血のバレンタイン
1.マールマール鉱山-チョコレート工場
「来ちゃった」
来ちゃったじゃねえよ。
ひの、ふの、みの……確かに六人全員居るな。見てくれだけは美少女のネカマ六人衆である。
工場見学に来たとか言ってるらしいが……。本当にそれだけか?
眼光も鋭く真意を問う俺に、六人衆が寄り集まって話し合いを始めた。
「この子、工場長かな?」
「背ぇ低い。気ぃ強そう」
「滲み出る女王様気質」
「65点」
「75点」
「間を取って70点」
おい、他人様の容姿を採点するな。わざと地味めにキャラクリしたんだよ。俺が本気を出したら男なんざイチコロだぜ。
不平を零す俺を六人衆はちらっと見た。
「俺っ娘……」
「アリ?」
「アリで」
「判断早っ。アリだな」
「いやネカマじゃん。俺はナシで」
「いや普通にアリでしょ。60点越えはアリ」
ネカマじゃねえよ。ちゃんとソウル・ソサエティついてるぞ。つーかネカマで俺っ娘はお前らだろうが。
何だよ。お前ら俺を訪ねて来たとかじゃねえのか? 俺だよ、俺。分かんねえの?
「オレオレ詐偽ですか?」
違えよ。俺だ。ペタタマさんだよ。
「えっ」
本気で分かっていなかったらしい。六人衆が目を丸くして俺を見た。
六人衆の一人が俺にすっと片手を差し出す。いや別にいいけど、これ何の握手? それは何の微笑なの?
「すまなかったな、シンジ……」
いやシンジじゃねーし。ゲンドウさんは謝るの遅すぎだったけどお前は早すぎだよ。まぁ生まれたのが女の子だったら確実にゲンドウパパ味方だったからなぁ。
ネカマと握手を交わす俺をシルシルりんがじーっと見つめている。俺が六人衆にひどいことをしないか見張っているのだ。
参ったねどうも。
2.回想-司令室
ネカマ六人衆だと? 司令室に飛び込んで来たモグラっ鼻に俺は詰め寄る。全員か? 六人全員居るのか?
「は、はい。全員居ます。この目で確認しました」
護衛は? リチェット辺りか?
「いえっ。護衛は……居ません! 少なくとも目に見える範囲には。探りますか?」
いや、いい。警戒してることを悟られたくない。そもそも近くに居ない護衛なんて意味がない。無視できる。
あいつら、護衛も連れずに六人全員でのこのこと何しに来やがった……。
俺は振り返って饅頭屋を見る。
サトゥ氏は?
「地下牢に。見張りも立てております。しかし念のため、私が確認に行きましょう」
そうしてくれ。あいつから決して目を離すな。
サトゥ氏の厄介なところは人を使える能力と立場を兼ね備えていることだ。実力があるから多少の無茶は通る。
サトゥ氏を欠いた共和国は不安定な状態にある。リチェットはサトゥ氏の奪還を目的に前線指揮を執っていて、代わりに共和国の頭を張っているのがネカマ六人衆なのである。一人では不安なので六人で共和国を回してるらしいが……実際に立案してるのは別人という噂がある。
このタイミングで国家元首の訪問。
……普通に考えたら罠だ。無能なトップは要らないということかもしれない。六人衆の始末をこちらに押し付けて士気を上げる、か? しかし……無能……これだけが。
ぞっとした。
もしも。もしもこれが六人衆の独断だとすれば。
……俺は天下を取れる。
戦争は終わる。国が一つになる。俺は新世界の神になる。
部下を連れて地下牢に行って戻って来た饅頭屋が異常なしを告げた。サトゥ氏に動きはない。陽動という線もほぼ消えた。俺らの足並みが乱れるこのタイミングを見逃すメリットがない。
俺は饅頭屋に命じた。
ネカマ六人衆とは俺が話す。連中とは直接面識があるからな。
饅頭屋、お前はモグラっ鼻に準備をさせろ。戦争の準備だ。ただし、表向きは共和国の襲撃を警戒する態勢を装え。俺が合図したら六人衆を拘束しろ。
俺の口から放たれた拘束という言葉にシルシルりんがびくりと震えた。
「ひ、ひどいことしたら怒りますよっ。ペタタマさんは軍人さんじゃないんだから、そんなことしなくていいんですっ」
シルシルりん。俺はシルシルりんの華奢な肩にそっと手を置き、歯列をギラつかせた。もちろんひどいことなんてしないよ。少し話を聞きたいだけなんだ。少しね。
シルシルりんは俺を見張ると強硬に主張した。信用されてないなぁ。もるるっ……。
3.マールマール鉱山-チョコレート工場
俺がペタタマと知るやネカマ六人衆は内情をぺらぺらと喋り始めた。
「いやー。工場見学もそうなんだけどさ、実はサトゥの様子を見に来たんだよね」
「ここに居るんでしょ? よほど暇らしくて日に三回はポエム送ってくるからさぁ」
ささやきか。ささやきばかりは止めようがないからな。
「近頃あいつマジで調子に乗ってるよな」
「物欲センサー搭載の旧型の癖にな〜」
「でも困ると俺らに頼ってくる。可愛いやつよ」
「あいつは俺らが育てたようなもんだからね」
ネカマ六人衆は事あるごとにサトゥ氏を育てたのは自分たちだと豪語する。
だが、あながち真っ赤な嘘でもなさそうだ。
「あいつはゲームの中で育ったようなもんだからな。もう家族のようなもんだよ」
「リチェットもな」
「セブンは?」
「セブンは他人」
「安定のセブン叩き」
セブン……。【敗残兵】のサブマスターか。俺も一度しか会ったことがない。決闘でウチの劣化ティナンを打ち負かした狩人さんだ。いや、今は猟兵か。狩人の二次職だ。
まぁそれはいい。俺はネカマ六人衆にチョコレート工場を案内してやりながらさり気なく情報を聞き出していく。
工員には一人当たりにノルマがあってな。ログイン、ログアウトは自由だがノルマを達成できなければ他のやつに迷惑が掛かるっていうシステムだ。完成したチョコはモグラっ鼻に手渡しされる。完全に業務なんだが、意外と嬉しいもんらしい。女子コンプリートを目指してるモグラっ鼻も居る。俺はチョコのクオリティを上げたいんだが、そうなると工数がな……この辺はバランスだな。お前ら、時間は大丈夫なのか? あまり長時間は見学できないんだろ?
「いや大丈夫よ」
「俺らお飾りだからね」
「メガロッパちゃん有能で困る」
メガロッパ? ああ、宰相ちゃんか。あの子、新人じゃなかったか?
「うん、期待の新人だよ」
「次世代が育ってくると嫌でも年寄り気分になってつらい」
「ペタ氏んトコのジャムも才能ある子だけど、ウチのメガロッパは新人枠ではピカイチだよ。けへへっ」
おっとウチの赤カブトさんを見くびって貰っちゃ困るな。あいつは大義のためとあらば非情な決断も下せる子だぜ。
「なんの、ウチのメガロッパは希少な指揮能力持ちだぜぃ」
お前ら、宰相ちゃんに仕事を押し付けて来たのか。最低だな。まさか無断で来た訳じゃないだろうな……。
「無断に決まってんじゃーん。許可下りる訳ないって知ってるもんね」
だろうな。俺は俯いて表情を隠した。くくくっ……。それだけ分かれば十分だよ。
女神像はミュウモールが封鎖してる。ネカマ六人衆は歩いてここまで来たんだろう。おそらくは途中で合流したんだ。トップを六人で回すのはやっぱり無理があるんだな。居ても居なくても変わらないという風に軽く見られてるから、こいつらのスケジュールを完璧に把握してるやつは誰も居なかった。そんなところか。
【敗残兵】は大手クランだ。トップを張れる人材が新人の宰相ちゃんしか居なかったってことはないだろう。新規メンバーを活躍させてライト層の取り込みを画策してるのか。確かに音に聞こえし廃人のサトゥ氏よりも宰相ちゃんのほうが受けは良さそうだ。ライト層ってのはまったりプレイを好むからな。宰相ちゃんが一緒にがんばりましょうと言えばホイホイとついて行くだろう。二人か三人くらい古参の側近をつけてやれば逆らうやつは居なくなるという寸法だ。
実際、宰相ちゃんはよくやってる。だが、死神じゃないほうの神は俺の味方だったようだな。
ネカマ六人衆には自覚がないようだが、宰相ちゃんはこいつらを頼りにしてるんだ。居るだけで気が楽になるんだろう。どれだけ能力があってもトップの重圧ってのはそう簡単には克服できない。だがネカマ六人衆は元々幹部とは謳っちゃいるが実質的には後見人みたいなもんだからな。名目上のトップを六人衆が張ってる間は普段とそう変わらない体制を維持できたんじゃないか。
つまり宰相ちゃんはネカマ六人衆を見捨てられない。共和国を封じることができる。共和国を封じることができれば、神聖ウサギ王国を陥せる。王国を従えることができれば共和国は恭順を示すだろう。王国の横槍がなくなればモグラっ鼻の天下だ。
ウサ耳どもの罠という可能性はある。その可能性をなくすことはできない。しかし70%……。俺の見立てでは70%の確率で王国側はこのことを把握していない。これは破格の条件と言える。
俺は片手を上げて合図を出した。
待機していたモグラっ鼻がネカマ六人衆を包囲する。
「ぺ、ペタ氏?」
怯えた目で俺を見る六人衆に、俺はニコリと微笑んだ。
お前らはいい友人だった。だが残念だよ。恨むならネフィリアを恨んでくれ。俺は悪くない。
「捕らえろ!」
「みゃーっ!」
ネカマ六人衆はチョコレート工員に仲間入りした。
「ペタタマさんっ! ひどいことしないって」
眦を吊り上げるシルシルりんを俺はぎゅっと抱き締めた。
「ななな、何を……!」
ジタバタと暴れるシルシルりんの淡い水色の髪を俺はそっと撫でる。
シルシルりん、戦争が終わるよ。モグラっ鼻とウサ耳の不毛な争いに俺がこの手で終止符を打つ。そうでなくちゃ俺たちはレイド級には勝てない。
年越しイベントを境にプレイヤーの戦力はピークを迎え、減少して行ってる。原因は聖騎士の感染だ。ユーザーの数が増えれば増えるほど聖騎士の数も増える。比率は増していると見るべきだろう。
俺は強制執行に落ちたポチョと戦ったことがあるから知ってる。AI操作に入ったポチョは決してバカじゃなかった。どういう理屈なのかは分からないが、武器の耐久度を計算して無力な生産職を素手で殺すくらいの知恵はある。加減ができるってことだ。なら弱点を突くくらいはこなすだろう。
強制執行に落ちた聖騎士は後衛職を優先して殺す。そして面白半分にイベントを邪魔するプレイヤーってのは必ず居る。強制執行はそいつらに理由を与えるシステムだ。
国を一つにまとめるというのは、プレイヤーがレイド級に勝利を収める最低限の条件だ。しかし裏を返せば、スタートラインに立たなくては何も始まらない。
ここから始めるんだ。
俺はシルシルりんの細い腰に腕を回して、振り返った。
俺の指示を今か今かと待っているモグラっ鼻に、俺は片腕を高々と掲げた。人差し指を立て、吠える。
「ボーダーレス! 一つだ!」
戦争が始まる。空前絶後の戦争だ。
「王国を陥とし! お前らの国を作る! お前らの権益を俺が守ってやる! 価値を示せ! 武器を取れ! 一つだぁーッ!」
モグラっ鼻の歓声にチョコレート工場が揺れた。
「女王様ー!」
「バンシー陛下万歳!」
饅頭屋が泣いている。
「おお……。魔王陛下……ご覧になられておりますか。陛下の後継者がようやく、遂に……!」
つーか本人だからね。いや言わないけどさ。
感涙に咽ぶ饅頭屋に俺は命じた。
総力戦だ。俺も出るぞ。具足を持てい!
「ははぁっ!」
饅頭屋は恭しくこうべを垂れた。
4.スピンドック平原
進め! 進め! 進めぇー!
ウサ耳どもの大群を前にして俺は喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。
味方を待つな! 陣形なんざクソ喰らえだっ! 突き進めぇ!
速度だ。速度が勝敗を決する。
源頼経の逆落とし然り太閤秀吉の大返し然り、戦の本質は速度にある。より早く、より速く。速度を制するものがその戦場のルールを決める。
王国の頭を張ってるのは【目抜き梟】だ。【目抜き梟】は魔法使いを軸としたクランだから、その麾下にある王国軍は魔法使いの運用に長ける。魔法使いを相手に陣形を組んで挑むのは悪手でしかない。
だから乱戦に持ち込む。
乱戦に持ち込めばミュウモールの勝利は揺るがない。【全身強打】は敵だけに当たる都合のいい魔法ではないし、【心身燃焼】も味方だけを癒せる都合のいい魔法ではないからだ。
モグラっ鼻には予め【心身燃焼】を振ってある。それはウサ耳どもも同じこと。命の火を燃やした両軍が真っ向から衝突した。死兵と死兵のぶつかり合いだ。
俺の目論見通りウサ耳どもは足並みが揃ってない。国力で劣るこいつらはモグラさんチームの内乱を面白おかしく眺めて甘い汁を吸ってきた。そのツケを支払って貰うぜ。
まだだ! もっと早く! もっと速くだ!
押せ! 押せ押せ押せ! 進めぇ!
俺率いるモグラっ鼻が王国軍の第一陣を食い破り突破した。
【心身燃焼】を補充。敵兵も回復するだろうが、今は本陣に突入して乱戦に持ち込むのが大事だ。
戦場は目まぐるしく景色を変える。何が重要で何をするべきなのかを即決できないものは振り落とされていく。盤上を支配するものはそれゆえに戦局を見紛うことはない。
王国軍は混乱している。盤面が見えていない。モグラっ鼻が本陣に突入した。
勝った……! 俺は勝利を確信した。ゲームで常備軍なんてのは無理だ。兵士の数、質共にモグラっ鼻が上回っている。ここからの逆転はない。
モグラっ鼻の一人が俺に声を掛けてくる。
「陛下! お下がりください! 趨勢は決しました! 御身にもしものことがあっては……」
いいや、ここまで来たら俺がどうなろうともう関係ねえ。ミュウモールには饅頭屋が居る。今は一人でも多くの兵を投入する場面だ。
俺はモグラっ鼻にデコピンを浴びせた。おら、いいからお前も突っ込むんだよ! 置いて行かれんなよぉー!
俺は奇声を上げて突進した。俺が頭だ! 俺はここに居るぞっ! おらっウサ耳ども! 萎えてんじゃねえぞ! やる気出せ! 敵の首魁がここに居るってゆってんだよぉーっ!
粉砕! 玉砕! 大喝采!
俺はウキウキと最前線をくるくると踊り回る。
「速いね、速いね」
やたらとエロい身体つきをした女に抱きつかれた。
完全に意表を突かれた。一体どこから現れた? こいつは……!
国内サーバー最高峰の魔法使い。先生よりも早く魔法を使った最初の魔法使いだ。つまりノーヒントで魔法の使い方を見つけた唯一のプレイヤーということになる。
【目抜き梟】のクランマスター、リリララが長い黒髪を靡かせて俺に抱きついている。
「あなたのこと、気に入っちゃった。【目抜き梟】においでよ、バンシー」
オンドレぁ! 俺はリリララの首を斧で叩き落とした。しかし【心身燃焼】……。即座に復活したリリララが楽しそうに俺を見つめる。
「くんくん、くんくん。バンシー、あなたはあの人と同じ匂いがするね。でもいいよ。先生と一緒においでよ。きっと楽しいよ」
上へ行けば行くほど人の闇との対面は避けられないかのようだ。
だが呑まれるな。兵が見てる。
俺はそう自分に言い聞かせて減らず口を叩いた。
生憎と俺は男なんでね。せっかくの誘いだが【目抜き梟】には入れねえよ。
リリララは笑っている。真っ黒な髪と瞳。陶器のように白い肌。長すぎる髪。人形めいている。逸脱した美の結晶。
プレイヤーの美的感覚はリアルのそれに準じる。ただ美しいと言われる要素を詰め込めばいいってもんじゃない。それは実際にキャラクリしてみればよく分かる。白人だって肌の色が本当に真っ白って訳じゃねえんだ。血の気ってもんがある。
だが、リリララ。こいつは……。
リリララは笑う。いつか目にした能面じみた無表情が嘘みたいだった。
「それ違うよ、バンシー。あなたは男の子にモテるよ。一生懸命なんだね。くんくん、くんくん」
電波さんでござったか……。
あまりの衝撃に、思わず俺はござる口調になった。おろろ。
モグラっ鼻に取り囲まれてもリリララは平気な顔をしている。いや、俺しか見てない。
「嬉しいな、嬉しいな。負けるなんて思ってなかった。私の知らないことを知ってるあなたはだぁれ? バンシーちゃん。サトゥくんの匂いがするね。この匂いはネフィリアちゃんかな? また悪いことしてる。ふふふ」
モッニカ女史が駆けつけて来た。【目抜き梟】のサブマスターだ。通せんぼするモグラっ鼻を俺は制した。いい。通してやれ。
モッニカ女史はぺこぺこと頭を下げながら近寄ってくると、リリララに体当たりした。
「どーん! マスターッ……リリララ! 勝手にどこか行くなと、あれほど……!」
リリララは急に大人しくなった。コクリと頷いてモッニカ女史を見る。
「モニカ。勝てないよ」
「そうですか。分かりました」
モッニカ女史が俺を見る。
「あなたがミュウモールの指揮官ですの? 情報とは違うようですが……」
ああ、そうだ。俺が頭だ。表向きは別のやつが指揮を執ってた。
「そうでしたの。小さな指揮官さん、私たちの負けですわ。降伏致します。兵を引いてくださらない?」
……俺はここでウサ耳を徹底的に叩いておくつもりだった。しかし敵軍の総大将が投降すると言ってるのに叩けば不要な反感を買う。
リリララ、こいつは分かっててやったのか? 危険な女だ。処刑しておきたい。しかし、それをやっては……。
やむなく俺は王国軍の降伏を受け入れた。
かくして戦争は終わった。
神聖ウサギ王国はミュウモールの属国となり、程なくモグラ共和国が和睦を申し入れて来た。
5.ウサギ王城-中庭
シルシルりん、こんなところに居たのか。
権力基盤を固めるために奔走していた俺は、ようやく一段落を終えてシルシルりんの様子を見に来た。
シルシルりんは様々な花が咲き誇る城の中庭でアクセサリーのクラフトをしているようだった。
その服、似合ってるよ。ナイスジャケット。
シルシルりんが振り返る。
淡い青を基調としたドレスを身に纏ったシルシルりんはお姫様みたいだ。
「ペタタマさん……」
俺はシルシルりんの手からアクセサリーを取り上げる。
もうクラフトなんてしなくていいんだよ。俺の部下に任せればいい。君はこの国のお姫様になるんだから。
シルシルりんは俯いた。
「……私はお姫様なんてなりたくないです。綺麗なお洋服も宝石も要らないです。いえ、まったく要らない訳ではありませんが……優先順位低めで構いません。私は……」
何だろう。言ってごらん。
「私はっ……ポチョりんが居て、スズりんが居て、コタタマりんが居て、みんなで、また……バザーで……」
シルシルりん。それはできないよ。わがままを言っちゃダメだ。ようやく戦争が終わって、これからじゃないか。今は我慢しなくちゃ。俺はこれから忙しくなる。たまにこうやってシルシルりんとお話できれば、がんばれる気がするんだ。俺の傍に居てくれるね?
シルシルりんは思い詰めた様子で俺を見つめている。
「そうやって私を利用するつもりなんですね。どうして饅頭屋さんを殺したんですか……?」
饅頭屋は処刑した。治世の世に英雄は不要だからだ。あいつは功績を立てすぎた。よって難癖をつけて首チョンパした。
「不要になったら捨てるんですね。いつかは私も饅頭屋さんみたいに……」
ターイム!
俺は試合中断を申し出た。シルシルりんが呆気に取られてぴたりと止まる。
あ、危なかった。今のは完全に刺される流れだったぜ。FFTかよっていう。
だが俺はディリータ兄さんとは違うぜ。兄さんが刺されたのは口下手が原因だからな。ラムザには色々と話しててもうほとんど和解まで行ってたのに肝心のオヴェリアには何も話してねえから利用するだの利用しないだのとズレたこと言われて刺されるんだよなぁ。あの様子じゃ妹さんのこともまったく話してねえんじゃねえか? FFTの登場人物って全般的に口下手なんだよな。もうちょっとうまく言っとけよと何度思ったことか。文武両道を地で行く長兄のダイスダーグ兄さんですら口下手の印象を拭えなかったぜ。ベオルブ家が滅んだのは口下手が原因だよ。末弟のラムザに至っては口下手が祟って貴族とか平民とか一切関係ない世界の命運を賭けたファイナルバトルに挑む有様だからな。
俺は慎重にシルシルりんに説明した。
あのね、シルシルりん。饅頭屋を処刑したのは功績に見合う報酬を用意するのが難しかったからだよ。近々引き戻すつもりでいる。一度ミスをしたってのが重要なのね。それは饅頭屋本人にも話してあるし、お互い納得済みのことなんだ。
バザーに関しても復興を進めてる。予め先生にささやきを飛ばしてあったし、着ぐるみ部隊が中心になってリニューアルしてるよ。多分、金ちゃんも動いてくれてる。全部順調なんだ。シルシルりんがクラフトしたがってたのは知ってるけど、俺だってクラフトしたいよ。だからここは二人で一緒に我慢して身を寄せ合って生きていこうよってことなのね。
「そうなんですか?」
そうなんですよ。
俺がびくびくしながら頷くと、シルシルりんはニコッと笑った。
「だったらいいです。早とちりしてゴメンなさい」
良かった。刺されずに済みそうだ。華麗にバッドエンドを回避したぜ。
6.ウサギ王城-宝物庫
シルシルりんのご機嫌を取ってバッドエンドを回避した俺は、護衛の兵を適当に散らして城の宝物庫に向かった。
「くくくっ……」
チョコレート工場から運び込んだチョコレートの山を眺めて悦に浸る。
綺麗にラッピングされたチョコレートにはメッセージカードが添えられている。宛先はコタタマくん。つまり俺である。
「ふはははははははははははは!」
俺はチョコの山にダイブした。
そう、ミュウモールはコタタマくんの信奉者たちだ。騙くらかして余ったチョコを俺に捧げさせるのは簡単だった。
俺はチョコの山に埋もれてメッセージカードに目を通していく。おいおい、俺モテモテじゃねえか。このチョコの山を見ろよ。こんなにチョコを貰えるって芸能人くらいじゃねえか?
やっぱり身内の女三人より他人の女百人だよなぁ! 最高の気分だぜ! チョコ風呂! チョコ風呂!
チョコの山をクロールなんかしちゃうよ! ひゃっほーう!
「ペタタマくん。お元気そうですね」
ええ、何とか無事に一日を終えることができそうです。いえ、終えることができそうでしたと言うべきなのでしょうか……。
俺はすっくと立ち上がって、いつの間にか城内に侵入していた赤カブトさんを見つめた。ポチョさんとスズキさんも一緒だ。城内に手引きしたのはシルシルりんであるらしく、宝物庫の扉から特徴的な淡い水色の髪が見え隠れしている。
俺は背後を振り返って、何か奇跡が起きてチョコの山が跡形もなく消滅したりしていないことを確認した。視線を赤カブトさんに戻す。
「身内の女とは私たちのことなのでしょうか?」
いえ、そのようなことは……。
俺は赤カブトさんに会釈して脇を通り過ぎると、スズキさんに泣きついた。
す、スズキ! お前は俺の味方をしてくれるよな? い、いつも言ってるじゃないか。私だけはコタタマの味方だって……!
スズキはニコリと笑った。
「うん、私はコタタマの味方だよ。ジャムに殺されないようがんばってね。私、応援してるから!」
お、応援? な、何だ? お前ら、俺の知らないところで一体どんな協定を……。
スズキはダメだ。俺はポチョに縋り付いた。
ポチョ! こいつらを殺せ! 俺のために殺すんだよ!
ポチョは俺の手を取ってぐりぐりと頬ずりしてきた。
おい、離せ! 逃げられねえだろうが!
凶器を手にした赤カブトさんがゆっくりと歩み寄ってくる。
ま、待て! 殺さないでくれ! そ、そうだ! 殺したからって何になるんだ!?
俺は国を一つにまとめた! 偉業を成し遂げたんだ! ちょっとくらいご褒美があってもいいじゃねえか! 待て! 分かった。認める。確かに俺はウサ耳どもを奴隷に落として搾取するつもりでいた。それは認める。だがな、虐げられるものってのは必要なんだ。綺麗事だけじゃ国は回らねえんだよ。な?
だからこうしよう。お前らは俺専属のバニー要員になるんだ。おら、何してんだ。ご主人様に傅くんだよぉー! 建国王たるこのペタタマさんになぁー!
俺は自棄になって吠えた。
「待ってください!」
おお、シルシルりん。シルシルりんだけは俺の味方だって信じてたよ。
俺はもるもると鳴いて俺を庇ってくれたシルシルりんに擦り寄った。
シルシルりんはニコッと笑った。はわわ、女神様じゃー。ありがたや、ありがたや。俺はシルシルりんを拝んだ。
「泣かされたら殴れって言ってましたよね?」
ん? ああ、そうね。
シルシルりんはぎゅっと拳を握った。……その拳をどうするのかな?
シルシルりんは答えず、赤カブトに「ちょっと待ってくださいね」と声を掛けた。
いや、シルシルりん。俺を庇ってくれたんだよね? その言い方だとさぁ、少し待ってくれれば殺してもいいよっていうように聞こえるんだよね。俺の気の所為かなぁ?
「コタタマりんのばかー!」
「グー!?」
俺はシルシルりんに横っ面を殴られて床に転がった。
シルシルりんは目尻に浮かんだ涙を拭って微笑んだ。
「おかえりなさい、コタタマりん」
……ああ、ただいま。
俺は無性に照れ臭くなって目を逸らした。嬉しいもんだな、おかえりって言って貰えるのは。
俺は立ち上がって笑った。さあ、帰ろう。俺たちのクランハウスにな。
これは、とあるVRMMOの物語。
でも結局殺されるんでしょ?
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