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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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行く年来る年、振袖ララバイ

 1.2022年12月某日


 クリスマスにハシャぎすぎた俺は例によって例のごとく使い物にならなくなり、年の瀬をウチの子たちに看病されて過ごした。

 心休まるひと時だった。

 俺の母性を満たしてくれるポチョ、俺を甘やかしてくれるスズキ、俺に説教しながらも満更でもなさそうな赤カブト、俺の仮病を疑いつつも微妙に普段より優しいマグちゃん。四人が四人とも違って凄くイイ。看病選手権は全員優勝だ。やっぱウチの子たちは便利で都合が良くて最高にイイ女たちだぜ。


 しかしムィムィ星人の襲来によって興奮したゴミどもは暴徒と化し、戦場となった人間の里は焦土と化した。

 事の経緯はこうだ。

 ムィムィ女子が地球人の女性プレイヤーと文化交流しきゃっきゃと楽しく過ごす傍ら、ゴミどもは何故かムィムィ男子に対して強い執着を示した。

 それについては感謝している。忙しい俺に代わってムィムィ星人の観光旅行をサポートしてくれたのだ。

 しかしその後にバトルロワイヤルに突入したのは頂けない。

 証言がバラバラで要領を得んが、どうもケモ耳系男子の頼れる兄貴分でありたかったらしい。

 勝者は居ない。

 水が高きより低きへ移ろうようにエンフレ戦が勃発し、共倒れになったのだ。

 ゴミどもは母星へと帰還するムィムィ星人を涙ながらに見送ったのち……。

 俺の抹殺に乗り出した。

 動機は様々だが、ゴミどもは俺の健康診断を確実かつ迅速に実施すると主張しており、そのためにはいったん俺の血液を全部抜き取ってCTスキャンさながら輪切りに解体する必要があるらしい。随分と念入りじゃないか。検査結果が楽しみだ。実は途中で死んでたことが発覚するんじゃないか?

 もっとも検査の必要はない。俺の身体のことは俺が一番よく知っている。いいやそんなことはないとゴミども。

 実力行使に及ぼうとするゴミに対して、俺はウチの子たちでバリアを張った。ウチの子たちはゴミ避けの効果を持つのだ。いつからそんなことになったのか知らんが、ゴミはゴミなりにウチの子たちの幸福を願っているようだった。ならば俺と目指す先は同じハズ。俺たちは共に手を取り合って歩んで行けるんじゃないか? 俺はそう思ったが説得しても無駄だと分かっていたので一計を案じた。バリアを維持し続けるのは難しい。俺の尽力によりウチの子たちは大変仲睦まじく、露店バザーに買い物に行く時は少なくとも二人、大体は四人一緒にお出掛けしてしまう。無理が祟って身体を壊しているハズの俺が同行するのは変だし、引き留めようにも俺とゴミが殺し合うのは割といつものことである。むしろ四人にコナを掛けている俺としては四人仲良くお出掛けして貰ったほうが将来的なリターンは大きい。トゥルーエンディングは一日にして成らず。

 四人娘がお出掛けする直前に、俺はいつも部屋で暇そうにしているコゴローを居間に持ってきて俺のとなりに置いた。本人はとてもウザそうにしていたが、こいつは俺のガキ……! 金属片を支配する小癪なチカラは持っているようだが、それさえ気を付ければ俺をどうこうする力はない。

 珍しく親子並んで座る俺らに、四人娘は嬉しそうにしていた。特に自宅警備員仲間のマグちゃんは同僚のコゴローと親しくしており、


「ふうん……」


 と意味ありげな流し目で俺をドキッとさせた。マグちゃんはたまに凄く色っぽい一面を見せる。

 行ってきまーすと四人娘が手を振る。

 コゴローとしては割と友達目線で接してくれる赤カブトがお気に入りのようだ。チラッと赤カブトを見て、


「気を付けてな」


 と、一言。

 コゴローはコゴローなりにAI娘に対して思うところがあるようだ。マグちゃんのことはあまり心配していない。一緒に暮らしていれば分かるのだが、意外としっかり者だからだろう。

 ガキンチョに対しては強気に出れるスズキが微笑ましいものを見るような目で文句だけ言う。


「コゴロー。それ私にも言ってよ」


 コゴローはとても嫌そうな顔をした。


「……ポチョ姉と組んだあんたに何を気を付けろってんだよ?」


 俺は常に女性の味方だ。

 こら、コゴロー。変な意地を張るもんじゃない。お前だって何も心配してない訳じゃないだろ? 野郎のツンデレは別に可愛くないぞ。

 俺の話が長くなると察してか、コゴローは渋々と四人娘たちに手を振った。

 四人娘がニコニコと手を振り返しながら丸太小屋を出る。

 俺は時間を計測した。

 一秒、二秒、三秒……そろそろか。

 二階でパンと窓が割れる音がした。ゴミどもが踏み込んでくる。地上から木登りしてきた部隊と俺の部屋からエントリーしてきた連中がバタリと鉢合わせになる。居間で読書しているコゴローを目にしたゴミどもは目の色を変えた。


「コゴロー……!」

「チッ、乗るしかねぇな……!」


 ゴミどもの判断は早かった。潰し合いをさせるという俺の計略を読み切り、なおも逸る足は止まらない。

 俺はニヤッと笑った。

 思った通りだ。ゴミどもはコゴローを特別視している。ただでさえ手柄を他に譲る気がなさそうな連中が、コゴローの目を意識したら衝突は避けられないだろう。ゴミどもは自分はこういうことができると見せつけるように高く跳んだ。


「コゴロー! 俺を見ろッ!」


 熱い感情の迸りをぶつけられて、コゴローは迷惑そうだ。


「ゴミが。死ね」


 声変わりを済ませていない幼なげな罵倒にゴミどもの戦技は過程を問わずして最高潮を迎え……。

 ゴミどもは全滅した。全員相討ちになったのだ。

 強力な攻撃魔法、不死性の回復魔法、万能とさえ思えるアクティブスキル……ゲームならではの要因が純粋な技量による決着を妨げ、ゴミどもの戦力を均一化させていく。

 飛び散った血と肉とモツ。死屍累々、血の海と化した居間を俺は立ち上がって睥睨する。言った。

 勝った……!


 そんなこんなで俺の年の瀬は慌ただしく過ぎ去った。



 2.2023年1月某日


 年明けを迎えても俺の命を付け狙うゴミどもが絶えることはなかった。

 俺は剣で刺された腹を押さえながら、よろよろと階段を降りていく。

 くそったれがぁ……!

 相討ち作戦で一時の安穏を手にした俺だが、チワワの動きばかりは読めなかった。俺をラスボスか何かと勘違いしちまったらしく、俺のベッドに潜ってログイン待ちとは恐れ入る。さしものゴミとてそこまではやらない。単純に野郎と同衾など気持ち悪いだろう。しかしチワワはやる。ヤツらはこのゲームを始めてまだ日が浅く、モブ顔の俺ですらラノベ主人公が美形に見える法則でそこそこ見える面に思えるらしい。つまりリアルを基準にしているため、これといって粗がない顔面に対して嫌悪感を抱く段階にないようだ。いくらセミプロの俺でも自キャラをメイキングする時にわざわざ顔面のバランスを崩すようなことはしない。いや、できない。何しろ自分の顔だ。その辺が俺は甘い。どうしたってキレーなチャンネーの目を意識してブサイク要因を排除してしまう。

 まさかの添い寝作戦に意表を突かれた俺はチワワに一撃を許してしまった。ギルド化した半身を引きずって階段を降りていく。傷は深いが、チワワゆえの甘さで即死は免れた。壁にべったりと付着した血の手形はチワワの返り血だ。即座に返り討ちにしたものの、腹を刺されては助からない。ウッディの治療は組織片を埋めるだけのもので、複雑な臓器の肩代わりはできないのだ。

 くそっ、チワワごときに、この俺が、なんてザマだ……。

 鉛のように重い手足を引きずり、居間のソファに身を投げ出すように横たわる。

 手探りでモグラさんぬいぐるみの手を掴み、身体に乗せると幾分か気が紛れる。生産職の俺は回復魔法を使えない。死を待つばかりの俺に、ウチの子たちがきゃっきゃとハシャぐ声が届いた。

 寝返りを打つのもひと苦労だ。俺は気力を振り絞って仰向けになった。顔を横に向けると、ちょうどウチの子たちが階段を降りてくるところだった。先頭を歩くポチョは足元をまったく見ておらず、首を傾げて後続のメンバーとお喋りをしている。良い子が真似をしてはいけない階段の降り方だ。しかも着物姿で、足元がおぼつかない様子。

 普段の俺なら二言、三言は注意しただろうが、今の俺にそんな余裕はなかった。正直、見惚れた、というのもある。

 ポチョのみならず、ウチの子たちはみんな着物姿をしていた。結い上げた髪から覗く白いうなじと後れ毛が妙に大人びて、艶かしい。

 しかし何故……。

 俺は吐血に構わず声を上げた。

 な、なんで……しっぽと耳、生やしてんだ……?

 耳は耳でもケモ耳であった。

 見るからに重傷を負っている俺に、回復魔法を使えるハズのポチョさんは何故か「きゃっ」と初心な女子が恥ずかしがるような反応をした。

 躊躇いながら寄ってきて、顔を覆った手の指の隙間からチラチラと俺の腹部を見てくる。

 羞恥心を刺激されたのはポチョだけじゃないらしく、顔を赤くしたスズキが微妙に俺から視線を逸らしながら照れ臭さを誤魔化すように叱ってくる。


「もう……! 朝から何やってるの! だ、ダメでしょ……! みんな居るんだからっ」


 俺は死にたくなかった。ふらふらとポチョに手を伸ばす。

 か、回復魔法を……。

 しかしポチョは耳まで真っ赤にしてサッと赤カブトの後ろに隠れてしまった。

 ……普段からちょっと人には言えない用途で回復魔法を使用しているので、友達の前でそういうことをするのは抵抗があるようだ。

 赤カブトも瀕死の俺を直視できない様子で、もじもじと指を絡ませている。


「あ、あのね、最近こういうの流行ってて……。ペタさんも、要る? 買ってこよっか?」


 ……ムィムィ星人の影響か。

 四人娘は落ち着かない様子でそわそわしている。

 比較的マシな症状のマグちゃんですら平静を装っているものの、態度がぎこちなかった。


「私は恥ずいしイイって言ったんだけどさー……。よ、四人分買ったら割引きするって、店の人が言うから……」


 もう目が霞んで、彼女たちの艶姿がよく見えない。それはとても残念なことだった。

 それでも俺は最後の意地を張る。

 よく、似合ってるよ……。かわいい……じゃん? 照れること……ないって……。

 こほっと最後に一つ咳をして、俺は静かに息を引き取った。まるで眠っているかのように安らかな顔をしていた。

 悪くない人生だった……。

 愛する女たちに看取られて逝くのは、きっと幸せなことだ。


 満足げに事切れた俺を、どこからともなく差し込んだ光がパァッと白く照らす。

 天上より純白の羽が舞い落ちて、この世のものとも思えぬ美貌の天使が慈愛に満ちた眼差しを俺に向ける。

 たおやかに差し出された手が、ふわっと幽体離脱した俺の手と重なる。

 現世での務めを終えた俺に、その労をねぎらうように天使はニコッと微笑んだ。

 その手に、練りわさびのチューブを持ったまま。




 これは、とあるVRMMOの物語

 やっぱ穢れた魂の刺身には醤油とわさびよ。鼻にツンと来る風味が堪んないんだよね。おっと、お子ちゃまなナイツーにはチョット難しいカナ? この大人の味はサっ。



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[良い点] 初っ端の流れからして酷すぎて草 [一言] ただでさえ刺激の強そうなものにワサビとは 生臭さを消すためか?
[気になる点] いや~最近までクリスマスだと思ってたのにもう年始が終わっちまったよ! [一言] 今年も宜しくお願い致します。
[良い点] お、幼馴染の寝起きドッキリ戦法!? ログインの仕様を知ってもその発想に至る自信はねぇわ...漢と同衾なんて選択肢自体を無意識で脳が排除してる。スゲーなチワワは....。 [気になる点] 年…
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