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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ユニークスキル

 1.山岳都市ニャンダム-ョ%レ氏ランド


 おー。だいぶ建築進んだねぇ。

 コラちゃんと一緒にウチの子たちの仕事場に向かっている。

 生き別れの姉妹だしさぁ。会わせてあげたいじゃん?

 でも俺と一緒に居ると勘のいいゴミが余計なことに勘付きそうなんでね。攻めのタルだ。タルからにょきっと足を生やしてトコトコと歩いていく。コラちゃんはタルをまだ信じきれていないようで、人目が気になって仕方ないようだ。俺のタルにガンと接触して覗き穴を通して意思疎通を試みてくる。


「……ペタタマ? 聞こえる? なんか凄い見られてる気がするんだけど……」


 コラちゃんは不安になると口調が変わる。どっちが素ということはないようだ。変な子だなぁとは思うが、公私で話し方が違うと思えば……まぁ個性が強いってほどじゃないか?

 俺はコラちゃんのタルを斜め前にぐいぐいと押し込んで加速を促しながら請け負った。

 大丈夫だって。普通に歩いてたって対面なら顔面チェックくらいするよ。普段と違うカッコしてるから視線が気になるだけさぁ。


 エンフレ特攻ロストは日本サーバー特有の文化で、人間爆弾の究極の運用法はタルを投げ付けるワザだ。丸めたティッシュよりもボールのほうが投げやすい。それと同じ理屈で、タルにinした人間爆弾のほうが投げやすい。

 そうした事情から、大量生産されたタルがそこら中に転がっている。当初は景観を損なうし嫌で仕方なかったのだが、慣れてくるとまったく気にならなくなる。ベンチの代わりにもなるから座れて便利だしな。

 もうここまで来たらタルさえ被っておけば普通に歩いてても問題なかろう。難点は視界が狭くなることだな。スマホいじりながら歩いてるようなモンだ。俺は目がいいから他人がどう歩いてくるか大体想像つくけど、コラちゃんはタル初心者だから俺がリードしてあげなくちゃ。ぐいぐい。


「お、押すなぁ。これ、なんの意味があるんだよぉ」


 だからぁ、言ったでしょ。コラちゃんたちは種族人間の希望の星なんだよ。ジャムにも言ったけどさぁ、ぶっちゃけ人間じゃありません、AIですって良いことだらけに思えるんよな。それ悲観すること?って。なんなら完全上位互換なんじゃねーのって。まぁコラちゃんにはコラちゃんなりの悩みもあるんだろうけど、あんまり共感されないと思うよ。簡単に言うとエルフみたいなモンかな。長生きできます、美形です、魔力強いですみたいな。先生からもそれっぽいこと教わってるでしょ? 先生は俺なんかよりも全然頭いいからもっと色んなこと良し悪し言われてると思うけど。先生はゴミにもお優しいからなぁ。オブラートに包んだ言い方してると思う。けど俺はゴミ寄りだからゴミの考えてることがよく分かる。ヤツらはαテスターを七人集めたら願いが叶うと思ってるんだよ。ギャグじゃないよ。本気でそう思ってるから気を付けてね。まぁ俺が別行動すれば済む話なんだけど、それも寂しいじゃない?

 な? そうだよな? ジャムジェム。

 タルの接近を許した赤カブトが俺の声にびっくり仰天してひっくり返った。


「タル!? ウソ!? 私……え!? き、気付かなかった……」


 お前もだいぶ俺の域に近付いているようだな。

 お、マグちゃんも居るのか。ちょうどいいや。マグちゃーん!

 少し離れたところで休憩しているマグちゃんにタルごと身体を左右に振ってアピールする。

 マグちゃんは呆れたように、


「私は気付いてたけど……。ペタタマぁ? 後ろのタルは誰?」


 ウチの小せえのと洋モノも居る。俺はコラちゃんを紹介しようと振り返るも、それよりも早くコラちゃんが赤カブトに体当たりをしようとしてサッと避けられた。慣れないタルに足が絡んだコラちゃんが横倒しになってゴロゴロと転がっていく。億劫そうに立ち上がったマグちゃんが転がってきたタルを足でガッと止める。

 俺が連れてきた不審なタルに、マグちゃんは心当たりがあるようだった。


「あんた、まさか……」


 不審なタルがゴロゴロと左右に転がる。


「パール! ジャム! ごめんね! 私……!」


 再会に感極まったようだ。

 ん?とマグちゃんが首を傾げる。予想が外れたようだ。


「……マジかよ。その声……あんた、ベル? 何してんの……」


 赤カブトが駆け寄ってきて不審なタルに抱き付く。


「ベルちゃん!? ベルちゃんなの!? 私だよ! ジャムジェム! 分かる!?」


「分かるがっ」


 コラちゃんが左右にゴロゴロと転がる。

 ポチョとスズキが近寄ってきて、息の合った連携でコラちゃんをタルから追い出す。スズキがコラちゃんの足が引っ掛からないようにタル側に押し込み、タルの蓋を開けたポチョが「よいしょお!」とコラちゃんを引っ張り出した。

 二人の助けを借りて這い出たコラちゃんがすかさず赤カブトにしがみ付き、ぎゅうっと強く抱きしめる。


「寂しい思いをさせた……! すまなかった……!」


「別にそんな寂しいとかなかったけど……! 会えて嬉しい!」


 赤カブトは正直だった。

 コラちゃんがマグちゃんにぶんぶんと腕を振る。


「パール! お前も来い! どんと来い!」


 マグちゃんはイヤそうな顔をした。

 俺がタルごと身体の向きを変えてじっと見つめると、マグちゃんが渋々とコラちゃんの近くに寄る。

 再会を喜ぶには微妙に空いた距離をコラちゃんが素早く詰める。改めて赤カブトとマグちゃんを両腕でぎゅっと抱きしめた。


「恥ずかしくないっ! 泣いていいんだ!」


 言い出しっぺのコラちゃんがおろろんと号泣した。釣られて赤カブトもボロボロと大粒の涙を零す。マグちゃんはイライラしている。


「ダルいってぇ。私ら、別にそんな仲良しじゃなかったでしょ……」


 ダルいマグちゃんをヨソに、コラちゃんと赤カブトはわんわんと泣き声を上げるのであった……。



 2.三姉妹


 二人が泣きやんでから、しばし。

 目を赤く腫らしたコラちゃんが姿勢を正してウチの小せえのと洋モノに頭を下げた。


「お初にお目に掛かる。私はコラールベル。この二人の姉だ」


「姉か?」とマグちゃん。

 ジュエルキュリとリンリー嬢を除き、AI娘たちに明確な上下関係はないらしい。

 しかしコラちゃんは自分がお姉ちゃんだと認識しているようだ。

 ポチョが元気に自己紹介する。


「私、ポチョ! よろしくね!」


 スズキはそわそわしている。人目が気になるようだ。チラッと俺のほうを見てきたので、俺はタルごと身体をやや前のめりにする。気にするなということだ。あんだけ派手に泣き喚かれたらコラちゃんの正体を隠すとか今更である。というか、おそらくコラちゃんは正体を隠す気がないのだ。遅かれ早かれバレる……そういう生き方をするつもりなのだろう。

 AI娘に関しては神経質な俺が諦めているので、スズキも諦めた。コミュ障にしては割と元気に自己紹介する。


「私はスズキ。えっと……ベルさんは……先生のトコに居なくていいの? 卒業した、とか?」


 俺は五人の輪に押し入った。ド真ん中を確保し、足を畳んで座る。俺に何か言いたいことがあるらしいと五人娘は察してくれた。寄ってきた五人の太ももを覗き穴から比較検証しながら俺は言う。

 卒業はまだ先だが、ベルは他の姉妹のまとめ役らしくてな。ひと足先に社会見学させてる。先生はご了承済みだ。

 俺はコラちゃんが家出中であることを伏せた。彼女本人の気持ちを慮ったのもあるが、何よりコラちゃんの体験談は他の姉妹たちの糧になる。社会見学というていを保つことは重要なことだった。コラちゃんにはきちんと学んで貰う。つまり俺は外堀を埋めた。

 コラちゃんに伝わっているかどうか分からないので、念を押すように言う。

 α時代じゃどうか知らんが、こっちじゃジャムジェムとパールマグナのほうが先輩だ。色々と教えてやってくれ。俺が近くに居ると勘繰るゴミどもが出るからな。俺はタルから出るつもりはない。ポチョ。お前がウチのクランマスターだ。面倒見てやってくれ。

 俺は申し訳程度にポチョを立てた。

 しかしポチョさんはまったく別のことを気にしていた。


「……なんか黒ひげ危機一発みたい」


 みたいではない。俺で黒ひげ危機一発したら怒るぞ。剣をブッ刺してワァ外れた〜じゃないんだよ。串刺しにされてビヨヨ〜ンって飛び出す元気なんかないぞ。……ポチョさん?

 不穏な沈黙が流れたものの、思いとどまってくれたようだ。五人娘が作業を始める。

 俺は覗き穴から五人娘のお尻を眺めるのが仕事だ。うんうん。仲良くな。気になることがあったらガタガタ揺れるから、そしたら俺んトコに集合しろ。

 俺は制作進行に着任した。



 3.翌朝-クランハウス-マイルーム


 コラちゃんは日帰りした。

 露店バザー巡りをするとか色々やりたいことはあったし、なんなら添い寝してやりたかったのだが、さすがに他の姉妹を差し置いて遊び回って外泊キメるのは憚られた。

 まぁ有意義な時間になったんじゃないか。

 AI娘たちは良くも悪くもイイ子ちゃんばかりだ。マグちゃんが問題児と言われるんだから、よっぽどだ。俺に言わせてみればマグちゃんは可愛いモンだよ。俺の寝込みを襲うゴミと比べたら雲泥の差っつぅかな。

 翌朝のことである。

 ログインするなり俺は腹をブッ刺されて壁に磔にされた。

 ゲェー!?

 知らないゴミが俺の腹を貫通した剣をぐりぐりと執拗にねじ込む。


「崖っぷち〜。俺らを煽っといてハイサヨナラって訳にゃ〜行かねぇだろ〜」


 俺はゴミの頭をガッと掴んだ。

 そうかい。そう……。お前らは未だにそこに居るのか。遅いなぁ。遅い!

 言うが早いか俺は擬似惑星を二つ射出した。


 人類社会はギルドからしてみると謎の儀式めいている。

 勉強したくないと言いながら勉強し、働きたくないと言いながら働く。

 社会とは、すなわち作業分担だ。

 ギルドも各種兵科に分かれることでそれに近いことはやるが、しょせんは真似事だ。ちょうどゲームのジョブのように趣味趣向の違いでしかない。

 しかし社会とは軍事力を支える後ろ盾でもある。

 そのことをギルドなりに解釈すると、宇宙に浮いてる丸くて狭い場所に集まった小さいのが動き回ってエネルギーを生み出す作業なのだろう。

 黒いこんぺいとうと似た擬似惑星はそうしたものだ。形だけ真似たもので、なんの意味もないハズなのに、まるで魔法のように、どこからともなく力が湧いてくる。

 ギルドの兵科ごとに備わる特殊能力を、プレイヤーのそれと区別して「技能」と呼ぶ。

 俺は技能を発動した。


 経歴詐称スキルコピー

 擬似惑星の上でマッチ棒みたいなのが別のマッチ棒に寄り添って、もう一つの擬似惑星を見上げる。月が綺麗ですね程度のことは言ったかもしれない。

 ゴミの頭を掴んだ俺の片腕が機械化していく。

 言ってなかったなぁ! 俺はもう「ジョブ」っつぅ概念を超えたッ!

 俺の鉤爪がゴミの頭に食い込んでいく。頭から血を垂らしながらゴミがニヤけ面を晒す。


「へえ? それで? 急に強くなったりすんのか?」


 俺は答えずに左腕を伸ばした。ゴミの頭を固定して首をへし折るつもりだった。近付く俺の左手をゴミが払いのける。俺の腹から剣を引き抜いて飛び退きながら吠えた。


「崖っぷちぃ! スキルコピーってのは最高指揮官が使うから強ぇーんだ! オメェーみてぇーなザコがコピーしてどうすんだッ! そりゃあつまり一個も新しいモンを生み出せねえってことじゃねーのかよ!?」


 ほざけ! どんな新しいモンもまずは模倣からだろがよッ!

 ……言いつつ俺は自信を失いかけていた。ゴミが今言ったことはアナウンスの文言とも一致する。最高指揮官は最初から強かった訳ではない……。

 実際、今の俺は近接職になっているハズなのだが、スラリー(速い)の使い方を思い出せずにいる。どうやって使うんだっけ……?

 ゴミもまた俺の言葉に自信がグラついている様子だった。どんな芸もまずは模倣から始まる。とっさに言ったにしてはもっともなことを言えた。

 ……結局のところ、先に進んでみなければ何が正解なのかは分からない。

 俺は立っていられず、片膝を屈して口からボトボトと血を垂らした。傷は深い。金属片で繋いでどうにかできる範囲を越えてる。これは助からん。だが、このゴミ野郎だけはァ……!

 俺は血を吹き出しながら叫んだ。

 オメェーらは俺の言ったことをまるで理解してなかったみてーだな! えっ、モブがよ!

 そう言って機械化した腕を懐に入れて、指でガムジェムを摘み出す。

 力と意思は分離できない。でも意思があるってんならよォー!

 俺のガムジェムがギョロギョロと目ん玉を動かして俺を見る。

「交渉」できるってことだろがよォー!

 知らないゴミが目を見張る。やってみろと言うように剣を引き絞って構える。問答無用で攻めてこない。俺のコメカミにビキビキと青筋が立つ。そういうのを……舐めてるってゆーんだよォー!

 ブッ殺す。

 俺はガムジェムを握り込んだ。手のひらに埋没した異物感が腕を伝って這い上がってくる感触があった。

 俺の全身から血が吹き出す。皮膚を突き破って黒い結晶が咲く。黒い火が帯のように俺を取り巻く。


 ガムジェムはプレイヤーの成れの果てだ。

 吹き込まれた力と意思は一つずつ異なる。

 つまりガムジェムとはユニークスキルの媒体なのだ。

 

 イクぜッ! 死ねッ!

 俺の周囲に黒い球体が浮かぶ。それらがドロリと溶けて地べたに垂れてくる。

 …………。

 ……?


 ……ガムジェムとはユニークスキルの媒体だ。

 しかしスキルの使い方なんて誰も教えてくれないし、なんとなく使い方が分かるなんていう気持ち悪い現象が起きることもない。

 俺の足元で、黒い水たまりがボコボコと泡立ち……。

 床に染み込むように、スゥと消えた。


 チッ……。

 俺は舌打ちした。

 帯状の黒い火が宙に溶けるように立ち消え、黒い結晶がボロボロと崩れていく。

 壁に背を預けて座り込み、そっとまぶたを閉ざす。

 俺は死んだ。

 ふわっと幽体離脱した俺の死体から、ボロンとガムジェムがドロップした……。




 これは、とあるVRMMOの物語

 ヒューマンさぁ……。



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[良い点] 日本サーバーの人間性の崩壊っぷり好き [一言] コタタマ無双はまだですか
[一言] 色々受け入れた結果、ヒロインたちに表立って殺される事なくなったかわりに、 ついにゴミに殺されてオチるようになったんか…
[良い点] >おろろろん かわいい
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