ボス、ピエッタ
1.マールマール鉱山-ピエッタの隠れ家
鍛冶師の二次職、デサントの研究をしている。何ができるのか、だ。
ネットで調べてみたところ、デサントというのは随伴歩兵という解釈が近い。タンクデサントで戦車随伴歩兵だ。もちろんこのゲームに戦車なんてない。あったところで動く棺桶にしかならないだろう。【全身強打】の魔法を使えば乗組員を狙い撃ちできるからな。
しかしわざわざデサントという一般的ではない言葉を当てている。儀仗兵しかり、何かしらの意味があるのではないか。
つまり戦闘工兵じゃいかんのか? というような話をしてみると、俺の可愛いアッガイ一号機はもきゅっと首を傾げた。
おお……。あ、いや、ちょっと難しかったか? ゴメンな。もう少し具体的な話をしよう。
早い話が【スライドリード(速い)】使えなかったんだよ。そう。ばってん。ダメだった。俺、聖騎士も触ったことあるからさ、分かんのね。じゃあ何ができんの?っつー話になるよな。一通り試したんだけどさ、鍛冶と細工なんだよ。製薬は無理だった。
ヤバいよなぁ。これってさ、近接職について行って死ねってことだぜ。自衛手段がないんだよ。
ん? 【戒律】か? いや、【戒律】は試してねえんだ。下手に冒険して解雇食らったらそれまでだからな。現状、デサントに戻る手段がねえ。
ただ、まぁ【戒律】ってのはノーヒントじゃねえからな。理に適ってる。例えば準隊士の装備重量制限は規律の表れだ。
マールマール相手にやったゴリ押し戦法な、ありゃあ準隊士を基準にするしかねえ。サトゥ氏なんかは準隊士のキルペナルティ制限を嫌って基本職をメインにしてるが、普通に遊ぶ分には準隊士ってのは戦士の上位互換だからな。
そういうことなんだよ。【戒律】ってのは全職にのし掛かるんだ。
「っていう話をね。一号機ちゃんとしてた訳よ」
「ふーん」
ピエッタ、一号機と一緒に晩メシを食べている。
一家の大黒柱、ピエッタさんは今日もプレイヤーの有り金を巻き上げて来たらしく、お疲れの様子だ。そこで俺は一号機とイチャつきながらピエッタさんにあれこれと話題を提供している。
なお、ピエッタを相手に演技をするのは疲れるので早々に正体を打ち明けてある。詐欺師ってのは大なり小なり心理学に通じてるからな。ターゲットの細かい仕草を把握していたりと面倒臭い人種なのだ。
ピエッタは味噌汁を啜りながら箸で一号機を指した。行儀悪ぃなぁ。
「そのガンダム、スパイなんじゃねえの?」
ガンダム? いや、アッガイだよ。ガンダムじゃないよ。アッガイだよ、ピエッタさん。
ピエッタはぽかんとした。
「は? いや、ガンダムだろ? なんかプラモとかになってるじゃん」
え? ちょっと待ってよ。もしかしてガンダムに出てくるMS全般を指してガンダムって言ってるの?
いや、あり得ないでしょ。そんなことってある? え? ガンダム知らないの? そんな人居るの?
よしんばザクならいいよ。ザクなら流したかもしらん。あんまり詳しくないんだな〜で済ませたと思う。それで終わった話よ。でもガンダムはねーよ。ガンダムってお前。タイトルじゃん。タイトル言っただけじゃん。
お前な、ピエッタ。お前、竜田揚げを唐揚げって言うようなもんだぞ。あり得ないから。これにはペタタマさんも苦笑だぞ。
「竜田揚げは竜田揚げだろーが。知らねーよ。要はロボットだろ」
要はロボット? 今、要はロボットって言った?
全っ然違ぇーよ!
あのなぁ、ガンダムは殴り合ってどっちが強いかって話じゃねーんだよ。
よくアムロが最強とか言われてるけど、それはアマチュアの物の見方な訳よ。飽くまでも同条件で戦ったらの話でしかないし、同条件なんてのは現実的じゃないんだよ。コンディションが良いほうが生き残るっていう、ただそれだけの話なのね。もしもシャアがパイロットに専念したらアムロに勝ってたよ。当たり前じゃん。あれはそういう話だからね。
「うぜぇ。どうでもいいよ。で、そこの……ザクか? ザクな。ザク、お前スパイだろ」
あ、ちょっと前進した。こういうの地味に嬉しいんだよな。布教に成功したわ。
一号機はもきゅっと首を傾げた。
だがピエッタさんに絆された様子はない。鉄の女だ。
「さっき崖っぷちが言ってたこと。デサントの件、掲示板に流れてたぞ。確実に横流ししてるだろ」
そんなの分からないじゃん。ネフィリアがその気になればデサントは増やせる。まぁネフィリアの性格上、それは考えにくいけど。
戦績発表でクソ虫との同盟って項目があったろ。ネフィリアのフォロワーは確実に一定数居る筈だ。
「一朝一夕でどうにかなるもんじゃねーだろ。つーか、なんで私がガンダム養ってんだよ」
なんで後退した? ガンダムじゃねーって言ってんじゃん。
第一、スパイかどうかなんて問題じゃねーんだよ。
あんま言いたかねーが、ピエッタよ。俺は騙す騙さないで人を見る。俺にとってアッガイは騙したくない存在だ。騙すと俺の繊細なハートが悲鳴を上げる。分かるか。俺が損するんだよ。
だからピエッタ。お前が言ってることは、俺が話すと決めた時点で終わったことなんだよ。スパイかどうかなんて二の次だ。いっそ興奮するわ。
「そんなだからお前は崖っぷちだの言われるんだよ。綱渡りですらもうちょっと安全に気を遣うぜ」
俺は命綱を握る側の人間だからいいんだよ。ハサミ持ってたほうが盛り上がるだろ。お前が俺をどう呼ぼうと勝手だが、人前で崖っぷちって呼ぶのはやめてくださいね。
すると性悪似非ティナンはニヤッと笑った。
「どうすっかな〜。うっかり口が滑っちまうかもしれねーな〜」
この似非ティナンが俺を匿ってるのは俺をいたぶるためだ。返す返すも性根が腐りきった似非ティナンである。
食器を片付けた俺は屈辱を噛み締めながらソファに座って膝をぽんぽんと叩いた。
そら来たとソファに寝そべったピエッタが俺の太ももに頭を乗せる。
「ああ、いい気分だぜ。ニジゲンの気持ちが少し分かる。崖っぷち〜。テメェは私に逆らえねぇんだ。今どんな気分だ? ん?」
べっつにぃ〜。役得なんじゃないスかね〜? ピエッタさんちっさくて可愛いですし〜。豆粒かよっつー。
俺の悪態も何のその、ピエッタはうとうとしている。ふん、黙ってりゃ愛嬌あるんだがな。俺はガキンチョに興味はねえが、利口なガキは嫌いじゃない。将来性があるからな。
「崖っぷち……。明日から私と組め。いつまでもタダメシ食ってんじゃねーぞ……」
だからといって俺に詐欺の片棒を担がせるほどの利口さは求めてないんだけどね。そこまで行くと世間では可愛げがないって言うのよ。もるるっ……。
俺は悲しげに鳴いて一号機の肩にこてんと頭を倒した。
2.翌日
ペタタマくん五歳に身をやつした俺は、悪名高きピエッタさんとタッグを組むことになってしまった。
もちろん俺は他人様から金を騙し取る詐欺行為を唾棄すべき所業と考えているが、脅されたので仕方なかった。
だが内心笑いが止まらなかったのは否定しきれない事実だ……。左うちわ……それもまた一面の真実であると認めねばなるまい。それほどまでに種族人間はチョロかった。
正直、物足りなかった。こいつは無理だろうと思うような堅物でも少し演技しただけで財布の紐がゆるくなる。こんな可愛い子供なんて居る訳ねえだろ。俺の魂が叫ぶ。物足りない。本気を出したい。血湧き肉躍るような騙し合いに身を投じたい。
俺は相棒のピエッタを引き連れてどんどんハードルを上げていった。そしてピエッタの制止を振りきって警戒心の塊のようなアホの身ぐるみを剥いで簀巻きにして川に叩き込んだ時、不意に虚しくなった。ゴミはしょせんゴミでしかない。
その日の夜、俺はピエッタに提案した。
「もっとデカいヤマがある。乗らないか?」
「お前、それいつものパターンだぞ」
いつものパターン? 何を言ってるのかよく分からない。
ピエッタは憔悴した様子で溜息を吐いた。
「崖っぷち。お前は口が上手い。頭も回る。だが、程々ってことを知らねえ。なんで限界に挑もうとするんだよ……」
ピエッタ。俺は戦いたいんだよ。
けどよ、リアルで戦ったら身体が持たねえだろ。ゲームだから戦える。限界まで行ける。そこから目を逸らしたら手抜きしてるのと変わらねえじゃねえか。
なあ、ピエッタよ。負けてもいいじゃねえか。負けるってことは全力を出せるってことだ。それでも届かないから楽しいんだ。勝つってことは99%なんだよ。ぴったり100%なんてのは現実的じゃねえ。どっかで手抜きしてる。打ちのめされなくちゃよ……。
「一人で勝手にやれ……。私を巻き込むな」
いいや、ピエッタ。お前も来るんだ。
俺は歯列をギラつかせて俺たちがチームであることを熱烈に主張した。
「明日だ。ガムジェムを奪る」
「聞こえない聞こえなーい!」
ピエッタは毛布を被って聞こえないふりをした。
おいおい、わがままを言うなよ。もう俺はお前の共犯者なんだぞ。今更後戻りはできねえんだ。万が一俺が捕まったらどうするんだ? お前まで捕まっちまうじゃねえか。そいつは俺の流儀じゃねえ。
なあ、相棒。デカい花火を打ち上げようぜ。俺は毛布の上からピエッタをつんつんと突付いた。
ピエッタさんが吠えた。
「ばかー!」
くくくっ……。楽しくなってきたぜ。
極め付けのイベントアイテムだ。ゲームタイトルになってるほどの大秘宝……!
そいつがプレイヤーの手に渡ったら一体どうなるんだ?
破滅か! 死か!?
いずれにせよ、ろくなことにはならねえ。
「くくくっ……」
俺は一号機を抱き寄せて哄笑を上げた。
「ふははははははははははははははは!」
ワクワクが止まらねえ!
これは、とあるVRMMOの物語。
脅されて輝く男。
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