バレンタイン特典:ョ%レ氏の逃避行録
こんばんは。
ョ%レ氏だ。
やあ櫻井くん。手紙で失礼するよ。
おっと気が付いたかな? そうなんだ。櫻井くん。君が今手にしている手紙は、君たちが私の許可なく発行した限定品に使われている便箋を再現したものだ。サイズは言うに及ばず、デザイン質感に至るまで完全に同一であると自負している。ふふふ。皮肉が利いてるだろう?
さて前置きはこのくらいにしておいて、本題に入ろう。櫻井くん。このョ%レ氏の計算に狂いがなければ(まぁ狂いなどまずないだろうが)、君はバレンタイン特典とやらを受け取りにこのョ%レ氏を訪ね、そしてこの手紙を発見した。そうだね? そうだろうとも。何しろ私の計算では、君にバレンタイン特典を受け取りに来るようメールしたのは私自身になる筈だ。
ああ、察しの良いことだね。そうとも。櫻井くん。君がこの手紙を読んでいる頃、私は既に国内には居ないだろう。
しかし手紙を破くのはもう少し読み進めてからにした方が良いとご忠告差し上げるよ。
櫻井くん。君たちが私の許可なく発行したこのョ%レ氏のカイワレ大根育成日記の件なのだが。珠玉の出来と言えるのではないかな。興味深く拝見させて頂いたよ。
まさか私信を世に発信されるとは夢にも思わなかったのでね。しかもこのョ%レ氏に何の断りもなく。非常に驚いたよ。貴重な体験だったと言わざるを得ないだろう。
ああ、誤解しないでくれ給えよ。私は何も君を責めている訳ではないのだ。元を正せば締め切りを守れなかった私にも非はある。それを差し引いたとしても本人に無断でというのはどうかと思うがね。
しかし物は考えようだ。つまり君に渡す限定品はこのョ%レ氏の私信で十分であるというのが君たちの主張なんだね。実に謙虚なことだ。
どうかな? 破かなくて良かっただろう? おめでとう。櫻井くん。君は今まさにバレンタイン特典を手にしたのだよ。この手紙がそうなんだ。
おやおや、櫻井くん。大分興奮しているようだね。君から見て右手側の机の引き出しを開けてみ給え。コンビニで買ってきた清涼飲料水が入っている。それでも飲んで少し落ち着くといい。もうすっかり冷めているがね。
飲まないのかい? そうか、喉は渇いていないんだね。失敬。
では話を続けようか。櫻井くん。君たちは限定品などこのョ%レ氏の私信で十分だと考えているようだが、生憎と私にはプロ意識というものが備わっていてね。ユーザーへの責任というものを感じているのだよ。君たちとは違ってね。
そこで提案なんだが、私と一つゲームをしないか? 実はバレンタイン特典に関しては既に別のものを用意していてね。君が私を捕まえることができたなら快く開け渡そうと考えている。
無論のこと、君が今手にしている手紙で一向に構わないというならば私は止めないよ。君の上司が認めるかどうかまでは私の保障の及ぶところではないがね。
櫻井くん。今、諦めが君の頭を過ったようだが、そう悲観することはない。私はいつも言ってるだろう? ゲームは公平でなくてはつまらない。私は、あえて自家用車を使わないと約束しよう。君たち下等な地球人類が作り出した叡智の結晶とやらでゆっくりとクルージングさ。このョ%レ氏の足跡を追うのはそう難しくないだろう。わざと痕跡を残しているからね。
船上のョ%レ氏より愛を込めて。
忠実なるマネージャー櫻井くんへ。
1.万里の長城
やあ櫻井くん。遅かったね。
この手紙を手にしている時、君はもしかしたらこのョ%レ氏を取り逃がしたと悔しく思っているかもしれないな。
だが少し顔を上げて目の前に広がる光景に目を向けてみ給え。どうかな? 壮観だろう。信じられるかね? 君が今目にしているのは人の手で作られたものなのだよ。
あるいは君はこう考えていることだろう。時間さえあれば。人手さえあればと。大したことはないと。しかしそうではないのだ。
櫻井くん。歴史だよ。何百、何千万という人間が長城の完成を見ることなく倒れていったことだろう。当時の人間たちが現代の世を精細に予測していたとは考えにくい。だが中には、未来に訪れる人間を驚かせてやろうと考えた者も居た筈だ。
櫻井くん。今、君は彼と確実に繋がっているのだ。それが歴史というものなんだよ。
一流の%は歴史のロマンを知る。
万里の長城。堪能させて貰った。自然の景観とはまた違った趣がある。
機上のョ%レ氏より。
忠実なるマネージャー櫻井くんへ。
2.イースター島
櫻井くん。モアイはどうしてモアイなのだろうな。
如何な私といえど失われた過去の真実を暴くのは許されることではない。それはひどく罪深いことだ。
しかしね、私はこう思うよ。彼らは帰りたかったのではないか。それがいつしか信仰に結び付き、寓話となって人々の心に根ざして行ったのだろう。分かるかな。櫻井くん。人が人の領分を越えた何かを為そうとした時、そこには必ずと言っていいほど負の感情が宿る。それが執念だ。
だが私は、今君が目にしているモアイ像に不思議と清浄なものを感じたよ。たとえそれが真実とは異なっていたとしても、モアイ像に花冠を捧げた子供たちはきっと居たのだ。
一流の%は霊魂を軽んじることはない。
さて長旅で少し疲れてしまった。温泉にでも浸かりに行くとしよう。走ってね。この辺りは交通の便があまり良くないな。
海上のョ%レ氏より。
忠実なるマネージャー櫻井くんへ。
3.コラソン温泉
驚いたよ。櫻井くん。よもやこれほど早く嗅ぎ付けて来るとはね。いささか君を見くびっていたかもしれないな。
なるほど、プロを雇ったんだね。随分と物々しい出で立ちだ。いよいよ君も本気を出してくれたようだ。普段からそれくらい熱心に仕事に取り組んでくれればな。こうして君の本気をキャバクラ以外で拝める日が来るとは感無量だ。
しかし必死なのは分かるが、このョ%レ氏をタコ呼ばわりするのはどうかと思うがね。
ああ、この手紙は旅館の屋根の上で書いたのさ。櫻井くん。君の声がよく聞こえるよ。あのタコを探せとは何事かね。
櫻井くん。君たち日本人は何かと日本食を有り難がるがね、チリの料理も美味しいよ。せっかく立ち寄ったんだから存分に味わって行くといい。温泉で身体を休め、美味しい料理に舌鼓を打つ。キャバクラ嬢にモテたいなら、まず豊かな人間性を身につけるべきだよ。人生の意味を探るのもいいが、それは部屋に閉じ篭っていて見つかるものなのかね?
一流の%は哲学を知る。
よし、手紙を放るぞ。しっかりと受け取り給えよ。アデュー。
屋根上のョ%レ氏より。
忠実なるマネージャー櫻井くんへ。
4.プラジャ・アカプルコ
暮れなずむ夕日。きらめく海。素敵なビーチだ。そうは思わないかね、櫻井くん。
今、君は私を追って死に物狂いで砂浜を駆けているが、大自然のパノラマに目を向ける心のゆとりが足りていないね。しかし学生時代は陸上部だったと何かにつけ自慢する君を君の部下は煙たがっているようだが、なかなかどうして健脚の持ち主じゃないか。
素晴らしい。君の身体能力はこのョ%レ氏をして予測を上回る数値を叩き出そうとしているぞ。プロ顔負けだ。もっとも私は半分も本気を出してはいないがね。それは仕方のないことだ。まさか君も正面から私に挑んで敵うとは思っていないだろう?
何らかの計略を用意しているだろうと思っていたのだが、特に何もないようなのでそろそろ失礼するよ。さらばだ。
砂上のョ%レ氏より。
忠実なるマネージャー櫻井くんへ。
5.社内
やあ櫻井くん。諦めて日本へ戻ったようだね。不甲斐なく思うよ。
この手紙は私が国内を発つ前に用意したものでね。君はさぞや面食らったことだろうと思う。
何しろこの手紙を君は君の上司から直接手渡されているだろうからね。
すまないね。本当に心から申し訳なく思うよ。もう察しは付いているだろうが、君の上司とはとっくのとうに商談を終えていたんだ。そしてこうも話してある。この手紙を読んだ君の顔写真を撮影するようにと。
撮影されたようだね。だが安心し給え。その写真には私も写っている。違う違う。そっちじゃないよ。君は本当に単純だな。いっそ好感すら抱きつつあるよ。こっちだ。
私は櫻井くんの肩をぽんと叩いて、カメラを持つ編集長にVサインを向けた。
これは、とあるVRMMOの物語。
運営ディレクターと担当マネージャーのツーショットブロマイド付き。
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