロッパに忠告を飛ばした。
「ああ、触らないほうがいい。術式を組み込んであるらしく、中には状態異常を引き起こすものもある」
「えっ……!」
メガロッパは慌てて手を引っ込めた。
地下牢はそれほど広くない。話している間に一番奥に辿り着いた。
突き当たりがそのまま牢になっていて、他の囚人とは明らかに扱いが違う。地下牢の出入り口から監視ができるという徹底ぶりだ。
牢の中を覗き込もうとしたメガロッパが悲鳴を上げた。急に寒気に襲われたかのように自分の身体を抱き締めてしゃがみ込む。
コニャックは頬を赤らめつつも慣れたものと言わんばかりに白衣の前をキッチリと締めて、
「ふふ。最近ではもう女と見ればお構いなしだ」
座敷に片膝を立てて座っている男がつまらなそうに鼻を鳴らした。
「……午後から新術の開発に付き合うっていう話じゃなかったか? コニャック……」
そう、俺である。
これは、とあるVRMMOの物語。
新章突入の新キャラみたいに出てきた。
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