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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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アッガイの謎

 1.ポポロンの森-クランハウス前


 丸太小屋よ、俺は帰ってきた!


 おぅ、死屍累々。丸太小屋の前にプレイヤーが積み重なっている。人間ジェンガだ。数は六。誰かと思えば【敗残兵】のネカマ六人衆じゃねえか。

 息はあるようだ。どうした。誰にやられた。ポチョか?

 六人衆は息も絶え絶えに頷いた。

 そうか。ポチョとスズキは俺を追っている……。尋問されたか。何を吐かされた?


「ぜ、全部だ」


 全部? 全部って全部か? ええと、つまりお前らのクランハウスに俺が逗留していた間の出来事とか?


「記憶にある限りは」

「ペタ氏の手料理、美味しかったです」

「もるるっ……」


 ぐう無能。口裏合わせるくらいはやっとけよぉ〜。

 サトゥ氏はどうした? 姿が見えないようだが。


「地下に潜った」

「ペタ氏のアクションを待つと」


 ぐう有能。あいつマジで使えるやつだよなぁ〜。トップクラスの技量に指揮能力、卓越したセンス。判断力も大したものだ。いつも的確で早い。

 地下に潜ったか。ということは、俺との繋がりはバレてないんだな?


「いや……サトゥからのささやきも全部話してしまった」

「遣り口がコタタマ氏と同じなんです」

「仲違いするよう誘導された。も、もうダメだ……。一部ではコタタマ氏の亡霊が出たなんて噂もある」


 ダメなのはお前らだ。

 ……俺はポチョとスズキに自分の正体を打ち明けるつもりはなかった。が、この状況。もはや別人と言い張ったところで……。


 赤カブトが死にゆくネカマどもを励ましている。


「気をしっかり持って!」


「ううっ、ジャム……。お前はいい子だが天然の疑惑がある……」

「引っ張らないで、引っ張らないで。崩れちゃうから。崩れちゃ……ああっ」


 人間ジェンガが崩れた。どさどさと地面に転がったネカマどもを、俺はじっくりと見下ろしてから最後の問い掛けを口にした。

 とどめが……欲しいか?

 安堵したように頷き掛けた六人衆がハッとして思いとどまる。


「いや、とどめの意味ある?」

「単に俺らを殺したいだけでしょ」

「流され掛けたわ」

「そういうトコよ。ペタ氏。本当にそういうトコなの」


 思ったより元気そうで何よりだ。

 

 さて……じゃあ行くか。

 ジャムジェム、お前はどうする? 何も一緒に危ない橋を渡るこたぁねえ。

 これまでなあなあで済ませてきたが、俺はペタタマじゃねえ。コタタマだ。

 まぁ今更の話ではある。ネフィリアは俺をコタタマと呼ぶし、あいつは俺と同じ目を持ってる。隠しきれる問題じゃなかった。

 しかし赤カブトは意を決したように頷き、俺の隣に並んだ。


「その辺りは今後もなあなあで」


 だよな。お前、ペタさんはペタさんですとか啖呵切っちゃってるもんな。

 分かった。なあなあで行こう。

 だけどよ、まぁ何だ。話がどう転ぼうと、特別にお前だけは今まで通り俺のことペタタマって呼んでもいいぞ。

 そう言って俺が皮肉げに笑うと、赤カブトは虚を突かれたように頬を赤らめた。

 あれっ、もしかして今の俺男前でしたか?

 赤カブトはくすくすと笑った。


「ペタさんって女の人に刺されて死にそうだよね」


 日常茶飯事さ。

 俺と赤カブトは視線を交わして丸太小屋へと踏み込んだ。



 2.クランハウス-居間


 まず先生に会いたい。この時間帯ならログインしている可能性は高いが定かじゃない。キャラクターデリート食らってフレンドリストも破棄されたからな。当然、ささやきを送ることもできない。

 先生が不在ならアットムと連絡を取りたい。アットム。お前は今どこにいる? サトゥ氏と一緒に行動してたアッガイはお前なんだろ? まさか一晩で完成させてくるとは思わなかったが、何でもソツなくこなしそうなやつではあるからな。

 査問会のメンバーを金髪ロリコンビのフォローに回して、自分自身は捜査力に長けるトップクランに張り付く……。その目的はネフィリアよりも先に俺を見つけることだろう。悪くない線だ。だが、その先が頂けない。どうして俺に接触して来なかった? 俺が記憶喪失のふりをしていると踏んで目立つ行動を避けたのか、あるいはもっと先を見越してのことか。俺がピュアタマくんに戻らなかったのは想定外だったからな……。

 くそっ、【NAi】め。ヤツが余計なことをした所為で、俺はこんな目に……。

 だが今はとにかく先生だ。クランメンバーの部屋は二階にある。俺は物音を立てないよう慎重に廊下を進み、居間で待ち構えていたスズキにばっちり目撃されて捕まった。もるるっ……。


 俺と赤カブトが観念して居間のソファに腰掛けると、スズキは赤カブトとは反対側の俺の隣に座った。この席順は正解なの? とても話しづらい。

 スズキはニコッと笑った。


「おかえり。マゴットちゃんは元気だった?」


 無能どもの働きにより俺の情報は筒抜けである。

 しかしマゴットちゃんだと? 何やら親しげだ。あのアホは安全地帯を見つけるのが上手い。俺の知らない間に取り入っていたのか。思えばあいつもスズキのことをスズ姉とか言っていた……。

 今も連絡を取り合っているのか? だとすればマズい、か? いや、揺らぐな。スズキは今確実に俺の反応を観てる。ここは何も知らない純真無垢なペタタマくんだ。そうとも。俺がコタタマなんていう証拠はどこにもないんだ。

 俺は攻勢に出た。

 スズキさん。俺の話を聞いてくれ。


「なぁに?」


 スズキは首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。

 ……俺はコタタマじゃないと言ったが、もしかしたら忘れているだけかもしれない。


 俺はスズキに俺なりの見解を述べた。

 ゲームで記憶を失うなど非現実的であり信じていなかったこと。しかしネフィリアと同じ目を持っていることが分かり、さすがにまったくの別人ではないと考え直したこと。


 俺が【敗残兵】の世話になっていた時に記憶がなかったのは事実だ。ネカマ六人衆から情報を引きずり出したというなら、それを利用してやる。


「大丈夫だよ」


 スズキは俺の手を取ってニコニコと笑っている。


「私たちのこと、ゆっくり思い出して行こうね」


 こ、こいつの余裕は一体何なんだ? 俺は底知れないものを感じて身震いした。ゆっくり思い出して行こうだと? その考え方は俺がコタタマだと確信している。その自信は一体どこから来る?

 俺は探りを入れた。

 でもな、スズキさんよ。俺がコタタマっていう確証はないんだ。目の件もあるから考え直しはしたが、俺自身やっぱり信じきれない面はある。いや、はっきりと疑ってるよ。俺はコタタマじゃないから、コタタマがやらかした数々の悪行を俺がやったと言われるのは嫌なんだ。こうして俺の現状を打ち明けたのも身の潔白を証明したいという気持ちが強い。分かるか? この理屈。


「分かるよ。人前で名前を呼ばれると困るってことだよね?」


 ! コイツ……。俺の芝居に付き合うって言ってるのか? 俺が俺だと分かった上で……。

 どうする? 俺は内心で自問した。これは悪くない流れだ。しかし俺にとって都合が良すぎるのが気に掛かる。スズキ……。何を考えている?

 スズキはソファで膝立ちになると、俺越しに赤カブトをぴたりと見据えた。


「コタタマはね。都合のいい女と使える女が好きなんだよ」


 ちょっと待ってくださいよ!

 俺は堪らず吠えた。

 言い方ってものがあるでしょ? そりゃあ確かに嫌いじゃないけどさぁ。それは別に俺に限った話じゃないじゃん。もうハッキリ言うわ。男にとって理想の女ってのは日替わりメニューなのよ。それはさ、理想だから仕方ないのね。男ってのは叶わない夢を追い続ける生き物だから。身も心も変身するけど好感度だけは維持してくれる。それが完璧。ゴールなんだよ。ここに俺は新たな概念を宣言するぜ。これをランダムチェンジ萌えと名付けよう。

 おぅ、赤カブト。そんな怪物を見るような目で俺を見るな。実現しないからこそ理想なんだ。目標とはまた違う。この微妙な違いを分かって欲しい。実現したらしたで困るんだよ。もちろんチャンスがあれば掴むだろうが、あえて理想にとどめておきたいという気持ちにも嘘偽りはないんだ。分かる? 図らずも実現してしまうってのが理想な訳よ。お互いつらいけど支え合って生きて行こうねっていう。俺は気にしないよ、君は君だからっていう。それがベスト……!

 ランダムチェンジ萌えについて熱く語る俺を、スズキはうっとりとして眺めている。ふっ、どうやら俺の思想に共感を示しているようだな。

 スズキは膝立ちになったまま手を振った。


「ポチョ、おいでー」


 ちっ、やつも潜んでいたのか。廊下で待機していたポチョがもじもじしながら俺を見ている。

 何だよ。いいからさっさと来いよ。

 俺が自暴自棄になって声を掛けると、ポチョはぱっと駆け寄ってきて俺に擦り寄ってきた。


「コタタマ、コタタマ〜」


 くそっ、こいつに腹芸がこなせるとはとても思えねえ。スズキは協力してくれるらしいが、どうなるんだ。俺は。これから。ペタタマくんとして生きていくことは無理なのか? いや、諦めるな。きっと方法はある。キャラデリまで食らっておいて過去を清算できねえなんてのは絶対に認めねえぞ。俺はイチ鍛冶屋として出直すんだ。船出の時なんだよ。ようやく長いプロローグが終わったんだ。これからじゃねえか。そうだ、諦めるな。活路はきっとある。

 だろ? ポチョよ!

 俺は元騎士キャラを引き剥がして立ち上がった。


「あんっ」


 艶っぽい声を上げたポチョを無視して、ぐるぐると居間を練り歩く。俺はやり直すんだ……! コタタマと呼ばれた男は死んだ……! 俺はペタタマだ……! 何か……何か手が残されている筈だ……!

 甘えは捨てろ。大義の礎になれ。俺ならやれる。非情に徹するんだ。

 俺は斧を持つ手にぐっと力を込め、ポチョを見下ろした。殺すしかない。俺はゆっくりと斧を振り上げて、ハッとして斧を取り落とした。


「…………」


 先生。先生が廊下からこっそりと俺を見つめている。

 先生……。俺はふらふらと先生に歩み寄り、がくりと両膝を屈した。

 床に突っ伏して、ぼろぼろと涙を零した。


「先生……バスケがしたいです……」


 俺は泣いた。

 駆け寄ってきたスズキとポチョが俺に抱きつき、感極まったように嗚咽を漏らした。

 居間に上がり込んできたアッガイが俺たちの輪に加わる。わんわんと泣き喚く俺たちを、先生が優しく見守っている。


 しかしアッガイは二度刺す。


「たまげたなぁ」


 廊下にアッガイが佇んでいる。二機目となるアッガイだった。えっ……。俺は呆然として二人のアッガイを交互に見遣る。

 アットムが……二人? いや、違う。落ち着け。このゲームで別アカウントなんてのは無理だ。つまりどちらかが偽物ということになる。

 ……そうだ。不自然には思っていた。一晩でアッガイを作るなんてのは無理だ。どう考えても時間が足りない。


 俺のアットムは廊下に立ってるほうだ。


 アットム、お前……。俺は溢れる涙を抑えきれなかった。二人目のアッガイは恐ろしくクォリティが低かった。突貫工事で仕上げたらしく、手足の長さが釣り合っていない。

 お前、それ。アッガイっていうか、カプールじゃねえか……。お、お前。アットムよ。お前……ぶ、不器用だったのか……。

 何をやらせてもソツなくこなすやつだと思っていた。それは、アットムが厭世的で、どこか人間を見下しているようなやつだったから。でも、お前、実は不器用だっていうなら話が違ってくるじゃねえか……。美術の授業とかでピカソだったらどんなに斜に構えたところで間抜けなだけじゃねえか……。

 俺は涙を拭って、アットムに歩み寄っていく。アットムもまた歪な手足をガシャガシャと動かして俺に近寄ってくる。

 キッチンに寄ってきたらしい。アットムが俺にグラスを手渡し、シャンパンの封を切った。

 ちん。グラスを合わせ、俺とアットムは乾杯した。


「ただいま、アットム」


「おかえり、コタタマ」


 キャラクターの音声は身体の造りで決まる。アットムの電子音声が居間に染み入るようだった。

 正体不明のアッガイがぱちぱちと拍手して、俺たちの再会を祝福してくれた。

 一体誰なんだ、お前は。

 不気味さだけが残った。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 まさかのアッガイ被り。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
一体このアッガイは誰なんだよ
[良い点] どこまでもカオスw もはやなにがなにやら、ただただ面白いのが悔しい。
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