次回予告。ペタタマ死す
俺、新規ユーザーなんだよね。
強くてニューゲームみたいな感じになってるけど、別に強くねえしな。ゲーム始めて一ヶ月未満ってのはどう考えても新人枠だろ。
【敗残兵】の宰相ちゃんもそうだけど、有望な新入りは周りからちやほやされる。言ってみれば異世界転生モノの現代知識SUGEEEの感覚に近い。
俺もちやほやされてえ。
という訳で同じく新規ユーザーの赤カブトと一緒に野良パーティーに参加してみようということになった。
事の発端は、スズキから今週の生活費を貰った時のこと。
「はい、コタタマ。今週の分だよ」
おう、悪いな。いつも。
なあ、スズキ。今はまだ苦労ばかり掛けてるけどよ、俺には夢があるんだ。いつかきっと一山当ててお前らを楽させてやるからな。
ウチの稼ぎ頭は先生だ。人脈が広い先生は知り合いから頼み事を受けるたびに決して少なくない額を稼いでくる。その金はほとんどがクランの運営に回されているため、俺の生活費はウチの子たちが魔石を売って得た収入から捻出されている。
そして魔石はあまり高くは売れない。クラフト技能を持たないティナンにとっては単なる石ころだからだ。いつも女神像にお祈りを捧げている黒尽くめの集団が研究用にと買い取ってくれる以外は、プレイヤー間で売買されるくらいだ。
謝辞を述べる俺に、レッサーティナンさんは春の日差しのような眼差しを向けてくる。
「気にしなくていいんだよ。だって私は何も特別なことはしてないんだから」
いや、しかしだな……。
「コタタマ。戦闘職が素材を集めてきて生産職に渡すなんて当たり前のことだよ」
まぁそう言われればそうなんだが……。
「でしょ? だからコタタマは自分のペースでがんばればいいんだよ。焦らなくていいんだよ」
そ、そうか?
まぁ確かに半端ロリの言うことにも一理ある。出稼ぎする戦闘職を生産職がバックアップするという体制はごくありふれた一般的なものだ。レベルが足りなくてバックアップできていないのが問題なのだが、パワーレベリングなんてネトゲーでは珍しくも何ともない。どこのクランでもやっていることだ。焦っても仕方ない……。その通りかもしれない。
「コタタマががんばってるの、私は知ってるからね。大丈夫だよ」
スズキが俺の頭を撫でてくる。
俺はコクリと頷いた……。
といった遣り取りを赤カブトにばっちり目撃されていたらしく、俺を呼び出した森のくまさんは俺にこう言った。
「ペタタマくん。おうちにお金を入れませんか」
いや、ジャムジェムさんよ。今の俺は雌伏の時であってだな……。
ウチの子になって間もないこともあり、赤カブトの部屋は殺風景なものだった。そんな中、フローリングの床に無造作に置かれている木彫り熊が何かを訴えかけて来るかのようだ。
ぐだぐだと言い訳を重ねる俺に、赤カブトはぴしゃりと言う。
「甘えてはいけません。聞けば、ペタタマくんは一人でも狩りができるそうですね」
まぁ……。俺は歯切れ悪く答えた。以前ほど目が使えないからあまり、うん。狩り場は限定されるかなぁ……。
「できるんですね? できることはやったほうがいいと思うんです」
いや、でもさ。あんまり焦っても仕方ないし、狩りに出るのはもう少しレベルが上がってからでも遅くはないんじゃないか……。
「き、牙を抜かれている……」
赤カブトは戦慄した様子で俺を見た。がくがくと俺の肩を揺さぶってくる。
「ダメだよ! 目を覚ましてっ、ペタさん!」
いやぁ、なんかさぁ。俺、思ったんだけど、外に出るとろくなことないんだよね。
軽くオチ担当みたいになってるしさぁ。
俺、自分で言うのも何だけど色々と活躍してると思うんだよね。オンゲーで個人が脚光を浴びることってあんまりないんだぜ? 言ってみれば主人公クラスの活躍してる訳よ。
それがさぁ、いざ蓋を開けてみれば主人公兼悪役兼噛ませ犬兼オチ担当やってますみたいな。下手したら語り部まで兼ねてるんじゃねえか?ってくらい普段からああでもねえこうでもねえと一人でくっちゃべってる訳よ。
一人五役はさすがにキツくねえか? ハードスケジュールにも程があるでしょって話よ。やろうと思えば俺一人でも起承転結回せるんじゃねえかっつー……。
だから家に居る時くらいはのんびりとね。どこのクランも生産職は大体こんな感じだよ。俺だけが特別怠けてる訳じゃないからね。
俺の言い分を黙って聞いていた赤カブトがばんばんと床を叩いた。
「スズキさんはペタさんに優しすぎるから! しかもダメな感じの優しさだよ! あんなのダメだよ!」
そ、そうか?
まぁ確かに赤カブトの言うことにも一理ある。地道にコツコツとクラフトするよりもモンスターをブン殴ったほうがレベルは上がりやすいと統計には出ている。
それに……。
今だからこそできること、今しかできないことってのもある。今の俺は限りなくコナンくんに近い状態だ。身体は子供、頭脳は大人ってやつだ。
今しかできないこと。今やるべきこと。元々俺は消去法で短期的な目的を決めて動くタイプのプレイスタイルだ。ネフィリアにけちょんけちょんに負けたからって拗ねてる場合じゃないことも確か。野郎が拗ねたって可愛くも何ともねえしな。
よし、じゃあ野良パーティーにでも混ざってくるか。
俺はぽんと手を打って赤カブトに提案した。
赤カブトは首を傾げた。
「のらぱ……?って、なに?」
あ〜、ネトゲー初心者には馴染みがねえか。
俺は野良パーティーについて説明してやった。
ジャムジェム。お前はいつもポチョ、スズキとパーティー組んでるよな。
でもよ、たまには赤の他人とパーティー組むのも新鮮味があっていいもんだぜ。
それが野良パーティー。野良犬、野良猫とか言うだろ。野良のパーティーってことだ。ならではの独特の決まり事があって勉強になるぞ。
「え? 今、私も一緒に行くっていう話なの?」
当たり前じゃん。魔法使いは希少なんだよ。身内に魔法使い居たら連れてくわ。
そういうことになった。
1.山岳都市ニャンダム-広場
さすがにコタタマくんの姿で出歩くのはマズいので、バンシーとかいうクソ不吉な名前で呼ばれてるバージョンに早変わり。
野郎にちやほやされても仕方ないので、広場をうろついて女キャラを探す。
赤カブトは物珍しそうにキョロキョロしている。
「看板がいっぱい。あ、ペタさん。あれ。あれはなに? なんかいっぱい書かれてるよ」
ん? ああ、パーティーメンバーに求める条件だな。
ヨロダン周回。無言禁止、もる禁。当方プリ1ウォリ1、求ウィズ。レベ10↑。
リビングアーマーが出る常設ダンジョンで長時間狩りをできるレベル10以上の魔法使いを募集ってことだ。司祭と戦士は自前で揃えてるから空気読めと。無言でパーティー申請を飛ばしたら殺すとも書かれてるな。あともる語は禁止。
「もる語ダメなの? 便利そうなのに」
【敗残兵】の連中を基準にするのはやめなさい。やつらは四六時中一緒に居るから何とかなってるだけであって、打ち合わせもなしに突っ込んだら全滅は目に見えてるぞ。
……だが早い。もる語パーティーはとにかく進行がおそろしく早い。分かっている人間が集まってトライ&エラーを繰り返せば一時間当たりの獲得経験値量はもる禁パーティーを遥かに上回るだろう。
にも拘らずもる禁パーティーがしぶとく生き残っているのは、表向き生存率の向上を謳いつつ可愛い女キャラとお喋りしたいという切望によるものだ。
仮にここで赤カブトが「レベル低いんですけどヨロダン行ってみたいなっ」とか言って声を掛けたなら、やつらは難色を示すふりをして受け入れるだろう。相方の戦士は多分こう言う。集まり悪いし居ねえよりはマシだろとか何とか。
おっと残念、件のプリ1ウォリ1コンビに野郎二人組が接近中。見ろよ、あの悲しそうな顔を。無表情を装いつつも寂しそうな目をしてやがる。
ジャムジェム。お前はああいう悪いパーティーに引っ掛かっちゃダメだぞ。
「見分ける自信ない。けどペタさんが一緒に来てくれれば大丈夫だよね?」
まぁな。
ジャム。一石二鳥だ。俺は無駄を嫌う。
人力自動マッチングに参加するのも手だが、裏に手を回す時間が惜しい。
パーティー募集は戦いだ。条件に合うパーティーを探すんじゃない。俺に条件を合わせるんだ。ついて来い。
「今何かとんでもないことを言ったような……」
俺は赤カブトの手を引っ掴んで、女キャラ三人組の元にまっすぐ歩いて行く。
俺たちに気が付いた三人組が「おっ」という顔をした。
三人組の目の前で立ち止まった俺は、看板の募集要項を見る。女キャラ募集か。
まず先手を取る。俺は宣告した。
「男だがいいか?」
堂々の正面突破だ。
「え、男? あっ。いや、あの……」
まずダメだろうな。俺とて普段ならこんな無茶は言わない。しかしその為の赤カブトだ。
俺は赤カブトを引き寄せてぽんぽんと頭を撫でた。
「悪いな、突然。こいつは俺の相棒なんだが、ついこの間ゲームを始めたばかりなんだ。俺と一緒に来ると言って聞かないんだが、生憎とクランメンバーとの都合が付かない。野良は初めてらしい。連れて行くのは構わないんだが、人見知りするもんでな。同じ女キャラなら少しはマシかと思って声を掛けた」
言外に俺がセットで付いて来ることとクランに属していることを匂わせておいた。
赤カブトがなんだコイツという目で俺を見ている。
三人組は相談を始めた。
「えーと。ちょっと待ってね。……どうする?」
「そういう事情なら、まあ」
「見た感じ、二人とも戦士?」
好感触である。
女連れの男は警戒されにくいのだ。
女キャラを募集するような輩だ。直結厨の可能性は高いが、最低でもネカマということになる。ネカマだろうが何だろうが、女キャラをロールしてくれるなら俺は構わない。俺の目的は達成される。
俺は素早く自己アピールした。
「俺は鍛冶師、こっちは魔法使いだ。俺が剣を持たせた。俺たちのレベル帯なら、どの道【スライドリード(速い)】は使えない。少し模擬戦もやってみたが、意外と戦える。意外とというか、まぁ……俺より強い。ジャム、お前も黙ってないで挨拶くらいしろ」
赤カブトがぺこりとお辞儀した。
「ジャムジェムです。よろしくお願い……します?」
途中でまだ採用と決まった訳ではないと思い出したらしい。語尾が上がった。ほう、なかなかやるな。初々しいじゃねえか。
俺も頭を下げた。
「ペタって呼ばれてます」
本名は明かさないよアピール。今回、俺はしっかり者のお兄ちゃんキャラで行く。
赤カブトがギョッとして俺を見た。何だよ。
「ペタさん……。先、あー、クランマスター以外にも普通に話せるんだね」
野良パーティーの基本は丁寧語だよ。
最初に高圧的な態度を取ったのはインパクトを与えるためだ。興味を持たれないことにはどうにもならない。
つーか人のこと狂犬みたいに言うのやめてくれる?
俺は赤カブトに苦言を呈した。
お前が頼りないからお兄ちゃんは苦労してる訳よ。仮にパーティーに入れてくれたとして、男一人で気まずい思いするの目に見えてるからね。そりゃ嬉しい嬉しくないで言ったら嬉しいかもしれんけど。
「お兄ちゃんって……ふふ。お兄ちゃんかぁ」
赤カブトはくすぐったそうに笑った。
気心が知れた仲アピール完了。
三人組は俺たちに興味を持ってくれたようだ。じゃあよろしく〜とゆるい感じで手を差し出してきた。俺は赤カブトの手を掴んで握手に応じた。二人羽織の要領だ。がっつかない。一線を引いた適度な距離感を保てるかどうかよ。
かくして俺は女キャラパーティーに潜り込むことに成功した。
これは、とあるVRMMOの物語。
悪い男は既に隣に居るようだ。
GunS Guilds Online




