バンシーちゃん
1.マールマール鉱山-チョコレート工場-司令室
シルシルりんシルシルりんっ。
「つーん」
シルシルりんが口を利いてくれなくなってしまった。悲しい。もるるっ……。
万華鏡写輪眼が親しい人物を失った悲しみで目覚めるように、俺の覚醒進化した目は女性に忌み嫌われる宿命を帯びている。
またシルシルりんの反応を鑑みるに、モンスターじゃなくてもはっきりと見られてることが分かるようだ。検証は必要だろうが……。ポチョとスズキは何をしても許してくれそうな気がする。赤カブトはどうか。普通に殺されそうだ。だが殺されるから許されるみたいなトコはあるんだよな。おっとゲスいぞ。かなりゲスいことを考えてる。これはいけない。新しい力に目覚めてハイになってるのか。自覚がないってのが一番怖え。俺よ、落ち着くんだ。クールになれ。ホットからクールだ。そうよ、俺はクールな男。冷静沈着なこのペタタマさんをして興奮を抑えきれなかった……それは仕方ねえ。俺も人間だ。そういうこともあらぁな。だが、こっからは違う。反省は終えた。頭も冷えた。次の段階へ行こう。
そうだ。何をしても許されるだと? 何を根拠にそんなことを考えた? 思い込みだ。単なる思い込み。バカは大抵それで失敗する。だが俺は違う。セクハラには注意深さが絶対不可欠なんだ。
イケメンが何をしても許されるように、相手に不快感を与えるかどうかってのが重要なのさ。もうね、いっそ法律は八分割くらいして、男性版の刑罰は顔面偏差値で分けちゃってもいいよ? そう思う。俺、知ってるから。女性誌のアンケートで男性の魅力は?とか聞かれると大半の女は優しさとか清潔感って答えてくれるみたいだけど、そんな気ぃ遣わなくていいから。それらはメイン武装にはならないって俺ら知ってるから。金と顔だよ。だって俺らも綺麗な姉ちゃん居たらチヤホヤしちゃうもん。どうしようもねえよ。お互い様っつーか。クズでゴメンとしか言いようがねえ。だが、まぁそこをオブラートで包み込めるのが人間様の偉えところよ。俺らは生涯纏って生きていくんだ、このオブラートをよ。
そんなことをつらつらと考えながら、俺はシルシルりんのご機嫌を伺っている。
シルシルりーんっ。
「知りませんっ」
ああ、癒される。シルシルりんは可愛いなぁ。優しすぎて怒れないタイプの人だから、こうやって冷たくされると逆に気を許してくれてるんだなって感じる。
うへへ。俺は相好を崩して玉座の肘置きに片足を乗っけた。
シルシルりんシルシルりんっ。
もう名前を呼んでるだけで楽しい気分になってくる。
おっと、ささやきが入った。ウチの子たちからだ。ささやき三連発。三人とも一緒に居るらしく、タイムラグがほとんどなかった。
『ペタさん今どこ? 戻ってくる?』
『コタタマ、チョコ好き? どんなチョコが好き?』
『チョコ美味しい。コタタマにも分けてあげる』
性格が出るな。
赤カブトはサプライズ志向らしく内容をボカしてる。半端ロリはダイレクトに情報収集に励み、金髪はチョコを食ってる。
俺にチョコを恵んでくれるようだ。そう、クランに所属してると女キャラからチョコを貰える。全員が全員ともくれるとは限らないが、少なくともゼロチョコってことはない。
よしよし。俺は、玉座の前に跪いてる饅頭屋に命じた。おい、ささやきを返すからあっち向いて耳塞いでろ。変な声出るからな。野郎に聞かれるなんてぞっとしねえ。
饅頭屋は恭しくこうべを垂れた。
「はっ! 仰せのままに」
うむ。そうせよ。饅頭屋があっちを向いて耳を塞ぐのを確認してから、俺はささやきの文面を考える。
そういえばョ%レ氏とGMマレは無詠唱でスキルを使ってたな。何かコツでもあるのかね。プレイヤーの到達点だの可能性の一つだの言ってたし、人間には無理でしたってオチはなさそうだ。
えーと。魔法の原料は【戒律】だ。それは多分間違ってないと思う。ささやき魔法を使える以上、基本職にも実は【戒律】があるってことになる。それは普通のモンスターにはなくてプレイヤーにはあるものだ。無職になったプレイヤーがささやき魔法を使えなくなったなんて話は聞いたことがない。よって職業そのものじゃない。
……所有権か? ナビゲーターの癖して何にも教えてくれねー【NAi】がアイテムの所有権だけはチュートリアルでキッチリ説明するんだよな。怪しいぜ。
所有権……。ひょっとしてアイテムに限った話じゃねえのか?
運営はプレイヤーを強制的に召喚できる。それは俺らの所有権を連中が握ってるから?
……ありそうだな。プレイヤーは例外なく同意規約にチェックを入れてる。内容を簡単に言うと、何があっても知らねーし訴えても無駄だけど言うだけ言っとくわって感じだ。
所有権か。縄で縛られてるっつーイメージでいいのかね。
縄を広げてー裏返してーややエロく。さわっ、くにって感じだ。どうだ?
「ふっ……ぅん……!」
余計変な感じになったわ。どうしてくれるん?
まぁ検証は放っといても別の誰かがやるだろ。任せる。
俺はウチの子たちにささやきを飛ばした。
『チョコください。今、山の中に居ます。女神像が封鎖されてるので戻れません。通行止めが解除されたら戻ります。チョコ貰いに行きます。ラッピング崩さないでね。俺、ラッピング含めてチョコだと思ってるので。リボンは左右対称になるよう結んでくれると嬉しいです。ねじれてるともうダメ。あとラッピングの色と柄は三人で相談して被らないようにしてくれると凄く嬉しい。二人だけ同じ柄とかどうリアクションしていいか分からないので。お願いしますね。本当。このチョコが好きっていうのは特にないよ。嫌いなチョコもない。でもケーキで誤魔化すのはやめて。ガツンとチョコで来て。小手先の技術とか要らないから。シンプルに板チョコでいいよ。パキッて割れるやつ。パキッて割れるの大事だよ。食べやすいよう小さくとかそういう配慮は一切不要だからね。味について注文つけ始めたら俺マジで止まらないからこれくらいにしとくわ。ただ先生にマズいチョコ食わせたら許さないよ。それは俺の顔に泥を塗るのと同じだからね。ジャムジェムは新入りだからポチョとスズキに味見して貰って。連帯責任ね。でもだからって手抜きして三人とも同じチョコとかやったら俺マジでキレるよ。もちろんそんなことしないって信じてるけどね。一生懸命作ってくれたんだなっていうのが大事なの。既製品とかあり得ないから。論外よ。ただ例外もあって、いやマジで止まんねーから話し途中だけど無理やり切るわ。ありがとね。チョコ楽しみにしてます。じゃ』
返信〜。
即座にリツィートが入る。
『長っ。メール女子ですか?』
『もう一切れの自由も残されてない』
『束縛する男……。もっと管理されたい』
ポチョさん?
おいおい、大丈夫かよ。ウチのサブマスがどんどんおかしな方向に行ってるぞ。後回しにするべきじゃなかったか? 言うこと聞かないのに管理されたいってどういうことなんだよ。やれやれだぜ。ドララァ。俺は胸中に芽生えた不安を近距離パワー型のスタンドで粉砕し、いったん脇に置いた。
って、おい! 饅頭屋! なにガン見してんだテメー!
饅頭屋は恭しくこうべを垂れた。
「はっ! 平にご容赦願いたく」
返事だけじゃねーか!
ったくよー。俺は矛を収めた。饅頭屋は使えるヤツだ。使えるヤツは優遇されてしかるべき。それが俺の基本理念である。
「……おかしくないですか?」
シルシルりんがぽつりと言った。
おっ、やっと心を開いてくれたのかな? シルシルりんシルシルりーん。
シルシルりんはぷいっとそっぽを向いた。ありゃりゃ。
「独り言ですっ」
うんうん。独り言ね。どんどん言って。
「む〜。独り言っ。饅頭屋さんはここで一番偉いんですよね? なのに、ペタタマさんのほうが偉そうです!」
それは、まぁ自然な流れでそうなったのよね。だってコイツ、俺の命令に逆らわねえんだもん。けど、飽くまでもごっこよ。俺は相談に乗ってやってるだけで、ミュウモールを動かしてるのはコイツだからね。
おい、饅頭屋。黙ってねえでお前も何とか言えよ。
「御意。仔細相違ありませぬ」
ふん、殊勝に振る舞っちゃいるが腹の底では何を考えてんのか。
俺は玉座を立つと、饅頭屋の耳をひねって面を上げさせた。
お前、攻略組なんだってな。まぁミュウモールの大半はそうだが。聞いたぜ。フリーランスの傭兵稼業をやってるらしいな。それにしちゃあ人を使うことに慣れてやがる。そうか、ネフィリアにクランを潰された連中の一人だな? モグラっ鼻を扇動して何を企んでる。目的は何だ。復讐か? 言え。
「弱肉強食は世の摂理かと。野心は捨て申した。されど大願成就のため、捨て石になることならば、あるいは……」
捨て石だ? 下らねえ。お前には資質がある。将の器だ。上を目指せよ。骨董品じゃあるまいし。
饅頭屋はじっと俺を見つめている。
「魔王陛下の御霊を探しておりまする」
……ネカマ六人衆がコタタマ氏の亡霊が出たとか何とか言ってたな。それは、あれか。クラン潰しと関係あったりするのか?
「まさしく。やはり、貴公がバンシーであったか……」
バンシー? 泣き女のことか?
え? 俺、そんなふうに呼ばれてんの? 普通に嫌なんだけど……。バンシーってスコットランド版の死神みたいなもんだろ? 家人の死を予告するとか何とか。
「ぴったりですね」
シルシルりん?
シルシルりんが俺にだけ毒を吐いてきてつらい。つらくない。ちょっと興奮する。
しかし、なるほどな。ミュウモールがバザーを焼いたのは宣伝のためか。軍事目的が第一じゃなく、とにかく派手に動けば俺が接触してくると踏んでたんだな。情けねえ話だ。
俺の推測を裏付けするように饅頭屋が内情を吐露し始めた。
「陛下が崩御され、我々は厳しい立場に追いやられようとしている。憎きウサ耳めらは和平をちらつかせ権益を狙い、浅瀬モールまでもが我々に反抗的な態度を……」
おい、浅瀬モールって何だ。いや下級モグラ民のことだろうなってのは分かるが、造語を勝手に使いこなしてんじゃねえよ。そもそも俺は深海モールなんて呼び名に納得してねえんだ。Dモールでいいじゃねえか。Dを継ぐものだぜ。最高だろ。
「尾田先生は遠くへ行ってしまわれた……。億万長者への妬みが我々の目を曇らせる……」
だからお前らはダメなんだよ!
俺は吠えた。
読み込みが足りてねんだよ! 今、サンジが熱いんだぞ! 尾田先生はマジで凄えよ。ゾロとサンジの仲悪しはNo.3を作らねえ構図だ。同じことを一体どれだけの漫画家がやれる? サンジが麦わらの一味を離れる決断を下せたのはな、普段喧嘩ばっかりしてるゾロが居てこそなんだぞ。あいつが居れば大丈夫っていう思いがどっかにあるんだ。ゾロもサンジの料理に文句を付けたりはしねえ。互いに認め合ってんだ。尾田先生はそれを描かねえことで表現してる。
空白の二年間にしたってそうよ。安直に修行して強くなりましたじゃねえんだ。慎重に一味の限界を提示してる。それはな、麦わらの一味の特異性が強さじゃねえからだ。絆なんだよ。友情、努力、勝利なんだ。勝利が先に来ちゃいけねえんだ。看板を背負うってのはそういうことなんだよ。ワンピースは漫画っていう枠組みを超えてジャンプそのものになろうとしてる。分かるか。メッセージなんだよ。何かを作るってのはそういうことなんだ。
饅頭屋は男泣きした。ボロボロと涙を零し、慟哭を上げた。
「チョッパー大好きでござるっ……!」
ド ン !
いやドンじゃねえよ。しかもござるって何だ。お前ついさっきまでゴザルキャラじゃなかっただろ。そこに持って行きたそうにしてるなってのは感じてたけれども!
ん? 工場のほうが騒がしいな。何かあったのか?
俺が訝しんでいると、モグラっ鼻が司令室に駆け込んで来た。
「申し上げます! 火急の用件につきっ」
余計な口上は要らねえよ。何があった? さっさと言え。
モグラっ鼻は混乱しているようだった。震える声で報告を上げる。
「ね、ネカマ六人衆ですっ。敵、共和国の、トップが、工場を見学したいと……! そ、そこに来てます!」
来ちゃったの?
これは、とあるVRMMOの物語。
罵ってのし上がるスタイル。
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