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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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無職のゆくえ

 1.プクリ遺跡-中層域


【楽園追放】。それがスキルの名称。

 言葉通りに受け取るなら、プレイヤーたちがこれまで目にしてきたのは「楽園だった」ということになる。

 新時代の到来にプレイヤーたちは翻弄され、ただただひたすら混迷していく。

 旧時代は終わったのだと、以前と同じ遣り方はもう通用しないのだと受け入れることは心情的にも難しかった。

 しかし彼らは人間が賢い生き物だと思っているから、古い慣習を捨て、適応していけるという自信を持っていた。

 だから彼らの多くは「変化」を目の当たりにして、初めて自分が旧時代に取り残されたことを知る。

 同時多発する「新要素」は、為したつもりの心の準備をたやすく乗り越えてくる。


 結局やることは変わらないと思っていたものは、災害と似た脅威に目を剥いた。


「使徒!? 使徒だってのか、アレが……!?」


 振り払った手を握り返してくれると考えるのは自惚れだ。

 和解の道はとうに閉ざされ……。



 2.ポポロンの森


 再誕した悪夢がお前たちに逃げ場はないと告げてくる。

 両断された仲間の死体越しに銀色の火の粉が舞う。


「な、なんでここに居る!?」

「『放浪者』……! 最強PKer! 『銀騎士』……!」

「ッ……! 来るぞ……!」


 森をつんざく悲鳴は懇願にも似て、諦観を抱くにはまだ早いと心のどこかで信じていた。

 それは未練だ。



 3.ドイツサーバー-学生牢-執務室


 それでも捨てられないものがある。

「悲報」を耳にしたドイツサーバーの女帝が美貌を憎しみに歪め、わなわなと震えるこぶしを机に叩きつけた。


「ロスト!? ロストしただと!?」


 彼女の剣幕に側近たちが震え上がる。

 砕けた机が自分たちの未来と重ならないことを祈るしかなかった。

 用を為さなくなった机を持ち上げ、壁に叩き付けたグレゴリオが顔面の包帯をむしり取って放り投げる。

 

「ジョン・スミス……! ヤり逃げか……!」


 カットぉー!

 不適切な表現に俺は堪らず割って入った。

 閣下。困ります。ヤり逃げじゃないです。勝ち逃げね。俺はジョンとステイシーの仲を応援してるんですよ。波風を立てるのはマジ堪忍したってくださいや。


 ゴミどもの危機感を煽るためにカメラ片手にプロパガンダ映像を撮影している。

 閣下は急に冷静になった。着席して足をぶらぶらさせる。ティナン襲撃の罪で女体化してからこっち、意地になって備品を変えていないらしい。背が縮んで足が床に届かなくなったものだから宙に浮いた爪先が落ち着かないのだとか何とか。

 閣下はフンと鼻を鳴らした。


「くだらん。私がジョン・スミスの女と仲良くする理由はない」


 ……その、閣下? 今更ですが……案外、そのぅ、冷静なんですね? 傷が疼いたりとかしないので?

 正直、俺は傷が疼いてる閣下を見たかった。

 しかし閣下はスンとしている。


「私がヤツのロストを知ったのは一週間前の出来事だぞ。一週間前のことでいちいち疼いたりせん」


 いや、でも、アンタ、ジョンにヤられたことをずっと根に持ってるんでしょ……? 閣下の復讐はどうなるんです?


「それこそなるようにしかならんだろ。いっそ私の手でジョン・スミスを育てるか……。検討中だ」


 くそっ、この人、全然疼いてくれない。

 演技だっつーのに閣下の剣幕にガチビビりしていた同志・エーミールがホッとして俺に声を掛けてくる。


「しかしコタタマくん。この撮影は本当に効果があるのかね? どうも私は懐疑的でな」


 効果はありますよ。

 俺はカメラの映像をチェックしながら断言した。

 この手の映像はね、俺は踊らされねーぞって斜に構えるヤツほど効く。そういうヤツは自分が好きだからです。他人をバカだと見下していて、自分は特別な存在だと思い込んでる。でも考える頭がない訳じゃないですからね。理想と現実のギャップに苦しむことになる。反発は期待の裏返しですよ。俺には分かるんです。俺もその手の人種ですから。いつまで経っても中二病を卒業できず、運命に選ばれるのを待ってる。プロパガンダってのはそういう連中を対象にしてるんです。踊らされまいと輪に加わらずに眺めている時点で素質がある。効かない連中はスルーして、さっさと立ち去りますから。

 人間、誰だってヒーローになりたいだろう。ニュースで凶悪な犯行を見て、許せんと憤る。それはプロパガンダに踊らされるのと本質的に同じことだ。他人事で居られなくなった時に思い知ることになる。

 俺は映像のチェックを終えてカメラを構え直した。

 テイク2、行きまーす。閣下。お願いしますよ〜。3、2、1、キュー!



 4.クランハウス-居間


 世界の混乱は続いている。

 ネズちゃんの力は凄まじい。世界を作り変えることができる力だ。

 俺らを試すとか何とか言ってたし、試行錯誤しているようで地形が安定しない。山岳都市に行くだけでひと苦労だ。落ち着くまでヘタに動かず、じっとしていたほうがいい。ルールがどんどん変わってるのに、明日になったら変わってるかもしれないルールを覚えても無駄だからな。ゴミめらも俺と同じ結論に至ったようで、ここ最近は大人しくしている。

 つまり平和だった。

 そして今その平和が終わりを告げた。

 クソ廃人と俺の同期というクソみたいなコンビがウチの丸太小屋に乗り込んできたのである。

 キューティーとかいう偽名くさい名前をした女はサトゥ氏におんぶされていた。サトゥ氏の背中からぴょんと降りるなり、口元を覆うフードのボタンをパチパチと外しながら言う。


「あー、しんどかった」


 防護服をパッと脱いで畳んで腕に引っ掛けたキューティーに、防護服のフードをウザったそうに跳ねて顔面を晒したサトゥ氏が文句を言う。


「お前は俺の背中でギャーギャー言ってただけだろ」


「私は生産職だぞ。お前の動きに付いてけるかよ。変態機動野郎がよ」


 防護服は大気を漂う胞子から身を守るための装備だ。現在の世界は日々変動しており、不安定な環境になっている。外出時に肌の露出を抑える防護服は必須だ。

 ああでもないこうでもないと言い合いながらクソのようなコンビが当たり前のような顔をしてウチの丸太小屋の居間に入ってくる。


 β組はタレント集団だ。人格よりも能力重視の編成。だからクソも混じる。

 一方、俺の同期にはクソしか居ない。暗黒時代が産み落とした最悪の世代であり、他人を陥れることに無上の喜びを感じるという救いようのない人種だ。


「しかし最後のありゃ何だ? あんなモンスター居たかぁ?」


「……モンスターじゃないな。ダッドのスキルじゃ複雑な生き物は作れない。作れるなら俺らをコマにする必要がない」


 俺のクソ同期が俺の大切なモグラさんぬいぐるみをひざに抱えて俺のとなりに座った。俺を挟んで反対側のとなりに着席したクソ廃人へと俺越しに声を掛ける。


「よし、ここならイイんだろ。話の続きだ」


 続けるな。帰れ。


「ンなこと言っても仕方ねーだろ。コイツはオメェーにも話を聞いて貰いたいんだとよ。良かったじゃねーか。トッププレイヤーに好かれてよぉ。オメェーなんぞサトゥとの絡みがなかったらそこらのゴミと変わんねーぞ」


 まぁそれは否定しない。知らない女が俺に「コタタマくーん」とか言って気安い感じで接してくれるのはサトゥ氏の知名度によるところが大きい。

 俺は嘆息した。力尽くで追い出すのは無理だし、心底メンド臭いが、だからってログアウトするのもなんだか負けたようで気分が悪い。どうせ避けられないなら、せめて女キャラの口から可愛い声で事情を聞きたかった。

 ……サトゥ氏がどうしたって?


「私がコイツらのメシを作ってるのは知ってるだろ。メシ時に他の連中が話してるのを聞いたんだが、サトゥのガムジェムがカップラーメンだっつーんだよ。なんでそうなるんだよ? 頭おかしいんじゃねーか? だったら私の今までの苦労は一体何だったんだよ」


 その話か。つぅか、向かいの席が空いてンだろ。そっちに座れよ。この配置は絶対に間違ってるだろ。

 サトゥ氏は俺の言葉を無視した。


「俺さぁ。ガムジェムがカップラとかイヤなんだよね。ダリぃよ。だからぁ、もっと効率いいモンを好物にしたいと思って」


「……な、何を言ってる……?」


 ……これ食ったらオイシイとかねーの?


 俺たちはドン引きしていた。

 事あるごとに暗黒時代の産物だの負の遺産だの言われて、ちょっと効率良さげな思い付きを提案をしたらドン引きされる側の俺たちがドン引きしていた。


「いや……あるよ? あるけどぉ、結局は兼ね合いの問題じゃない? そりゃ手間暇掛けて作った食いモンはウメーよ。ウメーけどさぁ、一時間使ってコレ?みたいな? カップラは3分じゃん? 買い置きできて、そこそこ食った気になれンじゃん? じゃあ別にカップラでいいやってなるじゃん?」


 お前、早死にするぞ。


「ダイジョブだよ。ダイジョブ、ダイジョブ。俺ぇ、イッちゃんたちに言われてっから。必須アミノ酸とか知ってンの。その辺ちゃんとしときゃ残りは身体んナカで作れるって俺知ってるから。むしろ健康には自信ある」


 ならいいけど……。


「良かねーよ! お前な、サトゥ……! お前みたいなのが一番ダメ! 食事は楽しむもんだぞ! 楽しい食事がカラダを作るんだ!」


「そんな非科学的な……」


 栄養管理できてるなら俺は別にいいと思うけどな。ま、食の楽しみは人生の楽しみ……。ライフスタイルを提案って意味ならサトゥ氏の人生にメスを入れるのも悪くない。

 ガムジェムの形ねぇ……。

 どんなに嫌そうにしていても、一度口を開けば止まらないのが俺だ。頭がいいふりをして気分良くペラペラと口を回す。

 まず俺の見立てじゃあガムジェムってのは一番の好物に化ける訳じゃない。持ち運べて、その場ですぐに食えるものっつう縛りで行くと十中八九は菓子になるってぇ仕組みだろう。要するに擬態だな。俺らの都合、ガムジェム側の都合、それらの妥協点ってトコか。だからクソみてーに人生舐めてるヤツはガムジェム側が譲歩して変な形になる。セブンのエナドリがそうだ。まぁヤツは例外的な生き物だから、それ以外にも何か理由があるのかもしれん。当てにはなんねーな。サトゥ氏の、そこそこ食った気になるって話も分かる。どうも菓子類はメシって感じがしねぇからな。

 キューティーが胡散臭そうに俺をじっと見ている。


「……つまりどうしたらいいんだよ?」


 どうしたら、じゃない。別にオメェーの作るメシに不満がある訳じゃねーだろうって話だよ。コイツが……。

 そう言って俺はサトゥ氏の頭を引っ叩いた。

 コイツがメンド臭ぇガムジェムを使ってようがオメェーにとっちゃどーでもいい話だろ。この件はそれでいいな。


「俺は良くない」


 サトゥ氏よぉ……。オメェーは大丈夫だよ。無理に好物なんか作ろうとせんでも、なんかのきっかけがあれば勝手に最適化していくさ。オメェーはそういうヤツだよ。

 俺はサトゥ氏についてはまったく心配していなかった。コイツはシステムに愛されている。条件付きのガムジェムが「当たり」の可能性すらあった。

 キレイに話をまとめたところで俺は経験値稼ぎを再開した。マグちゃん手製の藁人形を手に取るが、パァンと窓を突き破って飛んできた小剣が手元の藁人形を串刺しにして机にびんと磔にした。

 割れた窓を乗り越えて現れたダ天使が素足でぺたぺたと歩いてきて向かいの席に尻を落とした。

 サトゥ氏が気軽に声を掛ける。


「NAiじゃないか。どうした?」


 サトゥ氏に話し掛けられて、ダ天使はとても嫌そうな顔をした。

 サトゥ氏はすっかり過去の出来事として処理しているようだが、この男はかつて粘着チュートリアルをしてNAiに多大なストレスを与えたことがある。

 そしてNAiはサトゥ氏の粘着チュートリアルに関して有効な対策を見出せていない。それが分かってるからサトゥ氏は無視されても友好的な態度を崩さない。


「先生に何か用事か? 俺が取り次いでやってもいいぜ。お前は先生の心を読めないんだろ?」


 ……運営陣がウチの丸太小屋を訪ねるとすれば、まず間違いなく狙いは先生だ。

 俺はいつでもガムジェムを使えるよう備えた。懐に忍ばせた板ガムの包装をぺりぺりと剥いでいく。

 しかしNAiは予想外のことを口にした。


「いいえ。コタタマ。用があるのはあなたです」


 へぇ。それはそれは……。

 俺は軽口を叩いた。

 一体どういう風の吹き回しだい? ついに俺の魅力に気が付いたとか?

 反論を期待してのことだったが、NAiは首肯した。


「ええ。そういうことになりますね。コタタマ。私に力を貸しなさい。あなたの力が要る」


 ……あん? テメェ、何を……。

 NAiはニコリと微笑んだ。


「天使隊の結成です。共に新しい時代を切り開きましょう」




 これは、とあるVRMMOの物語

 マレたん。私、がんばって仕事を見つけるからね……!



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[一言] ナイてめーに新しい仕事は無理だ。 おとなしくチュートリアル部屋で卓でも囲んでろ
[良い点] ナレをクビになって必死なNAiで笑っちったぜ。天使隊って名前も犬狼隊パクってるぽくてナチュラルにNAiの自惚れた感じ出てて好き。 [気になる点] 総統閣下、初期の傷が疼くんだよぅー!!!の…
[一言] ダ天使、起業する。 ……タマ氏主導だと上手く行った後ハジけてたけど、シメで茶々入れてたナイなら、もしや……?
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